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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season6 ― 氷の輪郭 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜Season6 ― 氷の輪郭 ―
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第10章 氷の輪郭 ― 完璧という名の影 ―

完璧は、形を保つ。

けれど心は、変わり続ける。

朝の会議室。

磨かれたガラスのテーブルに、窓の光が細い線を描いていた。

青葉澪あおばみおは、その中央にまっすぐ立っていた。

背筋は糸のように伸び、視線には曇りがない。

いつもの、完璧な青葉澪――のはずだった。


「アークシステムズの如月きさらぎさん、資料の共有をお願いします。」

その声は澄んでいて、まるで氷を滑る音のようだった。


「はい。」

しゅうが落ち着いた声で応じ、画面に資料を映し出す。

隣でなぎがすばやくスライドを操作し、

たまきは議事録のキーボードを静かに打つ。


その指先のリズムが、なぜかみおの耳に残った。

――柔らかい音。

仕事の音なのに、どこか温度がある。


「こちらの設計思想について、もう一度説明してもらえますか。」

澪の問いに、凪が少し笑って頷いた。


「はい。僕たちは“想定外”を想定する構造にしています。

 完全なものを作るより、“壊れたときどう助けられるか”を優先しました。」


その言葉を聞いた瞬間、澪の胸の奥で何かが微かに弾けた。

“壊れたときどう助けられるか”――。

昨日、不破ふわが言っていた“守るべきものが人だから”という言葉と、

どこかで重なって聞こえた。


「……なるほど。」

短く返した声に、わずかな間が生まれる。

それを誰も気づかないと思っていた。


けれど、環だけは気づいていた。

澪のまつげの影が、一瞬だけ震えたことに。


その影は、

氷の輪郭がわずかに溶け出す前の、

とても静かな予兆だった。



◇◇◇



会議が終わったあと、

環はしばらく扉の外に立っていた。


さっきまでの澪の声――

強いはずなのに、どこか柔らかかった。

氷の奥で、光が滲んでいるように感じた。


「環。」

背後から柊の声。

「どうした?」

「……なんか、青葉さん、前と少し違う気がして。」

環の言葉に、柊は小さくうなずく。


「気づいたか。

 たぶん、あの人の中で何かが変わりはじめてる。」


そこに凪が加わってきて、

「僕も思いました! 今日の青葉さん、

 なんか、ほんのりやさしい匂いしました!」

と、悪びれもなく言う。


「……凪、それは気のせいだ。」

柊が苦笑しながら肩をすくめると、

環は思わず吹き出してしまった。


その笑顔に、会議室の緊張がふっと溶けた。

けれど、環の胸の奥では、

“あの人はまだ泣いている”という静かな確信が残っていた。



◇◇◇



夜、オフィスの灯がすべて落ちたあと。

みおは、会議室の窓際に立っていた。


昼間、如月環きさらぎたまきが見せたあの笑顔が、

まだ胸の奥で光っている。


「……あの人たちは、強いわね。」

そう呟いた声が、自分のものとは思えなかった。


完璧を求めることでしか自分を保てなかった日々。

でも今は――

完璧じゃない光のほうが、まぶしく見える。


窓に映る自分の姿を見つめながら、

澪は小さく微笑んだ。

氷の輪郭が曖昧になったとき、

そこに“人”が現れる。

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