作戦会議と少年の心の傷
「……で、こいつを俺達はどうすればいいんだ?」
助けを求められたものの、一体何をしろというのか。
「フィアのことを狙ってる王女がまだ近くにいるです。騎士がいなければ戦えません。代わりにお前が相手をしろです」
はっきり言ってこいつのために戦う理由が何一つない。しかしリヴの手前、そういうわけにもいかないか。
「どんな相手だったの?」
「ランバー国の王女です。騎士は1人だったんですけど……」
フィアは言葉を一旦止める。行われた戦いを思い出しているのだろうか。
「なんか体が軟らかくて気持ち悪いやつなんです、そしてフィアの呪文が効かねーんですよ!」
軟らかくて気持ち悪い……? 気持ち悪いと言っては失礼だが、体操か雑技団でもやっている人か?
「呪文が効かないって、お前はどんな呪文を使うんだ?」
「なんでお前に言う必要があるですか!」
フィアはぷいっと顔を逸らす。だがすぐにリヴが間に入った。
「フィア、言ってくれないと協力できないよ」
「うーん、リヴが言うなら仕方ないですぅ。フィアの呪文は、雷を放つです!」
雷。それが本当なら強力な呪文のように聞こえるが。
「雷ねぇ、ただの電気マッサージじゃないのか?」
「そんなことないです!フィアの呪文はめちゃくちゃ強いんです!」
彼女はムキになって答える。
蓮は呪文が効かなかったという点で、一つ思い浮かべることがあった。
「その騎士は、盾を使っていなかったか?」
「盾?そんなもん持って無かったですぅ」
違うか。それなら呪文が効かない理由にも説明がつくと思ったが。
それにしても、やはり盾を持っていないのが普通らしい。では、あの時の男は何故そんなものを持っていたのか。答えは出ない。
「騎士のいないフィアはか弱き乙女同然……向こうはしつこくフィアを狙い続けてるです!」
こいつがか弱いかはともかく、確かに騎士がいない王女は脆い。そんな美味しい相手がいるとわかっていれば、わざわざ逃す理由もない、か。
「蓮さん、どうしましょう?」
「んあっ!?リヴ、フィアを見捨てるつもりですか!?」
「そう言うわけじゃないけど……」
そう言ってリヴは俺の方をちらりと見た。
リヴとしては、もちろん助けてやりたいのだろう。だが俺を巻き込む以上、独断で判断するつもりもないようだ。
「……こいつを助けてやりたいとは微塵も思わないんだけどよ」
「何ですってぇ!?」
荒ぶるフィアを無視して俺は言葉を続ける。
「相手の騎士は一人。これはまだ相手をしやすい。これから先俺達は色んな戦いに巻き込まれるだろう。数が少ないとわかってる相手と戦うのは、今後のためにもいい経験になる」
相手がどれほどの強さを誇るかはわからないが、数としては最低単位。そんな相手を避けていては、この先勝ち残って行くことなど不可能だろう。
「なら、明日から3人で固まって相手が来るのを待ちますか?」
「いや、こいつが狙われるのは一人だとわかっているからだろう?だったら俺達は離れたところで見ていた方がいい」
「えー、一人なんて心細いですぅ」
誰よりも図太そうなお前が言うか。
「フィア、襲われたらちゃんと助けるからさ」
「ぶー、仕方ないですねぇ……」
やや不満そうにしながらも、リヴの言葉で何とか納得したようだ。
明日からの方針は決まった。こいつを一人で泳がせ、敵が来たら俺達も参加する。
相手は雷が効かない相手。そして不気味な軟らかさを持つという。
貴重な前情報のはずだが、俺はそれによる有効な手立てを思いつくことはできなかった。
* * *
今日も蓮が先に入浴を済ませ、今はリヴとフィアが二人で入浴している。生意気で口の減らない小娘だが、それでもリヴは嬉しそうだ。
自分達とは違う世界で、数少ない気を許せる相手。そんなリヴを見ていると、こっちも温かい気持ちになるのだ。
(まあ、あいつとは仲良くやれる気はしないけど)
二人が脱衣所から出てくる。フィアの方は、ツインテールをほどき長い髪を下ろしているので、随分と雰囲気が違う。結んでいる時と比べ、いくらか大人びて見えた。
「湯上がりの美少女二人に囲まれるなんて、お前は果報者ですぅ」
まあ、内面は全く変わっていないが。
「両親の寝室が空いている。そこを使っていい」
「ふーん、両親がいないなんて……お前捨てられたですか?」
その瞬間、俺の両目は見開かれ、フィアを力強く睨みつけていた。
「……っ!」
それを見て、フィアがまるで小動物のように身をすくめる。さっきまでの太々しさはかけらも無い。
「フィア!謝るんだ!」
リヴもいつになく真剣な表情で嗜める。
「ご、ごめんですぅ。今のは、悪かったですぅ……」
フィアの目が潤み、震える声で謝罪する。
蓮はしばらく無言だったが、やがて視線を外すと、低く息を吐いた。
「……もういい。気にしてない」
そう言って、彼は自分の部屋へと篭った。
居間には、気まずそうなリヴと小さくなったままのフィアが取り残された。
(何やってんだ俺は……あんなの、気にしてるって言ってるようなもんじゃねーか)
ベッドの上で、自己嫌悪に陥る。
弱みなんて、見せたくなかった。しかもあんな小娘に。
もう家族のことなんて気にしていないつもりだった。それでもあの瞬間、感情を抑えきれなかったのだ。
(無心だ、無心になれ……)
明日も戦闘かもしれないのだ。寝不足なんて許されない。
それでも、蓮が寝付くことができたのはいつもより1時間近く遅くだった。




