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葛の葉奇譚  作者: 椿
第10章:切り裂き魔
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 翌日早朝。首斬り死体を発見したと高齢の男性から通報を受け、2人の刑事が事件現場にやって来た。黄色いテープを潜り抜けると、其処では鑑識が道具を駆使し真剣な面持ちで証拠や手掛かりが無いか捜査している所だった。遺体は首が体から斬り離され、血の海に沈んでいる。

 「お待ちしておりました。片瀬刑事。横井刑事。」

 鑑識作業をしていた若い青年が此方に近付き語り掛ける。

 「おお、和泉。どうだ、捜査の方は進んでいるか?」

 俺が和泉に問い掛けると、彼は「まだ少しだけですが・・・」と報告を始めた。

 「遺留品から、遺体の身元は戸田翔太、20歳と判明しました。被害者は見ての通り、首を一刀両断され即死。死亡時刻は、遺体の状態から見て午前1時30分~2時30分の間だと考えられます。犯人に繋がる手掛かりはまだ見つかっていませんが・・・犯行の手口が最近起こっている切り裂き魔事件と酷似しているので、恐らく同一犯の仕業でしょう。」

 「また切り裂き魔か・・・。」

 1週間程前から起きている連続殺人・・・。被害者は皆夜中に出歩いている所を襲われ、首を斬られ殺されている。その手口から、犯人は“切り裂き魔”と呼ばれている。

 「・・・それにしても、電柱まで真っ二つに斬ってしまうなんて。犯人は一体何者なんですかね、片瀬さん?」

 横井が遺体の傍の電柱をまじまじと見つめながら語り掛ける。電柱は半分くらいの長さの所で綺麗に切断されている。こんな真似が出来る人間は、中々居ないだろう。

 「それを調べるのが、俺達の仕事だ。聞き込みに行くぞ。先ずは、第一発見者に話を聞こう。」

 「はいっ!」

 俺は横井を連れて、警官と待機していた第一発見者の男性の許に話を聞きに行った。

 「いつもの様にポチの散歩をしとったら、人が血だらけで倒れとってのぉ。・・・心臓が止まるかと思った。」

 彼によると、愛犬と一緒に日課の散歩コースを歩いていたらその途中でこの遺体と遭遇し、慌てて通報したとのことだ。被害者とは特に面識も無く、遺体の傍には凶器らしき物等は何も落ちていなかったらしい。

 「・・・犯人に繋がる様な情報は、得られませんでしたね。」

 横井が残念そうに小さな声で呟く。

 「捜査は始まったばかりだ。他の近隣住民達にも聞き込みをするぞ。その後で、周辺の監視カメラの映像も調べてみよう。

 俺と横井は現場付近の家や店等を一軒一軒聞いて回った。深夜の遅い時間だった為、犯人の姿を目撃した人は1人も居なかった。不思議な事に、電柱が倒れる音や悲鳴を聞いたという証言も全く得られなかった。

 あんなに派手に電柱が壊されていて、誰も物音や悲鳴を聞いていないなんて・・・そんな事有り得るのか?

 そんな疑問を抱きながらも、俺達は入手した監視カメラの映像をチェックし始めた。すると、そのカメラの映像にはとんでもないものが映っていたのだ。

 「・・・またか。」

 その監視カメラは事件の一部始終を捉えていたのだが、それはとても信じ難いものだった。犯人が何処にも“映っていない”のだ。被害者や電柱を斬る瞬間に映っていなければならない筈の犯人の姿が無いのだ。映像が加工された形跡も無い。今までに起きた切り裂き魔の事件でも、犯人は姿を見せずに犯行を行っている。

 「か・・・片瀬さん。監視カメラに映らずに被害者を斬るなんて・・・可能なんでしょうか?」

 横井が青ざめた表情で俺に問い掛ける。 

 「きっと何か仕掛けがある筈だ。必ず暴いて、犯人を捕まえてやるっ!!」

 どんな不思議な現象にも、種はある!現場の中にヒントが隠されている筈だ!!

 俺は力強い足取りで現場へと戻る道を進んで行く。横井もその後を慌てた様子で追いかけていく。

 現場に戻った俺達は遺体や斬られた電柱、そしてそれらの周辺を細かく調べてみたが、特に不審な物は見当たらなかった。

 ・・・一体犯人はどうやって被害者を殺したんだ?

 ふむむ・・・と腕を組んで遺体と睨めっこをしながら考えてみるが、皆目見当がつかない。ふぅ、と溜め息を吐きながら、事件の捜査の様子を見に来た人だかりの方にふと視線を向けてみる。その時、俺はその人だかりの中のある2人組が気になり、目を留めた。片目を前髪で隠した少年と、ピンと外にはねた茶色い髪の青年の2人組だ。彼等は事件現場の様子をじぃっと見つめながら、何やらぼそぼそと語り合っている。今までの経験で培った俺の勘が、2人が事件の謎を解く為の重要人物であると告げている。彼等に話を聞こうと、俺は急いで彼等の許に駆け寄ろうとする。しかし、彼等はくるりと背を向けその場から離れ、人だかりの中に隠れてしまう。

 「おっ、おいっ!!」

 慌てて引き留めようと声を掛けたが、彼等の姿は見当たらない。人だかりの中を歩き2人を捜してみたが、もう付近には居ない様だった。

 「どうかしましたか、片瀬さん?もしかして、何か手掛かりを掴んだんですか?」

 後ろから横井が声を掛けてくる。俺は、「いや、何でもない。」とふるふると首を振り一言答えた。

 ・・・あの2人組、事件に関して何か知っている様な雰囲気だった。情報を聞き出せたかもしれないが、仕方ないか。

 2人の存在に引っ掛かりを感じながらも、俺は気を取り直して横井と捜査を再開したのだった。



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