第46話 国民を裏切る兵士
ロバートは怖い顔で、エルザに近づくとなにやら話しを始めた。リックから見えるエルザは、必死な形相で何かを訴えていた。リックの近くにいたエドガーが、二人をみて心配そうに口を開く。
「あのお姉ちゃんたち喧嘩してるけど…… 平気なの?」
「うーん…… 大丈夫だよ。ほっといて良いと思うよ。本気でケンカになったりはしなそうだし」
「そうかなぁ」
心配そうに二人を見つめるエドガー、リックはどこか余裕だった。詰め所から二人の様子を見ていたリックは、エルザとロバートは表面上争っているようにみえても、しっかりとお互い信頼しあっているように感じていた。まぁ、彼の気のせいという可能性もあるが……
すぐに二人の会話が終わった。エルザはどこか暗い表情をしている。
「良いか? 危険があると判断すれば視察ルートを変える。わかったか! エルザ!」
「うぅぅ…… わかりました。ロバートさん! 私にむかって…… 覚え…… さいよ」
「なんか言ったか? エルザ?」
「うぅ……」
「さっ! エドガー殿! 申し訳ないが案内していただいて、よろしいかな?」
「わかりました!」
エドガーがロバートさんは先導して歩き始める。意気揚々とエドガーについていくロバートの後ろをシュンとしたエルザが続く。リックとソフィアは三人の後をついていくのだった。
通りをまっすぐ歩いてしばらくすると大きく開いた場所に出た。ここがエドガーが言っていた広場だ。広場は邸宅に囲まれ、かなり面積ががある。邸宅の間の路地からも広場に入れるようだが、通りに面した入り口が主要な入り口のようだ。地面は石畳で作られ、通りに面した入り口から、奥に向かってなだらかに坂になって上がっている。広場は貴族の邸宅などに囲まれ、テーブルと椅子などもところどころ並んでいる。
徐々にバザーの準備が始まっているようで、会場のゲートのためのものか柱が、二本ずつ広場の入り口に立っている。
「ここがバザーの会場の広場ですよ。ロバートさん」
「ありがとうございます! エドガー殿」
広場に入ったロバートが、周りの様子を見ながら歩いている。
「やっぱりこの広場の周りには大きな建物が多くて…… 弓とかでも狙いやすいな エドガー殿! バザーの当日はここはどのくらい人数が来られるのかな?」
「王国と他国からかなりの数の商人が来てお客も多いですよ。歩くのも大変なくらいです」
「そうですか…… やっぱり視察は諦めた方がいいな……」
「はっ!? 何を言ってるのかしら!? ロバートさん! 限定の小説…… じゃない! 王女様と国民の交流を断ってはなりません」
首を横に振って広場の視察を、諦めようするロバートに必死に食らいつくエルザだった。
「エルザ。ここ以外でも国民との交流はできるぞ」
「なりません! 社会の仕組みを学ぶにはバザーがいいんです! バザーでの買い物をして国民と直に交流することは王女様も楽しみにしてますし! しかも当日は他国の方が参られるのであれば他国の文化に触れることもできます。なにより限定…… 違う!」
リックはエルザの主張する、バザーなら城の外になかなかでない王女が、他国の文化や商売とかの仕組みを学べるというのは正当性があるように思った。ただ、ロバートが言う王女様の安全為なら、視察中止もいたしかないと感じていた。
エルザの主張を聞いてロバートさんが腕を組んで考え込む。少ししてから腕組みを外した、ロバートがリックとソフィアに視線をむけた。
「わかった! 当日は第四防衛隊もいるし、王女が強く望んでいるのであればバザーの視察は実施しよう。ただし危険があれば即刻中止する」
「さすがロバートさん! これで王女も喜びますわ…… それに小説…… ふひひ」
嬉しそうにエルザが、両手を体の前に組んで空を見上げていた。
「俺も王女様をしっかりと守らないとな」
「よかったですね! リックは王女様を守るのが目標でしたからね」
嬉しそうに笑うリックとソフィア。その会話を聞いたエルザ眉間にシワを寄せた。怖い顔をしたエルザはリックに向かって、ゆっくりと歩いてきて目の前に立って顔を近づけてくる。
「はぁ!? 王女様を守るのが目標ですって!? あなた兵士でしょ? まずは国や国民を守るんじゃないの? 王女を守るって王女様に頼まれたの?」
「いや…… 俺は別に頼まれたわけじゃ…… 王女様に会ったこともないし……」
エルザに問い詰められ動揺するリック。自信になく答える彼にエルザは顔をはなして大きくため息をつく。
「はぁぁぁ…… 会ったこともない王女様を勝手に守るとか言ってなんなの? 王女様は守ってほしくないかも知れないわよ!」
「エルザ! やめなさい!」
「王女様は国民と一緒に健やかに過ごしていきたい人なのよ。守るとか言って…… 勝手に死んだり傷ついたり裏切ったりして、王女様の心に傷をつける人間をいっぱい見て来たわ! あなたもどうせそうでしょう? 最低ね!」
「リックはそんな人じゃありません! 意味もなく人を傷つけたり裏切ったりなんかしません」
ソフィアがエルザとリックの間に体をいれ、必死に彼をかばう。自分の前にソフィアをエルザは睨みつける。
「うっ…… チッ! また女か! ここはロバートが…… これだから…… わかってないわね! いいわ! ほら!」
「うわ!」
リックの目の前が真っ白になった。エルザが袋から白い布を取り出し、リックに投げつけて来たのだ。
「こっこれは!」
顔にぶつけられた布を見た、リックは布を持つ手を震わ激しく動揺する。リックの姿にエルザは満足そうにうなずく。
「ふふ! あなたに決闘を申し込むわ! 古来より騎士は手袋を相手に……」
「エッエルザ?! 君は今何を投げたんだ?! リックが!」
リックは右手の持った布を見てにやにやと笑っている。
「(この白くてひらひらでレースがついて透けてる感じは! おー! これがシルクか! やっぱり光沢がちがうな! しかも切れ込みの角度が激しい…… うお! すごい! しかも! ちょっと暖かくて湿ってる気がする! まっまさか? 脱ぎたて……)」
リックが布を広げるとエルザは顔を青ざめた。
「あっ! こら! それ私の! 私の予備のパンツ! 間違えた!」
「ふぇぇぇぇ?! リックーーーー!」
エルザはハンカチではなく、間違えて自分のパンツをリックに投げつけた。パンツに手を伸ばすエルザ、その前にリックの体は青白い光に包まれる。
「ぎゃーーーー! なんで!? 俺は投げられて布を拾っただけだよ! ビリビリするーー!」
「お仕置きです」
眼鏡の奥の瞳が光で消し、ソフィアは電撃魔法をリックにはなっていた。
「ソフィア! もう許して……」
「リック嫌いです!」
「はぁはぁ…… 死ぬかと思った」
ソフィアはリックに叫んで、お仕置きを終わせた。解放されたリック、彼の手にはエルザのパンツがしっかりと握られている。
「この変態! 返して!」
エルザはリックからひったくるようにパンツを取り返す。自分から投げつけといて、変態と罵倒されたリックは理不尽に感じた。
「とっとにかく、あなたに決闘を申し込むわ。ロバートさん。立会人になってくれるかしら?」
「エルザ…… どうするリック? 断っても良いけど……」
「さぁ! 来なさい! あなたがどれほどの人間か確かめさせてもらうわ」
剣に手をかけリックを指さすエルザ。リックは決闘を受けても構わないが、万が一エルザを怪我をさせ騎士団と、揉めるのは避けたいと思った。
「決闘は良いですけど、でも、危ないから武器を訓練用にしないと」
「そのままでいいわよ」
首を横に振ったエルザは、腰にさしている剣を抜き構えた。
「ロバートさん、さすがに武器を訓練用じゃないと、怪我したら……」
リックの訴えにロバートはにこっと彼に笑う。
「リック! 大丈夫だよ、いざとなったら僕が止めるし! 彼女を少し懲らしめてくれるかな?」
「はっはぁ…… わかりました」
「早く! さぁ! あなたも剣を抜きなさい」
左手で手招きするエルザ、リックは鞘を左手で持ち、剣に右手をかけソフィアに声をかける。
「ソフィア。離れてて」
「はい」
返事をしてソフィアが離れる。リックはゆっくり剣を抜いた。広場の中央でリックとエルザが対峙する。二人を囲むように、いつの間にか見物人が人だかりを作っていた。
「リックー! 頑張ってくださいねぇ」
「リック対エルザの決闘を始める! はじめ!」
ロバートの合図で決闘が始まった。剣を両手で持ち切っ先をリックに向けていたエルザはにやりと笑った。
「あれ?」
エルザは構えをとき、剣を右手に軽く持ち、プラプラと揺らしている。攻撃を仕掛ける気がないような動きを見せいた。リックは彼女が自分を挑発し、手を出さようとする作戦だと疑い探りをいれる。
「かかってこないんですか? 威勢よく決闘って言ったのに随分と臆病なんですね」
「ふふっ…… あなたから来たら?」
余裕の笑みを浮かべるエルザ。リックは自分の情報がエルザに漏れていると察した。
「どうしたのかしら? こちらから攻撃しないとあなた攻撃ができないんですってね」
「そんなことないですよ」
「だったら早くかかってきなささいよ! その剣の独特の間合いに私が自ら入らなければ、あなた何もできないんでしょう?」
不敵に笑うエルザ、やはり彼女にはリックが、攻撃が苦手だとバレているようだ。リックの攻撃能力は低く、彼のことを知らなかったり、知能が低く好戦的に来る魔物なら、挑発をすることで、攻撃を自分に向けさせることができごまかせるが、相手がリックが攻撃が苦手だと知っていている場合は少し厄介だ。
「ほうら! 攻撃してごらんなさい! あなた! もし賊が王女の前に現れても攻撃を待つつもりなの? そんなので王女様を守れるのかしら?」
「うるさい!」
剣先を下に向け構えリックの真似をして、さらに挑発的な態度をとるエルザだった。リックは確かに攻撃が苦手だ。しかり、彼は第四防衛隊に来て色々経験を積み訓練を重ねていた。
腰を落として体制を低くしたリック、地面を蹴ってエルザとの距離をつめると。剣を突きだしエルザの胸を狙って攻撃する。
エルザは左足を引いて体を斜めしてリックの突きをなんなくかわした。腕を伸ばした姿勢でエルザにリックは悔しそうに彼女を見た。
「(へぇ。さすが騎士様だ! まっ…… 俺のへぼい突きくらいはかわしてくれないとな)」
体を斜め下の状態でエルザは後ろに下がって剣を両手にもつと、リックに向かって剣を鋭く振り下ろしてきた。彼女の表情は決まっというような余裕の笑顔をしている。
「かかったな!」
リックは素早く肘を曲げ、自分の頭の上にからくるエルザの剣を受け止めた。金属がぶつかる音が広場に響きエルザの剣はリックの刀身を滑っていく。
「へっ!?」
両手で勢いよく振り抜かれたエルザの剣は、受け流されてリックの細く薄い剣の上を滑って地面に剣先が落ちた。彼女は腰を落として両手を前にだして重心が前になっている。剣を受けながし、リックは右足を前に出し、体を入れ替えたエルザの横に立った。
「はい。終わり」
剣を持ったエルザの両手に向かって、リックは自分の剣を振り下ろした。ガキと音がしてエルザの手にリックの剣が当たった。苦痛の表情を浮かべるエルザだった。リックの剣は刃のない方で振り下ろされており、斬られることはないがかなりの衝撃でエルザは両手から剣をはなした。
エルザの手から剣が落ち、広場の石畳み地面に落ちて音を立てた。リックはゆっくりとエルザさんの肩に剣を置く。
「俺の勝ちですね。エルザさん!」
「なっなに? これ!? 反撃を…… 反撃したの……」
信じられないという顔で、エルザが声をあげた。そうリックはメリッサとの訓練であることを学んでいた、自分から仕掛けて相手に攻撃をかわされた相手の攻撃に注意して反撃の反撃を狙えば、普段のリックと変わらずに対応ができると。
毎日訓練をしているとはいえ、攻撃が急激にうまくなることはない。だったら初撃はかわされる前提で動き、強引に自分の得意な領域に、敵を引きずり込む方が効率が良い。少しかっこ悪くはあるが……
「もう一回ですわ! リック!」
「いや。エルザ。もういいよ。今の君じゃ何度やってもリックには勝てない」
「くっ! ロバート…… わっわかったわよ!」
ロバートに止められたエルザは悔しそうに答える。リックはエルザの肩から剣を外し鞘に剣をおさめソフィアに顔を向けた。
「すごいです! 攻撃をかわされても攻撃できるなんて」
「まぁこれも毎日訓練してる成果だよ」
「メリッサさんに感謝ですね」
「そうだね」
少し恥ずかしそうに答えるリックだった。
「リック!」
呼ばれたリックが、振り向くとロバートが彼の前に立って、右手を差し出し握手を求めていた。リックは少し躊躇したがすぐに握手に答える。
「ありがとう! 少しエルザはわがままだからな! これで懲りて……」
「聞こえてますよ! ロバートさん!」
「エッエルザ!?」
ロバートのすぐに後ろにエルザ立っていて睨んでいた。リックは先ほどからたまに、エルザの方が先輩騎士であるはずのロバートよりも、立場が上になっているようで気にかかっていた。
「王女様を守るか…… あなたならできそうね。それにきっと王女様も……」
「えっ?! ありがとうございます」
「でも…… まだまだだけどね! ほら! もっとロバートに近づいて!」
叫びながらロバートの背中を押すエルザ、彼が踏ん張って抵抗する。リックはエルザの行動に首をかしげるのだった。
決闘を終えたリック達は、広場の確認の作業をし、人が身を隠しそうな場所などの確認を行った。広場での作業を終えた俺達は詰め所に戻ることになった。エドガーも用事を終えてお店に戻るというのでリック達と一緒に向かうことになった。
ロバート達は俺達の詰め所によらずに騎士団本部に、直接帰るとのことだったので途中で別れることになった。
「じゃあ! 私たちはここで三日後に詰め所に迎えを出すから! 詳細はカルロス隊長に確認してもらえるかな。イーノフとメリッサによろしくな」
「はい! ロバートさん」
リックとソフィアは並んで詰め所へと向かう。すぐ後ろからエドガーがついていく。
「お二人は仲良しでしたね」
「そうか? なんか騒がしかっただけだよ…… でも……」
振り向いたリック、ロバートとエルザは並んで手を振っている。並んでいる二人の間には、新人騎士と副団長以上の絆を感じるリックだった。
「どうしたんですか?」
「ううん。なんでもない」
首を横に振ったリックは前を向き歩きだした。ロバートとエルザは手を振るのをやめリック達に背中を向けた。エルザは横目でロバートを見た。
「ありがとう。ロバート。あの子…… 良い子だね」
「でしょう? 私も彼には期待しているんですよ」
「ふふふ」
エルザは前を向いて優しく微笑むのだった。第九区画への通用門が近づいてきた時に、エドガーは何かを思い出し急にリックに話しかけてきた。
「あっ! そうだ! この間のリックおにーちゃんから修理依頼もらった剣ができてるから」
「そうか。じゃあ、今から一緒に取りに行くよ」
リックは予備で複数の数を持っており、刃こぼれしたり破損したらエドガーに、修理してもらったり追加で作ってもらっている。つい先日もエドガーに剣の修理を依頼していた。
リック達は詰め所に戻る前にエドガーの鍛冶屋に向かう。鍛冶屋につくとカウンターには、いつもの白いひげのおじいさんが座っていた。
エドガーとリック達が、店に入ってくるとすぐに奥に引っ込んだ。
「(そういえばあのおじいさん前に来たときもいたな。風格もあるし何者だあの人……)」
奥に引っ込む老人を見つめるリック、エドガーはまっすぐカウンターの中に入った。
「ちょっとそこで待っててね。えっと…… 確かここの下に……」
そういうとエドガーはカウンターの下に潜り、リックの剣の予備を探している。見つからないのか、なかなかカウンターの下からエドガーは出てこない。
「うん!?」
鍛冶屋の扉が静かに開く。女の子が首だけを出して中の様子をうかがっている。顔を出したのはメリッサの娘のナオミだった。扉の方に顔を向けると、ナオミとリックの目が合った。彼女はリックとソフィアが居たことに、少し驚いたような表情をしていた。ナオミは店の中を見渡しなかなか入ってこない。リックは不思議に思いナオミに尋ねる。
「どうしたの? 中に入らないの?」
「シー!」
口元に指をあてて小声で静かにしゃべるナオミ。
「今日もお弁当を届けにきたの。でね…… ついでに静かに近づいてってエドガーのこと脅かしてやるのよ」
「じゃあ、シーですね」
「そうだね! シーだね」
「えへへ! よろしくね」
そーっと扉を開けたナオミは、様子をうかがいながら静かに入っていくる。ソフィアはナオミと一緒に面白がってエドガーいるカウンターを指さしていた。
「よし、俺も」
リックも面白がりソフィアと一緒になってカウンターの下を指さして、エドガーがそこにいることを目で合図する。頷いたナオミはゆっくりと一歩ずつ静かに大股で歩いて近づいていく。
「でも、さっきの女の人エルザさんだっけ? すごい人だったね、まるでナオミ姉ちゃんみたいだ」
エドガーがナオミの名前をだし、リックは気付かれたと思いドキッとして背筋を伸ばす。ナオミも動きが止まり、リックとソフィアとナオミの三人は顔を見合わせる。だが、エドガーはまだカウンターの下で剣を探していて出てきていない、一回も顔を挙げてないから気づかれてはいないはずだ。急に黙り込むと怪しいから適当に話しを合わせようとリックはエドガーに話しかける。
「えっ!? エルザさんがナオミちゃんにか? いや、似てないだろ!?」
「そう? 自分勝手っていうかわがままでさ。ほんとナオミ姉ちゃんと似てるよ。大変だよねぇ。あーいう人と一緒にいるとさ!」
急にナオミの愚痴を言いだすリック、慌ててるリックとソフィア。二人の近くで、ナオミちが下を向いて拳を握り、小刻みに震えている。明らかに怒っている。
「おっおい! なっ何を言ってんだ!? ナオミちゃんだっていいところあるだろ?!」
「えぇぇ!? ないよ~! 口うるさいしさ。ちょっと年上だからってすぐお姉ちゃんぶるし…… それにすぐに暴力をすぐふるう猛獣だよ!」
「エッエドガー! 早くしろ!」
「なに?! ごめん! もうちょっと待ってね! それにねぇ、よくお店で料理ごとトレイ落っこどす慌てん坊だし、それでおばあちゃんに怒られると僕のところに来て泣くんだよ!? あんなに暴れん坊なのに、おかしいよねぇ?」
「エドガー! 俺は時間がないんだ……」
必死にエドガーを急かして止めようとするリック。そんな彼をナオミが睨みつけている。リックの袖をソフィアが引っ張る。
「今のはリックのフォローが悪いですよ」
「そっそうか。ごめん。もう黙るよ…… いた!!!」
リックが口を手で押さえる。リックの足を踏みつけてナオミは、うつむいたままどがどがと歩いていく。少しだけ見えた通りすがり、ナオミのあの目の鋭さにリックは冷や汗をかく。戦闘モードとなった迫力は、メリッサと同じだと感じた。養女とはいえメリッサの娘だとはっきりとわかる。
リックはソフィアの方を見ると、ソフィアもナオミちゃんの怒りにまずいって顔をしていた。
「親方さん。剣はまだですか!?」
「もうちょっとだよ! ごめんね! あっ! この箱かな! それに知ってる? ナオミ姉ちゃんさ、人にピーマン食えって言うくせに自分はニンジン食べられないんだよ! ほんと子供だよね! あははは!」
顔を歪ませるソフィア、必死に話題をそらそうとした、彼女の努力は無駄だった……
「あっ! あった。あった! ふぅ、まったく、あれで自分は王女様みたいにおしとやかだと思ってるんだから信じられないよね。ナオミ姉ちゃんは…… あっ!」
カウンターの下で作業をしながら、ナオミの愚痴を言っていたエドガーが顔をだした。エドガーの視線には口を膨らませて睨みつけるナオミが見えたようで、彼の顔はみるみるうちに青くなっていく。震えながらすがるような目で、リック達を見るエドガー、しかし、もう二人には何もできない静かに首を横に振った。
「誰が? 暴力的で口うるさい猛獣だって?! エドガー! あんた! 私のことそう思ってたの! お姉ちゃん怒ったからね!」
「じゃっじゃあな。エドガー…… 剣ありがとう! 俺とソフィアは帰るな」
「まっまた来るです」
「えっ!? あ!? ずるい!」
「うるさい! エドガー! ちょっとおいで!」
びっくりして固まっているエドガーからさっさと剣を受け取ったリック。そそくさとエドガーに背中を向けリックとソフィアは足早に鍛冶屋をでていく。店を出たリック達の背中に裏切者ーって声が響いていた……




