70話 出発
「「「「「ただいま!」」」」」
ワォーン!
住み慣れた家に帰った頃。時刻は10時を回っていた。
辺りはすっかり暗闇に包まれている。
俺は暗闇の中にポツンと建つ家を眺めながら、今日の事や、この後準備しなければいけない事を頭の中で整理した。
今日は散々な目にあった。
言わずもがな、暗殺者集団による奇襲攻撃だ。
あの時はシュターク達の救援があったから切り抜けられたが、あんな幸運はもう無いだろう......
となれば、俺がこの後しなければならない事は、新たに防具を召喚して出来る限り防御力を高めて生存率を上げる事だ。
それにプラスし、俺を含め皆の武器は暗殺者集団達の戦闘で刃が欠けたりとボロボロになってしまっている。
恐らく、身体能力強化で力任せに攻撃した為、武器の耐久値を超えてしまった所為だろう......
なのでまた暗殺者集団等に襲われても万全の状態で対処出来る様に、このボロボロの武器は破棄して新しい武器も召喚しなければならない。
( 出来る事ならマリア達にベレッタや、HK416Dの扱いを教えて、マスターしてくれるのが1番だけど...... )
まぁ..... 今回の様な奇襲攻撃に遭っても、万全の装備で対応出来る備えが必要と言う訳だ。
この他に、ゼルベル陛下を始めとした面々へ今回の爆破事件から導かれる今後の予想を分かり易く、かつ簡潔に説明する為の報告書も作成した方が良いだろう。
明日は朝日が登るより前にノースラント村のギルド支部に行く事を考えても、この準備は最低限今の内にしておく必要かある。
はは...... 寝れるかな...... 俺......
「ミカド?どうかしたの?」
「あ、いや...... 何でも無い。よし、それじゃ皆、今日はお疲れ様。
ゆっくり...... と言う訳にもいかないだろうけど、少しでも疲れを取ってくれ」
「ミカドさんはまだ休まないのですか?」
「ちょっとやる事があるからな...... ドラル達は俺の事は気にせずに、先に休んでいてくれ」
「わかった...... 」
「ん、了解。無理はするなよ?」
「あぁ、わかってるよ」
「私も何か手伝おうか?」
「ありがとうセシル。でも、俺は大丈夫だって」
「わかった......何かあれば手伝うからね?」
「あぁ、おやすみ皆 」
俺はセシル達を少しでも休ませる為、半ば強引に寝室へ行く様に指示した。
今静まり返ったリビングには、俺とロルフしか居ない。
「さて...... ロルフ。お前に1つ頼みたい事が有る」
ウァウ!
セシル達が2階に上がったのを確認した俺は、傍で行儀よく座っているロルフに声をかける。白銀の毛玉は尻尾を振りながら元気な声を上げる。
前々から感じてはいたが、コイツ...... やっぱり俺の言っている言葉の意味を理解しているみたいだ......
「よし、ロルフ。お前にはセシル達が休んでいる間、怪しい奴が家に近づいていないか、警戒していて欲しいんだ。出来るか?」
俺達を襲った暗殺者集団は俺の名前やマリア達の事を知っていた。
考え過ぎかも知れないが、この家の場所が奴等にバレている可能性もある。
だから俺は、ロルフの優れた感覚を頼みに、作業に集中している間、怪しい奴が家に近づいていないか、警戒を頼んだ。
ワウ!
「ありがとう。俺も出来る限り警戒はするけど、ロルフが頼りだ。任せたぜ」
やっぱりロルフは俺の言葉を理解している様に、首を縦に振った。
「よし!それじゃ、チャチャっと終わらせちまうか!」
ロルフに警戒を任せ、まずは防具を召喚する為に、頭の中で召喚の項目を開いた。
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ジリリリリ!
「っ...... ふぁ〜...... 」
まだ陽も出ていない午前4時丁度。
リビングに目覚ましのアラームか鳴り響いた。
この目覚ましは昨日、防具や武器を召喚するついでに召喚した物だ。
良く良く考えれば、この世界に時計は有るには有るがアラームが鳴る物は存在しなかったので、元居た世界で当たり前の様に使っていたアラームが鳴る時計の利便性を痛感し召喚したのだ。
このアラームが鳴る時計のお陰で正直寝足りないが、朝日が昇る前にはバッチリ起床出来た。
まぁ、寝たと言っても、準備を終えた頃には疲れがピークに達し、2階に上がるのが億劫でリビングのソファーで一夜を明かしたのだが......
くぁ......
「ロルフ...... 昨日はありがとな」
ソファーの足元でモゾモゾと白銀の毛玉が蠢き、可愛らしい声が聞こえた。
その白銀の毛玉の正体はロルフだった。
ロルフは、昨晩から作業をする俺の隣で、ずっと周囲の警戒をしてくれていた。
そのお陰か、無事に朝を迎える事が出来た。
「よし...... 防具や武器の準備も大丈夫。報告書の製作も終わってる......後はセシル達が起きるのを待つだけだな」
「あ、ミカド!ロルフおはよう」
「おはようございます。ミカドさん。ろ、ロルフさん...... 」
「おはよう...... 」
「ふぁ...... 眠ぃ.... 」
「あぁ、皆。おはよう」
ワウ
机の上に並べられた防具や武器を横目に、まだ眠たそうなロルフを撫でていると、丁度タイミング良くセシル達がリビングへ降りてきた。
皆、昨日よりは顔色が良くなっている。
少しは休めたみたいだな.....
「おぉ!なんだこれ!新しい武器じゃねぇか!」
「本当...... どれも新品...... 」
「ミカドさんが用意してくれたんですか?」
1人寝ぼけ眼だったレーヴェは、机の上に並べられた防具や武器を見つけ、一気にテンションが上がった。
それにつられ、マリアやドラルの声に力が入る。
「あぁ。これがあれば少しは安心して戦えるだろう?」
そう言いながら、俺は防具一式を手に持った。
俺が召喚した防具は長時間身に付けていても、出来るだけ体の負担にならない様に...... だが極力防御力を高める為、レザーアーマーと金属片が組み合わさった【ブリガンディン】という鎧。そして鉄製の臑当と籠手だ。
ブリガンディンとは丈夫な皮の裏側に金属片を縫い付けた革製鎧の一種だ。
このブリガンディンは心臓や肺など、人体で重要な器官が有る胸部や腹部は革と硬い鉄の二重構造でで覆い、軽量化の為、脇や二の腕の部分は厚手の革のみに覆われている。
ちなみに召喚したブリガンディンは通常の物とは違い、金属片が裏側ではなく表側に縫い付けられている。
対して籠手と臑当は完全鉄製で、側部に設けたベルトで碗部・脚部に固定する様になっている。
そして武器は以前召喚した物と同じ物を召喚した。
強いて違いを言えば、出来るだけ頑丈になるように召喚しただけで見た目は全く変わっていない。
さっきも言ったが、本当はマリア達にベレッタ等の扱いを教え、使いこなせる様になって貰うのが理想なのだが、今はいかんせん時間がなかった。
「もしマリア達がこの先、俺達と暮らす事になれば話は別なんだけどな...... 」
「?何か言いましたかミカドさん?」
「ん?あぁ...... 何でもないよ」
危ない危ない。
どうやら無意識に思った事が口に出てしまったみたいだ...... 気をつけないと。
「凄ぇ!凄ぇよミカド!って言うか、この家ってなんでも有るな。前に僕達が使う用の戦斧とかも有ったし......」
「あ、あはは..... まぁね?」
「こ、細かい事は良いじゃないか」
レーヴェの発言を聞き、俺と、俺の秘密を知っているセシルは思わず乾いた笑みを零しながら苦笑いを浮かべていた。
まかさ幼女の神様から授かった特殊な能力で、俺がこの防具や武器を召喚した.....なんて言える訳がない。
マリア達なら、この能力の事を伝えても信じてくれるかも知れないが...... 今はまだ伝えるのは止めておく。
今は色々と大変な事が起こっている。
この能力の事を伝えるなら、全てが解決した時だ。
「そ、それよりも!何か食べよう?この後は直ぐ、ペンドラゴに行くんだから!
さぁ皆!朝ごはん作るの手伝って!」
「あ、はいセシルさん!」
「ん...... わかった」
「おう!」
セシルの機転を利かせた助け舟のお陰で、どうにかこの場は何事もなく切り抜ける事が出来た。
セシル、ナイスフォローだったぞ。
「ふふっ」
セシルの方を向き、グッと親指を立たせれば、相手もそれに気付いて小さくピースをする。
この仕草を見て、ドラル達に感じた罪悪感を一瞬だが忘れる事が出来た。
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「ん、来たな...... やぁミカド。おはよう」
「おはようございますミカド様」
「おう。おはようミラ。アンナ」
「「「「おはようございます」」」」
ワォン!
「はい。セシル様、マリア様、ドラル様、レーヴェ様。
クスッ......ロルフもおはよう」
アンナは律儀に1人1人に頭を下げ、ロルフの頭を撫でる。
「あぁ、おはよう。ふふ...... 準備万全と言った感じだな」
「おう!防具も武器も傷薬も完璧だぜ」
簡単な朝食を食べた俺達は、食休みもそこそこに、召喚した防具を身に付け武器等を持ち、指定された時間丁度にノースラント村ギルド支部をロルフと共に訪れた。
そんな俺達を見たミラは、俺達を見て愉快そうに口角を上げる。
先日ペンドラゴに向かった時は、防具は必要最低限でほぼ手ブラだったが、今の俺達はレザーアーマーと、鉄のプレートを組み合わせた防具を纏い、武器も持った完全武装な上に、それぞれ木箱を持っている。
マリアやセシル、ドラルは小さな...... 30センチ四方の木箱を。
俺とレーヴェは、40センチ四方の木箱を持っている。
センチ達が持っている木箱には、着替えを始め、傷薬等の治療品、武器のメンテナンス用の油等が入っている。
これはセシルの家に常備してあった物を持って来た。
これらの物は、亡きダンさんの物だったが、今はこうして俺達が有難く使わせて貰っている。
そして俺とレーヴェが持っている木箱には、少し特殊で、木箱全体を覆う様に太い鎖が巻かれ、錠前で施錠してあり簡単には開けない様に工夫してある。
この錠前を開ける鍵は俺が首からぶら下げている。
ここまで厳重にしているのは、中身がとても重要な物だからだ。
この厳重は木箱の中には、ゼルベル陛下達に宛てた報告書等が入っている。
この報告書は、昨晩書いた今回の事件から想定される今後の予想を記した物だ。
下手したら、ラルキア王国存亡の危機に発展しかねないこの報告書は、ゼルベル陛下に渡すまでは極力人目に付かない様にしなくてはならない。
この木箱には他にも念の為色々と入れているのだが、マリア達にはその物の正体は説明していない。
その物の正体を唯一説明されたセシルは、これ以上無い程の苦笑いをしていたが......
とにかく、何らかの非常事態に陥った時の為に最終手段も万全に整えた訳だ。
「よろしい。彼方に馬車を用意してある。任せたぞ...... 」
「あぁ。ロルフを頼む...... よし!セシル!マリア!ドラル!レーヴェ!」
「うん!」
「ん......!」
「はい!」
「おう!」
「同時爆破事件調査隊出撃するぞ!」
先日ノースラント村を出た時と同じ様に... 同時に気を引き締める為、俺達は声を荒げながら、ミラが用意してくれた馬車に乗り込んだ。
ワォォォオ〜ン!!!
俺達にエールを送るかの様なロルフの遠吠えが、微かに白み出した空に響き渡った。
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「暗殺に失敗しただと!? 高い前金を払ったのに何てザマだ!」
「申し訳ございませんね。面目次第もございませんよ」
微かに登ってきた朝日が、カーテンで仕切られた窓の隙間から薄暗い部屋に注ぎ込む。
そのか細い日の帯が、顔に刺青を入れた人物に当たり、目を模した刺青を浮き上がらせる。
怒りを露わにする年老いた男性は窓を背にして椅子に座り、怒号を目の前の人物に浴びせていた。
怒号を浴びせられる人物は、悪びれた様子もなく頭を掻きながら、心の込もっていない謝罪をする。
「しかしね、閣下。彼奴ら聞いていた以上に、結構なやり手でしたよ。
彼奴等を盗賊に襲われた様に見せかけて殺す以前に、逆に荒事に慣れた俺の部下が6人も殺された...... これは流石に予想外です」
「まさか...... 被害を恐れて契約を破棄するつもりか!」
「ちょっと落ち着いて下さいよ閣下。
俺達【黒鷲の影】は1度契約をしたら、標的が死ぬか...... 依頼者が自分の意思で契約を破棄しない限り、俺達は標的を追い続けます。
例え地の果てまで逃げても.....
それに閣下との約束も有る。
その約束を守ってもらうまでは、意地でも契約は遂行するし、破棄なんてさせません」
「ふむ...... それを聞いて安心したぞ。
約束は兎も角、以前金を出し惜しみし、ある者達へ仕事を頼んだ時には酷い目を見たからな...... 」
「......あぁ...... ラルキア王国の第1王女ユリアナ・ド・ラルキアを暗殺しようとした時ですかね? 今回と同じ様に...... 」
「っ!? お前..... どこでその事を...... 」
「閣下が依頼した彼奴等は、そこそこ名は知れていますが、その名声の大抵は力の弱い奴ら......
例を挙げれば、成金の金持ちや護衛の居ない大臣を殺した事でその名が知れた奴等......
元々没落貴族の坊っちゃまや、軍から逃げ出した兵士崩れの3流暗殺者ギルドの奴等に、ユリアナの暗殺はハナから無理だった訳ですよ。
ま...... 裏世界の情報網は、閣下が想像なさっているより強大で...... そして根深く浸透しているんですよ...... 」
「...... 」
コンコンコン
部屋がなんとも言えない静寂に包まれると、不意にドアをノックする音が響いた。
そして一呼吸置くと、静かに1人の若い男性が部屋に入り、跪く。
「お話中失礼します閣下。例の計画の最終段階の準備が完了しました。
後は閣下のご命令1つで、最終段階へ移行出来ます」
「わかった...... 下がっていろ」
「はっ、失礼します」
跪いて報告を終えたその男は、いそいそと部屋を後にする。
部屋にはまた、2人だけになった。
「おや、もうそんな段階に...... やけに急ぐじゃないですか閣下」
「彼奴等が我々の存在に気付いたやも知れんのだぞ......
となれば、事を暴かれる前に決着を付けるしかないのだよ......
もっとも、ユリアナ暗殺に失敗してから計画を急がせたが、今回の失敗で更に急ぐハメになってしまった......
お前達が予定通り彼奴等...... あのミカドとか言う若造を始末していたら、ここまで慌てなくても良かったのだがな」
「あれはイレギュラーだったんですよ。
俺達は誰が相手でも手加減はしない...... それこそ今回の様な、男が1人に女が4人の彼奴らを殺せと依頼された時も同じ......
万全の準備を整えた。
彼奴等の宿泊地は警備が厳しく、忍び込めないと判断したら、その後は尾行もした。
隙を見せたら殺せる様に...... 」
「だが、無理だった......」
「その通り...... 特に、閣下が優先して殺す様に言っていたミカド...... そのミカドと一緒に行動していたエルフが、常に周囲を警戒していてとても手を出すタイミングなんて無かった訳です」
「だから、お前達は彼奴等がペンドラゴに来る際に使った道周辺の地形を調べ上げ、彼奴らが帰る時に待ち伏せをした...... 」
「えぇ、ちなみに奇襲のタイミングも攻撃も、客観的に見てほぼ完璧でしたよ。
ウチの馬鹿が1人先走りはしましたが、それでも狙い澄ました20本の矢を、全て避けられるとは思っていませんでした。
その後の事は、目の前に置かれてる報告書に書いてある通りって訳です」
「何にせよ...... 暗殺は失敗した。
私に契約を破棄する意思が無い以上、お前達も義務を果たせ。
もし彼奴等が我々の計画の邪魔しようとしたら、真っ先に殺すのだ!」
「はいはい...... 言われるまでも無いですよ。
こっちも久しぶりに活きの良い標的に出会えて疼いてるんですから......
もっとも、直ぐに会えると思いますがね......」
「ふっ...... この戦闘狂め...... おい!誰か!誰か居らぬか!」
刺青の男が呟く様に言った最後の言葉は、椅子に座る男の耳には届いていなかった様だ。
「お呼びですか。閣下」
年老いた男性の声が部屋に響くと、外から先程とは別の若い男が部屋に入ってきた。
「各部隊に伝えよ!本日の08:00時、計画の最終段階を発動する!
各部隊、それぞれの目標に沿い、死力を尽く様に厳令しろ!」
「は、はっ!」
威厳が込もる声を聞き、部屋に来た男性は背筋を伸ばし、慌ただしく部屋を飛び出した。
その後を追う様に、ゆっくりと刺青の男も薄暗い部屋を後にした......
この瞬間、先の爆破事件が霞む程の命令が、1人の男の口から発令されたのだった。
「それじゃ、俺も行くとします。
次こそ、ミカドを殺す......閣下...... 約束は守って頂きますよ」
「案ずるな。約束は守る。お前は私の依頼通りミカドを殺せば良い」
「もし約束を違えたら...... 覚悟して頂きますよ」
「ふん...... 」
刺青を入れた男はそう言い残し、音も無く薄暗い部屋を後にした。
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