85話 帰還 その道中 クヴァレル遭遇戦
「おや泣きそうなのか帝よ? なんならそこの娘等の胸を借りればどうじゃ? 今ならより取り見取りじゃぞ?」
「は‥‥‥?」
優しい雰囲気に包まれていた空間は、助平親父みたいな咲耶姫の言葉でガラガラと音を立てて崩れ去った。
「ミカド‥‥‥ 」
「ミカドさん‥‥‥ 」
「お前‥‥‥ 」
「胸‥‥‥」
痛い!
セシル達の哀れむ様な視線が痛い!
あとマリア、何故皆の胸元と自分の胸元を交互に見てションボリしてるんだ!?
「誰が泣くかバカ! 確かにちょっとウルッとはしたけど!」
「ミカド‥‥‥ ミカドなら私、良いよ‥‥‥ ?」
「セシルさん何言ってんの!?」
「わ、私もミカドさんになら!」
「し、仕方ねぇな‥‥‥ ほ、ほら! 泣きたいなら僕の胸を貸してやるよ」
「私だって‥‥‥ ミカドの為に‥‥‥ !」
「待て! ちょっと待て! 何で俺が誰かの胸で泣く事前提で話進めてんの!?」
セシルはオズオズと両手を広げ、耳まで真っ赤に染め上げた上目遣いで俺を見つめた。
ドラルの方もセシル同様真っ赤にしながら、柔らかい笑みを浮かべて上目遣いで見上げてくる。
レーヴェは口調こそ男前だが、頭から生えている獣耳を激しく動かし、チラチラとこちらの様子を伺っている。
マリアはマリアで自身の胸元を摩りながら、何やら決意を秘めた様な目で可愛らしい顔を俺に向けてきた‥‥‥
うん。皆其々違った反応で可愛い。
まるで天使だ。ここに4人の天使が居る。
ってそうじゃない!
一瞬この4人の提案に流されそうになったが、皆の見てる前でそんな小っ恥ずかしい事が出来るか!
「にゅふふ‥‥‥ それにしても帝よ。中々大変な目に遭っておった様じゃの」
「あ!? お陰様で今も大変な目に遭ってるよ!」
俺達の事を馗護袋を通して見ているのだろう咲耶姫が、コロコロと鈴を鳴らした様な笑い声を出す。
俺はセシル達を宥めつつも、他人事の様に言葉を放つ咲耶姫に罵声を飛ばした。
今のこの状況は先程までのペンドラゴ襲撃とは別の意味で精神的によろしくない!
「じゃが帝よ。また別の意味で大変な目に会いそうじゃぞ?」
「は? なに言って‥‥‥」
シュン!
咲耶姫がそう言った瞬間、俺達の後ろの池がブクブクと泡立ち、何かが俺達へ襲い掛かった。
「え‥‥‥ きゃぁぁあ!?」
「な、何ですかこれぇ!!」
「ちょ!? 離せっ!クソ!」
「っ‥‥‥ !これ、絡みついて‥‥‥」
「皆!?」
俺達‥‥‥ 正確には俺以外の皆を襲った何かは、セシル達を捉えた。
その何かとは‥‥‥
「これは‥‥‥ 触手!?」
テラテラと光沢を放つ、数十本の半透明な触手だった。
今その触手は、セシル達の足や腕‥‥‥ 胸元等体を雁字搦めに縛り付け、セシル達を宙へ持ち上げている。
「おぉ〜 この世界には触手を持つ生物も居るのか」
「呑気な事言ってる場合か!」
「み、ミカドぉ〜!」
「待ってろセシル! 今助けてやる!」
半透明な触手はセシル達をキツく縛り付けているのか、セシルが苦しそうな声を漏らした。
早く助けなければ!
俺はどうやってセシル達を助けるべきか頭を回転させた。
まずはセシル達を拘束している触手を切り落とすか?
いや待て、 攻撃しようにも触手はセシル達の体に食い込んでいるから下手に攻撃が出来ない。
それにセシル達を捕らえる触手は池の中心部から伸びている。
セシル達に触れていない部分を切ろうにも、その為にはこの池に入らなければならない。
だが触手が池の中から伸びている所を見ても、この触手の本体は池の中に居るのは間違いない。
とすれば水中はこの触手のテリトリー‥‥‥ 迂闊に飛び込めない。
ならば!
ギュゥゥゥウ!!
「はうっ!? ちょっと! 触手が服の中にぃ!」
「ひっ!! ぬ、ヌメヌメしますぅ!!」
「ひゃん!? バカ! 耳に触れるな‥‥‥ にゃぁ!?」
「くぅ‥‥‥ 足っ‥‥‥ あっ」
マズイマズイマズイ!!
セシル達が小さい子供達には見せられない様な姿に!!
ちなみに詳しく説明するなら‥‥‥
この変態触手はセシルの服の中に触手を忍び込ませ、大きな胸を更に強調させると同時に、ドラルのお尻や黒い尻尾に触手を絡ませている。
レーヴェの獣耳は触手に弄ばれ可愛らしい声を出し、マリアの白い脚は蠢く触手の粘液でいやらしく光っていた。
ほう‥‥‥ これは‥‥‥
「帝。鼻の下を伸ばしとらんで早う助けてやらぬか」
「はっ!? べ、別に鼻の下何から伸ばしてねぇから!!」
思わず魅入ってしまった。
いかんいかん!
でも接近戦は出来ない。ここはやっぱりコイツに頼るしかないな!
「この変態触手め! 喰らいやがれ!」
俺はこの状況を打開するにはコイツしかないと、ベレッタを抜き放ち数多の触手が姿を見せている中心部へ数発の9㎜パラベラム弾をお見舞いした。
バンバンバンバン!!
キュゥゥウウ!!
「うぉ!?」
「ほぉ、コイツがこの触手の正体か。なんかクラゲみたいじゃな」
9㎜パラベラム弾が吸い込まれ水飛沫を上げた池の中から甲高い鳴き声が響く。
すると咲耶姫が言った様に巨大なクラゲが姿を見せた。
「【クヴァレル】コイツが触手の名前か‥‥‥ レベルは‥‥‥ 」
俺はこのクラゲの様な姿をした魔獣の上を見て、この魔獣の名前を確かめた。
このクラゲ魔獣はクヴァレルと言う名前らしい。ちなみに、レベルは25だった。
待て‥‥‥ レベル25だと!?
このクラゲ魔獣はルディやフェルスベアより強いって事か!?
やってる攻撃は変態その物なのに!?
「ちっ! コイツ‥‥‥ 見掛けによらず俺が会った中で最高レベルの魔獣かよ! でも今の俺にはコイツが有る!」
予期せぬ強敵と遭遇した俺はベレッタの威力を信じ、姿を見せたクラゲ魔獣クヴァレルに再度9㎜パラベラム弾を撃ち込んだ。
キュンキュンキュン!
「何!?」
だが俺の放った9㎜パラベラム弾は、クラゲ特有の丸みを帯びた体に反らされ、致命傷を与える事が出来なかった。
「どうした帝。お主の攻撃は効いておらん様じゃぞ?」
「見りゃわかるよ! クソ、威力が足りないのか!?」
9㎜パラベラム弾は俺が居た世界ではどちらかと言うと貫通力や威力等、総合的に見ると弱い部類に属する弾丸だ。
それがクヴァレルの丸みを帯びた体には反らされ、傷を与えるには至らなかった。
このクヴァレルの体は柔らかそうな見た目によらず、中々の強度を持っている様だ。
更に体や触手を覆う粘液が、9㎜パラベラム弾の衝撃を吸収してしまったのかも知れない。
「何か手はないのかえ? 今の所セシル等に危害はない様じゃが、人様に見せられぬ姿になっておるぞ」
「言われなくてもわかってるっての! ちょっと待ってろ!」
「ミカドぉ!! は、早く助けてぇ!」
セシルの悲痛な声を聞き、俺は頭をフル回転させてある物を召喚する項目で思い描いた。
「よし! これでどうだ!!」
俺は頭をフル回転させ召喚させたそれを手に取り、クヴァレルへ向けた。
ババババババババ!!!
召喚した物から眩い光が発せられ、凄まじい爆音が池の周辺に木霊した。




