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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season6 ― 氷の輪郭 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜Season6 ― 氷の輪郭 ―
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第4章 完璧の影 ― 失われた温度 ―

完璧を求める理由は、

いつも誇りだけとは限らない。


夕方のブルームトラベル本社。

外のビル群がオレンジ色に染まり、

会議室のガラスには、燃えるような空が映っていた。


青葉澪あおばみおはデスクに肘をつき、モニターの光を見つめていた。

静まり返ったフロア。

社員のほとんどはすでに帰宅している。


画面には、アークシステムズの提案資料。

如月柊きさらぎしゅうの言葉が頭から離れなかった。


――壊れない仕組みよりも、壊れても再生できる仕組み。


その一文が、みおの心の奥で静かに反響していた。


だが同時に、別の記憶がよみがえる。

5年前、社内システムの障害で、1人の部下が責任を負わされ退職した。

若かった彼女は、澪の代わりに謝罪会見に立たされた。

そしてその夜、消息を絶った。


――あのとき、私は“再生”を選べなかった。


澪は無意識に胸に手をあてる。

心の奥に、冷たい痛みが走った。


「……完璧でなければ、生き残れないのよ。」

自分に言い聞かせるように呟く。

エタニティの香りが、ほのかに広がった。

それは鎧の香りであり、祈りでもあった。


そのとき、ドアが静かにノックされた。

「青葉さん……失礼します。」

入ってきたのは、成田理沙なりたりさ

手には紙資料、目の下にはうっすらと疲れの影。


「調査ログ、再確認しました。

 不正アクセスの入口は、私のアカウント経由で間違いありません。」


澪は顔を上げた。

「……そう。」


理沙は、唇を噛みしめる。

「申し訳ありません。すべて、私の判断ミスです。」


澪は資料を受け取り、静かにページをめくった。

「あなたは、どうして改ざんを?」


「……青葉さんが、納期に間に合わせろって言ったから。

 だから……チェックを一部飛ばしました。」


澪の瞳が、微かに揺れた。

理沙の声は、震えている。


「でも、ほんとは……青葉さんに認めてほしかったんです。

 完璧に仕事を仕上げて、“私でもできる”って言いたかった。」


静寂。


夕日の光が2人の間を斜めに照らす。

その光は、まるで崩れかけた氷をゆっくり溶かすようだった。


澪は小さく息を吸い、言葉を探す。

「……完璧を目指すことは、悪くない。

 でも、完璧に囚われたら、人は壊れるわ。」


理沙の瞳が潤む。

「青葉さん……?」


「……今回は、私も“見えない穴”を見落とした。

 原因を究明して、再発を防ぐ。それだけを考えましょう。」


澪の声は、これまでよりわずかに柔らかかった。


理沙が部屋を出たあと、

澪は一人、窓際に立った。


街の灯が瞬き始める。

完璧を求める世界の中で、

自分だけがまだ“許し”を知らない気がしていた。


その夜、ブルームトラベルとアークシステムズの共同調査チームが正式に立ち上がる。

――冷たい鎧の中で、ほんの少しの“温度”が生まれようとしていた。


許しを知らなかったのではない。

許す勇気を、持てなかっただけ。


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