師走 Present For You Side 圭、友希
「え、うちのお菓子をライブ会場で販売、ですか?」
「喫茶店ピエトラ、お菓子が美味しいって評判になってるんだ。まあ私が友希さんと知り合いなのも大きいけれど」
「それは構わないんですけど、その、圭には秘密にしておいてもらえないですかね」
ハルアキは何かを察したように「じゃあそうしよう」と快諾してくれた。
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旅行から帰ってからは俺はひたすらにクリスマスライブの準備で、友希はひたすらクリスマス商品の準備。PENGの既読はお互いにつかないままだ。
だけど、今はそれでいいのだと思う。大晦日に今年最後に会えて年を一緒に越せるのなら。ボイストレーニングとダンスレッスンを終えて帰路につく。街は華やかなイルミネーションに溢れているが、風のせいか肌寒い。
「圭のために、疲れてても作りやすいメニューを書いておいたよ」
冷え切った部屋に暖房を入れ、買ったばかりの土鍋を取り出した。
「今日はみそ雑炊」
土鍋に冷凍しておいたご飯を軽く解凍して入れ、玉ねぎ、鶏ささみ、みそ、大根、しいたけを入れて煮込むだけ。今日はついでに生卵も入れて煮込む。たったこれだけだけど、温まるし美味しいし、消化も良くて食べやすい。
食後には喉にいいと言われるはちみつ入りのカモミールティーを一杯。
ゆっくり湯船に使ったらいつもより早めに就寝。ひたすらその繰り返しで、あっという間にクリスマスライブ当日になった。
舞台裏で、深呼吸。大丈夫。今の俺にはオパールのピアスというお守りがある。
やるべきことは全力を出すこと。
「聴いててくれよ、友希」
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ライブ開始の少し前。
「物販開始しまーす」
「あ、はい」
友希は全員分のイメージで作ったクリスマスライブ特別仕様の「花言葉チョコ」の陳列を終えたところだった。今日のライブは抽選制だったらしく、グッズだけでもと買いにくるファンは多い。
響歌粋月のメンバーのイメージチョコは正直なところ会ったこともあるので形にするのは簡単だった。
クチバは紅葉。クランベリーソースが抹茶チョコの中に閉じ込められたもの。
ミルは菊。金箔が振りかけられたチョコの中に、朽葉と同じクランベリーソース。
アヤトはひまわり。ひまわり型のチョコにオレンジソースが閉じ込められた爽やかな味わい。
トバリは本人のめちゃくちゃ強い希望により花ではなくにわとり。ホワイトチョコのニワトリにストロベリーチョコのトサカがついている。
問題は圭だ。
圭だけは近くにいすぎてイメージがあまりにも固まらない。ラベンダーのイメージも強いけれど、ラベンダーの形のチョコレートで葡萄味はなにかが違うのだ。
散々悩んだ結果、ふとあることを思い出した。
そうだ、俺たちが最初に作ったお菓子はチーズケーキ。そしてチーズケーキにはレモン汁を入れるパターンが多い。だったら、圭のイメージは、レモン。明るくて爽やかで、夏の煌めきを連れてくる風。
レモンチーズケーキ味のレモンの形のチョコレートをレモンの花言葉も添えて、大切な君へ。
販売用とは別の甘さ控えめのものもラッピングして、控室の冷蔵庫にひとつだけ隠してある。ハルアキさんの提案してくれたサプライズだった。
順調に準備したチョコレートは売れていき、ライブも終盤。
販売中に流石にライブの様子は見れないよなあと思いながら客をさばいていると、急に目の前に映像が映った。あれ?あの場所はただの黒い壁だったはず?物販に来ていたファンたちも立ち止まり、映像に釘付けだ。
「じゃあ、この曲を俺の一番大切な人へ!」
歌が始まる。画面の中には圭がいる。思わず手が止まった。
魅せられて、食い入るように見つめる。誰のための歌なのかわかってしまった。
困難を乗り越え運命を打ち破って未来を掴む希望の歌。
「……っ」
ぽとり、と涙が落ちた。わずか数分。何事もなかったかのように黒い壁は黒い壁に戻り、ファンたちがチョコレートを買って去っていく。
「完売です」
その言葉でようやく、友希は現実に戻った。クリスマスライブも終わったのだろう。ファンたちは「やっぱり推しは最高」「トバリはニワトリ好きなのがいいんだよねー」などと満足そうに笑い、語り合いながら去っていく。
やがてファンが完全に去った頃、
「友希!」
舞台衣装のままで、圭が駆けてきた。
「圭。ライブ、すっごく……よかった。その様子だとチョコレートに気づいた?」
「ああ。ハルアキさんには感謝しかない。どうしてもこの曲は友希に聴いて欲しかったんだ。決意と、誓いの歌を」
「……レモンには色々花言葉があるけど、心からの思慕、情熱あたりかな。それに、レモンって夏のイメージもあるけど、冬に心をほっとさせてくれるのもレモン。俺は圭と一緒にいるとほっとするし、元気をもらえるんだ」
ふたりはそっと触れるだけのレモンチーズケーキ味のキスをした。
「また作ろうよ、チーズケーキ。ふたりで」
「ああ」
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暖かな部屋。除夜の鐘。年越しそばの湯気。
こたつの上にはおいしそうな蜜柑。
「今年も色々あったなあ」
「あったな。まさか俺がアイドルデビューするとは」
二十三時時五十分。年越しそばの準備ができたので、ふたりはいつものようにあつあつのそばをすする。そばではこすもすとらべぺんも少し冷ましたものを食べていた。
「来年もよろしくな友希」
「来年もよろしくね圭」
願わくばありふれた、平凡な幸せな日々が、この先もずっと続きますように。




