表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縛解師  作者: ネルソラ
11/11

第二話 讐たる(あたる)(5)

 砂浜に絵を描くなんて、リア充の男女がすることだろう! と喉まで言葉がでかかったが、それでは僕がまるでリア充じゃないみたいな気もして、思わず


「学生の頃にはよく描きましたね」

 と、見栄(みえ)を張ってしまった。


 ハナツさんが、少し(うたが)いの目を向けていたのに気づき、そう言えば、色が見えると言っていたことを思い出す。


「よ、よくは言いすぎでした⋯」


 僕は(あわ)てて訂正(ていせい)をする。


「まあ、良い。簡単に言えば、その砂浜に描いた絵というのが、人の想いや思念じゃ」


「ちょっと話が飛びすぎで、まったくわかってないんですけど」


「落ち着け。説明はこれからじゃ」


 そう言って、セイロンティーを一口飲む。


「人間が何か考えるとする。そうすると、砂浜にその(あと)が残る。そして、砂浜は言ってしまえば、我らが見ることができない、高次元、ここではわかりやすく、痕跡次元(こんせきじげん)とでもしておこう」


痕跡次元(こんせきじげん)⋯」


 僕は頭で逡巡(しゅんじゅん)する。


「さっき、影絵の話をしたじゃろう。影絵で言えば、我らの世界は壁に映っている方で、手が痕跡次元(こんせきじげん)ということじゃな」


「それだと、痕跡次元(こんせきじげん)の方が、主従で言えば、主ってことになりますよね?」


「そうじゃ。我らの世界は、その痕跡次元(こんせきじげん)写像(しゃぞう)投影(とうえい)されたものにすぎん。わかっておるではないか」


「そうだとすると、人間の想いとか思考とか、それが元だとするなら、それが魂ってことなんですかね?」


「それは違う」


「どう、違うんですか?」


「正確に言えば、我らの世界のあらゆる物質は、痕跡次元(こんせきじげん)に存在しておる。元が、痕跡次元(こんせきじげん)というたじゃろう。影絵で言えば、壁に映った影も、3次元の世界の一部というのと一緒じゃ。痕跡次元(こんせきじげん)の中に、我らの世界が存在している」


「えっ、でも、それだと⋯、人間の想いや思考だけが残るのはおかしいですよね?」


「だから、言うとるじゃろう。すべての元は痕跡次元(こんせきじげん)の方なんじゃ」


 ダメだ。理解が追いつかない。


「そうじゃな、たとえば、このマグカップをこうして動かしたとしよう」


 ハナツさんは、自分の前にあるマグカップを左から右へ移動させた。


「この移動もすべて、痕跡次元(こんせきじげん)には存在する。しかしじゃ、このマグカップの移動を認識したところで、我々は何も感じることはない。お主は、何か感じたか?」


「いえ、確かに移動したというだけですね」


「しかしじゃ、人間の想いや思考というのは、感じることができる。喜び、悲しみ、苦しみ、様々な感情に共感できる」


「なんとなく、言いたいことはわかりますけど⋯」


「そこで砂場じゃ。例えば、砂場ににっこり笑った人の顔を描いたとしよう。それを見たは人は、笑っていると理解できる。しかし、ぐちゃぐちゃに、まるで子どもが駄々をこねて、適当に砂場に描いた線を見ても、何も感じることはないじゃろう」


「確かにそうですね」


「つまりじゃ、我らの世界は、痕跡次元(こんせきじげん)の中に存在しておるが、我々が感じることができるのは、意味のある痕跡(こんせき)だけ。その意味として認識できるのが、人間の想いや思考というわけじゃ」


「それって、誰でもそうなんですか?」


「そうじゃな。ただ、その影響はとてもわずかじゃ。流石にニュートリノよりは影響があるが、あまりにも影響が小さくて、全員が感じることができるわけではない。言葉で言えば、共感力が高い人間は、痕跡次元(こんせきじげん)からの影響を感じやすいということじゃ。いわゆる、お主らの言葉で言えば、霊感というのが、それに当たる」


「つまり、霊能者(れいのうしゃ)っていうのは、共感力が高い人」


「その通りじゃ。共感力が高い人間は、単純に相手の心情を理解しやすい。もっと言えば、相手の想いや思考をトレースしやすいということじゃな。そういう人間は、霊からすると(うつわ)になる」


(うつわ)⋯」


「うむ。想いや思考を再現できる(うつわ)じゃな。(うつわ)の大きさはそれぞれ違う。(うつわ)(うつわ)の中でも、もっとも重宝されるのが、じ⋯」


「ハナツ様! お時間です」


 シノビが突然(とつぜん)()()んでくる。


「もう、そんな時間か。少し話すぎたか」


 ハナツさんはゆっくりと立ち上がり、僕を見下ろす。


 ⋯。


 あっ、お土産か。


 僕は(あわ)てて、冷蔵庫からスイーツを取り出し、彼女に手渡す。


 二人が去っていく姿を見送りながら、僕は、今日の話について、頭で再び考えていた。


 僕が今まで知っていることとは、まったく違う話だったけれど、言いたいことは理解できなくはない。


「そうじゃ、1つだけ言っておくぞ」


 ハナツさんが振り返る。


「あくまで、これは、我らの世界に起きていることを説明するための、1つの解釈(かいしゃく)じゃ」


解釈(かいしゃく)⋯」


「ただ、そう考えると、辻褄(つじつま)が合うというだけじゃ」


 そう言って、彼女はかすかに微笑(ほほえ)んだように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ