第八章:猫又の夜、そして“ポエム”の罠
もっとキャラの魅力を出していきます✋
──ピロン。ピロン。ピロピロピロン。
朝六時、冬馬は事務所兼自宅の二階にある、物置を改装した六畳間で目を覚ました。
寝癖で爆発した髪のまま、布団の中でスマホを掴む。
「……通知、121件?」
X(旧Twitter)の通知音が鳴り止まない。
表示されているのは《#新潟の土木王子》《#令和の角栄》《#国会より現場の方が熱い》という謎ワードの数々。
「何このタグ……俺、政治家になる前に“ミーム”になってない?」
ドアが開き、サクラノが入ってきた。
今朝の彼女は人間フォーム・秘書服スタイル。
黒のスーツに白シャツ、前髪を横流しにまとめたメガネ姿は、清楚系OLにしか見えない──が、手には狐印のマグカップ。
「おはようございます、社長。ニュース見ました?」
「お、おう。見たっていうか、トレンドに自分の顔が出てて変な汗が出た」
「称賛7割、ツッコミ2割、“誰こいつ”が1割ってとこね」
「その1割が現実すぎて泣けるんだけど」
「……でも冬馬。昨日の演説、あんたの声でちゃんと“届いた”のよ」
彼女は静かに、コーヒーの香りとともにそう言った。
朝の光が彼女のメガネに反射し、まるで一瞬だけ、本当に敏腕秘書っぽく見えた──一瞬だけ、だが。
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その日の夕方。冬馬とサクラノは、駅裏の古い商店街へと足を運んでいた。
街灯は一本飛びで壊れていて、舗装の割れた路地には自転車が転がっている。
昭和で時が止まったような通り。その奥にひっそりと佇む看板がひとつ。
> 《ネット情報収集・SNS工作・炎上対策》
> ご用命は → 猫又ミチル(営業中)
「これ、公安に通報されないのか……?」
「されてるけど、“妖怪”って書くと通報受理されないから大丈夫」
「そこに頼るな妖怪システム!」
ドアを開けると、部屋には昭和風のソファ、ブレーカー直結のPC、
そして“明らかにヤバい香水”の香りを撒き散らす女性がいた。
「ハ〜イ来たわね! 新潟の炎上プリンスと狐秘書!」
銀髪ツインテールのセーラー服+ジャージというチグハグすぎる服装。
彼女こそ、かつて妖怪社会で「情報屋」「ネット担当」をしていた──猫又ミチル。
「ご無沙汰、サクちゃん。相変わらず“神社に通い詰める社畜感”あって素敵」
「あなたのセーラー服姿は、もはやホラーだわ」
冬馬は二人の応酬を横目に、モニターへと目をやった。
表示されたのは──YouTubeの急上昇ランキング3位。《【演説MAD】角栄魂を継ぐ者》
「角栄魂!? っていうか、なんで俺の演説にBGM“紅蓮華”つけてんの!?」
「鳥居くんが勝手に編集したんだって。しかも“特定の曲はAI回避済”ってドヤ顔だったわ」
「そんなんで回避できるの!? YouTubeなめんな!!」
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その頃、早坂未来(高校二年)は、放課後の図書室にいた。
「演説って、なんで“感動させよう”って思うとポエムになっちゃうんだろ……」
ノートにはびっしりと書かれた一節。
> 「この街は、雑草のように育った私たちを、見捨てなかった」
> 「小石を蹴飛ばす風の音に、私は未来を見た」
「……これ、ポエム通り越して“路上観察エッセイ”じゃない?」
カメラを持った鳥居翼が、後ろからぬっと現れた。
「未来さん、ちょっとその原稿、読み上げてください。素材にします」
「素材って何の!? TikTokで拡散されるんでしょ!? 『JK、謎ポエムで政治語る』って叩かれる未来しか見えない!」
「安心してください、映像はAIで“いい声”に変換するんで」
「そこじゃない! 問題は中身よ中身!!」
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その夜、冬馬は事務所の屋上にいた。
隣には、サクラノ(人間フォーム・着物スタイル)。
赤い紐帯に揺れる狐耳。風になびく裾が、月明かりを受けてふわりと揺れる。
「……俺、本当にこのまま進んで大丈夫なんかな」
「誰も“正解”なんて知らない。けどね、角栄はこう言ってたのよ」
> 『世の中で一番強いのは、孤独を恐れない者だ』
> ――田中角栄
サクラノは小さく微笑む。
「孤独でも立てるやつが、最後は人を導ける。あんたは、そういう人間よ」
「……そっか。じゃあ俺、明日も“演説MAD”の主人公、頑張るわ」