753話_side_Luke_大学区_射撃場
~"英雄の末裔"ルーク~
今週からついに待ちに待った『戦技舞闘会』が始まるということで、俺は早速予選表を入手してきた。その足で向かうのはすっかり俺達のチーム拠点と化したいつもの射撃場である。予選表は紙媒体で配布される物とは別に、学生ロビーの『ターミナル』に表示されるのを確認することも出来る。だが、発表日の今日は例の如くロビーは学生でごった返していることが予想されるので、というか実際そうだったので、我儘なプリムとカーマインがロビーに向かうのを嫌がったのである。
仕方ないから俺が中央区まで行って紙の予選表を入手してきて、いつもの射撃場で皆で確認しようということにした。なので二人は先に射撃場で待っているはずだ。
ちなみに予選表の中身は俺もまだ確認していない。先に見ちゃうのは抜け駆けっぽくてアレだしな。
「おらお目当てのブツだぞー」
ということで紙をひらひらさせながらいつもの部屋に入ると、二人から非常に『らしい』労いの言葉を掛けられる。
「うむ」
と鷹揚に頷いているのがカーマインで、
「でかした」
と鷹揚に頷いているのがプリムだ。
一緒じゃねーか。
カーマインの実質専用室と化している個室射撃場は、射撃魔法等の練習をするためのスペースと休憩用のスペースが一体になっている構造で、二人の姿は休憩スペースの中にあった。カーマインはいつも通りにソファにふんぞり返っているが、プリムのほうは珍しいことに茶器を触っているようだった。
「んぉ、プリムなにしてんだ?」
「見てわからんのか。茶を淹れているにきまっとろーが」
「クゼが居ないからな」
ああ、茶を淹れるヤツが居ないから自分でやるしかないのか。なおクゼが居ないのはアイツが他のチームに参加しているからだ。まあ姫さんことスカーレットのチームなんだけどさ。姫さんのチームに招集された際のクゼはわりと筆舌に尽くし難い微妙極まる表情をしていた。まあ、なんだかんだで気心の知れた同性のカーマインに仕えるのと、異性の姫さんに仕えるのではまったく別種の苦労がありそうだからな。カーマインの無理難題から解放されるとしても手放しで喜べなかったんだろう。
んでまぁ、話を戻して王族のカーマインが自分で給仕なんてするわけがないし、するべきでもないのはわかるんだけど、それを言ったら大貴族のお嬢様のはずのプリムがやけに手慣れているのはなんなのだろうか。コイツ普通に美味いラーメンも作れるし、なんでも出来るのは今更だから別に驚きもしないけども。
「プリム、俺にもくれよ」
「ん。まってろ」
「おお。優しいじゃん」
自分でやれ、とかにべもなく言われるもんだとばかり思っていたが、予想に反してプリムは二つ返事で俺のぶんのお茶も用意してくれた。
俺が地味に感動していると、プリムは呆れたような顔になる。
「あのな、私とて働きに報いる心くらいは持ち合わせているぞ」
つまり、俺が予選表を入手してきたことに対するご褒美ということか。となると見るからに何もしていないカーマインにお茶を淹れてやる義理はないのでは、と俺はカーマインを指差してみる。俺に無言で指差されたカーマインは不愉快そうに顔を顰め、一方のプリムは小さく溜息を吐いた。
「カーマインはいいのだ。自分では何もできないのだから、お世話してやらねばかわいそうだろう」
「ああ。そういう」
「……お前達が俺を馬鹿にしていることだけはわかるぞ」
「いらんのか?」
「…………もらおう」
結局飲むんかい。
まあ、プリムがカーマインをからかって遊んでいることだけは理解した。なんか、チーム組んでつるむようになってから知ったけど、プリムってわりとカーマインのこと可愛がってる節があるよな。変な言い方だけど。
さて、一息ついたところで、本日の本題である。
「っし。早速見てみようぜ!」
机上の茶器を脇に寄せ、俺は取ってきた予選表を広げる。
ロビーで見ることが出来るからか、紙媒体の配布数は多くなくて早い者勝ちって感じだったので、俺が入手出来たのもこれ一枚だけだ。
なので三人で一緒に見るしかない。背の高いカーマインは俺の後ろから覗き込めば済むが、ちいちゃいプリムはそうはいかない。プリムに前を譲って俺がカーマインと一緒に後ろから覗き込むのが丸いかなと考えていると、プリムは特に躊躇もなくひょっこりと俺の懐に潜り込んできた。
おっと?
めっちゃ距離近いけど、まあプリムが気にしないなら別にいいか。
てか、ちょうど俺の鼻先のあたりにあるプリムの髪が綺麗すぎてビビる。しかもなんかすげぇいい匂いがするんだけど、女子連中からやたらといい匂いがしがちなのはなんなんだろうな。
「ふむふむ……ま、予想通りといったところか」
ざっと目を通してプリムが呟いた。
たぶん彼女が何を指して言っているのかはわかる。ある意味で俺達の主目的となるレオンヒルト王子のチームがどこに配されたのかを確認した感想だろう。
予選は全部で8つのブロックに分けられていて、王子のチームはAブロック。そして俺達のチームはDブロックである。予選は各ブロックごとのトーナメント形式で、最も強いチームが本戦に進むのだ。んで本戦は勝ち上がってきた合計8チームによるトーナメント戦ってわけ。
8チームで一ブロックみたいなので、予選では三回試合を行うことになるんだな。本戦のトーナメントを合わせれば六連勝で優勝ってことだ。
つまるところ、予選ブロックが別れた時点で、俺達が王子のチームと当たるのは本戦でしか実現しないのだ。一応、予選ブロックの振り分けはランダムに決められているという体だが、ある程度は大人の事情が絡むことは致し方ないのだ。具体的には、王子とカーマインの因縁の対決は今年の目玉となるカードなので、予選で済ますわけにはいかないっていう。
「ていうか、こんなにチームあるんだな。今年ってこれでも例年より少ないはずだよな?」
「……単純に考えて試合数自体は三分の一になるはずだからな」
今年のレギュレーションは史上初めてのチーム戦ということで、個人戦だった昨年までと比べて試合の総数は減っているはずだ。しかしながら、この予選表を見る限りでは結構な数の学生がエントリーしていることになる。単純計算で三人チームx8のブロックが8個あるのだから、参加人数は192人となる。
高等部の在学生がだいたい千人くらいだったはずだから、2割って考えるとまあそんなもんなのか。
しかし今年でこれなのだから、個人戦だった昨年までの予選表はとんでもないことになっていたのではなかろうか。
俺とカーマインが言葉を交わしていると、安定の『何でそんなこと知ってるんだ先生』ことプリムから補足が入った。
「今年は例年よりも参加者の総数が多いのだ」
「それってあれか、例の優勝賞品につられてってことか」
優勝者は『創星祭』の舞踏会で好きな相手をパートナーに指名出来る権利がもらえるとかっていうあれ。
するとプリムは「それもあるが、」と続ける。
「単に、参加するハードルが例年より低いのだろう。要は、一人で参加する勇気はなくて尻込みしていた者達が、友人と一緒であればと思い切った結果ということだな」
「へー。言われてみれば、確かにそれはありそうだな」
「学院長などは舞闘会の参加者が年々減少傾向にあることで気を揉んでいたようだから、今年のレギュレーションの効果は『しめしめ想定通り』というところだろう」
「へー」
俺なんてアホのようにへーへー言うことしか出来ないが、マジでなんでプリムはそんなこと知ってんだ。なんで俺と同じ一年生のはずのコイツから例年の傾向とか学院長の懸念とかの情報が出てくるのか、これがわからない。
改めて、俺達が属しているDブロックを注視してみるが、ざっと見では特にヤバそうな相手は見当たらなかった。
「うーん……ソル先輩に、レーナに、姫さんに王子と……ヤバそうなやつらは皆別のブロックなんだな」
「その辺はまあ、謎の力が働いて上手いこと分散させられているのだろう。予選はアリーナの設備が使えるわけではないから、練術場を更地に変えるようなスーパー魔法大戦が勃発されても困るしな」
プリムがそう言うと、カーマインが意味ありげな笑みを浮かべて彼女を見た。
「常習犯が言うと説得力が違うな?」
「え゛?」
なにプリムお前、そんな何回も練術場更地にしてんの?
でも全然意外じゃない! 不思議!
するとプリムは不本意そうな仏頂面になった。
「一回目はアトリーのせいだし、二回目は某先輩のせいだ。というか! たった二回で常習犯呼ばわりされるのは納得いかんのだがっ」
などと供述しており。
いや、普通は一回もやらないんですよプリムさん。




