751話_side_Luke_一方その頃
~"英雄の末裔"ルーク~
新たに仲間に加わったプリムとマリア先輩に簡潔に説明をすることにした。俺達はラウンジで五人用のテーブル席を確保して会話をしていたわけだが、プリム達が加わると決まった瞬間にクロト先輩とタナカ先輩が自然と立ち上がって二人に席を譲っていた。クロト先輩はキャラ的に女子に席を譲るのも慣れた様子だけど、意外といってはなんだがタナカ先輩もこういうところは非常にスマートだ。
結果として俺は男子で一人だけ座ったままという若干気まずい状態なのだが、意味もなく立ち上がるのも馬鹿みたいなので努めて気にしないことにする。ちなみに、席を譲られたほうも個性が出ていて、プリムはというとこれまた慣れた様子で当然のように席に着き、マリア先輩は過剰なくらいに恐縮しながらためらいがちに座っていた。いや、この場で一番高貴なのあなたなんですけどっていう。
まあそれはともかく、俺はとりあえず二人にレーナとルーセル先輩の婚約事情について何か知っていることはないかと訊いてみたところ、プリムは自信満々に答えた。
「言っておくが、アシュタルテの社交嫌いはダンクーガにも負けていないぞ」
「つまり全然知らないってことか」
「うむ」
まあそうだろうと思ったけど。プリムってメチャクチャ頭いいし色々なこと知ってるけど、これは明らかに興味なさそうな方面の話題だもんな。
というわけでプリムには最初から期待していなかったのでさっさとスルーして、隣のマリア先輩に訊いてみる。先輩は公爵令嬢として否応なく社交界にも顔出してただろうし、なによりレーナと同い年なのだから、この中では一番知ってる可能性がある人だ。
するとマリア先輩は申し訳なさそうに小さくなって、
「あのあの……私も、その…………ハートアートさんが知っている以上のことは……」
「マリアちゃんでもダメかぁー」
あちゃー、とクロト先輩がおどけたように肩を落とした。
まあ知らないものは知らないから、しかたない。こう言っちゃあ悪いけど、マリア先輩はどう見ても交友関係が広いほうじゃないし、情報通っていうイメージもないしなぁ。
ていうか、そういう意味だと先輩の弟であるアルヴィンのほうがなんだかんだ知ってそうまである。
大なり小なり落胆する俺達を他所に、プリムがしれっと口を開いた。
「私は知らんが、知っていそうな人物には心当たりがあるぞ」
「そうなのか?」
「ああ。この件に関してはおそらく、当事者以外で最も詳しいと言える人物のはずだ」
勿体ぶったような物言いは非常にプリムらしいが、そうならそうと最初から言ってくれればいいのに。
全員の期待を浴びたプリムは、何故か徐に俺のほうを見た。
「え? 俺?」
「貴様ではない。貴様の母親だ」
「はい?」
流石に予想外過ぎて反応出来なかった俺に変わって、ミリティアが口を開く。
「イザベルさん? 何故かしら」
「マクダレーナ先輩が『剣の誓い』に加わったのはローティーンの頃なのだろう? だとすれば彼女の身柄をクランで預かるにあたって責任者であるダンクーガ家、つまりシリウス閣下とイザベル夫人だが、彼らはマクダレーナ先輩の両親と必ず遣り取りをしているはずだ」
「まあ、そうね。時系列的にはマクダレーナさんがクランに参加したのはそれこそ婚約破棄されたすぐ後くらいだから、彼女のご両親から事情を聞いてる可能性が高いってことね」
言われてみれば、それはそうだ。俺やレーナはその当時ガキだったからその辺に気が回らなかっただけで、普通に考えれば親同士の交流はあっただろう。じゃなければ伯爵令嬢が単身で討伐者クランに参加など出来はしない。
強いて指摘するとすれば、その理屈だと一番詳しいのはたぶんウチの親じゃなくてクレメンスだろうってことかな。『剣の誓い』の実質的な責任者というか支配者って圧倒的にクレメンスだから。
と思ったがプリムにはそんな俺のあっさい思考はお見通しだったようで、
「客観的な情報を最も高精度で保有しているのはクリューガー子爵かもしれないが、マクダレーナ先輩のプライベートな領域までとなると、イザベル夫人に訊いたほうがよいだろう」
「そうなるのか。確かに、レーナと一番仲いいのって母さんだしなぁ」
なんでか知らないけど矢鱈と仲いいんだよなあ、母さんとレーナ。
ともあれ、そういうことなら早速母さんに訊いてみることにしよう。討伐者の社会は昼夜が逆転しているので、たぶん親父とかはこの時間寝てる可能性が高いけど、母さんは大抵もう起きてるだろうから、通話出来るはずだ。
そう思って俺は『PiG』を取り出すのだが、なんかアレだな。こうやって知り合い達の前で母親に連絡するのって、謎に恥ずかしい気がするな。
などと尻込みしている時間も惜しいことだし、俺は勢いで端末を操作し耳に当てる。
予想通り、すぐに繋がった。
『もしもーし』
「母さん、俺だけど。ちょっと訊きたいことがあるんだ」
『ん? 珍しいね。なに?』
っと、話をする前にこれを言っておかなければ。
「スピーカーにしてもいいか? 実は今、友達と先輩が一緒でさ」
『え!? おともだち居るの? それを先に言ってよ。ほらスピーカーにして、早く早く』
「えっ、お、おう」
何故か母さんに急かされて、わけもわからず俺は通話を皆にも聞こえるようにスピーカーモードにしてテーブルの上に置いた。
すると母さんはこころなしか余所行きの声で、
『どうも~ルークの母です~。息子と仲良くしてくれてありがとうございます~』
「ちょ、やめろよ母さん、恥ずいって!」
『えーいいじゃんか別に。一度でいいからこういう母親ムーブしてみたかったんだよね!』
なにをするのかと思えば。唐突に謎の辱めを受けた気分である。
意外とノリと勢いで生きているところがある母さんの悪いところが出ている。
皆からの視線が居た堪れないんだが。先輩達は揃って微笑ましそうにしてるし、同級生連中は苦笑気味だ。そして苦笑のままミリティアが言う。
「お元気そうですね、イザベルさん」
『おっ、その声はミリティアさんだね? 他の皆も居るのかな?』
「ええと、いえ、居るのはノエルと――」
そのまま流れでミリティアが名前を挙げていくと、最後にプリムの名前が出たところで母さんが『えっ!』と反応した。
『プリムローズさんも居るの!? あっあっ、ごめんなさい私ったら変にはしゃいじゃって、あっ、先日は大変お世話になりまして』
「言うほどのことはしていませんがね」
『いえいえそんなそんな』
相変わらずというか、プリムには若干ビビり気味の母さんである。
たぶん初対面で圧倒されて苦手意識が出来たんだろうな。自分の親が自分の同級生にビビり散らかしている現実は、情けないというか悲しいというか。
尤も、真面目モードの時のプリムってマジで存在感あって、勝てないオーラすごいし、初対面がそれだったから母さんに苦手意識が出来るのも無理からぬ話かもしれない。
ところで母さんの言った『先日』というのが、口振り的に『オンスロート』の時の話ではなさそうだが、
「というかなんの話? プリムお前またなんかしたのか?」
「またとはなんだ。大したことではない。貴様の妹のところにウチからメイドを一人派遣しただけだ」
「セラの?」
確かについ最近、連絡だけは受けたけど。
セラの使用人枠はこれまでラクサーシャ一人しか埋まっていなかったのだが、そこにもう一人が決まったのだと。事情持ちのセラの専属メイドは護衛も兼業なので、腕が立って信用出来る人材がようやく見つかったということだと思っていたが、まさかプリムの紹介だったとは。
「てことは侯爵家のメイドってことか?」
「いや、私の私兵だ。ってそんな話はどうでもよろしい」
プリムの私兵ねぇ。そう言われて真っ先に思い浮かぶのは当然というかスレイことアンジュの存在であるが、もしアンジュがセラのメイドになったならばセラのテンションがもっと気持ち悪いことになっているだろうから、そうでないことだけはわかるけど。
まあプリムの言う通りその話は今はどうでもよくて、後でセラに訊けばいいだけというか、その私兵メイド本人がセラのところ――即ちすぐ会える場所に居るのだろうから挨拶がてら行ってみればいいか。
というわけで強引に軌道修正して、改めて母さんに話を聞くことにする。
「――っていう状況なんだけど」
『あーはいはい。レーナちゃんとエドヴァルド君の話ね。まあ正直、そんなに驚きはないかな』
「ってことは、なんか知ってんだな、母さん」
プリムの予測が的中ってとこだ。
やっと有力な手掛かりが得られそうな雰囲気に、俺達の期待が高まる。ちなみに俺達が居るのは学生ロビーに併設のラウンジの一つなので、周囲には普通に他の学生も居るのだが、ちゃんと結界を張っているので周りに会話が漏れる心配はなしである。
なお俺が結界を張る瞬間だけはプリムとマリア先輩はわざとらしく目をふさぐジェスチャーをしていた。執行部的にはアウトな行為だけど見逃してくれるってことらしい。
『そもそも、レーナちゃんがウチのクランに参加したのって、婚約破棄が発端と言えなくもないからね。その辺の事情は彼女のご両親から聞いてるし、レーナちゃん本人からも個人的に聞いてるよ』
ただ、と母さんはそこで言葉を切った。
それから声のトーンを真面目なものにして言う。
『当然だけど、私が勝手に喋るわけにはいかないことも多くある』
「そりゃまあ、そうだよな」
『うん。だからね、調べてわかるようなことくらいなら教えてあげるけど、それ以上のことが知りたければレーナちゃん本人に訊きなさい』
他の皆もいいね? という念押しの言葉に俺は周りを見回す。
すると全員が頷いてくれたので、俺は代表して母さんに了解を返した。




