第二話 讐たる(あたる)(1)
僕は世界一愚かな人間だと思う。
なぜか。
心震える美少女に出会い、自宅まで来たのに、連絡先を聞かなかったのである。
アタル、人生最大の失態である。
ハナツさんに出会ってから、僕は寝ても覚めても彼女のことを考えていた。
もちろん、スマホの待受画面にしたのは言うまでもない。
断っておくが、鉄の意志によって、まだ変なことには使っていないことを明記しておく。
神に誓って。神様は信じてないけど。
どうしてもまた彼女に、ハナツさんに会いたい。
どうすれば、彼女にまた会えるのだろう?
契約書にサインしてしまったから、誰にも話すことができない。
そもそも、僕には友人がいない。
大学時代までは、それなりに友人がいて、一緒につるんで遊んではいた。
楽しかったし、懐かしい思い出だ。
ただ、社会人になってから、一気に友人たちとは疎遠になっていく。
それぞれが、会社などに入って、そこで新しい人間関係を作り、そちらのコミュニティが優先されるからだ。
僕はといえば、大学時代にオカルト系メディア オカルディアでの投稿記事がきっかけで、ノリと勢いでライターになってしまった。
その結果、友人に会う機会も減り、交友関係がどんどん狭くなる。
一番LINEのやり取りをしているのは、オカルディアの編集長⋯。
最近では、「信頼しているよ」と言われ、編集長に会う機会も少なくなっている。
まあ、編集長からしてみれば、ライターの一人でしかないし、原稿さえ貰えれば良いのだ。
ある意味で、ドライだけれど、ドライだからこそ、仕事がしやすいとも言える。
僕はどうしても周囲に引っ張られてしまうことも多いから、逆に孤独であることは、そこまで嫌ではなかった。
けれど、出会ってしまったのだ、ハナツさんに。
また、会いたい。でも連絡先を知らない。
で、どうするか?
僕が出した結論は、再び、霊の情報がある場所に行くことではないか? と思った。
これはあくまで僕の推測だけれど、彼女は霊を退治することを生業にしていると考えられる。
世の中には、そういう職業があるにはある。
広い意味では、オカルト系ライターも同じような職業とも言えるだろう。
それに、まだまだ疑問もたくんある。疑問だらけだ。
そんなわけで、僕は彼女に会いたいがために、いや、疑問を解消したいために、主に編集長から来た霊情報を元に取材に赴いていた。
編集長からは、「おっ! やる気出してるねぇ、関心関心」と言われ、それはそれで良いことかなとも思う。
電車を乗り継ぎ、駅からさらに30分ほど歩く。
今回の目的地は、足立区だ。
霊の目撃情報というのは、最近、めっきり地方というか、駅から遠い場所が増えた。
都心ではあまり聞かない。
それが、何を意味しているのかは、今の僕にはわからなかった。
ただ、遠いのはちょっとめんどくさいというか苦労する。
なぜなら、一日がかりで取材をすることになるからだ。
ただでさえ、安い原稿料。
コスパを考えれば、かなり悪い、というか、マイナスですらある。
だから、タイミーでバイトもしているわけだが⋯。
改めて、ライターなんて職業になるのではなかったなとも思う。
ただ、ライターをしていたからこそ、ハナツさんに出会えたとも言える。
そう考えると、なんだか胸の奥のあたりに温かみを感じた。
と、スマホのナビを見ながら目的地に向かって歩いていたら、突然、嫌な感じが、心にざわつきを感じた。
これまでもいくつかまわったのだけれど、大概はハズレだった。
というか、そもそも自分は、そういうのを感じることができた。
だから、近づけば、何となくヤバいかどうかはわかる。
そして、今回は、いつもとは違っていた。
いつもは、嫌な感じが徐々に大きくなっていくのだが、今回は急にざわつきが大きくなったのだ。
いろいろな意味で嫌な感じがする。
目的の場所に近づくにつれて、胸の奥のモヤモヤが広がっていき、気持ち悪さが高まってきた。
ただ、この感じは、あの時と同じ。ハナツさんに会った時と同じ。
だったら、会える! かもしれない。
そう思ったら、さっきまで少し重かった足取りが少し軽くなった。




