表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/31

第八章:猫又の夜、そして“ポエム”の罠

もっとキャラの魅力を出していきます✋

 ──ピロン。ピロン。ピロピロピロン。


 朝六時、冬馬は事務所兼自宅の二階にある、物置を改装した六畳間で目を覚ました。

 寝癖で爆発した髪のまま、布団の中でスマホを掴む。


 「……通知、121件?」


 X(旧Twitter)の通知音が鳴り止まない。

 表示されているのは《#新潟の土木王子》《#令和の角栄》《#国会より現場の方が熱い》という謎ワードの数々。


 「何このタグ……俺、政治家になる前に“ミーム”になってない?」


 ドアが開き、サクラノが入ってきた。

 今朝の彼女は人間フォーム・秘書服スタイル。

 黒のスーツに白シャツ、前髪を横流しにまとめたメガネ姿は、清楚系OLにしか見えない──が、手には狐印のマグカップ。


 「おはようございます、社長。ニュース見ました?」


 「お、おう。見たっていうか、トレンドに自分の顔が出てて変な汗が出た」


 「称賛7割、ツッコミ2割、“誰こいつ”が1割ってとこね」


 「その1割が現実すぎて泣けるんだけど」


 「……でも冬馬。昨日の演説、あんたの声でちゃんと“届いた”のよ」


 彼女は静かに、コーヒーの香りとともにそう言った。

 朝の光が彼女のメガネに反射し、まるで一瞬だけ、本当に敏腕秘書っぽく見えた──一瞬だけ、だが。





 その日の夕方。冬馬とサクラノは、駅裏の古い商店街へと足を運んでいた。


 街灯は一本飛びで壊れていて、舗装の割れた路地には自転車が転がっている。

 昭和で時が止まったような通り。その奥にひっそりと佇む看板がひとつ。


 > 《ネット情報収集・SNS工作・炎上対策》

 > ご用命は → 猫又ミチル(営業中)


 「これ、公安に通報されないのか……?」


 「されてるけど、“妖怪”って書くと通報受理されないから大丈夫」


 「そこに頼るな妖怪システム!」


 ドアを開けると、部屋には昭和風のソファ、ブレーカー直結のPC、

 そして“明らかにヤバい香水”の香りを撒き散らす女性がいた。


 「ハ〜イ来たわね! 新潟の炎上プリンスと狐秘書!」


 銀髪ツインテールのセーラー服+ジャージというチグハグすぎる服装。

 彼女こそ、かつて妖怪社会で「情報屋」「ネット担当」をしていた──猫又ミチル。


 「ご無沙汰、サクちゃん。相変わらず“神社に通い詰める社畜感”あって素敵」


 「あなたのセーラー服姿は、もはやホラーだわ」


 冬馬は二人の応酬を横目に、モニターへと目をやった。

 表示されたのは──YouTubeの急上昇ランキング3位。《【演説MAD】角栄魂を継ぐ者》


 「角栄魂!? っていうか、なんで俺の演説にBGM“紅蓮華”つけてんの!?」


 「鳥居くんが勝手に編集したんだって。しかも“特定の曲はAI回避済”ってドヤ顔だったわ」


 「そんなんで回避できるの!? YouTubeなめんな!!」





 その頃、早坂未来(高校二年)は、放課後の図書室にいた。


 「演説って、なんで“感動させよう”って思うとポエムになっちゃうんだろ……」


 ノートにはびっしりと書かれた一節。


 > 「この街は、雑草のように育った私たちを、見捨てなかった」

 > 「小石を蹴飛ばす風の音に、私は未来を見た」


 「……これ、ポエム通り越して“路上観察エッセイ”じゃない?」


 カメラを持った鳥居翼が、後ろからぬっと現れた。


 「未来さん、ちょっとその原稿、読み上げてください。素材にします」


 「素材って何の!? TikTokで拡散されるんでしょ!? 『JK、謎ポエムで政治語る』って叩かれる未来しか見えない!」


 「安心してください、映像はAIで“いい声”に変換するんで」


 「そこじゃない! 問題は中身よ中身!!」




 その夜、冬馬は事務所の屋上にいた。

 隣には、サクラノ(人間フォーム・着物スタイル)。

 赤い紐帯に揺れる狐耳。風になびく裾が、月明かりを受けてふわりと揺れる。


 「……俺、本当にこのまま進んで大丈夫なんかな」


 「誰も“正解”なんて知らない。けどね、角栄はこう言ってたのよ」


 > 『世の中で一番強いのは、孤独を恐れない者だ』

 > ――田中角栄


 サクラノは小さく微笑む。


 「孤独でも立てるやつが、最後は人を導ける。あんたは、そういう人間よ」


 「……そっか。じゃあ俺、明日も“演説MAD”の主人公、頑張るわ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ