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触れれば死ぬと言われた王子に、なぜか平気で触れられる令嬢  作者:


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【54話】奪われた自由

王城の一室。


机の上には、王都周辺の地図が広げられていた。


複数の騎士たちが慌ただしく出入りし、捜索状況を報告している。


「西側は異常なし」


「東門付近も手掛かりはありません」


「不審な馬車の情報も現在確認中です」


報告を聞きながら、アルトリアは静かに目を閉じる。


胸元の紋章が、微かに熱を持っていた。


だが弱い。


途切れそうなほど微かな感覚。


それでも、完全には消えていない。


(……リリア)


無事でいてくれ。


無意識に、そう願っていた。


「……寝てないでしょ、目の下のクマすごいよ」


壁にもたれたセリウスが呆れたように言う。


「問題ない」


「いやあるでしょ」


語気を強めて言う。


「倒れられても困るんだけど」


アルトリアは返さない。


そんな時だった。


「失礼します!」


騎士が部屋へ飛び込んできた。


「報告です!」


空気が変わる。


「西区外れの廃礼拝堂付近にて、妙な噂が」


「噂?」


セリウスが視線を向ける。


「近づくと気分が悪くなる者が続出しています」


騎士は続けた。


「空気が重い、嫌な視線を感じる、魔力が淀んでいるようだと」


「……他には」


アルトリアが低く問う。


「周辺の動物が寄りつかず、住民も近づかなくなっています」


その瞬間。


胸元が熱を持った。


「……っ」


紋章。


今までで最も強い反応。


引かれる。


確かに、そこに。


「アルトリア?」


「……そこだ」


短く言い、立ち上がる。


セリウスが小さく目を細めた。


「何か感じるんだ?」


「ああ」


迷いはなかった。


夜。


森の奥にある廃礼拝堂は、不気味な静けさに包まれていた。


崩れた石壁。


割れた窓。


だが、近づくほどに空気が重い。


まるで、何かが空間そのものを侵食しているようだった。


「うわ、嫌な感じ」


セリウスが顔をしかめる。


「これ絶対まともじゃないでしょ」

 

アルトリアは答えない。


視線は真っ直ぐ礼拝堂へ向いていた。


――近い。


紋章の反応が、脈打つように熱い。


扉へ手をかける。


ゆっくりと押し開く。


軋む音が静寂に響いた。


そして。


「……これは」


礼拝堂の床に、複数の男たちが倒れていた。


黒いローブ姿。


全員意識を失っている。


壁は抉れ、床には魔法の痕跡。


争った跡は明らかだった。


「おいおい……」


セリウスが乾いた笑みを漏らす。


「誰にやられたの、これ」


その時だった。


礼拝堂の奥。


淡い光が揺れる。


アルトリアが振り向く。


そこに立っていたのは――


「……リリア」


彼女だった。


服は乱れ、呼吸も荒い。


それでも、確かに生きている。


アルトリアはすぐに駆け寄った。


「リリア」


「……アルト」


小さな声。


安堵したような、弱々しい響き。


その瞬間。


アルトリアの胸の奥に張り詰めていたものが、わずかに緩む。


「怪我は」


「だ、大丈夫……です」


ふらり、と身体が揺れる。


アルトリアが支える。


体温が異常に高い。


「……魔力を使いすぎてる」


セリウスが近づきながら呟く。


「無意識に暴れた感じかな」


倒れた男たちを見る。


「洗脳でもしようとして返り討ち、とか?」


その時。


リリアの身体が、ぴくりと震えた。


「……リリア?」


返事がない。


俯いたまま、肩が小さく揺れる。


そして。


ゆっくりと、顔が上がった。


その瞳に、焦点が合っていない。


「――っ」


アルトリアが目を見開く。


次の瞬間。


凄まじい魔力が爆発した。


石床が砕ける。


空気が震える。


リリアの紋章が、眩く発光していた。


「アルトリア!!」


セリウスの叫び。


直後。


リリアの手が振り上げられる。


膨大な魔力が、一点に収束した。


「……っ、リリア!!」


だが、彼女は止まらない。


苦しそうに顔を歪めながら、それでも身体は動く。


「や……っ……」


震える声。


「逃げ、て……!」


魔力が放たれる。


アルトリアの反応が、一瞬遅れた。


「――危な」


セリウスがアルトリアを突き飛ばす。


直後。


轟音。


光が礼拝堂を埋め尽くした。


「……っ!!」


衝撃。


壁が砕ける。


砂煙が舞う。


そして。


どさり、と重い音が響いた。


「……兄上?」


アルトリアの目が見開かれる。


床に、セリウスが倒れていた。


腹部から、血が流れている。


「……は、はは」


苦しそうに息を吐きながら、それでも笑う。


「いやぁ……これ、想像以上」


血を吐く。


アルトリアの顔色が変わった。


「兄上!」


「僕のことは後!」


震える手で礼拝堂の奥を指す。


「……まず、止めなよ」


その先。


リリアが、自分の手を見つめて震えていた。


「ちが……」


涙が零れる。


「私、じゃ……」


でも。


紋章の光は、まだ消えていなかった。

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