51話 手紙
「っと...... あれが水属性の低威力攻撃魔法、【水球】です。
ちなみに私は他にも火属性等、全属性の攻撃魔法を使えます。でも全て低級攻撃魔法なので、威力は余りありませんけど...... 」
「いやいや、充分凄いじゃないか! 想像以上だ! 初めて魔法を見たけど感動したよ! な? セシル!」
「うん! あれで低級攻撃魔法なんて信じられないよ!」
「へへっ! ウチのドラルは凄ぇだろ?」
「なんでレーヴェが得意げなの...... 」
「「「はははっ」」」
笑い合いながら俺はマリア、レーヴェとの模擬戦と、ドラルの弓の腕と魔法の威力を改めて頭の中で整理した。
マリアはレーヴェ曰く、一般的なエルフとは違い魔法を扱う素質は無いみたいだ。
だがその代わりエルフ特有の五感の鋭さ等はそのままに、並のエルフ以上の身体能力を持っている。
ちょっと横目で見ただけだが、ククリナイフを持ったマリアの攻撃は宛ら、風に舞う木の葉の様に軽やかで躍動感に溢れ、そして鋭かった。
渾身の力を込めた一撃に全てを賭けると言うよりは、巧みな手数で勝負する印象を受ける。
ドラルはマリアとは逆で、強靭な肉体を持つと言われている龍人族よりも体が弱いらしい。
しかし弓の腕前は玄人を思わせる程だし、この世界でも使える人が限られる攻撃魔法、回復魔法の両方を使う事が出来る。
レーヴェは種族特有の強い肉体をしっかり受け継いでいるらしく、高い瞬発力に腕力も備わっている。
ここに身体能力強化も使えば、並の魔獣なら瞬殺出来るだろう。
3人ともギルドでやっていくには充分過ぎる逸材だな、こりゃ......
「よし、そんじゃ今日はここまでにしよう。明かりの家に送る手紙も書かないといけないしな」
「そうだね。手紙を書き終えたらご飯にしよ」
「はい!」
「おう!」
「ん...... 」
3人の実力を確かめた俺は、模擬戦の終了を告げ、元気に声を上げるマリア達を引き連れて家の中へと戻っていった。
「さて、チャチャッと書いちゃいますかね」
「うん。はい、これ。皆の分の紙だよ」
「ありがとうございます」
「ん...... 」
「お、ありがと」
リビングに戻った俺達は、セシルから紙と封筒、そして筆ペンを貰い、明日ノースラント村ギルド支部に届けてもらう紙を書き始めた。
それと模擬戦の時、ロルフの姿がないなと思っていたが、ロルフはリビングのソファーを独占し安らかに寝息を立てていた。
本当、気持ち良さそうに寝るね此奴は......
さて、それから10分程経った頃。俺は手紙を書き終えた。
書く内容がほぼ頭の中に出来ていたお陰で、早く書き上げる事が出来た。
ちなみに内容は下記の通りだ。
『宛、明かりの家。発、ノースラント村、セシル・イェーガー。ミカド・サイオンジ。
11月28日の第4日龍日。
ノースラント村近くの嘆きの渓谷で、【幸福の鐘】の少女、マリア・グリュック。レーヴェ・グリュック。ドラル・グリュックの3名を見つけ、保護しました。
彼女達は現在、私達が住んでいるノースラント村近くの始原の森の外れに居ます。
彼女達が私達に恩返しをしたいとの事なので、明かりの家に向かうのは少々遅れるかとは思いますが、一緒に暮らしている間は彼女達の事は私達が守ります。
追記、彼女達の手紙も同封致します。』
と、こんな内容だ。
後はこれを明日、ノースラント村のギルド支部に持って行って、明かりの家へ届けてもらうだけだ。
改めて思うが、セシルにこの世界の文字を教えて貰っておいて本当に良かった......
「よっし、完成!」
「出来た...... 」
「私も出来ました!」
「お疲れ様〜」
俺が手紙を書き終えてから数分後、黙々と筆ペンを動かしていたレーヴェ、マリア、ドラルが手紙を書き終えた。
そして、手紙を書き終えるのを見計らったかのようにセシルが湯気が昇るカップを俺達の前に置いてくれた。
カップの中身は紅茶みたいだ。
「ありがとうセシル。これで後は明日手紙を出しに行くだけだな...... あ、そうだ! その序でにギルド会員登録もしちまおうか」
「良いですね! 私も早くギルドに入って、ミカドさん達に恩返しをしたいですし!」
「僕も賛成だ! うぅ〜! ワクワクしてきたぜ!」
「 ん。楽しみ......」
俺の提案を受け、ドラル達は顔を綻ばせる。
余談だが、ギルドには組員に登録する際の年齢制限は無い。
言ってしまえば、産まれたての赤ん坊でもギルド組員にはなれる。
だが、登録に年齢制限が無い代わりとして、受けられる依頼に制限があり、12歳以下の子は例えポーン級でも魔獣の討伐等、ギルドが命の危険があると判断した依頼は受けられず、危険が少ない依頼しか受ける事ができない。
これまで何度かノースラント村ギルド支部で10歳前後の子供が依頼を受けているのを見た事があるが、そう言う子は大体薬草の採取や穀物の収穫の手伝い、荷馬車製造の手伝い等の依頼を請け負う事が殆どだ。
グリュック3姉妹の最年少、マリアの歳は14歳。この問題をクリアしているので、魔獣の討伐依頼も受ける事が出来る。
まぁ、マリアの身体能力ならそこらの魔獣相手に遅れは取らないだろうけど。
「よ〜し。今日は飯を食ってゆっくり休もうか」
「「「「賛成!!」」」」
『ヴァウ!』
「あれ? ロルフさっきまで寝てたじゃん!?」
ギルドの会員の事を頭の片隅で考えながら、飯という言葉に反応して目を覚ましたロルフを見て、俺達は笑顔を浮かべるのだった。
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そして明くる朝。
俺達は何時もの時間に起きて、何時ものように訓練をした。
1つだけ違う点を上げれば、今日の訓練はマリア、レーヴェ、ドラルも一緒に行った事だ。
レーヴェ曰く
少しでも強くなりたいから。
だそうだ。
この考えに俺とセシルも賛同し、この家に居る間は、朝と晩一緒に訓練をする事になった。
今後はこの訓練の時間に、素人に毛が生えた程度の物だが戦闘技術を教えていこう。
そして俺達はドンヨリとした曇り空の下、ノースラント村のギルド支部に向かい歩みを進めている。
嫌な天気だ......
「なぁ、ドラル。ドラルって龍人族って種族だったよな?
龍人族って皆ドラルみたいな黒い羽根と尻尾を持ってるのか?」
例によって無言で歩くのは面白く無いので、俺はドラルの特徴である光沢を放つ黒い羽根と、ユラユラと揺れる尻尾を横目で見ながら聞いてみた。
「いえ、必ずしもそうではありませんよ。
余り知られていないのですが、龍人族にもそれなりに種類があるので、その種類事で羽根の色等も違います」
「へぇ、そうなんだ? 私、龍人族は皆同じ様な羽根を持ってるんだと思ったよ」
「確かに、殆どの人がそのイメージだと思います。龍人族は私の様に黒い羽根と尻尾を持つ【黒龍人】が大半ですけど、中には赤い羽根の【火龍人】や、青い羽根の【水龍人】と言う種族も居ます。
ですが、人数が少なく存在自体も余り知られていませんから、セシルさんが知らないのも無理はありませんよ」
「龍人族って確か、8つの種族があるんだっけ?」
「えぇ。龍人は7龍の様に、それぞれ得意な魔法を扱える種族と、私の様にその7つに属さない黒い羽根を持った計8つの種族が居ます」
レーヴェの言葉にドラルが頷く。
確か7龍とはこの世界の神話で、この世界を作ったとされる7匹の龍の事だ。
「それぞれの種族で得意な魔法があるのか?」
「はい。先程言った火龍人族は火系の魔法を得意とし、水龍人族は水系の魔法が使えます。
私の様に黒い羽根と尾を持つ黒龍人族は、本来魔法が使えない種族なのですが...... 」
ここでドラルの表情が暗くなった。
俺は何故ドラルの表情が暗くなったのかを察した......
本来魔法が使えない黒龍人族から、魔法が使えるドラルが産まれた...... 魔法が使えるドラルは、仲間の黒龍人族達から不気味な存在と思われたに違いない......
断言は出来ないが、この産まれ持った性質がドラルが孤児院に住む事になった事と関係している気がする......
「ん...... レーヴェの獣人族も種族の数は多いんだよな?」
「あぁ。少なくとも10種類は超えてるな。犬獣人に、猫獣人...... 他には狐獣人とかが居るぞ。
獣人の中でも、半獣人と完獣人の2つの場合があるけどな」
俺はワザとらしく会話を変えた。
レーヴェも俺の意図を察してくれたらしく、明るい口調で語り出した。
「完獣人?」
「レーヴェみたいな人間の見た目に、獣の耳や尻尾が生えてるのが半分獣で半獣人...... ロルフみたいに見た目が完全に獣で、二足歩行して言葉を話すのが完全な獣人で完獣人...... 」
「マリアの言う通りだ。この完獣人と半獣人をまとめて、他の種族は獣人って呼んでるんだぜ」
「「へぇ〜」」
「ちなみに私達エルフ族は、尖った耳が特徴。それと人間達は別々に分類してるけど、透明な羽根を持っている妖精族も私達エルフ族の派生種族...... 親戚みたいな物。
このエルフ族と妖精族は魔法の素質を持った人がほとんど......
でも私は魔法を使えない...... 代わりに強い肉体を貰った。
エルフは皆魔法を使える。でも身体能力は低い...... 私は違う...... 」
「マリア...... 」
レーヴェの言葉を聞いたマリアが、静かに付け加え、そして自分の事と種族の事を語りだす。
それを聞いたドラルが、マリアに悲しそうな視線を送る。
そうか...... マリアもドラルと似た様な境遇なのか......
ドラルは本来龍人族が持つ強い肉体を持っていないと言っていた。
そして本来黒龍人族が使えない魔法を使える......
マリアは逆で、エルフ族が本来持っている筈の魔法を扱う素質が無い。
代わりに強い肉体と、高い身体能力を持って産まれた。
マリアとレーヴェは同じ境遇だから、仲が良いのかもしれない。
やってしまった......
もっと3人の事を知ろうと思って振った話題が、まさかこんな結果になってしまうとは......
その後、誰も口を開くことは無く、微妙な空気の中、俺達はノースラント村に到着した。
ノースラント村は今日も平和で、ノースラント村ギルド支部には何時ものように受付席に座るアンナが微笑みかけてきた。
「おはようございます皆様」
「おはようアンナ」
「「「「おはようございます」」」」
「ミカド様の後ろに居る子達が、今回助けた子達ですか?」
アンナはひょこっと、受付席に身を乗り出して俺の後ろに立つマリア、レーヴェ、ドラルの顔を順に見つめた。
『他大陸の者は奴隷として扱っても良い』とかいう胸糞悪い決まりが、この世界共通で適応されている平和条約の中にあるみたいだが、ラルキア王国はこの奴隷云々の部分に否定的な人が多いらしい。
その証拠に少し前、ラルキア王国の王都ペンドラゴに行った際、奴隷として荷馬車に乗せられている獣人やエルフ族と思しき人達を確かに見たが、代わりにごく普通に生活している黒龍人族達も見かけている。
奴隷に関する事は詳しく無いので良く分からないが、少なくとも本来奴隷として扱っても良いと定められている他種族が、人間と変わらない生活が出来ている所や、孤児院とは言え幼いマリア達が何不自由無く暮らしてこれたのも、ラルキア王国が奴隷に否定的な国だからこそだろう。
なのにこの国から奴隷が無くならないのは、奴隷が居なくなっては困る人達が少なからず居るせいか......
「あぁ。右からエルフのマリアに獣人のレーヴェ、そんで龍人のドラルだ」
「マリア様にレーヴェ様、ドラル様ですね。お話は伺っております。大変でしたね...... 」
「「「っ......はい...... 」」」
アンナの雰囲気は、エルフ族のマリアや獣人族のレーヴェ、龍人族のドラルを見ても、いつもと変わらない......
むしろ3人の境遇に悲しみ、同情しているから、マリア達を奴隷として見ていない事が分かる。
そんなアンナの様子を見てマリア達は静かに頭を下げた。
「あの、これ...... 」
「あ、明かりの家に届ける手紙ですね?」
「あぁ。中には俺が書いた報告の手紙と、マリア達が書いた手紙が入ってる」
「確かに受け取りました。見た所3人に外傷等はない様ですし、その事も明かりの家に伝えておきますね。では、さっそく早馬で届けさせます」
「よろしく頼む」
「「「よろしくお願いします」」」
「任せて下さい!」
セシルが遠慮がちにアンナに封筒を差し出した。
この封筒には、俺が言った様にマリア達を奴隷商人から保護している旨を伝える手紙と、マリア達がそれぞれ自分達は無事だと書いた手紙が同封されている。
これで、明かりの家がこの手紙を読んで、マリアが俺達と暫く一緒に住む事を了承してくれれば良いのだが......
「あ、アンナ。序でにマリア達3人のギルド登録もお願いしていいか?」
「かしこまりました。少々お待ちくださいね」
手紙をアンナに渡し終えた事だし、もう1つの用事も終わらせていこう。
アンナがゴソゴソと受付席の下の方を漁り、ギルド登録用の用紙を取り出した。
「では、マリア様、レーヴェ様、ドラル様こちらにご記入をお願い致します」
「ん...... 」
「おう!」
「はい」
俺は、受付席から退いてマリア達が用紙に記入出来るだけのスペースを譲る。
3人とも幸福の鐘で文字もしっかり習っていたらしく、スラスラと欄に字を記入していく。
ドラル、マリア、レーヴェの順で記入を終えれば其々用紙をアンナに差し出していく。
「...... はい。確かに確認しました。
ではこちらがギルド登録証、ギルド手帳になります。
この手帳は身分証としても使用できますが、無くされてしまいますと罰金が発生致しますのでご注意下さい」
「ありがと...... わかった」
「了解!」
「罰金ですか...... 気を付けます」
アンナがマリア達から差し出された用紙に目を通し、以前ミラが俺達のギルド登録用紙にした様に、胸ポケットから判子を取り出して其々の用紙に押していく。
判子を押す作業が終わったアンナは、用紙を出した時と同じ様に、ギルド手帳を机の下から取り出し、罰金などの事を説明しながらマリア様にギルド手帳を手渡す。
これでマリアにレーヴェ、ドラルがギルド登録が完了し、ギルドの一員となった訳だ。
「依頼の仕方など、分からない事があればミカド様に聞いてくださいね?」
「「「はい!」」」
あれ? 今俺の名前言わなかったか? 丸投げされた?
「では、ギルド登録は以上で終わりになります」
「...... ありがとうアンナ。それじゃ手紙よろしく頼むよ」
「「「よろしくお願いします」」」
「はい! またのお越しをお待ちしてます」
......まぁ、最後の最後で少し釈然としない感が出たが、今日の目的であった、明かりの家への手紙を届ける事と、マリア達のギルド登録を無事に終わらせる事が出来た。
俺達は、アンナに手を振り見送られならノースラント村のギルド支部を後にした。
ここまでご覧頂きありがとうございます。
どうでもいい話なのですが、以前友達にこの小説を読んで貰ったら、『帝君ってお前がモデル?』と言われました。
まさしくその通りでございます。
家系やら蔵の中で宝探しやら実際に俺が体験した事や、確認した事ですよ。はい。
なお、蔵で宝探しをしたら自分の場合は七豫咫鏡じゃなく鎧通し(刀の一種)が見つかりました。
誤字脱字、ご意見ご感想なんでも大歓迎です!




