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魔導人形は今度こそ君を救いたい  作者: 八雲かぐら
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第2話 約束

石造りの床の冷たさが、じわりと背中に伝わる。

......泣き声が、聞こえる。

重いまぶたを、ゆっくりと持ち上げる。


視界の先に、幼馴染によく似た彼女がいた。

ほんの少し距離を置いて、こちらを覗き込んでいる


頬に、何か冷たいものが落ちた。

......涙だ。


丁寧に整えられていたはずの長い茶色の髪は乱れ、

長いまつげに縁取られていたこげ茶色の瞳は、涙で赤く腫れている。

制服は乱れていないのに、

それだけが余計に痛々しかった。


......ああ。

――似ている。

記憶が、引きずり出される。

小学生の頃、あいつもよく、おなじように泣いていた。

けれど――

あの頃とは、どこか違っていた。

あの時は、まだ光があった。

今は――

それが、見当たらない。

......なのに、

何も感じなかった。

気づけば、口が動いていた。

「......(ゆい)


ぴくり、と彼女の肩が震える。

揺れる瞳が、真っ直ぐこちらを捉えた。


「......なんで、私の...名前を?」

嗚咽混じりの声だった。


――まずい。

「......いや、その......」

言葉が、うまく出てこない。

「......似ている人がいて。つい」

我ながら、ひどい言い訳だ。

「さっき、お――」

言いかけて、止まる。

......違う。

声も、体も。

「......私に、何を言おうとしていたの?」


彼女が、不安そうに問いかけてくる。

「あなたの顔を見たときに、()()()って言葉が頭に浮かんできて...

それでとっさに言葉に出て...」


——ひかり。

聞き覚えがある。

......思い出せない。

ただ、それが自分のものだと、なぜかわかった。

そんなことを考えていると、彼女が話しかけてくる。


「あの......名前、教えてほしいです。

今のままだとなんて呼んだらいいかわからなくて。」


思考が止まる。

……今の俺は、何なんだ。

何と名乗ればいい。


――個体識別番号

――No.(なな)

脳内に、無機質な声が響く。

気づけば、口が動いていた。

「...なな」


「ななさん、ですか?...」

「......意外ですね。もっと、違う名前だと思っていました。」

そう言って笑ったが、

目元の赤さはまったく引いていなかった。


「そちらの......ゆい、さんでいいですか?」

つられて、こちらも敬語になる。


「あっ、ごめんなさい。まだ名乗っていませんでしたよね」


「私は白石(しらいし) (ゆい)って言います。」

(ゆい)...幼馴染(ゆい)と同じ名前だ

――偶然だろうか?


「…(ゆい)

復唱するように口に出してしまう


「え......」

結が驚いた顔でこちらを見ている


「いや...さっき話した、似ている人がいて......

その人と名前も同じだったから、ちょっとびっくりしちゃって...

もし良かったら、そう読んでもいいですか?」

そうだよな。

いきなり、名前なんて呼ばれたらびっくりするよな。


「そうなんですか...急に名前呼ばれてびっくりしちゃいました...」

彼女が柔らかな表情で笑う。

「...はい、いいですよ。」

「そのかわり、私もななさんって呼びますね」


たわいのないやり取りが、しばらく続く

――そんな空気を結が壊した。

「ななさんは……なんで私を助けたんですか?」


言葉が、止まる。


唯との約束が頭をよぎる。

『今度は私が困ってたら、君が助けに来てよ』


「...約束、したんだ」

それだけを、絞り出す。


「......その子との、約束を」

「守れなかったから...」


結の表情がわずかに揺れた。

...だめだ

こんな顔をさせるつもりじゃなかった。


「...だから」

「次は――」

言葉が、止まってしまう。

......なぜか続く言葉が出なかった。


そんなことを思っていると

申し訳なさそうに、結が口を開く。

「あの......」

「少し、お話してもいいですか」

「......私、もうどうしたらいいか分からなくて」

言葉が、途切れる。

「全部、どうでもよくなって......」

結の手が、無意識にナナの袖をつかむ。

その力は弱いのに、離れなかった。

「......ごめんなさい」

涙が、零れ落ちる。

「......ごめんなさい、こんなこと言って」

「......それでも」

そう言いかけた、その瞬間――


「――そこまでにしていただけますか」

冷たい声が、空気を断ち切った。


振り返る。


そこに立っていたのは、

魔法陣の向こうで見かけた、あの女性だった。 


肩のあたりで切り揃えられた金髪、

透き通るような碧眼。

整いすぎた顔立ち。

頭には白いヴェールを被り

白いローブには金色の刺繡がびっしりと施されている。

周囲の神官たちとは、明らかに違う装いだった。


先ほど見せた慌てた様子は消え、

その表情は、どこか作り物のように静まり返っていた。


......だが。

ほんのわずかに、瞳の奥だけが揺れていた。


「これ以上の会話は、あまりおすすめできません」

「......聞かれている可能性がありますので」

その言葉が終わると同時に

――重い音を立てて、扉が開いた。

その音がやけに大きく響いた。

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この作品はカクヨム・ハーメルンにも掲載しています

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