72話_side_Luk_黒い森
~"英雄の末裔"ルーク~
いやーびっくりしたね。
黒い森で魔物ノしてたら腹減っちゃったから、ヌードルでも食うかって思ったらさ。
なんかいきなり話し掛けてきたやつが居て。
しかもそれが、なんかやたらとえっちぃ格好したけったいなねーちゃんだったんだ。
いや、まあ。
たぶん親父に今の説明したら、『寝ぼけてんじゃねえ』ってどつかれるか、『バカヤロー俺にも紹介しろ』ってどつかれるかのどっちかだろうな。うん。
相手が瞳をまんまるにして俺を見てるのをいいことに、俺もまじまじと観察してしまった。
見た目は、俺よりちょっと年上っぽいけど、アヴァターだろうから本当のところはわからないな。まず思うのは、とにかく白い。真っ白い肌に、真っ白い髪と、薄くて際どい衣服も真っ白だ。んで、頭の上に浮かぶ輪っかと、腰から下を覆うベール、それから背後で存在を主張する翼。たぶん魔力で編まれているんだろうけど、それらの部位は眩い金色だ。
穢れ無い白と、荘厳な金。まんまるな瞳だけが夜明け前の空みたいな瑠璃色をしている。
一言で表現するならば、超絶綺麗ってことだ。
職業柄、転神を使う人間を見る機会ってわりとあるけど、考えるまでもなく、今まで見たなかでもぶっちぎりにイカしてる。
強いて文句をつけるとしたら、肌に吸い付くみたいな薄手の衣服がなんか透けてる気がして、なんかわからんけど目のやり場に困ることくらいかな!
てか肌が白いせいでどこまで衣服でどこから素肌なのかパッと見わかんねえしなんなら一瞬全裸かと思った。まじで。
「アンタも食うか?こんなこともあろうかと!余分に持ってきてたんだ」
「えっいいの?」
俺が食おうとしてるヌードルをなんか熱心に見てるから、もしかして腹減ってるのかなって思ったんだ。
つうわけで未開封のヌードル渡してみたら、普通に受け取って、なんかわくわくした顔でお湯を注ぐんだよ。
ねーちゃんのその顔を見て俺は確信したね。
悪いヤツじゃないと。
むしろなんか可愛いぞコイツ。
俺の持論だが、ヌードル好きに悪人は居ない。
俺が差し出したヌードルは、この国では一般的には出回っていないレアものだ。然るべきところに行けば普通に売ってるから高級品ってわけじゃないけど、少なくとも、その場所を知らなければ手に入らない。
だけど、ねーちゃんは俺がなんの説明もしなくてもヌードルの蓋を開けてお湯を注いだのだ。しかも、蓋を半分だけ剥がしてお湯を注いだ後にもう一度蓋をして三分間待つという儀式すら、当然のように知っていた。
しかも!
出来上がったヌードルを食べるとき、ねーちゃんはちゃんと麺を啜ったのである!
ちっこい口のくせして豪快に。それでいて気品を失わないのだから匠の技だ。素敵すぎる。
音を立てて麺を啜るのが正しい食べ方で、正しい作法なのだと俺がどれだけ説明しても殆ど誰も理解してくれなかったというのに!
間違いない。
このねーちゃん――アンジュは俺と同じ『ヌードル愛好家』だ。
まるで、生き別れていた姉に出会えたかのような、あるいは遠い昔に離別した親友に出会えたかのような、強烈なシンパシーを感じる。
すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。
「しゃあ!いくぜねーちゃん」
「あいよー」
熱に浮かされるまま魔物との戦端を開いた俺は、また驚く羽目になる。
俺の援護を頼んだアンジュが、それを完璧に熟してくれたからだ。
俺の二つ名は『蒼雷』。雷属性の魔法使いであり、自分自身を雷と化しての超高機動格闘戦が俺の十八番。だから自慢じゃないが戦闘中の俺の移動速度は冗談抜きでバケモノじみてる。俺なんてまだまだ未熟者だから、実のところ本気を出すと自分でもわけわかんねえくらいに速くなっちまうから、結構抑えてるんだけど、それでも初見で目で追える速度じゃないはずだ。
俺が所属してる『剣の誓い』の仲間なら、俺の速度に慣れてるし動きの癖とかもわかってるから、目に頼らなくても結構的確に援護とかしてくれるんだけど。勿論、初対面のねーちゃんにそこまでの期待はしてなくて、要は背中を預けて戦えればいいなぁくらいのノリだったんだけど。
「マジかよ……ッ!」
鼻水でるかと思ったね。
雷を纏ったクレイモアで魔物を撫で斬りにしながら機動する俺の動きに合わせて、ちゃんと援護が飛んでくるのだ。それは俺に向かう魔物への牽制だったり、俺に斬り捨てられながらも息のある魔物へのトドメだったり。そこまでならまだわかる。
驚くべきは俺への強化魔法――いわゆるバフを的確に当ててくるのだ。
高機動する俺にバフを命中させる技能があると言うことは、つまりねーちゃんが敵に回れば俺を容易く撃ち落とせるということだ。
戦闘時における味方への支援魔法には色々あって、単純な身体能力強化魔法に始まり、耐性付与、治癒促進、士気高揚なんかが挙げられる。これらを総括して専門用語で『バフ』と称するのだが、味方にバフを与える方法にもまた色々と種類がある。
これが大別して三つあって、一つはアンジュがやっているみたいに目視誘導で当てる方法。もう一つは『置きバフ』と言って、座標を指定して魔法を設置し、受け取る側が自分から踏むことで効果を得る方法。最後の一つがパーティーを組んだ際に構築する『連繋魔法』を経由して効果を与える方法である。
連繋魔法について簡単に説明しておくと、これは共闘する人間の認識の一部分を魔法的に共用化し、指揮や支援の円滑化を図るものだ。これの何が嬉しいかというと、パーティーメンバー間での役割分担を専任化出来ることだ。例えば索敵を行うとして、個々人が個別にそれを行わずとも、索敵役の一人が索敵結果を連繋魔法に流せば全員が共用出来る。まあ実際は情報を言語化して伝達するわけではなく、飽くまでも認識を共有するだけなのだが、つまりはその伝達のタイムラグや齟齬を省けるってわけ。
指揮役は目視に頼らずともメンバーの位置や状態をある程度まで把握出来るし、支援役は一々全員を集めて魔法を掛けなくても、魔法的な繋がりであるリンクを介して全員にバフを届けることが出来る。
尤も、いいことばかりではなくて、大前提として連繋魔法そのものの性能は基幹の術者(大抵はパーティーリーダーだ)の力量に依存するので、リーダーがヘボだと効率が目に見えて下がるどころか、下手するとリンクしないほうがマシな事態になったりもする。また、リーダーが優秀だとそれはそれで問題もあって、何かの拍子にリンクが切断された場合――つまりリーダーが死亡したり意識喪失したりした場合、残されたメンバーは連繋魔法に適応していたリソースを失った状態での戦闘継続を余儀なくされる。しかもリンクの恩恵が一気に消えるものだから、大概その落差に即応出来ず混乱状態に陥るわけだ。
巷でよく『パーティーを組む』という表現を聞くことがあるが、あれはつまりパーティーを主導する誰かの連繋魔法の指揮下に入るという意味でもあるのだ。
ちなみに世間一般でパーティーメンバーの人数上限が六名であり、古くは魔王を討伐したウチのご先祖サマのパーティーも六人編成であったと言われている理由がまさにこの連繋魔法にある。リーダーを務める人間一人のリソースで効率を維持出来る上限人数が六人程度であるとされているのだ。当然それは技量に依るところもあるが、おしなべて統計的には六人前後が最も安定すると言うことである。人数が少な過ぎると恩恵が乏しく、多過ぎると負荷がキツイって意味でな。
今回、俺とアンジュは共闘しているが、パーティーを組んでいるわけではない。
謂わば、同じ戦場に別個の戦力単位として参戦しているということ。
そんな便利な連繋魔法の恩恵を蹴ってまでパーティーを組めない理由があるのかと言われると、残念ながらあるのだ。
ぶっちゃけ、俺は指揮する側に立ったことがないので、自分で連繋魔法を構築したことがないのだ。
だから俺自身がパーティーリーダーになることは出来ない。アンジュがリンクをくれるのならそこに入るのは吝かじゃないけど、どうやら彼女にもその気はなさそうだ。
で、話を戻すとそういうわけで俺達はパーティーを組んでいないので、連繋魔法を用いた支援を受けることは互いに出来ないし、それに限らずそもそも魔法的な繋がりは一切ないってことだ。だから俺は最初からアンジュが置いてくれたバフを自分で踏みに行く気で居たのだが、蓋を開けてみればこの通りだ。
それこそ親父とか、ベテランのクランメンバーとかは俺がどんだけ速く動こうと勘と経験で当ててくるんだけど、まさか初対面の相手にやられるとは思わなかった。しかもそれでいて、俺へのバフも魔物への牽制も一度たりとも誤射しないと来てる。
それどころか、アンジュはなんの気負いもなくこんなことを言う。
「流石はダンクーガ家。中々やるじゃない」
魔物に斬り込んでいる俺からは背後に居るアンジュの表情を窺い知ることが出来ないが、それでも声音が楽しげに弾んだことはわかる。
「じゃあお姉さん、ちょっと本気出しちゃおっかな」
その瞬間、視界の端に流れゆく魔法の規模が爆発的に増大した。背後から凄まじい魔力と光が迸る。
思わず、俺は後ろで援護してくれてるアンジュを振り向いて、
「ウソだろ……ッ?」
鼻水でた。今度こそ。
例えるなら流星雨。
滞空するアンジュの背中の翼が光り輝き、舞い散る羽毛が魔法へと転じて、夥しい数の光條となって拡散していく。俺への援護とか魔物への牽制とか、これまでの働きだって決して容易い仕事ではなかったはずなのに、あんなのは彼女の実力のほんの一部に過ぎなかったのだ。地上の魔物も、樹上の魔物も、背後の魔物も、ほんの少しの撃ち漏らしもなく、その場で羽ばたくだけで周囲の魔物を殲滅していく美しい暴力の世界が形成されていく。
一体、いくつの魔法を同時に使っているのか。見当もつかない。百や二百程度で済まないのは確かだ。清々しいまでの固定砲台。俺とはまさしく対極に位置する戦闘スタイルである。てかどんだけ魔力持ってんだコイツ。
夥しい魔力を垂れ流しながら、アンジュは涼し気な笑みすら浮かべて虚空に浮かび、指揮棒でも振るように細く長い指を伸ばす。
そんな彼女が歌うように言葉を紡ぐと、伴奏の如く流れ出した魔法が旋律となって魔物を圧し潰す。
「座標指定、拘束」
黒い森の梢を突き破って豪雨の如く降り注いだ光の杭が、魔物を地面へと磔にして動きを封じる。
「先行追尾、射撃」
間一髪拘束を逃れた魔物達を狙って放たれていた光の弾丸が、回避を許さぬ猟犬の如き軌道で、寸分違わず撃ち抜いて怯ませる。
「貫通特化、砲撃」
そしてそれら一切を一纏めにして横薙ぎの砲撃魔法が呑み込む。
「領域殲滅、爆破」
ダメ押しとばかりに空間ごと圧し潰すような魔力の炸裂が、生き残りの雑多な魔物達を空間ごと轢き潰す。
理不尽という言葉を体現したかのような光景。
大抵の場合は圧倒的な物量で押し寄せる魔物をこそ評する言葉であるそれが、今まさにそれ以上の物量を以て魔物を蹂躙しつつある。アンジュの場合はそれがしかも全方位、同時かつ多段ですらある。
驚愕する俺の視線を受け止めたアンジュは、うっすらと笑って見せた。
今までのほんわかとした、ちょっと抜けた笑みとは打って変わった、挑発的で蠱惑的な笑みだ。
その表情はこう言っていた。
――あら?もしかしてビビっちゃった?
英雄伯家も大したことないのね、と言わんばかりの挑発に、俺は歯を剥いて笑った。
俺をその気にさせたな?
おーけー。だったら遠慮なしだ。
俺が本気の速度を抑えて戦うのは、要は自分でも制御が利かなくなるから味方をぶった斬りかねないためだ。だけど、ここでそんな気遣いはアンジュに失礼だ。
親父も言ってたしな。
女性をエスコートするのは男の務めだと。パートナーが情熱的に踊り始めたら、もっと情熱的にリードするのが男の役目!
ダンスに誘ったのは俺なんだから、せめてアイツを退屈させんなってことだろ?
「上等ォ!!」
一切のリミッターを取り払って、最高速度でカッ飛んだ。
幸いここは鬱蒼と茂る森の中だ。飛び跳ねる足場には事欠かない。時に樹木を、時に魔物を、時には自分の魔法で即席の足場を作り出して、鋭角的な稲妻となって縦横無尽に斬り抜ける。
途中何度かアンジュを斬りそうになってヒヤッとしたが、このねーちゃんと来たら涼しい顔して消えやがる。なに言ってるかわからんと思うが、ぶっちゃけ俺も良くわからん。俺に斬られそうになるとその場から消えて、違う場所に現れるのだ。転移まで出来るのかと驚いたが、生憎ともう鼻水はださないぜ!
流石のアンジュもこの速度域の俺には魔法を当てることは出来ないらしくて、少しだけ優越感。
まあ、よく考えなくても飛ばす魔法そのものよりも俺のほうが速いから、先読みして置く以外に当てる術はないんだけど。それで当てられなくなるってことは、さっきまでのアンジュは俺の動きを読んでたわけじゃなくて、純然たる射撃技能で俺に当ててたってことだけど、果たしてそのほうが恐ろしいと思うのは俺だけだろうか。
アンジュの攻撃は圧倒的な高火力と物量を誇るが、その性質は物理攻撃ではなく術理エネルギーだ。要は魔法で炎や雷なんかの現象を起こして攻撃に使っているわけではなく、魔力そのものをエネルギーとして放射しているということ。
魔物種の中には時たまエネルギー系の攻撃に耐性を持っているヤツが居て、例えば今俺の目の前に居るクソでっけぇダンゴムシみたいな魔物がそうだ。
「どらぁ!!」
黒光りする甲殻がアンジュの魔法を端から弾いてしまうので、俺はクレイモアを構えてかっ飛び、ダンゴムシの甲殻の真正面から突き立てる。
術理でダメなら物理で殴る!
質量の暴力で甲殻を割って埋め込まれた刀身を起点に走った亀裂から、甲殻が真っ二つに割れる。そしてその『ひらき』になった甲殻の隙間へとアンジュの誘導弾が殺到し、瞬く間に魔物を焼き尽くしてしまった。
これぞ連繋攻撃ってやつだ。
基本的にはアンジュが戦域を支配して魔物を群れ単位で殲滅し、アンジュの攻撃で倒し切れないヤツを俺が個別にカチ割りに行く。アンジュが俺の速度を捕捉し切れなくなっている以上、誤射を避けるためには俺の居る空域そのものを攻撃対象外としなければならず魔物殲滅の討ち漏らしこそ増えたが、ダンゴムシみたいなのを俺が対処することで殲滅速度自体は上がった……と思う。
その辺曖昧なのは、ぶっちゃけ俺が一人で楽しくなり過ぎて周り見てなかったからなんだけど。
調子に乗って跳ね回る俺は魔物がとうに壊滅して壊走していることにも気付かずに一人でフィーバーして、結局アンジュに強制的に黙らされることになった。
具体的には、襟首を掴まれて。
「こーら。止まりなさいって」
「うぎゅウッ!?」
「あごめん」
く、首がぁッ!?
高速で動いてるところをいきなり襟首を掴んで止められたせいで、衝撃で首が折れるところだった。そうでなくとも、目ん玉飛び出るかと思った。悪びれもせずにへらへらしているねーちゃんに猛然と抗議する。
「殺す気か!?」
「だってルーくん止まらないんだもの。もう敵居ないのに」
「それはごめん!悪かった!でももう少しやりかたってあると思う!」
俺が調子こいて暴走したのは事実だから、それは謝っておく。自分の非を認められない男にはなるなと親父から死ぬほど物理的に教育されているのだ俺は。
だからアンジュにも反省と改善をよーきゅーする!
「やりかたねぇ……例えば?」
「へ?えーと、そうだな」
不思議そうに腕を組んだアンジュに問い掛けられて、俺は頭を悩ませる。
そのときなんとなく目に入ったのは、アンジュが腕を組んだせいでものっそい強調された巨大なモノ。
「受け止めればいいだろ?折角でっけぇクッションあるんだし!」
「クッションて貴方ね……」
ぽんと手を打った俺の名案に、何故かアンジュは頭痛を堪えるような顔で深々と溜息を吐いた。
かなり冴えてたと思うんだが、なにがいけなかったのか。
「それ、私以外に言ったらダメよ?」
「なんで?」
「なんでも。それと女の子の身体的特徴については言及しないこと!」
「だからなんで?」
「だからなんでも!悪いことは言わないからお姉さんの言うとおりになさい?」
「なんか知らんが、わかった!」
こういうときは女の言うことを聞いておくのが正解だと、俺は親父と母さんの姿から学んでいるのだ!
「そんじゃあ、もう一狩り行こうぜ!」
「え。やだけど」
「なんで!?」
「だって私明日もお仕事だもの。帰って寝るわ」
そういうアンジュは別に疲れたようには見えないが、でも睡眠は大事だしな。
俺的にはまだまだ動き足りない感があるんだけど、でもさっきのねーちゃんとの共闘の楽しさを思うと、これから一人で魔物狩りしたとしても盛り上がらないだろうなぁ。そもそも俺は戦闘スタイル的に、単独で狩りをするときはどうやってもああいう感じにはならないのだ。俺の長所は機動力と一撃の威力。だから単独で魔物を相手取るときは基本的に一撃必殺一撃離脱を心掛ける。俺の耐久力では魔物と足を止めての殴り合いをするとサシならまだしも囲まれた瞬間にすげえ辛くなるから。
そしたら、今日は楽しい気分のまま切り上げますか。
ちなみに今日の戦果はどんなもんか、といつもの習慣で何気なく討伐者のライセンスカードを取り出した俺は、仰天した。
「なんだこのスコア!」
討伐者のライセンスカードには所持者が魔物を討伐した際にスコアを記録する機能がある。このスコアに応じてギルドから報酬が支払われるシステムだ。魔物を討伐することそのものに報酬を設けることで、戦闘能力のある人間が自発的に魔物を間引く構造を作ったのである。
というわけで先程の戦闘の分も俺のカードにはスコアが加算されているわけだが、そのせいでちょっと見たことがない数字になっている。
なんで驚いているのかというと、先の戦闘で大部分の魔物を殲滅したのはアンジュだから、本来は彼女のカードにスコアが加算されていなければおかしいのだ。パーティーを組んでいれば俺のほうにも分配されるが、そうではないわけだし。
一々誰が魔物にとどめを刺したかなんて確認のしようがないので、ある程度はどんぶり勘定にならざるを得ないのは事実だ。カードはあくまでも範囲内で魔物が消滅したことをカウントしているだけだから、例えば俺の真横に居る魔物をアンジュが遠くから倒すと、それが俺のスコアになったりもする。ただし同一範囲内に存在するカード間ではスコア情報が共有されるから重複してカウントされることはない。
で、俺のカードにこんだけスコアが溜まっていると言うことは、要するに範囲内に他のカードがないから全部俺のところに来たのである。
「アンジュ、ライセンスカードは?」
「持ってるように見える?」
肩を竦めたアンジュに、それもそうかと思い至る。
転神の難しいところだが、全く別の形態に変化するアヴァターを有する場合、変化する前にカードを誰かに預けておくなりしないと、アヴァター状態で倒したスコアが加算されないのだ。パーティー組んでれば仲間にその分入るからなんの問題もないけど。
その点、俺とパーティーを組んでいないアンジュの装いにはそもそもカードを仕舞っておけそうな場所が殆どない。強いて言えば――
「どこを見ているのかな?」
「いや、別に」
「口に出さなかっただけ学習したと褒めてあげる」
流石の俺でも一瞬前に注意されたことくらいは覚えている。
それはともかく、これだけのスコアとなれば貴族の金銭感覚でもお小遣いでは済まない報酬になると思うが、それを俺が丸々貰ってしまうのは気が引けるどころの騒ぎではない。重ねて言うが大部分を殲滅したのはアンジュなのだから。
「この報酬、どうしときゃいいんだ?」
「ルーくんにあげるわ。さっきのカップ麺の代金とでも思っといて」
「いやいや、多過ぎるだろ」
「お姉さんお金には困ってないの。貴方は新生活で何かと入用でしょ?」
「んん、まあ、そう言われると」
「たぶん、貴方が思っているよりもお金掛かるわよ。ここの学生生活って」
結局、まるで受け取る気の無いアンジュに押し切られる形で、全部俺の取り分ということになってしまった。
色々と金が出ていく状況なのは確かだし、助かるのも確かだ。生活費は親父が送ってくれるけど、あの適当な親父のことだから『足りない分は自分で稼げ』とか平気で言うし。
にしても、こんだけの報酬を平気でぽんとくれるあたり、さてはコイツ、相当なお嬢様だな?
ヌードルを食べる作法を知ってたし物腰も貴族っぽくはないけど、もしかするとデカい商家の令嬢とかなのかもしれない。
なんにせよ話が纏まったので、俺達は帰路につくことにした。
「ねーちゃん飛んで帰るのか?」
「そりゃあ、そうよ」
「俺も連れてってくれ!」
そこはかとなく嫌そうなアンジュに拝み倒して、なんとか了承してもらった。
だって空飛んでみたいじゃんか。
んで、アンジュには俺の両手を持ってぶら下げながら飛んでもらったんだけど、
「お、重っ……!!」
「鍛えてるからな!」
「貴方がどうとかじゃなくて、その馬鹿でかい剣がクソ重いのよ!!」
「へへへ。わりぃ!」
俺のクレイモア、持ち運びのために重量軽減の魔法が施されては居るけど、元が元だからなぁ。
ぶちぶち言いながらもちゃんと俺を学院まで輸送してくれるねーちゃんは、すげー良いヤツだと思う。
やっぱ、ヌードル好きに悪いヤツは居ないな。
ちなみに、下から見上げると余計にすげーなと思ったけど、学習した俺はちゃんと黙っておいた。
・2021/10 戦闘時の描写を追加。討伐者の報酬の説明を追加。細部の描写を修正。
・2022/7 連繋魔法の表記を修正。六章時点の説明に準拠。
・2023/1 ルークの台詞『ライセンスは?』→『ライセンスカードは?』に修正。




