19.夜明け前の静寂を
あ、連続更新です。
「あなたが……、アルガン=エファーゴ。
呪われた死神ね」
淡々と恐怖など除者にして話を進めるヘリィ。
未だに信じられない、彼女が自分の分身で。自分自身だということが。
「オマえたちの要求はシッテいる」
「そう、なら話は早いわ。
戦争を止めて欲しいの、そうね。出来れば王宮の人間の記憶を奪って欲しい。
その方が、次元を止めるのに厄介払いできるもの」
「ただでオレがオマえ達の要求を聞くと思うか?」
妖しい笑みを浮かべる青白い男。
きっとこの男は信用出来ない。いや、きっと協力はしてくれるだろう。
ただ……、最期にはきっと――…。
死神として私たちを殺す。
「分かったわ、じゃああなたの要求は何?」
黒いフード。
その裏は赤く染められている。
それだけでも恐ろしいというのに、この男の笑みは妬けに恐怖の香りがする。
分かってるんだ。この男は死神。
今まで数々の人間を殺してきたであろう悪魔。
信じられない真実でも今なら信じられる気がした。
「フふフハハ、魂だ。オレは魂が欲しい。
人間の、憎しみに満ちたその魂がな」
まるで身体中に何かが侵入しているような気味の悪い感覚。
きっとこの死神の仕業だ。魂を……、取ろうとしている。
殺される。
「冗談は止して。
幾ら死神でも……、あなた昔人間だったのよね?
成り行きの死神は人の魂は奪えないわよ。
魔女を甘くみないでちょうだい」
ピシャリとヘリィが脅す。
ここに来て、やっと納得が着いた。
ヘリィが魔方陣を描けたのも、呪文を唱えていたのも、死神の居場所を知っていたのも。
彼女が魔女だったからだ。
彼女は……魔女になったのだ。
「ナぜ知っている」
「あら、知らなかった?魔女の間では常識。
呪われた死神、アルガンは元人間、そして王宮の門の前で処刑された大罪者」
ああ、思い出した。
彼のことはずっと前から知っていたじゃないか。
あの日、わずかな光を求めて窓を眺めていたあの日、名高い王宮の門が赤く染まった。
彼は可哀相な大罪者だ。
モロガン家に逆らうことは国に逆らう事になる。国に逆らう事は大罪だ。
彼は何もしていない。ただ……、王宮に閉じ込められる可哀相な姫を救おうとしただけだったのに。
「処刑された後、憎しみに満ちた魂はそのまま、この森へと辿りついた。
憎しみに駆られる余り、魂は腐り果てた。
それを見かねたアイツが……あなたを呪い、死神にしたのよね?」
アイツ……、それはきっとヘリィが言っていたアイツのことだ。
私の記憶を奪った、未だかつて思い出せない記憶に存在する人物。
誰なんだ、一体……誰なんだ。
「ウるさイ。オレは……もう人間じゃない。
魂に人間の要素など1ミリタリトモ残っていない。
全て……死神だ」
「だったら私たちの要求呑むかしら?」
「……オレの要求は――…。
オレの願いはあれから変わってなどいない。
アイツを殺して欲しい。
その為にオレはここまで死神としてやってこれた。
アイツを殺すという最終目的を果たすために、な」
何ということだろう。
この男は憎しみという感情だけでここまで突き進んでこれたのだ。
孤独、悲しみ。
そんな生活から男を救った感情、憎しみ。
憎しみがなければきっとこの男の魂は……あの日からずっとこの森に漂い続けていたはずだ。
「約束する。
私たちがアイツを倒すから。
だからあなたは、私たちの要求を呑んで」
「――…分かった」
奇妙な取引。
後0.1秒、この館と共に孤独な男は姿を消した。