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悪逆令嬢のうろ覚え救済論(旧題:輪廻転生って信じる?)  作者: Lynx097
九章_【ゆる募】青春のはじめかた

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599話_side_Serafina_学生区



 ~"新米貴族令嬢"セラフィーナ~



 ドロシーさんからの情報提供を受けてロンベルクさんの講義スケジュールをバッチリ把握したわたしは、満を持して彼女との本格的な接触を図ることにした。当たり前だけどわたしも自分の講義に出席しなくてはならないから、クラスが異なる彼女と遭遇するのはそもそも難しい。講義の合間の休み時間だって限られているのだから、首尾よく会えたとしても多くの言葉を交わす時間はないかもしれない。

 だけどそれでも、それでいいのだ。まずは会いに行くこと。そしてわたしの存在を彼女に認識してもらうことからだ。根競べならば自信がある。伊達にランディーに付き合って長々と底辺討伐者をやっていたわけではないのだ。



「で? 効果はあったのか?」


「それはもう!」



 呆れを隠そうともしないリタの問いかけに、わたしは自信をもって答えた。



「わたしの見立てでは、たぶんロンベルクさんには『マジくそウゼェ』って思われてると思う!」


「好感度が上がるどころか底辺突き抜けてんじゃん」


「いいの!」



 大事なのは、彼女がわたしの存在を無視出来なくなってきているという事実だ。マイナススタートでもいいから、まずは繋がりを作ることが大切だとわたしは考える。

 そのためにドロシーさんに依頼をしてまで彼女のスケジュールを把握したのである。休み時間に次の講義室に向かうために、絶対に避けては通れない場所で待ち伏せをすれば必ず彼女とお話出来るって寸法よ。



「あんたメチャメチャたち悪いな」


「自分でもそう思う!」



 逆の立場だったらブチ切れてる自信がある。

 わたしのやり方は褒められたものではないかもしれない。自分が正しいと自信をもって言えるわけもない。でも、何もしないよりはマシだと思うから、だからわたしは行動するのだ。

 わたしは実感として知っているから。



「だって、頑なな心は解かせるものだって、スレイさんが教えてくれたから!」


「スレイ様が言うんなら間違いないな。うん」



 スレイさんの信者であるリタは彼女の名前が出た途端に掌を返してうんうんと頷く。

 現在わたし達が居るのは、講義棟から貴族学生寮の方面に向かう道の途中だ。帰り道というわけではなくて、周りにこれと言って何もない場所で二人で立ち話をしている。

 勿論、寮に帰るであろうロンベルクさんが通りかかるのを待ち伏せるためであった。講義の合間の休み時間は限られているが、放課後ならば時間はいくらでもある。ロンベルクさんは特に部活とかに所属しているわけではないので、放課後になれば寮にまっすぐ戻るはずだ。なんでリタが居るのかというと、これは完全にたまたま会っただけである。偶然遭遇した彼女が、わたしの行動に思うところがあったのか同行を申し出たということだ。まあ、リタはわたしがロンベルクさんにこだわることをよく思っていないだろうから、心配半分監視半分といったところだろう。

 寮へと戻る学生が通りかかる度に奇異の視線で見られつつも、わたし達は待ち続ける。



「にしても、全然来ないじゃん」


「そうだね? 寮に戻るなら絶対ここ通るはずなんだけどなぁ」



 ロンベルクさんが今日最後に受けた講義の場所から帰り道を予測したわたしの完璧な作戦に穴などあるはずがない。最後に講義を受けた場所の位置関係的に、わたしが待ち構えるより先に彼女がこの道を通過することは物理的に不可能なのだ。そうなるように機を見極めたからこそ、満を持して今日この場で待ち構えているのである。



「諦めておとなしく帰るって選択肢は?」


「ない!」


「あ、そう」



 別にリタがわたしに付き合う必要はないのだが、なんだかんだで彼女も帰る気はないらしい。

 まあ、交わす話題なんていくらでもあるので、時間を持て余すことはないのだが。そういう意味ではリタが付き合ってくれることは素直にありがたいし、嬉しい。



「そういやランディーはうまくやってんの? てか最近なにしてんのあいつ」


「ランディー? なんかクラークさんに色々教わりながら楽しそうにしてるよ」



 クラークさんは中年のおじさん使用人で、ルークがここに入学する際に従者として雇われた人だ。ランディーも現在はルークの従者として学院に滞在しているわけで、クラークさんは直接の先輩となる。わたしも会って話したことがあるけど、普通に気のいいおじさんって感じで、面倒見もよいみたいだ。



「なんか、メイドさんと違ってボーイさんってあんまり忙しくないらしいね。ランディーも結構暇そうにしてるよ」



 クラークさんに仕事を教わっているのは確かなのだが、そもそもの仕事量が少ないのですぐに片付いてしまうらしい。なのでランディーは空いた時間はクラークさんにくっついて外出したり、図書館に行って自主勉強したりしてるそうだ。勤勉なランディーって似合わなくてなんか変な感じだけど、彼は彼でわたしの助けになるべく頑張ってくれているのだとわかっているから応援するし、心配もしていない。



「あー、それはボーイだからっていうより、ルークの従者だからってほうが大きい気がするな」


「そうなの?」


「そりゃそうよ。男子だって色々なやつがいるんだから、社交的なやつの従者は手回しで忙しいし、我儘なやつの従者はやっぱり手回しで忙しいでしょ。方向性は全然ちがうかもだけど」



 なるほど。言われてみれば確かにそうか。ルークって基本的に自分でなんでもやっちゃうし、貴族的な催し物――例えばお茶会とか、いや男子の場合は何になるんだろう?――に参加することも主催することも基本ないから、結果的に従者の出番が非常に少なくなりがちということだ。そういう意味ではリタも似たようなものなので、暇なメイドも居れば忙しいボーイも居るというだけだ。尤も、傾向的には間違いなくメイド界隈のほうが多忙なようだが。



「じゃあ、レックスのとこのダリオさんとかは忙しくしてるんだ?」



 レックスは非常に社交的なイメージだから、他家との関係性を円滑にするためにボーイのダリオさんはさぞや忙しく動いているに違いない。わたしのその予想にリタは微妙な顔をした。



「間違っちゃいないけど、たぶんセラがイメージしてるのとは違う」


「そうなの?」


「てかあそこは主従そろって普通じゃないから、常識にあてはめないほうがいい」


「へー」



 まあ、レックスが普通じゃないというのは納得出来るところだ。わたしはそんなに付き合いが長いわけでもないし、単なる友達の一人くらいの関係でしかないが、それでもあのレックスという男が色々と規格外なのはわかる。なんというか、どう考えても貫禄が同い年のそれじゃないんだよね。言われなければ絶対年上のお兄さんだと思っちゃう。



「リタのほうはどうなの? ルークとうまくやってる?」



 婚約者だし、傍目に見てても仲睦まじいというか微笑ましい二人なので特に心配することもないと思っていたけど、しかしリタはわたしの言葉に対して変な顔をした。



「え、なに? なんかあるの?」


「なんかっていうほどでもないけど、あいつ最近しょっちゅうラーメン食べに行ってるのよ。それも女子と」


「え!?」



 それは大問題なのでは。

 女子と二人で、という話ならば完全に有罪だが、聞けばどうやら女子も居るグループの一員として、っていう話みたいだ。

 リタはむすっと憮然とした表情で言う。



「まあ、ルークから事情は聞いてるし、あいつがラーメン狂いなのは今更だから別にいいけどさ。ちょっと面白くないとは思う」


「ならリタも一緒に行けば?」



 複数人のグループだというのなら、そこにリタが加わってもいいはずだ。そう思ってわたしが言うと、リタは表情を引きつらせてぶんぶんと首を横に振った。



「無茶言うなっ! あんな面子に混じってメシなんか食えるか!?」


「えぇ……?」



 大概怖いもの知らずなリタがこうまで言うって相当だと思うのだけど、一体ルークはどんな面子とラーメン食べに行っているのだろうか。

 ちなみに余談だけど、ルークのラーメン好きのきっかけはシリウスパパらしい。ルークがまだ幼い頃、当時はラーメンというものは全然マイナーな異国料理だったわけだが、滞在先でたまたまラーメンを提供している店を見つけたシリウスパパが物珍しさから興味を持ったらしいのだ。それでベルママと、幼いルークを連れてその店舗を訪れて食事をしたところ、ルークが甚く気に入ってしまったという経緯だそうな。その後もルークはたびたび両親にラーメンを食べたいとねだったらしいが、とはいえ材料やレシピの問題があって家庭で提供出来るようなものでもなく、代替案としてクレメンスさんがどこからともなく調達してきたのが、現在もルークの鞄内に常に二つはキープされていることで有名なあの『カップ麺』というわけだ。いきなり話に出てきたクレメンスさんが当然のように問題解決してもわたしは驚かなくなった。だってパパの昔話って大抵そのパターンだから。


 などと雑談していると、ふとリタが何かに気付いた様子でわたしを見た。

 彼女の視線はわたしの顔ではなく、その少し下あたりに向けられている。



「……ねえセラ。なんか、あんたの胸のとこで光ってるんだけど」


「は?」



 素っ頓狂なことを言われたわたしは素っ頓狂な声を上げて、咄嗟に自分の胸元を見下ろした。すると確かに、制服のブラウスの隙間から、微かな光が零れているではないか。

 慌ててわたしは首にかけたチェーンを手繰って、制服の下にしまっていたそれを引っ張り出した。



「『にこちゃん』がまた光ってるぅ……!」


「いやどうなってんのそれ」



 トーリさん作、スレイさんからの贈り物であり、わたしの救世主でもある護符(タリスマン)の『にこちゃん』様である。元々は外部からの魔法的な干渉に対抗して赤熱化するという代物だった『にこちゃん』だが、今は特に誰かから攻撃されているというわけではない。『にこちゃん』の光り方も赤熱化の色ではなく、どこかで見た覚えがあるような気がしないでもない柔らかな白い輝きを帯びていた。

 これは――



「『にこちゃん』がわたしに何かを伝えようとしている……?」


「えぇ? ただの護符じゃなかったのそれ」


「ううん。『にこちゃん』はブラッドフォードの戦いで進化して『にこちゃんロード』になったんだよ」


「???」



 あの戦いでわたしの『にこちゃん』はトーリさんが作った他の無数の『にこちゃん』達を束ねる存在となり、戦場に巨大な光の大樹を顕現し、同士討ちして傷つく多くの討伐者達を救ったのである。

 あとでトーリさんにそのことを話したら、勿論そんな機能などあるわけがないと言われてしまい、結論としてはわたしの有する特異な魔法資質がなんやかんやした結果として『にこちゃん』はなにか別物に変質――即ち『にこちゃんロード』に進化したのだということになった。

 そう、この白色の輝きは、あの戦場に現れた光の大樹と同じもの!

 このタイミングで『にこちゃん』がわたしに伝えたいことがあるとすればそれは、



「ロンベルクさんの身に何かがあったんだね。そうなんだね『にこちゃん』!」


「護符と会話しようとするな」



 リタが何か言っているが、わたしには聞こえていなかった。

 チェーンを持って『にこちゃん』を眼前にぶら下げると、不思議なことに『にこちゃん』は独りでに回転して、その笑顔がゆっくりと一つの方向を指し示したではないか。まるで方位磁針のように!



「この方向にロンベルクさんが居るんだね。そうなんだね『にこちゃん』!!」


「嘘だろオイ……」



 わたしやわたしの大切な人達を何度も救ってくれた『にこちゃん』を疑う気持ちなどあるわけがない。わたしはぴたりと静止した『にこちゃん』の指し示す方向へと足を踏み出す。



「行こうリタ! ロンベルクさんが待ってる!」


「いや別にあたしはロンベルクがどうなろうと――ってちょっと待て! おおいセラ待ってって! ああもうっ行きゃいいんだろ行きゃあ!!」



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― 新着の感想 ―
まさかのにこちゃんロード再登場は予想外にも程がある······!
[一言] 「あんな面子に混じってメシなんか食えるか」 あー。そういうことならメンバー追加は難しそうアルね。
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