第3話 勇者召喚
大きな扉が重々しく開く
白銀の全身鎧に身を包んだ2人の騎士が入ってくる。
その後ろから、一人の男が静かに歩み出た。
白を基調とした法衣に、金の刺繡が施されている。
白髪交じりの髪、60代ほどだろうか
しかし背筋が真っ直ぐ伸び、その立ち姿には揺るぎのない威厳があった。
男は柔らかな笑みを浮かべ胸に手を当て、挨拶をしてくる
「お初にお目にかかります勇者さ――」
言いかけたその瞬間。
顔をあげた男と目が合った。
唖然とした顔で
「......天使様が、お目覚めに?」
一瞬言葉を失い
ゆっくりと膝をついた
震える声で、言葉を絞り出す
「やはり、伝承は真実だったんだ!
神は我々を見放してなどいなかった......」
その目には涙が、いまにもあふれだしそうだった。
顔の前で祈るように手を組み。
「おお、神よ......勇者様以外にも、天使様を目覚めさせてくださりありがとうございます。
これは啓示なのですね…これでこの世界は救われます。」
完全に自分の世界に入り込んでいる。
不意に、袖を引っ張ってくる
「あの......これはどういう状況なんですか?」
結が、小さな声で話しかけてくる。
振り向くと、
泣いたばかりだからか、まだ目元が赤くはれている
そこで、ようやく我に返る。
目の前のことに必死で、何も考えていなかった。
改めて、周囲を見渡す。
広い空間、その中央には巨大な魔法陣。
さっきまでベッドだと思っていたのは、棺に似た形をしていた。
だがこの場所にはあっていない、人工的な気配がある。
......ここは、どこだ?
異世界、なのか...?
「お――いや......私にも、わからない。」
そんなことを話していると
女性の冷たい声が響く
「教皇様、自分の世界に入られるのはいいのですが
まずは、今この状況を勇者様方に教えて差し上げる方が先決ではないでしょうか?」
先ほどまで、自分の世界に入り混んでいた男は
はっと我に返り
涙をぬぐいながら話し始める。
「そうですね......説明がまだでしたよね
すみません勇者様…それに天使様」
男は居住まいをただす。
「申し訳ございません、取り乱してしまいました。
私は、教皇兼この国のトップを任されている、ゼルファディアと申します、以後お見知りおきを。」
ゼルファディアが深くお辞儀をする
女性の方に手のひらを向け
「こちらは聖女のリアンといいます。」
そういってリアンが会釈をする。
一呼吸おいて、話し始める。
「それでは、私から勇者様方にこの世界のことを説明させていただきましょう。」
ゼルファディアが穏やかな声で話し始める。
「今この世界は、魔王の封印が解かれ人類滅亡の危機に瀕しています。」
「魔王が復活するまでは、まだよかったのです。」
ゼルファディアの顔が曇る
「魔力汚染も弱まり、各国は協力しながら領地を取り戻しつつありました。」
「ただ…魔王が復活してからすべては変わりました」
「魔力汚染は広まり、魔族や魔物といったモンスターが活性化し、凶暴化しました。それにより、今までの均衡が崩れました。」
ゲームやネット小説で見る類の話だ。
ただ、目の前の男は本気だった。
ゼルファディアが声を強める。
「これに対抗すべくいま、この世界で大きい国の3国が結託し魔王を討ち果たすべく立ち上がったのです。」
「私たち聖王国からは聖騎士団を、騎士王国からは騎士団を、魔導帝国からは魔術師団をといった形で協力をして、魔族に対して対抗をしていきました。」
「それでは抑えきれずほかにも、冒険者方にも助けられながら、なんとか国境を維持してもらっているのが現状です。」
3つの国が、それぞれ軍を出し合って戦っている。
それでも、抑えきれていない。
......思ったより深刻な状況らしい。
ゼルファディアこちらに向けて、大きく手を広げる。
「そこで、我々神殿は伝承に記された”勇者召喚”を執り行いました」
――勇者召喚
よくあるネットの小説だと思っていた。
だが、目の前の現実はまさにそれだ
じゃあ、結は...
となりをちらりと見る。
結はまだ黙って、聞いていた。
「これは、古くから伝わる儀式。幾度となくこの世界を救ってきた手段でもあります。」
「勇者様は、異界から招かれるもの」
――異界。
結が、別の世界に連れてこられた。
ならばこの子にとってここは。
「それと......天使様も同様に、女神さまから遣わされたもの、それは世界の危機と同時に目覚めると言われています」
ゼルファディアが、こちらに目線を向ける。
「伝承では、天使は神の器とされています。魔王討伐の際に力を貸してくださると」
――神の器
俺がそう呼ばれている。
そんな存在が、棺のようなもので眠っていた。
……何か、ちぐはぐなような気がした。
「女神様から、力を授かりしものが、この世界を救うものとされています。」
「ゆえに、3国のトップを招き、実力を見てもらおうと思ったわけです。」
それまで静かにきいていた結が、突然大きな声で叫ぶ。
「いやです!なんで、こんな見ず知らずの場所で私が、世界を助けなきゃいけないんですか!」
結が俺の袖をつかんでいる手がより一層強くなる。
「助けてほしいのはこっちです!。
そもそもなんでこんな右も左もわからない世界に呼び出されて
いきなり戦えだなんだなんて!頭おかしんじゃないんですか!?」
「自分たちの世界くらい、自分たちで解決してください!」
とっさのことで俺は何もできずにただ茫然とその光景を眺めることしかできない。
結がまた涙を流す
「なんで......私だけこんなことばっかり」
結のえずく音だけが響く
「はやく元の世界に返してください!返せないっていうのならいっそ殺してください!」
リアンは神妙な面持ちで、
だけど小さく誰にも聞こえない声呟く。
「......申し訳ございません...私が」
その声は誰にも届かずに消えた。
ゼルファディアが驚いたようすであわてている
その後ろに控えてる騎士の一人が歩み寄り、片膝をついて目線を合わせてくる。
ヘルムを脱ぎ、足元に置く。
40代くらいだろうか、黒髪にどこか力強い灰色の目
その顔にはところどころ傷があり、いままでの人生を物語っているようだ
その眼は真っ直ぐと結の方を見据えていた。
「......勇者様、私は聖騎士団、団長を任されております。アムニスと申します」
アムニスが頭を下げる
「申し訳ございません...
私たち聖騎士団並びに、この世界の者たちがふがいないばっかりに......
こんな、年端もいかない少女にこんな重責を......」
その声は震えており、どこか怒りに満ちた声色だった
アムニスがまた顔を上げる、その眼は真っ直ぐ
結をとらえている。
「無理を承知で言うのですが、魔王が倒されるまでの間だけでもこの世界にいて、いただけないでしょうか?
もちろん、帰っていただいてもかまいません」
「ただ......いまは、この世界は希望がなく、皆が下を向いています...
そこに、勇者様の存在があれば少しでもみなの希望が生まれます」
アムニスが腰の剣を抜き、それを床に置く
さらに深く頭を垂れ
「我がすべてを捧げます。だから、どうか――」
その後ろから、もう一人の騎士が走ってくる
アムニスの横に立ちヘルムを脱ぐ、
赤髪に緑色の目をもつ青年の顔だ
すぐにアムニスと同じことををする
「俺も、すべてを捧げます......だからお願いします......
どうか、私たちに希望を......」
少し間が開いた後に
「そんなの、ずるいじゃないですか......
私だって、助けてほしくて......」
結が続ける
「全部なくなって!それでも、誰も助けてくれなくて......
だから、死のうとしていたのに......こんな――」
結の涙がとめどなくあふれ出てくる。
その声は、震えていて
どこか助けを求めている声だった。
――あの日と、同じだ。
結の手を、そっとつかむ
震えている。
「......いいよ」
「無理に頑張らなくてもいい......」
「戦わなくたっていい」
「逃げてもいい」
一瞬、空気が固まる。
「でも――」
少しだけ、力をこめる
「それでも君が”生きたい”って思うなら」
「その時は、俺が全部どうにかする」
「君は何もしなくてもいい」
「世界も、責任も、全部いらない」
「ただ――」
「君がどうしたいのだけを、教えて欲しい」
ほんの一瞬だったのかもしれない
それでも...
長い長い――時間が流れた。
結がおもむろに口を開く
「......なな」
「なな......となら、一緒にいきます。」
アムニスがゆっくりと顔を上げる
それに、青年も続く。
「......あり...がとうご、ざいます」
そういってアムニスが頭を下げた後に
床に一粒の涙がこぼれた。
その空気を壊すかのようにゼルファディアが話す
「それは良かった......ささ勇者様もお疲れでしょう。」
リアンが静かに前に出る。
「ご案内します。」
その声は相変わらず、冷たかったが
結の方をちらりと見る。その目には何かが宿っていた。
そこから三人で部屋を出て
誰も話さず
白い廊下をコツコツと歩いた。
そんな時、結が俺の手を握ってくる
結が俺にだけ聞こえる声で話す
「不安だから......部屋につくまで手、握っててもいい?」
甘えたような声が俺の耳に届く
なんと反応すればいいかわからず、ただ頷いた。
部屋の前につく
「ここがその部屋です。」
リアンがそう言い
何かを唱えた後に、ガチャリと鍵が開いた音がした
リアンが先頭に立ち、中に入っていく。
また何かを唱えた後に、リアンの表情が冷たい顔から優しい顔に変わる
「これで.....ひとまずは安心です」
リアンが俺に微笑みかけながら
「なな......さん?で、よろしいでしょうか」
さっきとは打って変わって優しい声色の女性が、そこにはいた。
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