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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
第二幕
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62/75

62話 準備



「次マネージャー候補かぁ?」

木村が頭を掻くと、藤井は頷いた。

「マネージャーまで決まったら三人目も決めないといけませんね」

「どーすんだよ〜無理だろ三人目」

山本は足を放り出す。

猪介は動いた机を整えつつ、立ち上がると一礼した。


「じゃあ俺は一旦抜けるんで」

「は?マジ?」

「城さんの配信、もう待機画面入ってるんで」

清水は苦笑いで裾を掴み引いたが、猪介は再度一礼する。

「ねぇ、本気?谷口くんの後輩だよ?」

「Toy Boxのマネージャーです」

清水が困ったように山本へ視線を向けると、山本は呆れたように手を振った。

「はいはい、わかりました〜」

「お前今日先輩コキ使いすぎだからな!?」

木村が机を叩くと、猪介はわざとらしく深々と腰を折った。

「本当、ありがとうございます」

山本は拗ねたように口を尖らせ、背を伸ばした。

「はぁ〜お前もう三人目も連れてこいよ」

「一応三人連れてきてんすけど」

「まぁ、一応ノルマ三人だからね〜」

町田は猪介の背中を押し、へらへらと微笑む。

猪介は一瞥もせずにドアへ歩みを進めた。

「後はお願いします」


猪介を見送ると、藤井は静かにスーツの襟を整える。

「業務指示は的確に。マニュアルの基礎でしたね」

「そうだね…谷口くんには特に、だ。」

「この経歴ならマネージャーだよなぁ」

木村は履歴書を片手に机へ身を預けていた。

藤井が静かに部屋を出て、外から一人の青年を招き入れる。


線が細く、顔つきは知的な印象だ。

「失礼します!」

一礼すると、はきはきと声を飛ばす。

町田はほぉと感心し「どうぞ」と一言返した。


「山羊足豹一です!本日はよろしくお願いします!!」

審査陣が一礼を返すと、豹一は真っ直ぐに彼らを見据え姿勢を正す。

切れ長の目元に長いまつ毛が、さらにその印象を深めている。薄い唇をキュッと結び、正しく候補者といった緊張感だ。


「山羊足さん、谷口くんの後輩なんだよね?」

「はい!先輩には高校一年間、大変お世話になりました!!」

町田が笑みを溢すと、藤井が履歴書を持ち上げる。

「繁忙店で三店…相当評価されていると見えます。しかし、マネジメントとなると完全に別業種になりますが…不安はありませんか」

「不安はあります!ご指摘の通り、全くの未経験。しかし、今までの経験も活かせると感じています!」

藤井が頷くと、豹一は自信ありげに微笑んだ。

「前職では対応力を試される局面が多くありました。お客様の中には酩酊しスタッフへ強い言葉遣いをされる方もおられます。その中で若いスタッフをどう定着させ、お客様に再度足を運んでいただくか…言葉遣いやマニュアルから逸脱しない程度のサービス提供、全てを一人で対応しておりました。」

「…面接らしくなってきたね」

清水が小声で呟くと、山本は小さく手を挙げた。


「給与面で考えても、弊社への転職はいささかリスキーと言いますか…疑問が残ります、なぜうちへ?」

「まず大きな理由としては拘束時間です。店舗の責任者となると、やはり休日でもトラブル対応など呼び出しが多くあります。シフト制ですので穴があれば社員である自分が率先して埋める必要もあります。」

山本が相槌を打つと、豹一は笑顔のまま続ける。


「当然、御社ではそれがゼロになると考えているわけではありません。しかし勤務体制などの書類を拝読させていただき、緩和されると考えました。」

「確かに弊社ではフレックス制を導入しており、プライベートのゆとりが持てるように配慮しておりますが…他には?」

山本が試すように眉を上げると、豹一はニッっと口角を釣り上げた。


「何より、信頼の置ける先輩がいることです。全くの別業種となると尻込みしてしまいますが、顔を知った人物がいることで足を踏み出せました!」

「……そうですか、まぁ本人いないんですけど」

「おそらく事情があったのかと考えています。個人間の事情より業務を優先する、その姿勢は社会人として尊敬できます。さらに、推薦者のいない状況でもこのような場を設けていただけたことを感謝しています」

藤井が慎重に履歴書を置くと、木村もそれに続いた。


町田は感嘆の息を吐き、静かに腕を組む。

「谷口の方から説明があったかと思いますが…一応新規ユニットの候補としての選考としても来ていただいているのですが」

「はい!存じております!」

どこか誇らしげな態度に、町田はもごもごと口を閉じた。


「その点は不誠実であったと感じています。申し訳ございません。受け入れ態勢の都合上、マネジメント部門での募集を弊社では行えておらず。そのような状態にも関わらず、ここまで準備していただき、お越しいただけたこと、弊社としても感謝申し上げます。ありがとうございます」

藤井が深々と腰を折り、豹一は「恐縮です」と返す。

その様子を木村が嬉しそうに眺め、勢いよく手を挙げる。


「はい!山羊足さん、単刀直入に聞きます。あなたはマネジメントとタレント、どちらをご希望ですか?」

「希望なんて滅相もない!御社の申し付け通りに、誠意を持って尽力いたします!!」

曇りない返答に木村は困ったように固まった。

豹一は目を爛々と輝かせ、小さく微笑む。

「いい子だねぇ…」

この爽やかで闊達な青年を目の前に、審査陣は自然と緊張を失っている。

清水が呆然と呟くのを見た藤井は、小さく姿勢を正した。


「社長、実技は?」

藤井が町田へ耳打ちすると、町田は大袈裟に首を垂れる。

「いやぁ〜…どうだろ」

「見たいですよ…!準備してくれてるんだろうし!」

清水が小声で町田へ迫ると、彼は苦しげにネクタイを緩めた。

「そうだよねぇ…本人も別段希望がないとなると」

「それ怖いっすけどね」

山本の冷たい一言に、町田は静かに顔を上げた。


「…じゃあ、実技見せてもらえますか?」

「はいっ!よろしくお願いします!」

気持ちの良い返事の後、即座に体勢を変えた。


流行りのダンスユニットの楽曲が流れ出す。

ダンスが始まると、清水はこれかぁと笑みを浮かべた。


「優等生っすね」

山本が背もたれに身を預けると、ギッと鈍い音が響く。

振りのどれもが過不足なくこなされ、準備の抜かりなさが如実に現れていた。

豹一は緩い笑みを浮かべたまま、ただ事務的に進めている。それは不自然なほどに。

「……」

藤井は厳しく目を細め、それを見守る。

流行りもの故に見覚えのあるダンスのはずだが、どこか違和感を覚えていた。


「……ありがとうございました!!!」

息を整えつつ豹一が大袈裟にお辞儀すると、町田は笑顔で手を打った。

「ありがとうございます、いやぁここまで用意してきてもらえるとは…」

豹一がはにかむと、その背後で扉が開いた。

それと同時に藤井が納得したように肩を落とし、豹一を見つめる。


「山羊足さん、あの振り…公式のものではないですね?」

「え、あっ、はい!!やはり自分はこういったことは不慣れなので…なるべく見栄えを整えるため、省略改変させていただきました!」

背後から低いため息が聞こえると、豹一は静かに振り返る。


扉の前では猪介が呆れたように佇んでいた。

「……」

「先輩!お疲れ様です!!」

豹一はペコペコと頭を下げるが、猪介はそれを通りすぎ審査席へ着いた。


「配信は?」

「良磨さんがいたんで…大丈夫そうでした」

覗き込む清水に淡々と返す猪介を、山本は冷たく睨みつけた。

「谷口、お前の後輩だぞ。なんかねぇの?」

「なんか…なんかっすか?」

猪介が考え込むような姿勢をとると、豹一は明らかに身を縮め、それでも輝いた視線を向けた。


「…実技どうだったんですか」

「省略されていたとはいえ、確かに見応えあるものに仕上げられていました。ダンスの経験があるんですか?」

藤井が問いかけると、豹一はブンブンと首を横に振る。

「ないです!!今回のために用意しました!!!」

「そうですか」

眉を顰め黙り込んだ藤井を、町田は心配そうに覗き込んでいた。



沈黙の中。

猪介は口元に手を当て考え、やがて静かに手を下ろす。

「山羊足さん、その省略したってのは…元の振りを試した結果、できなかったから。ですか?」

平坦な物言いに、豹一は体を強張らせた。

「い、いえっ!その!録画して見たらなんかこう…バタバタしてて!」

「何回試したんですか?」

「えぇ!?いっ、一回です!」


猪介と豹一のやり取りに、清水は首を傾げた。

「谷口くん、どうしたの?」

「……いや…元の振りでもできるんじゃないかと」

「えぇ!そんな!先輩!!」

狼狽える豹一に、猪介は依然として冷たい視線を向け続ける。


「いや…まぁいいか…」

猪介の乾いた呟きに、山本ははぁ?とあからさまに肩を落とした。

「で、できないっすよ…」

豹一が小さく声を震わせると、町田は手を左右に振った。

「大丈夫大丈夫!充分でしたよ!谷口くんも意地悪なんだからぁ〜!」

「そうそう!振り付け組み直せるのはむしろすごいよ!?しかも未経験!!」

清水が同調し、猪介は「そすか」と興味がなさそうに顔を伏せた。


豹一が居心地が悪そうに視線を左右に揺らしていると、藤井が呟く。

「……元の振り、やっていただけますか?」

突然の発言に、清水らだけでなく猪介も驚いて彼女へ視線を向けた。

「山羊足さんがどちらの採用でもと仰るのなら、そのままの技術力を見せていただきたいです」

「えぇ…?…まぁ…はい、わかりました」


豹一が渋々といった態度ながら準備を終えると、清水はあんぐりと口を開けた。

「…やっぱり、準備してきていましたね。」

藤井は静かに町田の耳元で囁くと、微かな笑みを浮かべていた。



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