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夕暮れ時。葛の葉庵を出た後、被害者の知人を中心に聞き込みを続けていたのだが、特に有益な情報は得られなかった。中々手掛かりを掴めない焦りから、苛立ちは益々募って来る。
「あ゛~っ!犯人の野郎、こそこそしてないで出てこいってんだ!!それに土御門君も、こっちが真剣に聞いているのに“犯人は妖怪です。”って・・・ふざけるなって話だ!!」
俺は眉間に皺を寄せながら、細い路地をどんどん進んで行った。悶々と怒りオーラを放ちながら腹を立てている俺を、横井は「まぁまぁ。」と遠慮がちに宥めようとする。
「でも、犯人の姿が映っていないのに被害者が切り裂かれていたあの映像を見たら・・・“犯人は鎌鼬だ。”っていう噂が流れるのも無理はないかな、なんて・・・。」
ちらりと上目遣いでぽつりと呟く横井を鋭く睨み付けると、俺は「阿呆か!妖怪の仕業な訳無いだろっ!!」と大声で一喝した。横井は「そっ、そうですよね。」と一言返事をする。そんな風に話をしながら歩き続けていた俺達だったが、人気の無い四つ辻に差し掛かった所で俺はふと足を止めた。
「片瀬さん?」
「いや・・・さっきから風が少し強くなってきた様な気がしてな・・・。切り裂き魔事件が起こった時の映像・・・どれも被害者が殺される前、強い風が吹いていたよな。」
俺が問い掛けると、横井は「確かに、そうですね。」と思い返す様に視線を少し上に上げながら答えた。
・・・もしかしたら、切り裂き魔が現れるかもしれない。
そう考え、俺達が警戒を強め周囲を見廻していると―
ズシュッ!!
突然横井の胴体が切り裂かれる。切り傷は少し深く、横井は血を流しながらバタリとその場に倒れる。
「横井っ!?」
倒れる横井を抱え急いで病院に連れて行こうとした俺だったが、右足の太股をシュッと切り裂かれ、その痛みで横井を抱えたまま勢い良く地面に倒れてしまう。
「くっ・・・。」
俺は苦痛に顔を歪めながらゆっくりと上半身を起こした。すると、何も居なかった筈の四つ辻に、ふよふよと宙に浮かぶ奇妙な生き物が3匹姿を現したのである。
「なっ・・・何だっ!?」
その生き物達の両の前足は皆鋭利な鎌になっており、見た目は鼬の様な姿である。
「我等の事をこそこそ嗅ぎ回り追って・・・。邪魔だっ!消えろっ!!」
3匹はギロリと此方を睨み付けると、俺達の方に向かって素早く斬り掛かろうとしてきた。俺が銃を構え向かって来る3匹に向け発砲しようとしたその時―
青と赤の2色の焔が爆発し、3匹の鼬を後方に吹き飛ばしたのである。
「間に合って良かった。」
爆発に驚いていると、背後から土御門君と騰蛇君が現れた。土御門君の横には白い紙人形がひらひらと飛んでいる。
「何故君達が此処に・・・?」
予期せぬ乱入者に、俺は戸惑いを隠せずその場に固まってしまう。そんな俺の肩を騰蛇君が力強くポンと叩く。
「晴支が気配を察知したから、急いで来たんだ。後は俺達に任せときな!」
2人は俺と横井を庇う様に前に立ち、片手に焔を灯し身構える。
「あれが・・・君達の言っていた“鎌鼬”という妖怪なのか?」
ふわりと浮遊し此方を威嚇するあの鼬の様な生き物が普通の動物ではない事ぐらい俺にも分かる。
・・・まさか、本当に妖怪が切り裂き魔だったとはな。
「!?見えるんですか?・・・そうか。鎌鼬に襲われ怪異に触れた影響で、眠っていた霊力が目覚めたのかもしれませんね。」
「?」
れ・・・霊力が目覚めた!?幽霊や妖怪が見える体質になったという事か!?もう訳が分からんっ!!
俺は事態について行けず、頭を抱え込んでしまう。
「兎に角鎌鼬を先に退治します。それから片瀬さん達の怪我を治療しましょう。」
土御門君はそう述べると、構えていた青い焔を鎌鼬目掛けて勢い良く放った。鎌鼬は風を巻き起こし焔を打ち消そうとするが、焔は風を飲み込み更に大きくなって鎌鼬に襲い掛かった。
「うぉおおおっ!!」
騰蛇君は焔を払おうともがく鎌鼬の居る方へ疾走すると、踵から焔を放ちその勢いに乗り思い切り鎌鼬を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた鎌鼬は少し先の電柱や塀まで吹っ飛び勢い良く衝突してその場に蹲る。
「くっ!?またも我等の邪魔をしおって・・・。」
「目障りな連中めっ!!」
「切り裂いてくれるわっ!!」
大きなダメージを受けた鎌鼬は恨めしそうに土御門君達を睨み付けながらふらふらと立ち上がる。そして彼等は最期の力を振り絞って土御門君達の所まで接近し、2人を囲む様にぐるぐると回り始める。すると旋風が巻き起こり、中に居る2人の体を切り裂いていった。
・・・俺に何か出来る事は無いか。
俺は辺りを見廻し、鎌鼬の動きを止めるのに役立ちそうな物がないか探した。そして、近くのアパートに繋がる水道管に目を留めた。
これだっ!!
俺は銃を構えると、水道管に向けて数発発砲した。水道管は大きな音を立てて破裂し、鎌鼬目掛けて勢い良く水を放出する。突然の水攻撃に鎌鼬は吃驚して思わず動きを止めてしまう。旋風が治まった一瞬の隙を突いて、騰蛇君が鎌鼬に焔を込めた拳を力一杯ぶつける。殴られた3匹の鎌鼬は道路にめり込んでしまう程の強烈な威力で叩き付けられた。
「浄き光よ、闇を滅し給え。急急如律令!」
土御門君が呪文を唱えると、光の柱が現れ鎌鼬を飲み込んでしまった。光の中に取り込まれた鎌鼬はやがて力尽き消滅したのだった。
「や・・・やっつけたのか?」
鎌鼬が消えた場所をまじまじと見つめていると、土御門君達が俺達の所まで駆け寄って来て起き上がるのを手伝ってくれた。横井の傷も思った程酷くは無さそうで、動けるみたいだ。
「2人共、大丈夫ですか?」
心配そうに此方の顔を覗き込む土御門君に、俺は「ああ、大丈夫だ。有難う。」と一言述べた。
「・・・その・・・店では君達の事を疑って、悪かったな。事件解決に協力してくれて、感謝する。」
少し顔を逸らしながらぼそぼそと話し掛けると、2人はくすっと笑いながら、「どう致しまして。」と返事をした。
「取り敢えず、葛の葉庵に戻ろうぜ。貴人に片瀬刑事達の怪我を診て貰おう。」
「そうだね。片瀬さん、横井さん、行きましょうか。」
土御門君と騰蛇君は、俺と横井を葛の葉庵へと向かう様促す。俺達は土御門君達の手を借りながら、ゆっくりと葛の葉庵へと続く道を歩いて行った。




