「水など誰が汲んでも同じ」と義母に釣瓶を渡された私は、桶の底札を置いて出ます——郷の井戸が濁りましたわね
【夏の朝、札が移る】
お義母さまの指が、わたくしの手から桶の底札を抜き取りました。濡れた木の端が掌を擦り、白い筋を一本残します。朝からたいへん景気のよい取り立てですこと。
「今日からひさに任せます」
井戸端には二十軒分の桶が並んでいました。大きいもの、小さいもの、箍の緩いもの、持ち手に赤い布を巻いたもの。どの家がいつ何に使うかまで合わせれば、桶は二十どころか四十、五十と頭の中で増えてまいります。考えただけで腰が重い。桶とは実物より勘定の中で増えるものです。
ひささんは底札を受け取り、日に透かしました。木の裏に刻まれた婚家の印が、まるで自分の褒美であるかのようです。
「お義姉さま、毎朝これを見てたんですかあ? 並んだ順に汲むだけなのに」
語尾を伸ばしてから、ひささんは皆さまのお顔を見ました。笑ってよいところですよ、と差し出された語尾です。親切なこと。
「誰が汲んでも同じ」
お義母さまが言うと、井戸端の口がいっせいに開きました。二十軒で笑えば、井戸浚い一回分くらいの賑やかさになります。手は一つも増えませんけれど。
わたくしは返事をせず、列の後ろにあったおとよさんの桶を足先で引き寄せました。抱かれた子は、おとよさんの胸元で小さく口を動かしています。
「それは後よ、千代」
「朝一番でございます」
「並びを乱すなと言っているの」
お義母さまの髪には、新しい櫛が挿してありました。あの櫛一本で、井戸は二度浚えますわね。二度分を髪に挿して、浚う日は一度もお数えにならない。たいへん景気のよい頭ですこと。
わたくしは釣瓶を落としました。水を含んだ音を確かめ、底の砂を起こさぬ速さで引き上げます。おとよさんの桶へ一杯、縁から指二本ぶん下まで。
「千代さん」
「お子が待っておりますでしょう」
おとよさんは礼を言わず、桶の持ち手へ手を掛けました。そのほうが早い。礼一つぶん子を待たせるより、水を持って帰る足を十歩急いでいただくほうがよろしいのです。
ひささんが、わたくしの横から釣瓶の柄を取りました。底札はもうひささんの腰紐で揺れています。
「次からは、ちゃんと並んだ順ですからねえ」
「ええ」
わたくしはおとよさんの桶だけを先へ滑らせました。これで本日の勘定は、一桶ぶんだけ合いました。
* * *
【三日後、順が崩れる】
雨上がりの井戸端は、見事に整っておりました。桶の大きさ順。色の濃いものから薄いもの。取っ手の向きまで右へ揃っていて、まあ美しい。飲めるかどうかを除けば満点です。
おとよさんの小さな桶は、一番後ろに置かれていました。甚兵衛さんの桶は日盛りの印の下。薬を煎じる水を昼前までに要る家が、空の桶を眺めながら陽の傾くのを待つのでしょう。たいへん風流な療養ですこと。
「ひささん、おとよさんの分を先に。甚兵衛さんの分は昼前までにお願いいたします」
「でも、小さい桶を途中に入れると、並びがでこぼこになるんですう」
「子は桶の背丈を見て待ってはくれませんわ」
ひささんは困ったように笑い、また周りを見ました。二十軒のうち三軒ほどがつられて口元を緩めます。笑いにも当番があるらしい。今日はその三軒。
わたくしが甚兵衛さんの桶へ手を伸ばすと、お義母さまの手が甲を払いました。
「もうひさの役目だ」
「昨夜は雨でございました。今朝は少し待ってから汲みませんと」
「ひさが見て決めます」
「盆前の浚いの日も、そろそろ——」
「千代」
人前だけは、わたくしを名でお呼びになります。家の体面を磨く布としては、嫁の名も使い出がございますものね。家の中なら「おまえ」で一枚節約なさるのに。
ひささんは待たずに釣瓶を落としました。縄が濡れた石へ擦れ、井戸の底から鈍い音が返ります。汲み上げた水の底には、細かな砂がうっすら舞っていました。
「ほらあ、普通のお水です」
「ええ。明るいところで底をご覧にならなければ」
お義母さまがわたくしを睨みましたので、そこで口を閉じました。口は閉じても、甚兵衛さんの薬は煎じ上がりません。なんと不便な仕組みでしょう。嫁の口を塞げば薬罐まで黙るとは、初耳でございます。
昼前、わたくしは裏手の小さな桶へ水を取り分けました。井戸端から持ち出せば目立ちますので、洗い物の残りに見えるよう布を掛けます。二十年も嫁をしておりますと、役に立つことまで隠す腕が育つ。嬉しくはございませんが、腕は腕です。
甚兵衛さんの家へ着くころには、肩がじんじんしておりました。一桶は櫛半分。二往復で櫛一本。お義母さまの頭を思い浮かべれば、まだ歩けます。
「遅くなりました」
甚兵衛さんは空の薬罐を持ったまま、わたくしと桶を見比べました。
「今朝は来ねえのかと思った」
「少々、並びが美しかったものですから」
「水は?」
「こちらに」
理由は置いて、桶だけ置きました。その日の失敗は、また婚家の顔へ出ませんでした。わたくしの肩にだけ、丸い痣になって残りました。
* * *
【七日後、空桶が出る】
甚兵衛さんの桶は、底までからりと乾いていました。井戸端の隅、日差しの中で、まるで自分には何も入る予定がなかったような顔をしております。桶まで婚家に気を遣わなくてよろしいのに。
わたくしは水を満たし、その足で甚兵衛さんの家へ運びました。帰り道、おとよさんの家の前で腕を休めると、戸口から声が飛んできます。
「また運んだのか」
「散歩でございます」
「水持って?」
「重しがあったほうが、足腰に効きますでしょう」
おとよさんは子を抱いたまま出てきて、わたくしの肩の跡を見ました。言葉は増やさず、空いた手で桶の反対側を持ちます。二人で持てば櫛四分の一。人の手とは、たいへん割のよい値引きです。
「前にも同じ順だった」
「何がでございましょう」
「雨のあと。甚兵衛さんの桶が空で、うちのが後ろだった」
わたくしは歩幅を一つ小さくしました。おとよさんは、それ以上こちらを見ません。
「その前は、うちが先だった。甚兵衛さんのは、その次」
「よく覚えておいでですのね」
「子が飲むから」
それだけでした。わたくしが誰の桶をいつ動かしたか、おとよさんは礼ではなく順で覚えていたのです。礼なら一度で消えますが、順は次の朝にも残ります。困りました。こういうものは肩より重い。
「千代さんが運んじまうと、あの家は間違ってねえことになる」
「水がなければ、甚兵衛さんが困りますわ」
「今はな」
短い。おとよさんの言葉はいつも水桶の底まで届きます。わたくしの言葉は縁に飾りをつけて、よくこぼれる。少々、器の差がありすぎませんこと。
井戸端へ戻ると、ひささんが腰紐につけた底札を石の上へ広げていました。わたくしが雨後の印へ指を伸ばすより先に、その手が手首を押し返します。
「お義姉さま、触らないでくださいよお。今はわたしの役目なんですから」
「でしたら、甚兵衛さんの桶をお忘れなく」
「また勝手に運んだんですか? そういう余計なお世話をするから、みんなお義姉さまじゃなきゃ駄目みたいに思うんですよお」
ひささんが笑いを待つと、今度は五軒ぶんの口が応じました。三軒から五軒。増えましたわね。盆前まで続ければ、二十軒そろって立派な合唱になります。
お義母さまは止めませんでした。むしろひささんの腰紐にある底札を直し、よく見える向きへ返しました。
わたくしは濡れた手を前掛けで拭きました。これまでなら、次に足りなくなる桶を数えたところです。けれど、その日は数えませんでした。
井戸端の石だけが、夕方の光を白く返しておりました。
* * *
【その夜、役目を置く】
夕餉のあと、わたくしは井戸端へ戻りました。昼の熱を残した石の上に、ひささんの腰から外された底札があります。明朝また使うつもりで、無造作に置かれていました。
拾えば、いつもの重さでした。指二本で足りる薄い木です。これを何桶ぶんと見ればよいのか、わたくしの目は答えを出しませんでした。
お義母さまとひささんが、遅れて井戸端へ出てきました。ひささんは新しい手拭いを肩に掛け、明日も任せてくださいと言いたげに釣瓶の柄へ触れています。
「何をしているの、千代」
「お返ししようと思いまして」
「ひさに渡したでしょう」
「ええ。ですから、もうわたくしが持つものではございません」
底札を石の中央へ置きました。隠しません。割りません。裏返しもしません。婚家の印を上にしたまま、指だけを離します。
「どなたの手でも変わらぬのでしたら、わたくしの札はもう要りませんわね」
ひささんの頬が緩みました。お義母さまは底札ではなく、わたくしの顔を見ています。引き留める言葉を待ったわけではございません。ただ、二十年の癖で、次に出る言葉を待ってしまいました。
「わたくしはこの一枚を、二十年、わたくしの役目だと思うて掛けておりました」
声は、井戸の中へも落ちませんでした。石の上に置いた一枚へ届けば、それで足ります。
お義母さまは口元を固くしました。
「大げさなことを。水番を外れたくらいで」
「左様でございますね」
「家のことは、明日になれば気が済むでしょう」
明日の話をなさる顔でした。その明日に、わたくしがいると決めた顔でもありました。二十年あれば、人は日の出より嫁を確かなものと思うようです。
ひささんが釣瓶の柄を握りました。
「じゃあ、明日からは口も手も出さないでくださいねえ」
「承知いたしました」
お義母さまは底札を拾い、ひささんへ渡しました。わたくしへは何も渡しません。引き留めもしませんでした。
それで、ようやく足が動きました。
門を出るまで二十七歩。履物の底へ砂が入り、一度だけ止まりましたが、振り返ってはおりません。二十七歩なら、井戸からおとよさんの桶を置く場所までより短い。たったそれだけで、婚家はわたくしを呼びつけられる家ではなくなりました。
胸の内側に残ったものを桶へ換算できれば、きっと楽だったでしょう。けれど今夜は、一つも数えられません。
数えられないまま、わたくしは二十八歩目を踏みました。
* * *
【十日後、講元が聞く】
冷たい水に浮かべた瓜は、実に公平でした。水番を降りた女にも甘い。婚家の格も、嫁いで何年かも訊かず、噛めばしゃりりと音を立てます。見習うべき人格、いえ、瓜格でございます。
講の女衆が車座になり、その真ん中でお仙さんが瓜を切っていました。わたくしの前には薄い一切れ、おとよさんの前には厚い一切れ。子を抱いているぶんだそうです。なるほど、働きではなく要り目で分ける。わたくし好みの勘定です。
「話せ」
お仙さんが言うと、おとよさんは頷きました。
「うちの水は朝一番だった」
「なぜだ」
「子が飲む。遅いと、ぬるくなる」
「ほかは」
「甚兵衛さんの桶が空だった。千代さんが運んだ。雨のあとは待たせてた。今は待たねえ」
一つずつ。飾りなし。わたくしが二十年かけて積んだものを、おとよさんは三息で並べました。わたくしなら前置きだけで瓜が温まります。完敗ですわ。
「ひささんも、慣れれば——」
わたくしが口を挟むと、お仙さんは瓜を切る手を止めませんでした。
「今はおとよに訊いている」
「失礼いたしました」
おとよさんが、わたくしの皿へ自分の瓜を半分載せました。口を塞ぐには大きすぎる一切れです。ありがたく塞がれておきます。
「千代さんが足りねえ分を運んでた。だから、みんな分からなかった」
瓜を噛んだままでは反論できません。おとよさん、さてはそこまでお考えになって厚切りを寄越しましたね。策士。短い言葉しか使わない方ほど、瓜の使い方が汚いのです。
お仙さんは最後まで聞き、包丁を布で拭いました。
「昔、わしも手を払われたことがある」
それ以上は何も語りませんでした。こちらの言葉を急かさず、わたくしの皿の瓜がなくなるまで待ちます。
「千代」
「はい」
「お律の家へ戻れとは言わん。おまえ自身の名で、水番を続ける気はあるか」
婚家へ戻る話なら、手は膝の上から動かなかったでしょう。けれどその問いには、指が勝手に皿を置きました。
「わたくしの名で、でございますか」
「そうだ」
「誰かの嫁としてではなく」
「千代としてだ」
桶が五つ。朝一番が三軒。昼前が二軒。頭の中で、止まっていた勘定が音を立てて戻ってきます。しかも今日は瓜を冷やす桶が一つ余る。なんと豊かな話でしょう。
「ございます」
お仙さんは一度だけ頷きました。
「なら、郷で決める」
「わたくしから、お義母さまへは」
「何も言うな」
低い声でした。責める言葉を持って行けとも、失敗を直せともおっしゃいません。
おとよさんが、空になった皿を見ました。
「もう一切れ食うか」
「いただきます」
「返事、早えな」
水番の返事より早かったことは、内密にお願いいたします。
* * *
【翌月、井戸が濁る】
釣瓶から落ちた水は、白い桶の底を見せませんでした。薄茶色の筋が渦を巻き、ひささんの指先へ砂が貼りついています。二杯目も、三杯目も同じでした。
盆前の浚いは飛ばされていました。そのうえ昨夜の雨が井戸へ落ち着く間もなく、朝一番から釣瓶を入れたのです。並びは相変わらず美しい。大きい桶から小さい桶へ、見事な列。濁りまで順番よく配られております。
お仙さんに呼ばれたわたくしは、輪の外に立っていました。手は出しません。口も出しません。ひささんとの約束は守らなくては。嫁は外れましたが、生真面目はまだ外れておりませんので。
「もう一度汲めば澄みますう」
ひささんが釣瓶を落としました。縄を急いで引いたため、底でまた砂が起きます。上がった水は、先ほどより濃くなっていました。
——汲み手が替わっただけではないか——
お義母さまのお顔には、そう書いてありました。けれど二十軒の顔はひささんから離れ、かつてわたくしが立っていた井戸端の石へ向き、それから輪の外のわたくしへ移りました。
おとよさんは子を抱き、濁った水を見下ろしました。子の口元へ当てかけた布を、そのまま下ろします。
「あの人の順じゃねえと、うちの子は水が飲めん」
甚兵衛さんの桶も空でした。昼前になっても主は寄合へ来ず、戸口には煎じられていない薬罐が置かれていたそうです。今度は、誰の肩にも隠されませんでした。
「千代、何とかしなさい」
お義母さまの声が飛んできました。命令形はまだよく響きます。離れた嫁まで届くのですから、釣瓶縄より長持ちでございます。
わたくしは答えませんでした。お仙さんが一歩前へ出ます。
「ひさ、手を離せ」
「でも、まだ何杯か汲めば——」
「離せ」
ひささんの指が釣瓶の柄から外れました。濡れた縄だけが石へ垂れ、誰にも握られずに揺れます。
お義母さまが顎を上げました。
「うちは代々、この郷で——」
「水を守れぬ家に、水番は任せられん」
お仙さんはそこで切りました。家格の続きは、濁った桶へも浮かびません。
「今日限り、お律の家を水番から外す。井戸を浚うまでは、講で水を分ける」
二十軒の者が、黙って桶を引きました。ひささんの前から列が消えていきます。先ほどまで整っていた並びが、一本ずつほどけました。
「千代に始末をさせるおつもりですか」
お義母さまが声を張りました。
「させん」
お仙さんの返事は一桶ぶんもありませんでした。短いのに、井戸端の端まで届きました。
わたくしは濁った水を見ていました。底は見えません。見えないものを、わたくしが勝手に掬い上げる必要も、もうございませんでした。
* * *
【秋、名を掛ける】
新しい底札には、「千代」と刻まれていました。婚家の印はありません。たった二文字なのに、ずいぶん広い木札です。
郷の者と本家筋の者が、井戸端で揃って頭を下げました。二十軒の頭は、笑うときより静かに動きます。あの朝に覚えておきたかった光景ですが、先払いを望むのは商い下手。二十年越しでも、受け取れる日に受け取るのがよろしいのでしょう。
「頼む、千代さん」
初めにそう呼んだのは、桶の大きな家の者でした。続いて別の者が、明朝の順を尋ねます。
「千代さん、うちは昼前でよいか」
「ええ。朝一番は三軒、その次に甚兵衛さんです。そちらは昼前で間に合いますわ」
婚家の嫁ではなく、千代さん。呼ばれるたび、頭の中の桶が一つずつ正しい場所へ収まっていきます。名とは便利な札ですこと。腰につけても重くないのに、人の立つ場所まで変えます。
石の上に置かれた底札へ、わたくしは迷わず手を伸ばしました。紐を通し、井戸端の柱へ掛けます。風に揺れた二文字が、表を向きました。
「おとよさんの桶を、こちらへ」
「一番か」
「もちろんでございます」
おとよさんの桶が、わたくしの手の下を滑って朝一番の場所へ収まりました。甚兵衛さんの桶はその次。雨の翌日は待つ刻を長くし、盆前の浚いの日も皆さまへ告げてあります。これで瓜を冷やす桶も一つ残る。秋の瓜がまだあれば、ですが。なければ芋でも冷やしてみましょうか。美味しいかどうかは水番の責任外でございます。
井戸を離れようとしたとき、門の前にお義母さまが立っていました。髪の櫛は以前と同じですが、声は二十軒へ聞かせる高さではありません。
「千代。少し、話があるの」
わたくしは底札の紐を結び直していました。指は止めません。
「家へ戻りなさい。水番のことも、またおまえが見ればよいでしょう」
「ひささんがおいでですわ」
「あの子には、まだ荷が重いのよ。おまえなら慣れているでしょう」
戻れば、朝一番を三軒。昼前を二軒。婚家の洗い物まで加えて、夕方には櫛二本ぶん。勘定はすぐに出ました。だからといって、手は一寸も門へ動きませんでした。
お義母さまが、さらに声を落としました。
「頼むから戻っておくれ」
わたくしは結び終えた紐から手を離し、門前のお義母さまを見ました。
「誰が汲んでも同じ」
お義母さまの唇が開きましたが、言葉は出ませんでした。
「別の方へお頼みくださいませ」
頭を下げ、井戸端へ戻りました。裁く言葉は持っておりません。門の向こうの桶を、こちらの勘定へ戻さない。それだけでございます。
おとよさんが、汲みたての水を椀へ注いで待っていました。
「飲め」
「おとよさんが先にどうぞ」
「わたしは飲んだ」
「では、お子に」
「もう飲んだ。次は千代さんだ」
椀を押しつけられました。朝一番の水を自分の分にするなど、二十年の勘定にございません。おとよさんは、ときどき難題を仰いますのね。
両手で受け取り、一口飲みました。冷たさが舌から喉へ落ち、胸の奥までまっすぐ通ります。誰の家の残りでも、運んだ礼でもない、わたくしの一杯でした。
さて、明朝は三軒、昼前に二軒。瓜を冷やす桶が一つ。
一杯ぶん軽くなった椀を持ったまま、わたくしは自分の名で、次の順を数え始めました。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
「悪くなかったな」と思われたら、★や感想を残していってもらえると、とても励みになります。
作者ページには他の短編も並んでいます。よろしければどうぞ。




