第21話 へび
大蛇の睡眠ブレスが森を覆い、俺たちを襲う――。
その最中。
「思いついちまった……。お前を倒す方法」
俺はある方法を思いついてしまった。
思いついたからには、試さずにはいられない。
ここで逃げるなんてもったいない。
それに、傲慢不遜な俺らしくない。
そうだろ……?
俺が思いついた作戦、それは――。
――狸寝入りだ。
つまりは寝たふりをするってこと。
ただそれだけだ。
……どういうことか?
大蛇による睡眠ブレス攻撃、しかし、ドッグミートがすぐに眠ったのにもかかわらず、俺はまだこうして起きている。
おそらくそれは、俺の毒耐性によるものだろう。
睡眠効果のあるブレスとはいえ、その中身は神経毒の一種。
普通の人間ならすぐに眠ってしまうような毒でも、俺は少し眠くなるくらいで済んでいた。
今は森の中をピンク色のブレスが覆い、視界が悪くなっている。
おそらくは、大蛇からも俺たちの姿が見えていない。
まだこうして襲ってこないのがその証拠。
だったら、今のうちに、ブレスが消えて視界が戻る前に、寝たふりをしておく。
俺はその場に、ドッグミートの横に寝転んだ。
こうして寝たふりをしておけば、きっと大蛇は俺にもブレスが効いたと思い込むはずだ。
あいつは普通のモンスターと違って、かなり知能も高い。
そして油断して近づいてきたところを、俺が起き上がり、弱点を突いて倒す。
完璧だ。
しばらくそうして寝たふりをしていると、だんだんとブレスの霧が晴れてきた。
そうして、大蛇は俺たちを見つけると、ゆっくり近づいてくる。
そうだ……来い……ゆっくりな。
俺たちは寝ているんだから、お前は焦る必要はない。
大蛇は俺たちに十分近づくと、寝ていることを確信し、大きな口を開けた。
そうしてゆっくりと、俺たちを丸のみにしようと、これでもかと限界まで口を開ける。
そのときを俺は待っていた。
限界まで開いた大蛇の口に、至近距離から魔法を撃ちこむ――!!!!
「そこだぁ……! 氷牙刃――!!!! 三連続発動――!!!!」
今では俺は初球魔法の氷牙刃なら、三連続で使用することができる。
つーかこれが限界。
俺の氷牙刃三連続によって生み出された三発の氷の刃は、そのまま大蛇の口の中に炸裂する。
――ドス!
――ドス!
――ドス!
俺の思った通り、口の中は皮膚がやわらかいようで、氷牙刃は大蛇の皮膚にしっかり刺さり、反対側まで貫いていた。
大蛇はあまりの痛みに悲鳴をあげて、のたうちまわる。
「ギャオオオオオオス……!!!!」
「やったぁ……!」
しばらく暴れまわったが、さすがにダメージが大きかったようで、大蛇はしばらくすると大人しくなった。
ダメ押しでもう一発傷口に魔法をぶち当てると、大蛇はそのまま息を引き取った。
「ふぅ……ようやく、なんとか倒せたな……。手ごわい相手だった」
大蛇の断末魔がよほどうるさかったのか、ドッグミートも目を覚ましていた。
「さて……食べるか」
そう、俺の当初の目的は、モンスターを食べること。
相手がユニークモンスターの大蛇だろうと、俺にとっては食い物だ。
大蛇を氷牙刃で小さく切って、それを串にさして、炎魔法の焔玉砲で焼いてから食べる。
「うん、不味い……。でも、なんか力が漲ってくる感じがする……!」
やっぱりどこか普通のモンスターとは違うのか、食うと身体中がぽかぽかして、エネルギーが満ち足りる感じがする。
いや、単純に毒と瘴気が多めに含まれているから、それのせいで身体がおかしくなっているだけで、気のせいかもしれないけどな……。
そうやって俺が蛇を食べはじめると、ドッグミートがこちらをじーっと見てきた。
ドッグミートは『お前そんなもの食べるのか……人間のくせに……』みたいな顔でこっちを見ている。
ちょっと引かれているかもしれない。
けど、しばらくすると、ドッグミートも大蛇の匂いをクンカクンカと嗅ぎ始めた。
そして、俺のほうへ寄ってくる。
「お前も食べるか?」
「ワン!」
どうやらこいつも食べたいみたいだ。
さっき回復薬で怪我を治療したとはいえ、ドッグミートもかなり体力を消耗しただろう。
きっとお腹が空いているんだな。
俺はドッグミートにも大蛇を食わせてやった。
すると、とても美味しかったようで、よろこんでいた。
「ワンォ! ワンォ!」
しっぽを振って、舌を出している。
可愛い。
けど目は出さなくていいから、しまおうな。
そういえばこいつ、ゾンビ犬なんだった……。
大蛇を食うと、どうやらエネルギーが満ちるというのは本当だったようで、ドッグミートの怪我も完全に治っていた。
そういえば俺も、さっき擦り傷を負ったが、いつのまにかそれが消えている。
どうやら大蛇を食うと、傷がはやく治るようだ。
モンスターの肉には、まだ俺の知らない効果がいろいろあるのかもしれないな。
なにせ、モンスターの肉なんて食ったことのある人類は、俺くらいなものだろうからな。
普通はまず食おうとなんてしないし、食ったら最悪死ぬし……。
俺だって、毒耐性をここまで鍛えていなかったら、モンスターの肉なんて食ったらすぐに死んでただろうしな。
地道に毒耐性を鍛えて、ようやくここまでこれたんだ。
あとはさらにモンスターの肉を食って、さらに毒耐性と瘴気耐性を鍛えまくる……!
そうすれば、いつかは完全耐性さえも得られるかもしれない。
俺は残った大蛇の肉を、どんどん腹の中に入れていく。
でも、これ多すぎて普通に食べきれないな……。
とはいえ、持って帰るわけにもいかんし……。
残した分は置いて帰るしかなさそうだな。
まあ、置いて帰れば、ある程度はドッグミートが食うだろう。
残った分は、森の中にいる他のモンスターが勝手に食うはずだ。
けど、せっかく倒したボスモンスターだから、食えるだけ食っておくか。
飯は食えるときに食えが俺の前世からのモットーだ。
そうやって俺が大蛇を食って、腹いっぱいになったころ――。
いきなり、俺の頭の中で、不思議な声が聞こえた。
まるで直接脳内に語りかけられているような、そんな不思議な声。
『スキル:睡眠ブレスを獲得しました――』
「え…………?」




