FA御礼_side_Primrose_浴室
・というわけで、めちゃめちゃ遅くなったけど先々月貰ったFAのお礼で、プリムがサービスする話です(嘘)
・最近更新ペースが激落ちくんなのは、裏で色々やってるからなんですね。
・近いうちにタイトルとか変わったりするかもしれませんが、勘のいい読者の皆様は「あっ(察し)」てください。
~"転生令嬢"プリムローズ~
私は普段、クラリスちゃんかフォノンちゃんと一緒にお風呂に入っている。私ってこう見えてそれなりに高貴な身分なので、入浴にお世話係がいるのは普通のことなのである。というか私自身は『ひとりでできるもん』派閥なのだけど、クラリスちゃんが絶対に許してくれないよねっていう。
そんなクラリスちゃんと一緒のときは彼女に極限まで甘やかされて『いいこいいこ』されてしまうのが常なのだが、フォノンちゃんと一緒のときは二人で肩を並べてのんびりしていることが多い。本当はこの二人の中間くらいの振る舞いがメイドとしてちょうどいいのだと思うのだけど、まあ色々な意味でバランス取れたコンビになってきたよねこの子達。
というわけで今日はフォノンちゃんと一緒。
二人して目を線にして『ぼへー』とお湯に浸かっていたところ、フォノンちゃんがそういえばと口を開く。
「この前『アリーナ』でお嬢サマが試合をされてたときのことなんですけど」
「んー?」
ソルと戦ったときだねぇ。二人揃って素っ裸になったやつ。あの試合はフォノンちゃんもその場で観戦していたっけ。
「お嬢サマが水を操る魔法を使ってたじゃないですか」
「そだねぇ」
私の新魔法こと『オファニム』のことだ。ソルとの戦いで彼女のインチキじみた『旋武』を目にして、そこから着想を得て完成したんだよね。
正式名称は『Orbital Four-elements Alchemic Nimbus』といって、略して『OFANim』だ。
Orbitalは『円軌道』
Four-elementsは『四属性』
Alchemicは『錬精術』
Nimbusは『雷雲・光輪』
そしてOFANimとは『座天使』のことであり、車輪を象徴する存在で、森羅万象を回転させ創造の循環を為すとされる。
この魔法は循環する水流を根幹とし、その軌道そのものに魔法的意味を持たせることで魔法そのものの挙動に連動して魔法を連鎖的に構築する『呼吸する魔法』である。わりと傑作。
とまあ、そんな魔法オタクの蘊蓄は置いておいて、フォノンちゃんの言葉に耳を傾ける。
「あれってどんな水でも操れるんですか?」
「他の魔法使いの制御下にない水ならねー」
「じゃあじゃあ、たとえばこのお風呂のお湯を操ったりなんか……」
そう問い掛けてくるフォノンちゃんが何を期待しているのかはわかりやすくて、私は微笑ましい気持ちになりながらも少しだけ魔法を使う。
「もちろん。できるよ」
すると浴槽を満たすお湯の一部が、小さな無数の球体となって宙に浮かぶ。まるで気泡が水面に昇るように、あるいはその気泡が水面を飛び出してそのまま昇り続けたかのように、無数の水球が湯気と一緒に浴場の空へと上がっていく。
「わぁ……!」
ふるふると表面を微妙に波打たせながら浮かぶ水球が、照明を反射してキラキラと輝く。それを目にしたフォノンちゃんの瞳も同じようにキラキラと輝く。
いやぁ、こんなにわかりやすく感動してくれると嬉しいよね。これだからフォノンちゃんは堪らねえんだ。
「お、お嬢サマ! 触ってみてもいいですか!?」
「いいよー」
「やった!」
といってもただの水ですよ、と思っても口にしない。楽しみに水を差すこともないからね、水だけにってやかましいわ。
フォノンちゃんの前に少し大きめの水球を浮かべてあげると、ゆっくり上に昇っていくそれに彼女は人差し指を差し込んだ。というかたぶん突っつこうとしたのだけど、思ったよりも抵抗がなくて指が通り抜けちゃった感じだ。フォノンちゃんはきょとんと目を丸くしている。
「あ、あれ? なんか見た目てきにぷよぷよしてるかと思ったんですけど」
「んふふ。お湯を張った湯船だって水面がぷよぷよしてたりしないでしょ?」
「言われてみれば……」
フォノンちゃんが水球を手でぱちゃぱちゃすると、分離して飛散したそれらが更に小さな雫となって、最終的には湯気と一体化して見えなくなる。
「シャボン玉みたいな膜?があると思ってました。勝手なイメージですけど」
「まあ、そういう場合もあるわね」
「これって、なんで丸くなってるんですか?」
不可視の膜を作って、その内部を水で満たすことで見た目上はこれと同じ現象を起こすことは出来る。他にも外力によって水の形状を操作することもあるし、物理的な水ではなく半分術理化した水を用いれば魔力を操る要領で自在に操作することも出来る。
ただ、今回についてはもっとずっと単純な方法で、
「これはね、『無重量化』っていう処理をしてるの」
「重さがないってことですか?」
「そう。といっても水に働く重力の作用を打ち消して疑似的な質量ゼロを実現してるだけなんだけど」
「重さがゼロだと丸くなるんですか?」
「重さがないから宙に浮かぶし、浮かんだ水に働くのってほぼほぼ表面張力だけだから」
「コップから水が溢れないやつ!」
「あれって表面積をできるだけ小さくしようとする作用なの。だから最も表面積が小さい形状である球形をとるってわけ」
つまりこれは水自体にはなんの細工もしていなくて、空間内部の重力を打ち消すという力場を展開して、その中の水は自然とこういう挙動を取るというだけなのだ。ちなみにこういう重量関係を操作する魔法というのは地属性とか闇属性の範疇となるため、水魔法だけでは再現出来ない。
フォノンちゃんは「ほぇー」と感心したような声を上げる。かわいい。
「あれ? それだとその場に浮かないで上に昇っていくのはなんでです?」
「それは単純に空気の流れ。湯気が昇っていくのと同じことね」
「なるほど! えへへ、なんかちょっとだけ賢くなった気がしちゃいます」
実際に知識が増えたなら賢くなったと思うよ。かわいい。
フォノンちゃんって教えたがりおじさんとの相性が良さそうだよね。なに教えてもちゃんと『ふむふむ』って聞いてちゃんと『すっごーい!』というリアクションをしてくれるから。
勿論、名誉教えたがりおじさんである私もすっかり気分をよくして、少しだけサービスしたくなってしまった。
「こんなのもあるわよ」
私が浴槽のお湯を操って生み出したのは、一頭のイルカである。
周りの湯と同じく透明だが、湯に溶け込むことなく、光の屈折の影響で輪郭だけが見て取れる。そこまで大きくはないが、この水深だと特徴的な背ビレが水面上に飛び出してしまう。
「すごい! 泳いでる!」
透明なイルカが水面を割って湯船を泳ぐ様子に、フォノンちゃんは手を叩いて大喜びだ。このイルカは最初のフォノンちゃんのイメージ通りに、不可視の膜を作って水を任意の形状に固めているのである。泳ぐ動作は私がアドリブで動かしてるだけなんだけども。
この膜というのは術理の産物なので、完全に不可視かつ非実体のオブジェクトにすることも出来るし、任意の特性を与えることも出来る。つまり、
「おおー、ぷにぷにしてる!」
「うふふ」
フォノンちゃんの近くにイルカを寄せると、おっかなびっくり触ってみた彼女が歓声を上げた。今このイルカがどういう状態なのかというと、簡単に言えば『水風船』である。中はただの水だけど、表面だけが不可視の膜によって弾力を持っている。
イルカに抱き着いたフォノンちゃんを運ぶようにゆっくり泳がせてみた。
「きゃー♪」
うんうん。裸の美少女とイルカが戯れる光景は絵になるなぁ。
ここで不埒な想像をした諸君は頭マルトーなので気を付けたほうがいい。単に子供がお風呂で遊んでるだけだからね。
そんな光景を眺めつつ、私はなんとなく疑問を口に出した。
「ねぇフォノンちゃん」
「はい?」
「フォノンちゃんはさ、自分も魔法が使いたいって思うこと、ある?」
興味本位の質問ではある。
魔法使いには非魔法使いの気持ちがわからない。これはよく言われる話で、生まれた時から魔力を認識出来る人間には、認識出来ない人間の気持ちなどわかるわけがないからだ。無論、逆も然りである。
ただ、私は前世の記憶を持っているので、魔法が使えない自分というのも知っている。もし私がフォノンちゃんの立場だったとしたら、きっと魔法使いを羨ましく思うことだろう。でもフォノンちゃんにはそういう素振りがあまり見えないので、どうやって折り合いを付けているのかと気になったのだ。
フォノンちゃんはイルカを抱き締めながら、淡い表情で笑った。
「もちろん、ありますよ」
「やっぱりあるんだ」
「それはそうです。昔は魔法使いになりたいと思ってました。でも今は、魔法を使いたいとは思っても、魔法使いになりたいとは思わなくなった、ですかね」
同じようなことを言っているようで、その二つは全然違うのだ。
魔法とはただの技術であり、魔法使いとは義務を伴う階級のことだから。
「この学院にきて、お嬢サマやアトリーさん達みたいな魔法使いの人達と関わってみて、特別な人達はやっぱり違うんだなって」
彼女は少し言葉を探すようにして、
「きっとお嬢サマ達は、魔法なんて使えなくても特別なんです。魔法使いだから特別なんじゃなくて、特別な人達が魔法も使えるってだけで。じゃあアタシが魔法を使えたとして、特別な人間になれるかっていったら、たぶん全然無理だと思うし」
「そうかな?」
「そうですよ。だってアタシ、魔物となんて怖くて戦えないですもん」
フォノンちゃんは恥ずかしそうに笑う。
だから自分は特別でなくてもいいのだと、そう思うようになったのだろう。彼女の悟りは一種の真理でもあって、魔法使いは特権に伴う義務として魔物と戦うことを強いられるが、本人が戦いに向いているかは関係ないのだ。ゆえに、それで命を落としたり心身に重い傷を負う者だって決して少なくはないのだ。
ちょっとだけしんみりした空気を払拭するように、フォノンちゃんが「あ、でも」と明るい声を出した。
「アタシはそう思ってますけど、たぶんクラ姉は本気で魔法使いになりたいと思ってますよ」
「えぇ? クラリスちゃんこそそんな素振り少しも見せないけど」
「甘いですよお嬢サマ。クラ姉なんて四六時中お嬢サマと一緒にいたいと思ってるんですから、戦いにもついていきたいと思ってるに決まってます!」
魔法が使えないから足手まといになることがわかっていて、だから自重しているだけで、もし自分にも戦える力があるならば有無を言わさず強引にでもついてこようとするだろう。
すげーありそう。
なんか容易にその光景が想像出来るわ。
クラリスちゃんってああ見えて滅茶苦茶ガッツあるから、魔物相手でも全然怯まなさそう。
「うーん。でも」
それは、と私は考えた。
「たぶん心強いよりも、心配が勝っちゃうなぁ……」
ちなみに。
この後、のぼせる前にと浴室から出た私達に、クラリスちゃんの『お楽しみでしたね……』という台詞と恨めしそうな視線が突き刺さったのは言うまでもない。
翌日、クラリスちゃんと一緒に入浴した際に私がサービスを強いられたのも、言うまでもない。




