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Curtain Rise!  作者: 風見ことは
第一幕
48/50

48話 面談



城は無表情の猪介を前に、じっと身を強張らせていた。

猪介は短く息を吐いた口元を緩やかに引き上げ、ボールペンを取り上げる。


「城さん」

「はっ、はい!」

「…説教、というわけではないので…」

「あっ!?そ、そうなんですね!?」


腑抜けた声を上げると、城は自らを落ち着かせるように胸を撫でた。

「お、俺てっきり…もっと頑張れとか…」

「皆さん精一杯を尽くしていますよ」

「わ、あ、ありがとうございます」

「…それとも、城さんは手を抜いていらっしゃる?」

「へ!?そ!そんなことないです!」

ワタワタと両手と頭を振り乱す城に、猪介は「ですよね」と短く告げた。


「城さん、Toy Boxは…少し苦しい現状にいます。今回聞きたいのは、それがあなた自身を苦しめていないか…というところです。」

「俺自身………」

城が俯くと淡い緑色の瞳が黄金色に変色した。


「率直に、城さんは現状をどう感じていますか?」

「………俺は、あんまり話すのが上手くないので……」

「はい」

「……」

ぐっと押し黙る城を、猪介は物音一つたてずに見守っていた。


「…すごく、悪い風に聞こえちゃうかもしれないんですけど…」

「大丈夫ですよ」

「……俺、そんなに有名とかにならなくていいと思って…」

「今で充分ということですか?」

「あ、いや、有名になれたらそれは嬉しいですし、目指してはいるんですけど………」

城は両手をすり合わせ、肩を丸めた。

黄金の瞳が焦茶に移り変わると、細く開けていた窓から冷たい空気が入り込んだ。


「社長が…俺をここに置いたのは、たぶん…成功して欲しいとかじゃなくて…」

「工藤社長ですか?」

「は、はい。成功が欲しいなら…モデルのままでって社長は言うはずだから…」

「…」

「だから、俺がここにいるのは…実績?のためじゃないかって…」

「実績?」

猪介が静かにボールペンを置くと、城は彼を焼けつけるように見つめた。

「Curtain Riseにいたのはルミさんだけ…そのルミさんもヴィエルジュ・プロダクションからの転籍じゃないですか?」

「はい」


「Curtain Riseで正式に結成されたのは、Toy Boxだけですよね」

「まぁ、そうですね」

「だから…社長は…それが欲しかったんじゃないかなって…」

「?」

「Curtain Riseで活動する初めてのユニット…前例?ですかね…会社って、成功も大切ですけど…そういう実績?も必要じゃないですか、俺はそれかなって…」

「……なるほど」


静かに頷いた猪介に、城は慌てながら首を振った。

「だ、だからって今のままでいいってわけじゃないけど…!羊太郎くんみたいにこう…俺は主張するタイプじゃないから…!!ちょ、ちょっと気が楽というか…そ、それもなんか良くないですけど…!」

「大丈夫ですよ、伝わってます。」

「…お、俺って…本当に話すのが下手で…」

「…私も先日言葉足らずを指摘されたばかりです」

「へ?猪介さんが?」

「はい。ですので…まぁ、仲間ですね」

「え、そ、そうですか…ね?」

猪介が平然と頷くと、城は赤面しつつ肩をすくめていた。



ものの数分で面談を終えると、猪介は城を見送った。


ほんの少し意外な回答ではあったが、よくよく考えると合点が行く考えでもあった。


(薄々感じてたが…城は仕事になると冷静だ)


猪介は特に使用することのなかった手帳を閉じ、良磨が入室してくるのを待つ。

十分程度で現れた良磨は、城と同じく緊張した面持ちであった。


「どうぞおかけください」

「は、はい」

「良磨さん、最近どうですか?」

「え!?ち、ちょっと慣れてきました」

「土地勘はつきました?」

「そ、そこは全然!まだスーパーとか最低限しかわかんないっすね!」

「なるほど…」

良磨は勘ぐりの視線を向けつつも、緊張は解けたようだった。


「Toy Boxは今、結構厳しい状況ではあるのですが…良磨さんはどう思っていますか?」

「ど、どう??や…申し訳ないです…」

「…すみません、そうではなく。悲しいだとか辛いだとか」

「そこは全然!俺、地元にいる時もこんなんですからね…!事務所的には良くないでしょうけど…正直そんなに辛いとかはないです…」

「ですよね。安心しました」

「え?」

「いえ、こちらの話です。ありがとうございました」

猪介は頭を下げるとすぐに退室を促した。

良磨は困惑しつつもそれに従い、面談は最短記録を更新し終了した。


「やっぱあいつらは大丈夫だよな…」

猪介は机を撫で、頭を抱える。

外気で冷やされた部屋の冷たさは、彼の平静を保つ一つの装置になっていた。


「入るよー?」

リズミカルなノックと共に声高に響いた呼びかけ。

返答する間もなく扉は開かれ、制服に身を包んだ羊太郎が入室する。

「ああ、どうぞ…そちらへ」

「なんで面談ー??」

「活動開始から少し経ちましたから」

「ふぅん」

羊太郎が座ると、猪介は慎重にそれに続いた。


「城と良磨はなんてー?」

「特に変わりありませんよ、引き続き頑張りたいと」

「だよね!よかったー!脱退とか僕絶対いや!!」

大袈裟に主張する羊太郎に、猪介は疑いの目を向ける。

「羊太郎さん自身はいかがですか?」

「僕??僕はね〜!超楽しいよ!!」

笑顔の羊太郎とは対照的に、猪介は顔を顰めた。


「衣装も曲も超かわいいし!僕アイドルって夢だったし〜!」

「そうですか」

「ファンのみんなも喜んでくれるしっ!?本当毎日最高って感じ!!」

「………そうですね」

猪介の弱々しい返答に、羊太郎は詰め寄るように顔を寄せた。


「確かにさ!猪介が言いたいことはわかるけど!!今はまだデビューしたばっかりだし!!みんな好きって言ってくれるよ!?」

「羊太郎さん」

「ど、動員も!下がってるわけではないし!だって僕ら超魅力的で!」

「羊太郎さん!」

「…な……なに…?」

猪介の濁った瞳がじっと羊太郎を捉えると、首筋を冷やす冷気が差し込んだ。


「……あなたのことですから、SNSは見ていますよね?」

「う、うん?見てるよ?」

「……Toy Boxがどういう評価を受けているか、それをあなたが一番見ていると思います」

「…だから?」

「私自身、あなた方が精一杯努力していることも、決して観客の反応が悪くないこともわかっています」

「…」

「でも…Toy Boxの現状は良いとは言えません」


羊太郎は子供のように口を尖らせ、それでも猪介から目を離すことはしなかった。

「だったらさ…」

「はい」

「だったら!みんなでもっと頑張ろー!とか!あんな変な人たちの言ってることなんて無視して!頑張ろって!!それでよくない!?猪介は何が言いたいの!?」

「努力が成功に繋がるわけじゃない」

冷えた室内がさらに硬く、凝り固まるように停滞する。

その中で羊太郎は一人、ガタガタと震え。

唐突に立ち上がると机を大きく叩きつけた。


「ならなに!?なんだって言うの!!?頑張っても無駄!やめろって!?僕絶対やめないから!!僕はToy Boxが好きで!アイドルになりたくて!!」

「羊太郎さん!」

「なんなの!?もしかして猪介まで城がいなければとか言うの!?僕がヒップホップやればとか!!?」

「聞いてください!!」

「うるさい!!」

羊太郎は小さく震え、首を横に振った。


「ご、ごめんね…なんでもない!忘れて!僕これからも頑張るから!」

笑顔を残し、駆け出そうとした羊太郎の腕を猪介は咄嗟に掴む。

「羊太郎さん!」

猪介の呼びかけに、羊太郎は顔を引き攣らせていた。

「なに…?離してよ…」

気まずそうに顔を伏せる羊太郎に、猪介は机が乱れるのも気にせず歩み寄った。


「辛いはずです」

「…………辛い?」

羊太郎は嘲笑なような笑みを浮かべ、猪介を睨みつける。

「好きなものを否定されて、辛くないわけがないでしょう」

「…辛くないよ!だって僕!」

「羊太郎!!」

猪介の怒鳴り声に、羊太郎は固まったままぽかんと彼を見つめる。


「お前はな、辛いだとか悲しいだとかそんなん全部無視すりゃいいって思ってんだよな?」

「え」

「好きだから大丈夫、頑張ってるから大丈夫、楽しいから大丈夫。そんなんばっかだろ」

「い、猪介?」

「別に俺はお前に、苦しんで欲しいとも悲しんで欲しいとも思ってねぇよ」

「……じゃあ…なに」

ようやく解けた羊太郎の表情に、猪介はさらに近づいた。


「お前はどう思ってる。どうでもいい偏見で周りにとやかく言われて、燻る現状を。お前はどう思ってる?頑張ってるとかじゃなく」

「僕は……大丈夫…」

「そんなん言う奴大丈夫じゃねぇんだよ」

猪介は羊太郎を乱雑に引き寄せると、言い聞かせるように続けた。


「おかしいと思うよな?嫌だって思ったろ」

「なら…なに」

「お前最初っから悔しいだけだろ?」

「悔しい…?」

「好きなものを否定されて悔しい、頑張ってるのに悔しい。それすらお前は認められないのか」

「……」

「お前はな、傷ついてる。お前が努力しただけ認められくて、悔しくて」

「…僕…本当にみんなが大好きで、ファンの子も、城も良磨も…でも…」

羊太郎は言い淀み、静かに顔を伏せた。


「努力したって成功するわけじゃない。だから悔しい」

「……うん」

「やっと認めやがったな」

猪介のため息混じりの言葉とほぼ同時に、羊太郎はぽろぽろと涙を落とした。

それを隠すように拭う彼を、猪介が荒く抱き止めるといよいよ苦しげに嗚咽が上がる。


「ファンのみんなも、大好きって…城のこと、好きになってほしいのに」

「…」

「…くやしい、悔しいよ」

「だろうな」

腕の中で小さく呟く羊太郎の背中を、猪介は雑に叩いた。

「……一番、いやだったのは…」

「ああ」

「すこし…だけ」

「…」

「…もし、他のグループだったら……て…」

「そうか」

ぶっきらぼうな返事に、羊太郎はしばらくしゃくりあげていた。

「最低だ…」

「はあ?」

「僕、最低」


猪介は羊太郎をそっと解放し、いつも通りの無表情で首を傾げる。

「頭良いだけだろ」

「…?」

「それも向上心だろ?ああしてりゃこうしてりゃってそんだけ頭回んだ。悪いことじゃねぇよ」

「でも!」

「城に言ったのか?」

「言わないよ!」

「んじゃ良いだろ」

あまりにも平然とした物言いに、羊太郎は唖然としていた。どこか納得していない様子で猪介を見つめる。


「本当……?」

「お前、マジでガキだよな」

「!?ガキってなに!僕高校生だし!そりゃガキかもだけど!!何その言い方!?」

「…」

「ひどくない!?僕真剣に悩んで!!」

必死に詰め寄る羊太郎に、猪介はそっとメガネを掛け直し、微笑んだ。


「元気になったようでなによりですね」



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