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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
幕間
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74/74

74話 秘密



Societyが揃い、早二ヶ月が経とうとしていた。

「とりあえずね〜鼻濁音から意識していきましょうか!」

「びだくおん?」

ぽかんと口を開ける豹一の前で、ルミは自らの顔の横で人差し指を天へ立てる。

「ん〜って鼻に響くように…」

何度かのハミングの後、立てた人差しを床へ向ける。

「今度は喉を開いて響かせる…意識が難しければ鼻を摘みます!」

「摘む…」

ルミの言葉に、豹一は控えめな小鼻を摘み上げた。

「素直〜」

陽登のからかいを無視し、ルミは豹一の目の前に立った。


「がぎぐげご!って言ってみてください!」

「がぎぐげご?」

「あっ!言えた!それじゃだめです!できてない!」

高雅はパタパタと両腕を動かすルミを覗き込み、首を傾げた。

「…鼻に息が抜けていない。ということですよね?本来鼻を塞げば発音自体難しくなります」

「そんな感じ!!」

無邪気に手を打つルミの横で、高雅は黙って頷いた。

高雅がこの枠に収まってから猪介は稽古場へ現れていない。

「でもこれって〜どう変わるんですか〜?聞き取りやすくなる??」

「なんていうか…滑らか?あと!鼻腔で響かせるのに慣れると高音も出しやすくなります!!」


ルミの指示に従い、各々が発声に取り組む。

ここ数日はCurtain Riseとしての感覚を飲み込ませ、専門のトレーナーに引き継ぐやり方を採用していた。

「…みんな結構いい感じですね」

「あざっす」

「そろそろルミ嬢から卒業できますか〜?」

「したいですか??でも…確かに、演劇面は悩んでるんですよね」

「演劇面…ですか?」

高雅が頬にかかる髪を耳へかけると、ルミはいつになく深刻に俯く。


「……Toy Boxは、みんな『見せる』ことのプロだったから…Societyは別角度から攻めたいなぁ…」

「別角度ってなんです〜?」

「彼らはエンタメ…ダイナミックな身体表現と柔軟なエチュードが売りです。だから…」

言葉に詰まったルミを取り囲み、三人は静かに視線を向けていた。


「だから、Societyは古典演劇を踏襲したほうがいいのかもしれない…?」

深刻な表情が打って変わってあっけらかんと呟くルミに、豹一は眉を顰めた。

「なんすか?それ」

「理解はできます。二番煎じになる恐れがあるためですね。」

「そうそう…だから…はーー…よよちゃ…プロデューサーに相談してからだけど、皆さんおでかけしてもらうかもです!」

「おでかけ〜?」

陽登の間延びした言葉を遮るようにルミは手を打ち、三人へ向き直る。


「最終手段だから、絶対、秘密ですよ??」


いつものように和やかな笑み。

それでも三人にとってのそれは、確かな緊張感を孕んでいた。






平井に呼び出された猪介は、ひたすら彼女の言葉を待っていた。

彼女は机や猪介、はたまた天井や壁を見やり、頻繁に呻き声を上げている。


「いや、なんすか」

「谷口氏ぃ…そのぉ、その、落ち着いて聞いてください」

「はい」

「お、お願いが…二つ…」

「はい」

平井は腹を抑え、何度も何度も深く息を吸い込んだ。


「まず…Societyの三人を、千古座へ連れて行ってください」

「千古座?いいんすか?」

「はい…その…はい」

「承りました。んで、もう一つは?」

「も…ひと、つ、が」

荒い呼吸音を聞きながら、猪介は呆れたように平井へ歩み寄る。

「なんすか?体調悪いんなら後で…」

「いや、その」

背中を摩られながら、平井は湿った目元を押さえつけた。


「ぜっ、絶対に……他言…無用で」

「はあ」

「千古座に、います…」

「はい」

「ルミたその兄が」

猪介は淡々と、頭を抱える平井を見下ろす。

「…了解っす、なんか変なやつなんすか?」

「天才です」

「ああ、毒になるとか清水さんも言ってましたね。気をつけます」

「父親似の」

「はあ?」

松田莉都まつだりと。松田龍の息子です…」

猪介は口元を抑え、しばらく虚空を眺めていた。


「そいつがルミさんの兄貴すか?」

「はい。ルミたそ…本名を松田瑠美まつだるみと言います。これが…絶対に伏せて欲しい情報です」

「…わかりました」

魂が抜けたかのようにぼんやりとする平井を眺め、猪介は腰へ手を当てる。

「…Societyにも伏せるんすよね?」

「い、いえ。そこは本人から共有済みです」

「じゃあどこに伏せりゃいいんすか?」

「外部です。世間的にはCurtain Riseのルミと俳優松田龍は無関係でありたい…ルミたその希望です」

「…そすか」

資料室には無機質な蛍光灯の光が煌々と照っている。

いまだに呼吸の整わない平井の青白い顔を、猪介は訝しげに眺めていた。


「今、父親の方はいないんすよね?千古座には」

「そうですね…近頃は出入りしていないはずです」

「なら兄貴の方っすね、曲者すか?Societyメンバーのメンタルがどうとかなら…」

「多分、大丈夫…かと」

「はあ?」

予想外の返答に、猪介は肩を落とした。

「彼…莉都は千古座から出禁食らってるので」

「は?いないんすか?」

「逆出禁ですね…公演以外の露出を控えています」

「……じゃあ何が問題なんすか」

「全て…正直、なんでルミたそが今更千古座を出すのか…いや、Societyは古典演劇はわかりますけどね。その発想は大いにアリ」

「はあ??」

「ですので、千古座では硬い演劇の基礎を教えてもらえるように手配しますよ!」

いつもの調子に戻りつつある平井は、パッと目を見開き猪介に向き合った。


「…そすか」

「谷口氏、いつも通りのスケジュール調整をお願いします!!Toy Boxとの掛け持ちで大変でしょうが」

「別に、それが仕事なんで」

「改訂したコンセプト案も近日送付します!よろしくお願いしますねっ!」

血色の整った平井を見て、猪介は深く息を吐く。


「千古座に行け、家族関係を隠せ、スケジュール調整、コンセプト案共有…四つすね」

「え?ああ…!?そんな厳密に!?」

「冗談っすよ」

猪介が嘲笑にも見える笑みを浮かべると、平井は肩をすくめ深く息を吐き出した。


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