第47話 兵士は休日を取り戻す
鍛冶屋から詰め所へ向かって歩く、彼は浮かない顔で少し考えていた。望まれたとはいえ騎士と決闘したことを、注意されるのではないかと……
「いや。第四防衛隊でそれはないか……」
「??」
口元を緩ませてリックがつぶやく横でソフィアは首をかしげる。彼の予想は正しいむしろメリッサなら、騎士と決闘したことより、負けた方が怒られるだろう。詰め所に戻ったリック達にカルロスが声をかけてくる。
「お帰り。二人ともありがとう。休日に悪かったね。報告書を書いてもらって、終わったら今日はもう帰っていいよ」
「じゃあすぐに報告書を書きますね。リック! 報告書を提出したら今日行く予定だった、お菓子屋さんに行きましょう」
「えっー!? 今日は疲れたよ……」
「えっ!? うぅ…… お菓子……」
ソフィアはリックのすぐ横で手を組み下から彼の顔を覗き込む。眼鏡の奥にある赤い瞳に、いっぱい涙をためソフィアは、お菓子屋に行こうリックに訴えかけてくる。ソフィアの涙にリックは勝てない。
「ごっごめん! 行くから! ソフィア泣かないで」
「やったー! じゃあすぐに書きますからね」
喜んだソフィアは、椅子に座って報告書を書き始める。いつもは二人のどちらが報告書を書くか、相談して決めるのだが、今日はソフィアが何も言わずに書き始めた。
「ありがとうね。ソフィアが報告書を書いてくれて助かるよ」
「いえ! 早く書いてお菓子屋さんです」
真剣な表情で集中してソフィアが報告書を書いてる。元々、綺麗で速く字を書くソフィアだが、いつもにもまして書類を素早く仕上げていく。報告書をまじめな顔で書くソフィア、いつもと違って彼女は、眼鏡の奥の赤い瞳がキリっとして、閉じた口の唇が横から見ても適度にふっくらして艶っぽい。リックは彼女の横顔に見とれていた。
「(フフ…… 普段はすぐ泣いて子供っぽいのに…… 集中しているソフィアはすごい大人っぽくて綺麗に見えるんだよな。きっと俺だけが気付いてるソフィアの魅力…… なんてね。がんばれソフィア)」
ソフィアは時折、リックに視線を向けてほほ笑んでくれる。彼は手を軽く振って彼女に頑張れと合図をするのだった。
「できましたー!」
あっという間に報告書をソフィアが書き上げた。二人で報告書を隊長に提出してカルロスが目を通して確認する。書類を見ているときのカルロスもまたいつもと違って鋭い雰囲気が漂う。
「そっか。暗殺者が広場で王女様を襲う可能性か。だろうな…… 僕だって現役の頃だったら……」
「たっ隊長? なにか?」
「いや…… 何でもない! それでロバートさんは今後どうするって?」
「後で連絡をするから、詳細は隊長にと……」
「分かった。そうなると…… きっと明日辺り僕が呼び出されて、騎士団と会議かなぁ。やだなぁ」
露骨に嫌な顔するカルロス。騎士団との会議が嫌なのは、リックも同じなのでカルロスに同情する。カルロスはイーノフを見て何かを思いついた顔をする。
「そうだ! イーノフに代わりに会議に出てもらおうっと。イーノフ! 君は確か城内の人と……」
「無理だよ。明日はあたしとイーノフが休みだったろ? それにあんたそれくらいしか仕事ないのに何を言ってるの!?」
「あっ! そうか休みか…… って! メリッサ! お前さん! 僕だってねいろいろ……」
メリッサはカルロスに厳しい。しょんぼりするカルロスの元へ、ソフィアが駆けていく。きっと心優しいソフィアはカルロスをフォローしようと……
「隊長! 早く報告書を読んでください。お菓子屋さんが待ってるんです」
「あっごめん! すぐに読むよ……」
唖然とするリックだった。菓子屋に行きたいからと急かされながら、カルロスは悲しげに報告書を読んでいた。みんなからの扱いをみてると、カルロスが少しだけかわいそうになったリックだった。
「うん?!」
目を大きく開けたカルロス、書類を読む手が止まった彼はリックを見た。リックと目が合うとカルロスは噴き出す。
「ぷっ! リック! お前さんはほんとにおもしろいな。あの女騎士にパンティぶつけられたのか?!」
「えっ!? なんで、それを!?」
「はい。顔がいやらしいからお仕置きしときました」
「ソフィア…… そんな報告いらないだろう……」
リックは恥ずかしそうにうつむく。メリッサとイーノフは彼の後ろで大声で笑っていた。
「ぷっ! 君はほんとうに…… 下品な人は王女に近くに行っても追い出されるよ。でも、どうして? 本当にパンツぶつけられたの? プっ!」
「ちょっとイーノフさんまで…… 笑わないでください。それにエルザさんが決闘だって言って手袋と間違えて投げつけて来たんですよ」
「あはは! そうなんだ!? あのエルザさんって人が一緒だとロバートも大変だね」
「そういえばロバートさんって、イーノフさんの知り合い何ですよね?」
うつむいてイーノフは少し寂しそうにリックの質問に答える。
「あぁ…… 僕が宮廷魔術師をしていた頃に知り合ってね」
「えっ!? イーノフさんって宮廷魔術師だったんですか?」
「そうだよ。もうだいぶ前に辞めたけどね」
「すっすごい!」
リックが驚きの声をあげる。グラント王国の宮廷魔術師は、王族への魔法指導や魔法研究や、魔法道具を開発するエリート集団だ。騎士団とはくらべものにならない、難しい試験をいくつも受ければならず、合格率は1%以下である。
「そんなことないよ。たまたま良い師匠に巡り合ってその師匠から推薦されて試験に合格してね…… そこで彼と知り合ったんだ」
少し恥ずかしそうにしながらイーノフを詳しく話をする。イーノフが宮廷魔術師として勤め始めて、すぐに騎士団のロバートさんと知り合った。意気投合した二人は、この国を内側からよくしていこうと誓い合った仲だという。懐かしそうに話すイーノフ、リックはふとエリートであったイーノフが冒険隊にいるのか疑問に思う。
「なんで!? やめちゃったんですか? もったいないですよ」
「そりゃあ、あたしの旦那のせい……」
「メリッサ! 違うよ! アレックスは関係ない。僕の師匠が…… リック…… ごめんね。また機会があったら…… 今日は……」
「えっ?! あっ! はい」
珍しくイーノフが少し取り乱した感じでメリッサさんの言葉を遮る。ゆっくりと立ち上がったイーノフは、詰め所の窓の方を見つめて悲しそうな表情をするのだった。
話したくことは誰にでもある、リックは余計なことを聞いてしまい、イーノフに申し訳なく思った。
「イーノフさん、すいませんでした! 大丈夫ですか?」
「ごめんね…… 平気だよ!」
振り向いたイーノフサの表情は、ほっと安堵の表情をするリックだった。
「それよりもちょっと良い?! こっちへ……」
「えっ!?」
イーノフはリックの腕をひっぱらり、詰め所の端へと連れて行く。壁を背中にしたリックの目の前で、イーノフがワクワクした表情をしていた。イーノフは振り向いてメリッサ達の様子をうかがいながら小声で話しかける。
「それで…… リック! さっきの話の続きだが! エルザさんのパンツを…… もっと詳しく!」
「えっ!? もう…… しょうがないなぁ。パンツは男の好物ですからね」
小刻みにうなずき嬉しそうに笑うイーノフ。リックはイーノフさんにエルザさんのパンツの詳細を伝える。
「ほうほう…… 手触りや色などをもう少し詳しく」
顎に手を置き深刻な表情でリックの話を聞くイーノフ。
「(えっ!? あっ!? やばい…… バレてる…… さようなら。イーノフさん……)」
エルザさんのパンツの質感や色を聞く、イーノフの後ろでメリッサが怖い顔をしていた。この後イーノフは首根っこをつかまれて引きずれていくのだった。リックはイーノフを心配そうに見ているが、ソフィアが彼を冷たい目で見ているのに気づいてなかった。
そして…… リックはソフィアと約束したお菓子屋へとやってきた。ケースに入ったケーキを目を輝かせソフィアがのぞき少し後ろでリックはそれをほほえましく見ていた。
「ここの支払いはリックですからね」
「なんで? 俺が支払うの?」
「リックがあの人のパンツを喜んでたじゃないですか! 詰め所に戻ってもイーノフさんと二人でパンツで盛り上がって! だいたいパンツなんて……」
「ごめんソフィア! もうわかったから! 大きい声でパンツパンツ言わないで…… それに喜んでないって! びっくりしたの!」
「ふーん…… ジーです!」
目を細めてリックを見るソフィア、リックは必死に言い訳をしていた。
「じゃあ。もうパンツは忘れたんですよね」
「えっ!? そりゃあ…… ぐへへ」
リックは頭に叩きつけられたパンツのすべすべとした、感触思い出してニヤつく。すっとソフィアは右手を前にだした。
「ギャーーーー!! ごめんなさい! 許して…… ビリビリする!」
「じゃあお願いしますね! 私、クッキーとケーキが良いです!」
電撃魔法から開放されたリックは、ソフィアにたくさんのケーキとクッキーを奢ることになった。
「はぁ…… もう二度とエルザさんには絡みたくないよ……」
薄くなった財布をしまいながらつぶやくリックだった。




