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一兵卒だけど無双する ~ 最強の王国兵士、勇者も姫騎士も冒険者もみんな俺が守る! ~  作者: ネコ軍団
冒険者編 エピソード2

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第57話 救出作戦

「リック!? ミャンミャンさんが!?」

「ミャンミャン…… 何してるの?」

「別に…… ソフィアさんが大好きなので! ほら早く行きますよ。タンタンを助けないと!」


 ソフィアが大好きと言って、満面の笑みをリックに向けるミャンミャン。ソフィアが困惑した様子で、リックに助けを求めている。リックとソフィアの間にミャンミャンがすっと入り込み、ソフィアの腕にミャンミャンは腕をからませたのだ。リックはミャンミャンの肘が、ソフィアの胸に当たってるのがうらやましく思っていた。


「あの…… 私はリックの隣に……」

「ソフィアさん! 早くいきましょうね…… タンタンが待ってるんで!」

「ふぇぇ……」


 ミャンミャンが真剣な表情でソフィアの顔を見る。ソフィアが静かにうなずくと、ミャンミャンはグイグイと彼女の手を引っ張って連れて行く。リックは二人の後をついていく。歩きながらソフィアは何度も振り返りさみしそうな表情をする。


「本当に普段からベッタリなのね…… はぁ…… 周りの人大変ねぇ」


 あきれた顔でため息をつくミャンミャンだった。


「ミャンミャンさん!? 何がベッタリなんですか……」

「はい! もうすぐですからね。リックさん、ソフィアさん」


 道の先を指さしてごまかすミャンミャンだった。

 森を抜けてすぐにある小さな山がリック達の前に現れる。山のふもとが裂けたように開いた洞窟が見える。この洞窟はココによると、浅くてすぐに行き止まりになるが、天井は高く入り口が縦にも横にも広いという。ヴァリアントオウルはこういう洞窟を好んで巣にする。天井が高く横幅が大きくないと、体の大きいヴァリアントオウルが、行き来するのに支障があるためだ。


「もうメリッサさんたちが、ヴァリアントオウルをおびき出してるはずだけど慎重に行くよ」


 リックの言葉に二人がうなずく。三人は静かに洞窟の入り口へ近づく。洞窟の入り口の脇に並んで立って三人は中をのぞく。洞窟の天井は岩肌がむき出しで、つららのようにところどころせり出している。地面は岩が時々むき出してある以外は土でところどころに、ヴァリアントオウルのものであろうか大きな糞が落ちている。

 幸い入り口が広いせいか光が指し込んできて、洞窟は多少薄暗いが歩くのには支障のない明るさが保たれていた。洞窟の奥を見つめていたミャンミャンがリックに顔を向けた。


「リックさん。タンタンはどこに?」

「イーノフさんが言うには大事な獲物は巣の奥に隠すみたい。だから洞窟の奥に向かって歩いて行こう」

「はい」


 洞窟の奥はなだらかな坂で、天井に向かって上がっていた。坂は地面から突きでた岩で、リック達はその岩の大きくなだらかな坂道を上っていく。


「リック…… 魔物の気配がします。あの岩の向こうえす」


 ソフィアが目をつむり、両手の指を耳に当て、かすかな魔物の気配を感じ取った。リックは彼女の言葉聞いて驚く。


「まさか!? ヴァリアントオウルか? 誘導に失敗したか」

「いえ。そんなに大きな魔物じゃないです」


 首を横に振るソフィア、どうやらヴァリアントオウル以外にも、この洞窟には魔物がいるようだ。ヴァリアントオウルではなく安心するリックだったが、ヴァリアントオウルいなければタンタンがその魔物に襲われる可能性もある。リックはミャンミャンとソフィアに声をかける。


「ソフィア、ミャンミャン。急ごう。タンタンが危ない」

「はい」


 リック達は急いで岩の頂上まで登って反対側を確認した。岩の向こう側はリック達が登って来た時と同じように、なだらかな岩の坂が地面に向かって下って続いていて地面まで到達し、その先は小さな石が転がる、地面が洞窟の奥まで広がっていた。この大きな岩が、洞窟の最深部を隠して、見えなくしていた。


「うん!? あそこに…… 何か……」


 リックが目をこらして洞窟の奥を見る。小さな岩の陰に無造作にタンタンが置かれ、他にも岩の下から最深部まで、平らになっている場所に動物の死体などが転がっている。どうやらここがヴァリアントオウルの倉庫のようだ。



「リックさん! あれ? タンタン! 近くにいるのって……」

「キラーサーベルウルフだ!」


 ヴァリアントオウルが留守の間に、獲物を狙って十頭以上の、キラーサーベルウルフが倉庫に集結していた。急がないとタンタンはヴァリアントオウルではなくキラーサーベルウルフの餌食になってしまう。リックはソフィアにソフィアに指示をだす。


「ソフィアはここで援護して! 俺は…… ちょっとミャンミャン! また!」


 鎌を抜いたミャンミャンが、勢いよく岩を駆け下りていってしまった。


「クソ!」


 リックは彼女を追いかけるために、駆け出し腰にさしてあった剣を抜く。リックの横を小さい細い棒のような通り過ぎていく。タンタンに近づこうとするキラーサーベルウルフにソフィアが矢を放ったのだ。


「キャイーン」


 正確にはなたれたソフィアの矢は、キラーサーベルウルフの頭に突き刺さり洞窟に鳴き声響く。だが、十匹以上いるキラーサーベルウルフはめげずにタンタンに近づいていく。矢で一気に駆除するのは難しそうだ。リックは振り向いてソフィアに叫ぶ。


「ソフィアー! 魔法で…… えっ!?」

「タンタン! どいて! どいて…… どけーーーーー!!! タンタンから離れろーーーーー!」


 ミャンミャンが叫び声をあげる。彼女の声に反応するように、鎌が紫色の光を帯びていく。鎌はミャンミャンの叫び声に、反応したのか持ち手がどんどん長く伸びる。森で見た時も鎌は倍以上に長くなっていた。


「うわぁ! あぶないな」


 斜め後ろに振り上げたミャンミャンの長い鎌の刃が、彼女のかなり後ろを走るリックの近くまで来た。妖艶に紫色に光るミャンミャンの振り上げた、鎌の持ち手から幾重にも刃が飛び出してきた。その形は魔物の牙のように鋭く、幾重に連なった刃は禍々しい雰囲気を醸し出していた。


「すごいな……」


 タンタンを取り囲んでいた、キラーサーベルウルフの集団に向かって、ミャンミャンが鎌を振り下ろした。周囲に粉塵が舞い上がる。


「「「「「キュイーーーーーーーーーーーーーーーーン」」」」」


 キラーサーベルウルフの悲鳴が轟く。紫に光る刃が、キラーサーベルウルフを次々に真っ二つに、切り裂いていき地面にへと到達した。タンタンの周囲に粉塵が舞い上がり視界が悪くなりすぐに消えた。キラーサーベルの半分は鎌によって切り裂かれ、二つに分かれたいくつもの肉片が地面を赤く染めていた。鎌によってタンタンの正面にいたキラーサーベルウルフは居なくなり、残ったキラーサーベルウルフは動けずに固まっていたが後ずさりしていく。

 攻撃を終えた鎌は静かに普通の長さに戻っていく。ミャンミャンは鎌を背中にしまうと、一心不乱にタンタンの元にかけつけると彼を抱きしめた。


「よかった…… いやダメだ。急がないと!」


 慌ててリックが走る速度をあげる。ミャンミャンの攻撃を逃れた、五頭のキラーサーベルウルフが彼女達を取り囲のが見えたのだ。


「来ないで! 近づいたら…… また真っ二つよ」


 タンタンを地面に置いて、背負った鎌を抜いてミャンミャンが構え、鎌を持った両手に力を込める。しかし、ミャンミャンが慌てた様子で鎌を見た。


「どうして? さっきはできたのに…… もう…… キャー!」


 鎌を叩きながら叫ぶミャンミャン。どうやら先ほどのように、鎌を伸ばそうとしたようだが、うまくいかないようだ。


「あっ! クソが! 間に合えーー!」


 三頭のキラーサーベルウルフが、牙をむき爪を立てミャンミャンに一気に飛びかかった。膝を曲げ地面を蹴ってリックは飛び上がって距離を一気につめる。背後から一頭のキラーサーベルウルフに、向かって必死に右手を伸ばす。


「キュイーン!!」


 キラーサーベルウルフの悲鳴が洞窟にこだまする。硬い手応えたがリックの右手に伝わり、キラーサーベルウルフの首の後ろに剣が突き刺さった。


「これで終わりじゃない!」

「「キャイン!!」」


 リックはキラーサーベルウルフの腹に剣をつきさしたまま、他の二頭に向かって剣を交互に交差させるように振った。左右に大きく振れたキラーサーベルウルフが、残りの二頭に当たり飛びかかっていた二頭は吹き飛ばされ地面に倒れるのだった。

 着地すると、すぐに剣を大きく下に振り、キラーサーベルウルフから剣を抜くリック。リックは素早く倒れた二頭の正面から、距離を詰めるとまず一頭の首を剣で切り落とす。さらに手首を返して、剣を切り返し体の向きをかえ走り出し、立ち上がろうともがいていたもう一頭も同じく首を斬りつけて跳ね飛ばした。あっという間に三匹のキラーサーベルウルフをリックは片付けた。ミャンミャンはリックの動きについていけずに呆然と彼を見つめるだけだった。


「さて…… 残りは二匹か」


 残ったキラーサーベルウルフの二匹は、リック達から少し距離を取って身構えていた。リックはミャンミャン達を、かばうように前に立って振り向く。


「ミャンミャン! タンタンは大丈夫!?」

「はい! 傷だらけですけど…… 気を失ってるだけです」

「そっか。よかった! じゃあもう下がってて大人しくしてるんだよ」

「はい」


 残りのキラーサーベルウルフの前に立ってよく見ると、あいつらの口に肉が挟まってるのが見える。ヴァリアントオウルの留守に獲物を盗みに来たので間違いないようだ。

 剣先を下に向け構えキラーサーベルウルフと対峙するリック。二匹とリック達の間に、どちらが先に動くのかという、緊張した空気が流れ……


「!!!」


 静かな洞窟の冷たい空気を、切り裂く風の音がした。ソフィアの矢が飛んできて、リックから見て右手にいる、サーベルウルフの頭を貫いた。キラーサーベルウルフは声をあげることなく目を見開いて倒れた。


「よそ見はダメだよ」


 矢の音に反応したのか、残った最後のキラーサーベルウルフが、一瞬だけ目線がソフィアを捜すように動いた。そのスキをついたリックはキラーサーベルウルフへと向かって行く。


「がうあああ!!!」


 リックに気付いたキラーサーベルウルフは、口を大きくあげてリックの左腕に噛み付こうとした。リックはキラーサーベルウルフの動きをジッと見た。よだれが垂れた長い牙がリックの左腕を捉えようと向かって来る。


「終わりだよ」


 そっと左腕を引くリック、キラーサーベルウルフは彼の動きに、ついていけず口を開いたまま前に出て来る。リックは右腕に力を込め、体を斜めにして右腕を引く。


「キュイーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!」


 狙いすましたリックはキラーサーベルウルフの口を剣で突き刺した。口から斜め上の後頭部まで剣が貫通してキラーサーベルウルフの動きが止まった。


「ふぅ……」


 タンタンを狙っていたキラーサーベルウルフは全部片付けた。左ひじを曲げ制服で剣の血を拭ったリックは振り向いた。


「よかった…… タンタン…… よかった」


 ミャンミャンはタンタンを抱きしめ泣いていた。リックは岩の上にいるソフィアに左手を振って、合図をすると彼女は手を振り返す。リックから表情は見えないがソフィアは嬉しそうに笑っている。


「ソフィアー! こっちに来てタンタンを回復してくれるか」

「はーい」


 岩の下までソフィアが駆けてきてミャンミャンの横に座る。ソフィアの口元がわずかに動くと、彼女左手が緑色に光り出す。ソフィアは左手をタンタンにかざす優しく発せられた魔法の光がタンタンを照らす。


「すぐによくなります」

「ありがとう……」


 恥ずかしそうに礼をいうミャンミャンに、微笑むソフィアだった。数分後…… ソフィアの左手から光が消えた。彼女は立ち上がってリックに声をかける。


「まだ気を失ってますが! もう大丈夫ですよ」

「それじゃあ俺が背負って……」

「いえ! タンタンは私が連れて帰ります。お願いです。リックさん」

「うん。わかったよ」


 ミャンミャンはタンタンを背負った。リックが先導し、真ん中にタンタンを背負ったミャンミャン、最後尾はソフィアという順で洞窟の奥から出口へと向かう。


「あれ?」


 岩を出口に向かって下っていたリックが立ち止まった。洞窟の入り口に誰かたっているのだ。日差しが差し込み反射して、顔はよく見えないけど三人の人影がみえだった。


「メリッサさんたちか…… 何でここに!?」


 洞窟を出ようとするリック達の前に、別部隊のココとイーノフさんとメリッサさんが三人が現れた。リックは三人の元へ向かう。メリッサは三人を見て不思議な顔をすると、同時に同じような表情をリックはメリッサとイーノフに向けた。


「あたし達はヴァリアントオウル一匹をたおして、もう一匹を追いかけてこの近くまで来たんだけど見失ってね。巣に戻ったのかと思って来たんだけど来てないみたいだね」

「はぁ…… それはわかりましたが…… メリッサさんとイーノフさんは、なんで鼻をハンカチで覆ってるんですか?」


 メリッサとイーノフは、左手にハンカチを持って鼻を塞いでいた。


「それは…… これが! 臭くて! うぉぷ!」


 イーノフが右手に瓶を持って見せて来る。赤く透明な少しトロッとした液体が入ってる。それはヴァリアントオウルを、おびき寄せるために作った薬だった。使用したのか瓶の中身は半分以上なくなっている。イーノフから瓶の蓋を外して見せる。

 リックとソフィアは興味を持ったのか、イーノフに近づいて鼻を瓶に近づける……


「やめな! 直接かいだら…… イーノフ! 早く! しまいな」


 メリッサが無防備に鼻を近づける、リックとソフィアの姿を見ると慌てて叫んだ。声に反応してイーノフは瓶をすぐにひっこめたが……


「ぐわぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

「ふえええええーーーーーーーーーーーーん!!! 目が目がーーです!!!!」


 いきおいよく顔を背け、鼻を押さえてしゃがむリックとソフィア。彼らの鼻を瓶から漂う、腐った肉のような臭いと、むわっと漂う強烈に刺激的なにおいが攻撃してきた。二人は鼻の奥に痛みが走り目に涙がたまっていく。

 衝撃が徐々に薄れて立ち上がるリック、彼は鼻をつまむとそこの臭い残るような気がし、臭いがしない空気を何度もすって、鼻の空気を入れ必死に入れ替えていた。


「臭いです!!」

「本当に臭い。何か鼻にツーンとくるんだけど……」

「ふぇ…… ゴホッ、ゴホ!」


 あまりの臭いに思わず咳き込んでしまったソフィアの背中をリックがさすっていた。また、リックも臭いの残像がまだ消えずにに、ソフィアの背中をさすりながら涙が自然と溺れていた。


「イーノフさん…… まさか作り方を間違えたとか?」

「いやそんなはずはない。作って瓶に詰めた時は臭わなかったのに…… いざ使ったらこんな臭いが…… おかげで僕とメリッサの制服に臭いが染みついちゃって……」


 自分の制服を見ながら顔を歪めるイーノフだった。しかし、二人の横にいるココだけは平然としていた。リックがそれに気付く。


「そういえば? ココは? この臭い平気なんだ?」

「えっ!? あたいは平気だよぅ。そんなに臭わないよぅ。みんなどうかしてるよぅ」


 首を横に振って平然とするココ、リックは首をかしげている。


「うわぁ…… ほんとうにくさい」


 ミャンミャンもタンタンを背負ってリック達の近くにやって来て、周囲の残り香や、イーノフさん達の制服からでる臭いを嗅ぎ、怪訝な表情をしている。


「ミャンミャン! あんたなんでここに!? あたいは帰れっていったよね?」

「えっ…… それは…… ほら! 私が必要だってリックさんとソフィアさんが……」

「もう、あんた! すぐにわかる嘘をつくんじゃない! 何をしたの」


 ミャンミャンの言い訳を聞いてココが怒り出す。あわてて彼女はリックの後ろに隠れてココの様子をうかがう。リックは回復させたとはいえ、けが人のタンタンを背負っているミャンミャンが、動き回るのを心配そうに見つめていた。


「ミャンミャン! ちゃんと説明しなよぅ。あたいも怒るよぅ!?」

「ココ。ごめん…… 私ね。やっぱりタンタンのことが心配で…… どうしても帰りたくなくて…… 二人に無理を聞いてもらってついてきちゃったの! ごめんなさい……」


 少し悲しそうな声でゆっくりとミャンミャンが話し出しココは少し考えてからゆっくりと話し出す。


「ミャンミャン。わかったよぅ。もう帰れって言ってもおそいよね。でもいいね。後で罰として特別訓練だかね」

「うん…… ありがとう。ココ!」


 嬉しそうにココがミャンミャンに話す。リックはホッと安堵の表情を浮かべる……


「いた!」


 リックはミャンミャンに背中を急につままれて声をあげ、思わず彼女の方に顔を向けた。なぜかつねられたのはリックなのに、ミャンミャン目を吊り上げて怒った顔を彼に向けていた。


「私が背中の後ろで困ってるのに! リックさんは全然助けてくれないんですね」

「えっ!? なっなんで!? 俺が?」

「さっき、同じようなことをした、ソフィアさんはかばったくせに! もういいです!」

「ミャンミャンさんが私を見る目が怖いです……」


 ミャンミャンはソフィアを睨みつけ、ソフィアがリックに助けを求めていた。メリッサとイーノフはリックにあきれた顔を向けるのだった。リックはどうしたいいかわからず困惑した様子で黙っていた。


「フン!」


 頬を膨らませミャンミャンはココの方に向かって行くのだった。リックは何が起きたかわからずますます困惑するのだった。


「それより、ココ! さっきの臭いの話だけど、ちゃんとお風呂にちゃんと入ってる?」

「なっ!? 失礼だよぅ! ミャンミャン! それにあたいの体液の他にも臭いのする草とかいれたでしょぅ!?」

「だって! ココだけ臭いの平気だし…… 蛇は自分の毒じゃ死なないでしょ? それに熟女の体液って名前からして……」

「なっなによぅ! あたいがくさいっての?」

「普段は臭わないけど、イーノフさん薬を作る時に煮詰めてたから、臭いが凝縮されたのかもよ!?」


 コの体液が入った薬の臭くてもココだけが、平気なのはこの臭いが自分のだからなのか。ミャンミャンの言葉に納得したリックだった。


「なるほど。ココの体臭が凝縮されるとこんなにくさいのか」

「ココさんってほんとはこんなにくさいんですか」

「えっ!? なんだい!? リックとソフィアまで! 怒るよぅ!」


 ミャンミャンも鼻をつまみ、目を細くして慌てた様子のココをみている。メリッサも少し疑う表情でココを見た。


「みっみんなひどいよぅ! あたいの臭いじゃないよ! ほらほら!」


 泣きながらココはみんなの鼻に、自分の手を持って行って臭いをかがせている。


「くさくないよぅ…… あたい……」

「コラ! もう…… みんなココをからかうのやめなよ」

「イーノフ、あんただけだよぅ!」


 止めに入ったイーノフに駆け寄って、抱き着こうするココを巧みにかわした。止めに入ったが、表情は微妙な感じのイーノフ…… 彼は口ではココを、かばうようなこと言ってが、絶対に内心ではくさいと思っていた。


「ほらもうやめなよ。臭くてもココはココだよ。みんな!」

「メリッサ! それは…… なんか違うよぅ……」


 最後はメリッサが強引に終わらせた。うまいことまとめたみたいな、顔してるメリッサだがおそらくココは傷ついただろう。


「うん!?」


 洞窟の手前の地面を影が覆った。翼を広げ上空を旋回する影…… この影はヴァリアントオウルの者だった。


「みんな外へでるんだよ」


 リック達が洞窟を出て空を見ると、ヴァリアントオウルが翼を広げて上空を旋回していた。


「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 巣に勝手に入りこまれ、つがいの一匹も殺されたせいか、ヴァリアントオウルは甲高くどこか悲しそうな、怒りに満ちたような鳴き声をあげた。


「チッ…… 巣に戻ってきたね! みんな! タンタンは助けたんだ! 逃げるよ」


 メリッサはみんなを先導して逃げようと森に向かっていく。リック達はメリッサに続いて走り出す。ヴァリアントオウルが鳴きながら飛んでリック達を追いかけてくる。


「えっ!? ソフィア?!」


 ソフィアがヴァリアントオウルとみんなの間に立って弓を出す。リックすぐに気づいては足を止めてソフィアの元に戻る。


「リックはみんなを連れて先に行ってください。ここは私が食い止めます。もうこれ以上タンタンさん達を危険な目には合わせません」


 振り返り優しくタンタンを背負うミャンミャンを見つめてから、真剣な表情でソフィアが矢をつかみヴァリアントオウルを睨む。ソフィアの赤くきれいな瞳はまっすぐに決意に満ちていた、彼女はタンタンがさらわれたことに責任を感じていたのだろう。ソフィアを見たリックは小さくうなずいた。気持ちは彼も一緒だ。


「ソフィア…… それなら俺も一緒だよ。だって…… 俺達は相棒だろ。それにどんな時でも一緒にって約束したしね」

「リック!」


 リックはソフィアの矢を握る手の上に、自分の手を置いて彼女に微笑みかけた。ソフィアはリックの目を少し見て、ほほを赤くして目線を下にした。ソフィアの手は少し震えているのが分かる。


「大丈夫だよ」


 リックは耳元でささやいて強く握った。ソフィアは嬉しそうに微笑み目に涙をためるのだった。


「リック! ソフィア! タンタンとミャンミャンは任せな。ちゃんとあのヴァリアントオウルと決着をつけるんだよ」

「はい!」

「あと…… そうやってイチャつくのは家でしなよ! 今は任務中だよ!」

「ふぇ……」

 

 メリッサの声が聞こえるとソフィアは、リックの手を振り払う。リックは名残惜しそうにソフィアの手を見つめるだった。


「そうだ! そうだ! 任務中にイチャつくな! まったく!」

「こっこら! あんたは部外者でしょ」

「なっなんですか!? いち王国民としてあの兵士達の目に余る行動は……」

「ミャンミャンさん怖いです!」


 叫びながらミャンミャンが、勢いよくメリッサ絡んでいく。またソフィアはミャンミャンにおびえた震えている。リックは優しく彼女の髪を撫でるのだった。


「だから! そういうところが…… ムカ……」

「ほら! もうヴァリアントオウル来るんだから邪魔すんじゃないよ!」


 メリッサさんに肩を押されて、抱きかかられるようにして、ミャンミャンは森に連れられていった。リックはなぜミャンミャンがソフィアを怖がらせるかなぞだった。


「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」


 すぐ後ろでヴァリアントオウルがリック達に向かって叫ぶ。


「ごめん。別に無視してたわけじゃない。さぁ…… ヴァリアントオウルさん。ここで決着をつけようぜ」


 ヴァリアントオウルの方に振り向いたリック、翼を広げてこちらに向かって来るヴァリアントオウル、彼は剣先を下にして構えるのだった。

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