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よろよろとふらつきながら逃げる狒々達。彼らが傷付いた身を引き摺って辿り着いたのは、とある大きな扉の前。彼らは部屋の中に入ると、隠れ場所を突き止められるのを防ぐ為の幻術をかける。
「此処なら見つけられることもあるまい・・・。」
「あ奴ら・・・ただでは済まさん。」
「我らの邪魔をしたこと、後悔させてやる。」
顔を見合わせ、晴支達への怒りを膨らませる狒々達。彼らは床の上にしゃがみ、負傷した体を休ませる。
バァンッ
誰も見つけられない筈の部屋の扉が勢い良く開き、狒々達の間に衝撃が走る。驚いた彼らはすかさず扉の方へと目を向ける。扉の前に立っていたのは和服を着た少年と少女。少年は冷たく鋭い視線を狒々達に向けながら、不敵な笑みを浮かべる。一方、少女は心の読めない無表情で静かに立っている。
「あ~あ。折角この俺が神崎紫苑を捕まえるのを手助けしてやったのに。晴支達に簡単に潜入されて、良い様にボコられちゃってさぁ。お前ら本っ当に使えねぇ。」
少年は部屋の奥のテーブルまでつかつかと進んで行き、その上にドカッと座る。少女も彼の後ろをちょこちょこと付いて行く。
「牛鬼様・・・。覚様・・・。どうやって此処を突き止めたのですか・・・。」
動揺を隠せない狒々達。彼らの額に冷や汗が伝う。
「俺に幻術の類は効かないんだよ。それに、うちの覚を舐めんなよ。何処に隠れ潜もうが、此奴には御見通しだからな。」
牛鬼はテーブルの上で立膝を突きながら、覚の頬を軽く突く。覚は無表情を崩さないままで、「ツンツンしないで。」と小さく呟く。
「無様な失態をお見せして、申し訳ありません・・・。」
狒々達は揃って深く頭を下げる。極度の緊張で震えが止まらない。
「全くだよ。あの女を襲わせたら少しは晴支の奴を追い詰められると思ったのに・・・。あの女にも、晴支達にも手傷1つ負わせられないままあっさりやられちゃってさぁ。」
真ん中に居た狒々が自分達の失態を弁明しようと口を開きかけたその瞬間―黒い刃が彼の両端に居た狒々達を目に見えない程の凄まじいスピードで切り裂く。切り刻まれた仲間の血飛沫が、狒々と目の前に居た牛鬼を紅く染める。牛鬼はテーブルの上からフワッと降り立つと、狒々の首元を掴み、自分の座っていたテーブルに向かって思いきり打ち付ける。牛鬼から発せられる強大な威圧感に、狒々は怯え、震える。
「ひぃっ。い・・・命だけは・・・どうかお許しを・・・。」
助かりたい一心で声を絞り出す狒々。そんな彼を、牛鬼は蔑み、嘲笑う。
「嫌だね。自分の無力さを嘆いて死になよ。」
狒々を掴んでいる手に込められた瘴気が凄まじい威力で爆ぜ、狒々の命を奪う。
「はぁ~あ。晴支の取り乱す顔が見たかったのに。つまんねぇな。」
首に巻いているマフラーで顔に付いている返り血を拭き取りながら、気怠気に呟く牛鬼。彼はテーブルの上に飛び乗り、欠伸をしながらぐぐぐっと伸びをする。傍らで静かに佇んでいた覚は、彼の行動を黙って見守っていたが、ふと目を閉じる。
「どうした覚?何か連絡が入ったのか?」
覚の方を振り向きながら牛鬼が問いかける。
「天逆毎様から今指示があった。」
覚は目をそっと開き、牛鬼の目を真っ直ぐ見つめて語る。
「京都に送り込んだ妖達と連絡が取れなくなっているみたい。だから、牛鬼に様子を見て来て欲しいんだって。」
「はぁ?京都って言ったらあの腹黒眼鏡が居る所じゃん。俺、行きたくねぇよ。彼奴と鉢合わせとかしたら最悪だし。」
眉を顰めて嫌悪感を顕にする牛鬼。覚はそんな彼の抗議の言葉を知らんぷりして話を続ける。
「“ぐだぐだ文句言ってないで早く行け。”って言ってる。」
淡々と語る覚の様子を見て諦めがついたのか、牛鬼はフゥッと1つ深い溜め息を吐く。
「もう、仕方ないなぁ。京都に行って様子を見て来るよ・・・。あの人は本当に妖使いが荒いんだから、ったく・・・。」
牛鬼は頬をポリポリと軽く掻きながら、つかつかと窓の所まで歩いて行く。ガララッと窓を開けると、彼は柵に上がり、そこから外の地面へと飛び降りる。
地面に降り立った牛鬼は、マフラーを靡かせながら京都へと向かい走り去る。覚も彼に続いて窓から地面に降り立つと、一度廃墟の方へと振り返り、じっと静かに見つめる。やがて彼女も廃墟に背を向け、その場からゆっくりと去って行った。




