第23話 世界を壊している
俺は大蛇の頭を持って、領内にある冒険者ギルドへとやってきた。
いきなり大蛇の頭を持った少年が現れたものだから、冒険者ギルド内は一時騒然となった。
「オイオイ……なんだあの子供は……!?」
「大蛇の頭……!? って、あれは例のボスモンスターじゃねえのか? 依頼が出てた……」
「じゃあ、あの子供が倒したってのか……!?」
「バカな……子供が……!?」
いろんなやつが、俺のことを噂する。
どうやら冒険者たちの多くは俺が領主の息子であることを知らないみたいだな。
まあそれも当然、冒険者の多くは半分ゴロツキみたいな連中で、貴族の顔なんかに興味のないやつが多い。
俺が受付カウンターまで行くと、受付のお姉さんが優しく微笑みかけてくれた。
「これはこれは、ドミナル家ご子息のゼノヴィウス・フォン・ドミナル様ではないですか。本日はまた、どうなさったのですか? 冒険者ギルドへいらっしゃるなど、珍しいですね」
受付嬢は俺のことを知っていたみたいだ。
まあ、領民とはちょくちょくイベントで顔を見せたりしてるから、知っているやつは普通に俺の顔を知っている。
むしろ冒険者たちのほうが、自分のとこの領主の息子を知らないって、ちょっと普通じゃない。
受付嬢が俺の名前を口にすると、騒がしかった冒険者ギルド内がさらにざわつきを増す。
「オイ……聞いたか? あの子供、領主の息子だってよ」
「じゃあ、あの噂の我儘息子ってことか……!?」
「しっ、聞こえたらどうする? 打ち首だぞ」
聞こえてるっつーの。
そもそも、そんなことで打ち首になんかしねーよ……。
こいつら、貴族をなんだと思ってるんだ……?
荒くれ冒険者たちは、さらに俺のことを次々と噂する。
「あの子供が大蛇を倒したのか……? そんなに強そうには見えないけどな……」
「バカ言え、貴族の子供だぞ? 俺たちと違って、魔法も達者なんだよきっと」
「だとしたらすげぇな……あんな子供が、俺たちより強いなんてな……」
「あの子供が次の領主になるのか? だったら今から媚び売っておかないとな」
「バカ、ちげえよ。他にも息子がいるんだよ」
「あ、そうか」
なんていう風に言われている……。
まあ、ゲームの世界だったら、俺が兄弟を皆殺しにして無理やり領主になって、圧政を敷くという歴史になるはずだったんだけどな……。
けど、あいにく俺はそんな破滅まっしぐらなことをする予定はない。
毒殺される可能性を少しでも減らすために、跡継ぎは他の兄貴に譲るつもりだ。
さて、俺が受付嬢に冒険者登録を申し出ようとしていると、ギルドの奥から一人の初老の男が出てきた。
初老の男はいかにもな歴戦の冒険者という感じで、左目に傷を負っていて、髭を生やしている。どこか威厳のある風貌をしている人物だ。
その男は、俺も知る人物だった。
この冒険者ギルドの、ギルドマスター――カセウス・ブラッドだ。
「なんだぁ? 騒がしいと思って出てきたら、ゼノヴィウス様じゃねえか」
「よお、ブラッドのおっちゃん」
「だから、おっちゃんじゃなくてギルマスな。他のやつに示しがつかねえ呼び方はここではやめてくれ」
「すまん、すまん。ギルドマスター」
そう、ギルドマスターとは幼い頃から、何度か領主主催のパーティーで顔を合わせたことがあるのだ。
小さい頃、いろいろ遊んでもらった記憶もある。
だから俺にとっては、ただの近所のおっちゃんというイメージ。
これでも昔は凄腕の冒険者だったのだとか。
小さい頃の記憶は、記憶の混濁のせいで思い出せないものもあるが、こうやってちゃんと覚えているものもある。
ギルドマスターのことはちゃんと覚えていてよかった。
「それで、こんなところになにしにきた? って……それ……大蛇か……!?」
「そうだ。大蛇を倒したから、引き取ってほしい。ついでに冒険者登録もしたい」
「そうか……わかった。それにしても、お前さん、そんなに強かったんだな。ただの生意気な貴族の坊主だと思ってた」
「生意気で悪かったっすね……。いろいろと、剣とか魔法の修行をして強くなったんです」
生意気だったのは、記憶を取り戻す前のことだ。
最近の俺は、ちゃんと敬語だって使えるっつーの。
まあ、ギルマスは昔からの知り合いだから、使わないけどね。
一応俺、貴族だし。人前では貴族らしい喋り方をしなきゃね。
「そういえば、あのガスパールに剣を教わっているときいたな。そうか……さすがはガスパールだ。いい師匠を持ったな」
ガスパール先生のことを知っているのか。やっぱりあの人って、けっこうな有名人だったんだな。
ギルマスとは世代も近いし、もしかしたら一緒に戦ったことがあるのかもな。
「じゃあさっそく、冒険者登録からお願いできるか?」
「あいよ。それじゃあ、測定機に手を載せてもらえるか?」
そういってギルドマスターは、なにやら測定機と呼ばれる魔道具を取り出した。
なんだこれ……? こんなの、ゲームにはなかったぞ……?
「なにこれ?」
「なんだ、知らんのか。冒険者登録には必須の工程だぞ。この測定機に手をかざすと、お前さんの強さがわかるんだ。それによって、冒険者ランクを決めるのさ」
「ああ、なるほど……そういう測定機ね……」
ゲーム世界と違って、ステータスがない代わりに、この測定機を使って強さを測るのだろうと理解した。
どうやら鑑定スキルのようなものもないらしいな。
けど、持っているスキルの内容とかまで調べられたら厄介だな……。
俺が躊躇していると、ギルドマスターが言った。
「安心してくれ。詳細なスキルまでは読み取れねえよ。だいたいの魔力総量や、おおまかな強さを調べるだけだ」
「そ、そうか……」
それなら安心だ。
俺は測定機に手を載せる。
しかし……なにも起こらない……。
「……? なにも起こらないぞ……?」
「あれ……? おかしいな? なんでだ? 故障か?」
「なあギルマス、この測定機とやらはどういう仕組みなんだ?」
嫌な予感がした俺は、そう聞いてみた。
「仕組み? なんだったかな。たしか、測定機から微量な神経毒が出るんだ。魔力を放出させる効果のある神経毒だ。それに反応した魔力の量を、測るっていう感じだったはずだ」
「ああ…………」
なるほど……測定機の仕組みに、神経毒が使われているのか……。
なら、反応しねえはずだわ……。
だって俺、微量な毒とか効くはずないもんな……。
「仕方ねぇ……。どうやら測定機は故障みたいだ」
「こういう場合はどうするんだ?」
「一応、俺が直接模擬戦をして、実力を見ることになっている」
「まじすか……」
「ああ。どうだ? 一戦交えるとするか。ゼノヴィウス。まあ戦わなくても、一目見ればお前さんがある程度強いってことはわかるけどな。なにより俺が戦ってみてぇ」
なんかよくわからんが、測定機の仕組みがアレなせいで、ギルマスと戦うことになってしまった。
マジかよ……。このおっさん、結構強いんじゃないの……!?
俺はただ、大蛇の頭をさっさと処分したいだけだったんだけどなぁ……。
まあ、いいか。
「よし、どうせなら、俺が勝つ」
「アホ言え。さすがに二十年はやいわ。俺はこれでも、元Sランクだぜ?」
【Sランク冒険者】――それは百万人に一人レベルの、選ばれたものだけがなれる存在。
今の俺の実力で、どこまで通用するのか……。
試すのが楽しみだ。




