第28話 全滅聖女と幸運聖女
「ふぇ?! 全滅聖女デスシーリカって!? シーリカ様は祝福聖女ラッキーシーリカ様じゃないんですか? お父さんもお母さんもそう言ってましたよ?」
「あぁ。ソフィアのご両親は冒険者だったからねぇ。防衛隊でソフィアは全滅聖女デスシーリカの威力は経験してないしもんね」
ソフィアの言葉に、小さくうなずきながら答えるメリッサ。どうやら冒険者と防衛隊で、シーリカの扱いが違うようだ。意思は固くしっかりとしているが、ほんわかとした雰囲気のシーリカには似つかわしくない、全滅聖女という異名はどういったことなのだろうか。メリッサは話を続ける。
「リック、ソフィア、防衛隊の番号は百五十番まであるけどところどころ抜けてるのは知ってるだろう?」
「はい、俺達は第四ですけど、第五はなかったり三十五とか四十がなかったりしてところどころ抜けてるんですよね?」
「番号が抜けてるは部隊が壊滅すると壊滅した部隊の番号は使いたくないから、新しく番号を足していってるからなんだけど…… その壊滅原因の半分くらいは、シーリカ様なのさ!」
「ふぇ?!」
「えっ? それは…… どうして?」
「実は絶滅聖女デスシーリカってのは、シーリカ様の清めの祈りが、何故か不幸な事故を巻き起こすからついたのさ…… まずは」
エドガーの顔がこわばりさっさとメリッサのヘビーアーマーを持って、奥の鍛冶場へと急いで戻っていった。シーリカの話しを聞きたくないみたいだった。
メリッサの話によると…… 聖女シーリカは赤ん坊の頃に、神託を受け聖女として育てられた。四歳を迎える頃には、先代の聖女と一緒に聖女としての職務を行っていた。歴代の聖女と比べてもシーリカは上位レベルの、聖なる癒しの力をもっており、彼女は伝説の大聖女様に匹敵するのではと言われるほどであった。
そして初めてのキラービー大発生を迎えた。偉大な聖なる力を存分に発揮し清めの祈りによって、祝福の聖女となり大聖女シーリカへの道が始まるはずだったが…… 代わりに全滅聖女デスシーリカとしての伝説が始まったのである。
初めてのキラービー大発生では、清めの祈りを行った西門に、何故かグランド王国にほとんど生息していない、サイクロプスが現れ西門の防衛担当の二部隊が全滅させられる。ただ、この時はまだ不幸な偶然と思われていたし、他の城門の被害がほぼゼロだっため逆に感謝される。
キラービー大発生の一年後。ゴブリンの軍団が王都へと迫った。王様の依頼にてゴブリン軍団が迫る東門に守護の清めの祈りをする。しかし、ゴブリンとの戦闘中に、突如として現れた野良ワイバーン集団の襲撃により、ゴブリン軍団は跡形もなく食い殺された。参戦した冒険者の半分と、騎士団の三分の一、および東門の防衛担当の三部隊も失われることになった。
この時は二回目の強力な魔物が出現だったため、防衛隊内部には力に疑問を持つものがいたがワイバーンの集団から素材をゲットした冒険者からは、むしろ感謝されうやむやになる。
シーリカの二回目のキラービー大発生おいて、南門に清めの祈りをささげるが、夜になり南門の清めの祈りよりアンデッドが大量発生し南門のある第八地区を一時封鎖する事態となる。さらに南門の守備に当たっていた第三十八防衛隊がアンデッドとの戦いで、ゾンビに隊員全員が噛まれ、ゾンビ化して全滅した…… さすがにこの時になると、シーリカの清めの祈りがおかしいのではと、複数の防衛隊員は訴えるが、またしてもアンデッド狩りで莫大な利益をあげた、冒険者ギルドによってその声は封殺される。
その一年後…… 王国の東山脈に現れた大蛇退治に向かった、冒険者と騎士団の合同軍の軍旗に、清めの祈りをささげるが、合同軍が東山脈に到着した直後に、大蛇が脱皮してバジリスクへ進化しあえなく全滅……
ここで冒険者ギルドも、少しだけ聖女シーリカ様の、清めの祈りのに疑問をもつようになる。しかし、腕の立つ冒険者パーティが、清めの祈りの効果が残った軍旗を利用して、バジリスクを討伐し莫大な利益をあげたため、最終的に彼女を擁護し逆にシーリカの功績となる。
三回目のキラービー大発生においては、北門に清めの祈りをささげるとキラービーの天敵のサンドスパイダーが北門に現れて、魔物同士の戦闘が激化し余波を受けた北門を守備していた二つの隊が半壊した。
このときはすでに防衛隊内部では、清めの祈りによって事故が起こると噂され始めたため、シーリカ様が祈りをささげた北門の防備を強固にしたため部隊が、全滅するのを避けて被害を最小に食い止めることに成功した。
なお、この三回目から騎士団はシーリカが、聖女のうちはキラービー大発生に参加しないこと表明している。表向きは王城の守護のためとなっているが、真相はもちろんシーリカの聖なる清めの祈りから逃亡したのだ。
一番最近の被害は王国のある港町において港の改修が完了し、式典で港に安全祈願のため清めの祈りをしたところ、巨大なシーサーペントが現れて港町を守護していた防衛隊が全滅した。ちなみにリックが防衛隊に来た日に、イーノフが出かけていたのは、この港町の防衛隊が、全滅したための人員不足の為にヘルプに行っていたからだ。
聖女シーリカは清めの祈りにより、なぜか強力な魔物を呼んでしまう、防衛隊から彼女はいつしか全滅聖女デスシーリカと呼ばれるようになった。
「なんで!? 清めの祈りを依頼するんですか?」
「そりゃ、シーリカ様が祈りを捧げると加護が強くて魔物が寄り付かなくなるのも事実だし、シーリカ様が祈ったら絶対に起きるってわけじゃないから、教会が偶然と主張しているしねぇ」
偶然にしては、多すぎだろうとリックは呆れた顔をする。話を聞いていたソフィアが口を開く。
「それにシーリカ様は冒険者から人気ありますもんね」
「あぁ。冒険者にしてみれば、シーリカ様のおかげでレアなモンスターに会える確率が上って良いアイテムや素材をチャンスになるからね。だから、冒険者からは祝福聖女ラッキーシーリカ様と呼ばれて絶大な人気があって、問題があっても冒険者ギルドが擁護するのさ」
「素材やアイテムがほしい冒険者からすると祝福聖女ラッキーシーリカ様になって、街を守る俺達からすると、全滅聖女デスシーリカってわけですね……」
「そうだね。冒険者とは協力しなきゃいけない、私たちはその人気は無視できないし、それに、キラービー大発生の時の城門も彼女が直接祈ったところで事件は起きるけど、他の三つの城門は平和だからね」
「えっ?! そういえば、そうですね話を聞いただけだど、直接清めの祈りをしたところで事件が起きてる……」
「キラービー大発生で聖女シーリカ様が清めの祈りする可能性があるのは四か所! つまり王都の東西南北に一か所ずつある城門のうちのどれかだよ!」
聖女シーリカは、すべての門に清めの祈りを捧げるのではなく、一か所に祈りを捧げて他の場所には、祈りの力を込めた護符をシスターに持たせるらしい。代わりの護符は清めの祈りと、同じ効果があり特に回復効果は抜群らしい。
リックは話を聞いて目を見開いてハッと何かに気付く。
「だから四分の一ってメリッサさんが……」
「そうだよ。聖なる祈りに当たる確率のことさ」
笑ってうなずくメリッサだった。前回のキラービー大発生の時には防衛隊の一部で、シーリカからの護符を持ってきたシスターを歓喜で迎えて、抱き着こうするやつまで出るほどだとか。逆に冒険者からはシーリカが来ると歓喜に包まれて、逆にシスターが護符を持ってくると落胆の表情を見せる。
「だったら全て護符にすればいいのでは……」
「とっくに防衛隊で提案したさ。でもね。シーリカ様が言うには現場で直接、祈りを捧げないと神の加護が護符に入らないからダメなんだってさ、それに冒険者ギルドからの反対の圧力があったしね」
「そうなんですね、じゃあ、シーリカ様の祈ってもらうのを辞めて他の人とか!」
「残念だけど少し前に先代聖女が引退してから王都に聖女はシーリカ様一人しかいないしね。他の人に依頼なんかして聖女の名誉をけなしたら、教会の機嫌を損ねて他の行事や儀式に支障がでて王国にとっては損でしかないよ!」
リックは話を聞いてあることに気付く。
「つまりは教会ともめるよりは、兵士の命の方が安いってことですか……」
「まっそういことだね」
兵士になった際にある程度覚悟はしていたが、王国にとって自分たちの命が行事や名誉よりも、下に置かれていることに落胆した表情をするリックだった。
「はぁ…… シーリカ様には当たりたくないですね」
「だねぇ。大変だよ」
二人の会話を聞いてソフィアは、真面目な顔で静かに考え込んでいた。
「メリッサおばさん。終わったよー」
話をしている間にエドガーが、奥の鍛冶場から戻ってきた、メリッサのへびぃアーマーのメンテナンスが終わったようだ。へびぃアーマーを受け取り、三人で詰め所に戻る途中に、ソフィアが急に口を開いた。
「メリッサさんはそのデスシーリカさんの力って経験したことってあるんですか?」
「あぁ、キラービー大発生の時にね、ゾンビ化した兵士の始末をね…… ひどいもんだったよ」
「そうなんですね…… 確か何年か前のキラービー大発生でお父さん達はゾンビをたくさん狩れたって、よろこんで帰ってきた時がありました……」
「冒険者だったら、稼ぎがよくなるからねぇ…… しょうがないよ!」
ソフィアがすこし悲しい表情をし、メリッサも心なしか口が重く暗い。冒険者と兵士、全滅聖女と祝福聖女、立場が違えばこうも変わるのに複雑な思いがあるようだ。三人は口数も少なく詰め所に戻る。
「どうした? 三人とも暗い顔して!?」
全滅聖女の話しを聞き、暗い顔して詰め所に戻った、リック達にカルロスが話しかけてきた。
「もう…… これじゃ言いづらいじゃない! キラービー大発生の時の第四防衛隊の担当が決まったのに!」
「えっ!? 決まったんですか?」
「ほんとうかい? どこだい?」
詰め寄られたカルロスが、ゆっくりと紙に目をやり答える。
「僕らは東門の防衛担当だよ!」
「そっか……」
「ふぇ? この間、リックと修理に行ったところですね」
「あぁ、そうだね!」
ソフィアがリックと一緒に修理した場所だと嬉しそうに話す。リックは笑顔でうなずく、後はこれシーリカの清めの祈りに当たらなければ……
「それともう一つ知らせがある」
「えっ?!」
三人とも同時に返事をして隊長の方を見た。この流れは確実に……
「シーリカ様が東門に清めの祈りに来るから、その護衛も担当になります!」
落胆しカルロスを睨む三人、カルロスは三人に睨まれて話しづらそうにしていた。
「ほんとはさ。前回と同じ北門で祈りを捧げてもらおうと思ったんだけどね。どうしてもシーリカ様が東門でって……」
「ちょっとなんで変わったんだい!?」
カルロスに詰め寄るメリッサ、胸倉に伸びる彼女の手に気付いた、カルロスは懸命に斜め前に指をだした。
「あいつのせいだよ!」
リックを指して叫ぶカルロス、メリッサの標的は彼からリックに瞬時に移った。
「なにしたんだいリック! あんたのせいって?!」
「リック! また、悪いことしたんですか?!」
振り向いて睨むメリッサに加え、横にいたソフィアからも責められるリック。身に覚えのない言いがかりにリックは必死に抵抗する。
「ちょっソフィア! 俺、何もしてないって! しかもまたってひどいよ!」
「シーリカ様がぜひ第四防衛隊の前で祈りを捧げたいんだったさ…… 未来の守護者様と一緒にって! だってさリック! はぁ!」
「なんだい守護者って」
ソフィアとカルロスが目を細めてシラーって感じでリックの方を見つめる。ポカーンとしているメリッサは、守護者のことが何かわからないみたいようだ。
「はい…… リックは……」
「ふーん。ケッ!」
メリッサに耳打ちするソフィア、リックがシーリカに惚れられて守護者にしたいと申し出たことを、ソフィアの目線を交えて教えてようだ。メリッサは話を聞きながらリックに侮蔑の表情を向ける。
「なんで…… わざわざ教えなくていいから…… これ俺が悪いの? なんなんだよ。このやってらんねえよ的な雰囲気は……」
なぜか責められたリック、だが、彼には救いの手を求める相手がいることに気付いた。そう詰め所にはイーノフが居たのだ。優しく穏やかで、いつもリック達を気にしてくれる良い人、イーノフならリックの味方に……
「(あれ? なんかイーノフさん…… 俺の方をにらんでいるような…… でももう味方は……)」
リックがイーノフの方を見ると、眉間にシワを寄せ彼を睨んでいた。だが、藁にもすがる思いの彼はイーノフに助けを……
「イーノフさん! 助けください!」
「うるさい! 君は…… シーリカ様の裸を見たそうじゃないか! うらやま…… いや! けしからん! 恥を知りたまえ! いや地獄に落ちろ!」
いつもの優しく穏やかなイーノフではなく、眉間にしわを寄せ若干の殺意がこもった言葉を、リックに投げつけるのだった。リックは普段の、イーノフとの違いに驚き、何も言えないでいた。
「あっ!? リック…… 気にしないでいいよ。イーノフは昔からシーリカ様のファンであんたに嫉妬してるだけだから……」
「うぇ!? そうなんですか……」
「防衛隊で唯一の生のシーリカ様を見られて喜ぶ人だからね。はぁ…… ほんとうちの隊の男どもはバカばっかだよ! ねぇ、ソフィア!?」
「はい! そうです! 私たちの魅力に全然気づかないおバカさん達です!」
「はははっ! そうだね! あたしたちの魅力に気づいてもっと尽くしてほしいね!」
リックを見ながらソフィアが答える。ソフィアの言葉にメリッサは笑って意気投合していた。リックはイーノフがシーリカのファンだと知って驚き視線をまた彼に向けた。言われた気付いたが、イーノフの机の上にはシーリカについて書かれてる本が多かった。
「(うん? 俺がシーリカ様の本をみたら、まだ、すごいにらんでくる。だいたいさシーリカ様って確か十四歳だよな。十四歳! イーノフさんって確か二十四歳でしたよね?! 十も下の女の子にいれあげやがってこのロリコン変態金髪おかっぱが!)」
腕を組んで不満そうにするイーノフ、リックは顔を背け顔を歪ませるのだった。ソフィアとメリッサは二人の様子を見て笑っていた。




