第4話 依存
「ななさん、それと結さん」
リアンが改まった様子で話し始める。
「この部屋に魔術をかけさせていただきました。」
結の肩が揺れた。
それにつられて、俺も反射的に身構えてしまう。
「っ......ご、ごめんなさい!」
「違うんです、敵意はありません!」
リアンが慌てたように両手をあげる
こちらには、何もないとアピールしてくる。
「私は......神殿側に、監視されていて。」
「こうでもしないと、あなたたちとこうして話すこともできないのです。」
リアンが咳払いをする。
「まずは、この部屋の案内をしますね。」
そう言って案内をしてくれる。
白を基調とした広い部屋だった。中央には小さなテーブルと、ふかふかしたソファーが向かい合わせに置かれている。
一通り説明が終わった後に、
「立ったままだと疲れてしまいますよね。」
「どうぞ、こちらに座ってください。」
そう言ってリアンがソファーのある方へ誘導をしてくる。
ソファーに座る時、結が体が引っ付きそうな位置まで体を寄せてくる。
聖女が矢継ぎ早に話し始める。
「それではまず、......本当に申し訳ありません。」
深く頭を下げてくる。
「...こんな異世界の事情にあなた達を巻き込んでしまって。」
「本来勇者召喚は、行われるはずではなかったんです。」
「でも......」
リアンの声がわずかに揺れる。
「最近......聖女様が、亡くなられてしまい。」
「それで、魔王の封印が――」
「ちょっと待ってください。」
「そんな、一気に話されてもわかりません」
結が話を遮る。
「そうですよね。すいません」
「あまり時間がないので、つい早口になってしまいました。」
「それでは、要点だけ」
リアンの言葉がそこで、詰まってしまう。
そして、意を決したように話し始める。
「あなた達は、もう......元の世界には帰れないかもしれません。」
薄々そんなんじゃないと思ってだけど。
やっぱりそうか...
俺はもう、あっちには帰れないんだな。
それより、結は大丈夫なのか!?
「そう...なんですね......」
声は、やけに落ち着いていた。
それでも、どこか力の抜けたような響きだった。
「さっきの話...ここまでにくるまでに考えてたんです。」
「何となく......そんな気は、していました。」
「やっぱり、そう聞くと」
「きついですね。」
そう言って微笑んだ。
それを見て、自分の胸が締め付けられるような感覚があった。
リアンがそれに応えるように話す
「全力は尽くします、必ずあなた達が元の世界に帰れるように。」
その目には覚悟が宿っていた。
「また、同じことを繰り返さないように。」
その声はとても小さく、まるで自分に言い聞かせているようだった。
「それに、天使様...いえ魔ど――」
そう言いかけた時に、コンコンと扉をノックされる。
「勇者様それに、天使様おられるでしょうか?」
ゼルファディアの声がする。
「今日は、ここまでにします。休んでください。」
「必ず......元の世界に返してみせますから。」
リアンがそう言い残して扉の方に向かう。
「ゼルファディア様、今ちょうどお部屋の説明が終わったところです。」
「そうですか、それはよかったです。」
ゼルファディアが扉から顔を覗かせ、こちらを見てくる。
「勇者様それに、天使様また明日お迎えに来ますので。」
「それまでゆっくりしてください。」
そう言って、リアンとゼルファディアは去っていった。
扉が閉まる音が響いた。
結が今まで繋いでいた手を離して、ソファーの端で膝を抱える。
「ななさんって”天使”なんですよね?」
沈黙が続く。
「.......私、こっちに来てから、ずっと泣いてばっかりで」
結がぽつりと呟く。
「私はもう元の世界には帰れないんで.......しょうか?」
その、言葉に答えられなかった。
「......おかしいですよね、さっきまで死にたい、なんて言っていた人がこんなこと」
結が自嘲気味に笑った。
俺は咄嗟に結を抱き寄せる。
「大丈夫......」
「私も、まだわからないことだらけだけど。」
「......ずっと離れないから。」
少し間が開いた後に、結が話す。
「......うん、ありがとう。」
結が小さく息を吐く。
「ちょっと...落ち着いてきました。」
「お風呂......入った方がいいですよね?」
「でも、私一人で入るの怖いから...ナナさんもお風呂一緒に入ろ?」
結が急にそんなことを話してくる。
ドキッとしてしまい。
「..........へ。」
間抜けな声が出てしまう。
「いや......私は、後で入るよ。」
......見た目は女の子同士でも、中身が男だ、さすがにまずい。
「いやだ、一緒に入ろ?」
それでも、結が引かない
「扉の前まで.....なら。」
「それなら、いいでしょ?」
確認するように結を見る。
こちらも、超えてはいけない一線がある。
思いが伝わったのか
「わかった......」
結が不服そうな顔で口をとがらせる。
「でも、不安だから絶対に扉の前から離れないでね?」
上目遣いでそう言ってくる。
「うん......」
「大丈夫だよ、約束......守るから。」
風呂に向かう。
結が服を脱ぎ始める気配がした。
咄嗟に、壁に視線を向ける。
「ナナさんなんで壁なんか、眺めているんですか?」
「私、べつに裸見られても恥ずかしくないですよ?」
首を振って応える。
突然、結が後ろ抱きついてくる。
背中に柔らかな感触が伝わる。
体がびっくりして少し跳ねてしまう。
「ななさんがあっちの世界にもいたらよかったのに......」
そんな、消え入りそうな声が聞こえた。
少しだけ抱きつく力が強くなったあとに、すぐに離れる。
声はとても近かったのに、どこか遠くへ行ってしまいそうなそんな声だった。
――また、目の前からいなくなるんじゃないか。
気づいたら、振り向いていた。
一瞬、裸の結が瞳に映し出され。
すぐに目線を逸らしてしまう。
「......やっと、こっち見てくれた」
嬉しそうな声色が聞こえる。
「.......先、入ってくるね」
扉の閉まる音がした。
しばらくして、水の音が止む。
「お待たせ。」
「ななもお風呂入るよね?」
「うん」
更衣室を出かけて、扉のまえで足を止める。
「待ってるからね...」
そう言い残して出ていった。
そこでふと、鏡に映し出される自分の姿が目に入った。
白を基調とした、ひざ下まであるゆったりとしたワンピース。
手首まで隠れる長い袖。
陶器のように白い肌に、腰まで流れる銀髪。
銀色の目が、こちらを覗いていた。
.......その目は、どこか作り物めいていた。
服を脱ぎ、自分の裸が露になる。
それはまるで、彫刻にそのまま肌色を塗ったような、綺麗すぎる肌。
おなかあたりに、小さく7の数字が刻まれている。
よく見ると、本当にうっすらと肩と股あたりに継ぎ目みたいなものが見える気がする。
.......おかしい
何も感じない。
恥ずかしさも、胸の奥からくる高まりも。
本来あるはずのものが、抜け落ちたそんな感覚。
そこから理解するまでそう時間はかからなかった。
そっか.......もう、俺は人間じゃないんだ。
風呂を上がると
扉の前で結が倒れていた。
慌てて近寄る、
「結!!」
「........ん」
「ごめん......いつのまにか寝てたみたい」
目をこすりながら、結が起き上がる。
「......よかった」
全身の力が抜けていく。
「抱っこして.......」
小さく手を広げる。
断れるはずもなく、抱きかかえてしまう。
「えへへ.......ななといるとなんだか安心する。」
そのままベッドに運ぶ。
立ち上がろうとした瞬間、腕を引かれる。
「一緒に寝よ」
ほんの少しだけ、腕を引き返そうとするが。
――離す気はないらしい。
「いいよ」
ベッドに入ると、結が手を握ってくる。
それを、そっと握り返した。
「なな、いまさらなんだけど......ななって呼んでもいいよね」
「うん」
「私も結って呼んでね」
「......わかったよ、結」
満足そうに結が微笑む。
「おやすみ」
「おやすみ」
長い長い1日がようやく終わった。
起きて少し経った後に、ドアがノックされる音が聞こえる
「おはようございます。勇者様、天使様お迎えにあがりました」
そう言ってリアンが挨拶をしてくる
その後ろには、銀色の鎧を身にまとった騎士と豪華なドレスを身に纏った。
金髪ツインテールで縦ロールの紫色の目をした、いかにも異世界風な少女がいた。
でも、その雰囲気はどこか落ち着いたものがあった。
「...あなたが、勇者?」
「......随分と、頼りなさそうですのね」
一歩こちらに踏み出してくる。
その圧に押されて、一歩下がってしまった。
「それに、あなた様が天使様.....なのですわよね?」
「――思っていた以上に、”人間らしい”のですわね」
その視線は、こちらを値踏みするように向けられる。
コホンと騎士が咳払いをする。
「姫様、初対面の人にその態度はどうかと」
そこでその少女がハッとした顔をする。
「わたくしとしたことがてっきり失念しておりましたわ。」
「お初にお目にかかります。ラザル王国の第一王女、ニーナ・エスタと申します」
慣れた動作でカーテシーをする。
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