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輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
二章_Gが大量に発生する話

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45話_side_Pr_学究区_庭園



 ~"転生令嬢"プリムローズ~



 とある放課後のこと。


 図書館からの帰り道に、私は不審者を見付けて足を止めた。

 一人の男子学生が、柱の陰に身を隠して、顔だけを出してどこぞを窺っている。私からはその背中が見えているのだが、なんか、これほどまでに『不審者』という表現が相応しい光景を初めて見た。

 無視して通り過ぎても一向に構わなかったのだが、私はそちらに足を向けた。


 と言うのも、知らない顔ではなかったからだ。いや顔は見えてないんだけども。



「どうかしてる先輩。どうかしたのか?」



 後ろから声を掛けると、不審者あらためジョナサン・ドゥ・カシテル伯爵令息は、びっくりと肩を飛び跳ねさせて振り返った。

 大慌てで振り返ったジョナサン先輩の視線は私の頭上を素通りする。



「ここだ。ここ」



 片手を挙げてひらひら目の前で振ってやると、見下ろした先輩がようやく私を見付けたらしい。



「あ、ああ。なんだお前か」


「お前て……先輩のブレない態度には感心するよ」



 初対面から一貫して無礼を貫く、『ブレイ☆スタイル』に定評のあるジョナサン先輩である。

 いいけどね。私、後輩だし。



「なにをそんなに熱心に見てい」


「別になにも見てないんだが?」



 やたら食い気味に否定してくるジョナサン先輩に白けた視線を向ける。誤魔化すにしてももうちょっとスマートにやれよっていう。もしかしてフリなのだろうか。



「端から見たら完全に不審者だったぞ先輩。通り掛かったのが私で良かったな」



 もれなく教員か警備員に通報されて然るべき不審さであった。

 この世界にスマホとSNSがあれば激写されてネットに拡散されて定番のネタ画像として後世に残る程度には完成された不審者っぷりであった。私が誤魔化されるつもりがないと悟ったのか、ジョナサン先輩はしっかりと私に向き直り、何故かドヤ顔になった。



「ふっふっふ、そんなに気になると言うのであれば仕方がない。特別に――」


「そうか成程よくわかった邪魔したなでは私はこれで」



 無性にイラっとしたので私は早口で捲し立てると速攻で踵を返した。

 もともとただの興味本位だし、どうせ大したことではないだろうし、イラっとしてまで聞きたい事情でもない。むしろ話し掛けたことを若干後悔しながら足早に去ろうとした私の腕を、ジョナサン先輩が掴んで引き止めてくる。



「まあ待て。折角だから聞いていけ。というか聞いて!」


「その前に、気安く触らないでくれ」


「おっと失礼」



 パッと手を離してキザったらしく髪をかき上げるジョナサン先輩。見た目は悪くないのに何故か漂う残念感は、きっと頭がどうかしてるからなんだろうな。



「で?」


「うむ。俺はな、真実の愛を見付けたんだ」


「ほう」



 なんだろう。既に雲行きが怪しいぞ。

 いやまて、流石にそれは色眼鏡が過ぎる。まずは聞いてみようではないか。意志の力で自分を騙してまで耳を傾ける私に構うことなく、ジョナサン先輩のどうかしてる劇場が続く。



「やはり真実の愛とは身分など超越したものだったんだ」


「上か?下か?頼むから下だと言ってくれ」


「俺がいかに高貴なる伯爵家であったとて、たとえ相手が平民の卑しい身分であったとて、愛の前では些細なこと!」



 ああ下かよかった。まだ傷は浅いな。

 これでジョナサン先輩が身分を弁えずにマリアちゃんあたりに惚れたとか言い出した日には、彼本人はともかく彼の実家の未来が不憫すぎる。だって絶対無礼極まりないことやらかすし。



「それにやっぱり、平民の子は驕ったところが無くていい。俺を馬鹿にしないし」


「…………」


「貴族の女はダメだ。高慢ちきばかりで、自分のことしか考えていない」


「高慢ちきな自己中で悪かったな」



 これだけは言わせてくれ。


 お 前 に だ け は言われたくねえんだよ!


 ていうかジョナサン先輩、やっぱり馬鹿にされてたのか。されてるんだろうなぁ。



「つまり、真実の愛に目覚めた先輩は、お相手の平民女性を白昼堂々ストーカーしていたわけか」



 もしそうなら私ちょっと先輩との付き合いかたを考えさせてもらうぞ。

 なんせ、ストーカーというのは私にとって地雷ワードだ。もちろん、前世的な意味で。

 幸いなことに、ジョナサン先輩は私の言葉に不愉快そうに眉を顰めた。



「失敬な。そのような不埒な真似はしない」


「色々な意味で安心したよ」



 言いつつ、私はジョナサン先輩の横に立って、柱の陰から顔を覗かせた。後ろ暗い目的でないならば私が見ても問題あるまい。実際、ジョナサン先輩は止めるどころか場所を譲ってくれた。最初は誤魔化そうとしていたくせに、たぶん話しているうちに興が乗ってきたんだろうな。単純な人だ。

 目的はどうあれ、先輩の想い人がこの先に居るのは間違いないだろうと思う。

 そして先輩の想い人は平民階級だそうな。


 賢明な諸君には、私が何を危惧しているのかはもうわかってもらえると思う。


 頼むから、視線の先に居るのが主人公ちゃんじゃありませんよーに、と祈る想いで見た私は。






「…………ほんっとうに期待を裏切らないな。先輩」


「よくわからんが、当然だ!」



 視線の先、学院の庭園の中ほどに立っている少女は間違いようもなくミアベル・アトリーその人であった。彼女のストロベリーブロンドはちょっぴり不思議な色彩をしていて、暗い場所では赤みが強く出るけれど、光を浴びると薄ら透過してピンクっぽく輝くのだ。あれで地毛だっていうんだからすごい。ともかく、だから屋外だと遠目からでも主人公ちゃんのことはすごくわかりやすい。

 彼女は一人ではなく、同級生らしい男子学生と一緒だった。それから、お馴染みのノエルちゃんやミリティア嬢の姿は見えないが、何故かマルグリットちゃんが一緒に居る。いつの間に仲良くなったのだろうか。若い子は仲良くなるのも早くていいよね。

 どうやら彼女らを引き留めて何事かを話しているらしい男子学生の顔には見覚えがない。遠目で解らないが、ブレザーに家紋らしきものは見えないので主人公ちゃんと同じく平民の学生だろう。



「あの男子は誰だ?」


「俺の忠実なる下僕第21号だ」



 この男、舎弟を作る才能だけはあるのかもしれん。すぐに逃げられる才能もあるようだが。というか既に20人も逃げられているのか。私と初めて会った時の彼らは何号くんだったのだろうか。普通に被害者の会が出来てそうだな。



「舎弟を嗾けてどうするつもりなのだ?」


「彼女を呼び出すように命じたのだ」



 つまり、憐れな舎弟くんは主人公ちゃんに『とある貴族のお方が貴女にお会いしたいと仰せです』と伝えに行ったのだ。

 高位の貴族が良くやるやつ。いわゆる貴族的な常套手段ではあるのだが、平民にそれをやってどうするのか。不文律が通じない主人公ちゃんにしてみれば、なんか怪しすぎる呼び出しにしか思えんぞ。マルグリットちゃんは歴とした貴族だけど、棲み分けでは明らかにそちら側ではないし、貴族的な文化には見るからに疎そうだ。

 この場合のそちら側とは要するに『貴族的な貴族』っていう意味である。なお私にとって『貴族的な』という表現は誉め言葉ではない。

 そもそも、こういうのは誘われる側も誰からの誘いなのかなんとなく察しが付くこと前提の状況でやるものだ。

 一応訊いておくけど、



「先輩はアトリーと知り合いなのか?」


「あの子はアトリーと言うのか」


「……そこからか」



 えぇ。名前も知らずに『真実の愛』とかほざいてたのこのヒト。

 そして案の定、舎弟くんの呼び出し任務は難航しているようだ。ここからでは流石に声までは聞こえないが、身振りでなんとなく話の流れは読める。見るからに、なんとかして辞退したい主人公ちゃんと、なんとかして頷いてもらいたい舎弟くん、といったところか。

 おそらく舎弟くん自身もこれが無理ゲーであると悟っているのだろう。先程から誘っているというよりは拝み倒しているようにしか見えない。彼にしてみれば今後の学院生活が掛かっているのかもしれないのだから、無理もないことかもしれない。

 主人公ちゃんもお人好しだから、そんな風に必死に来られると無下にも出来ないんだろうなぁ。

 ついでに言うと付き合わされているマルグリットちゃんはどう見てもイラついている。腕を組んで貧乏ゆすりが止まらないあたり、相当イライラのご様子。主人公ちゃんの問題だからと口を挟むのを控えているようだが、たぶん舎弟くんがあとちょっとでも強引な手段に出れば、即座に鉄拳が繰り出されることだろう。


 なんか、只管に気の毒だ。三人とも。

 登場人物が若干一名を除いて全員不幸ではないか。 

 若干一名こと諸悪の根源は私の横で「なにを手間取っているんだ」と偉そうにのたまっているのだが。



「どうやら脈はなさそうだぞ。諦めろ先輩」


「アイツに任せたのが間違いだったか」



 それ以前の問題だと気付け。



「そろそろ舎弟を引き上げさせないと、ベリエにぶん殴られるぞ」


「もう一人の子か?貴族の女子に殴られたところでなぁ……ああ、相手が拳を傷めないように注意してやらねばな!」



 へらへら笑うジョナサン先輩は安定の節穴である。貴族の女子である前に騎士志望ですよあの子。肉体派の連中って無意識に魔法で身体強化しちゃうことあるから、たぶん本気でぶん殴られたら頭蓋骨陥没くらいするんじゃないかな。

 未熟だからカッとなって手が出ちゃうんだけど、攻撃動作と強化魔法をセットで運用することが常態化してるから、条件反射でやれちゃうくらいには優秀っていうね。



「というか先輩、こんなところでやきもきしているくらいならば、最初から自分で誘えばよかろう」


「いやだ!」


「…………なんで」



 唐突に呼び出された主人公ちゃん!お相手は見知らぬ貴族様。これってもしかして!?とドキドキしながら約束の場所へ赴くと、そこには想像を遥かに超えるほどの輝くイケメン(当社比)が待っていたのだ!高鳴る心臓を抑えきれず、立ち尽くす主人公ちゃんに彼は優しく微笑み――

 そして始まるめくるめく学院ラブストーリー!



「っていうのがやりたいんだ俺は」


「乙女脳か貴様」



 そういうのにトキメク女子も少なからず居るだろうし、ジョナサン先輩は黙っていれば(ココ重要)イケメンと言えなくもないのは認めるが。だがそういうのがやりたければ、相手にはもう少し夢見がちな女子を選ぶことをお勧めする。

 主人公ちゃんはノリと勢いで行動するところこそあるが、本質的にはガチガチのリアリストだし、そもそも頭が良いので下手な演出は速攻で看破されると思うよ。

 いや逆か。並居る鈍感系主人公の例に漏れず彼女も恋愛方面には筋金入りで察しが悪いはずなので、そもそも呼び出しを受けたところで『そういう』意図だとまったく気付かない可能性あるな。



「ううむ。かくなる上は!」


「断る」


「アシュタルテ嬢!あの21号の代わりに彼女を誘ってきてくれ!」


「聞けよ」



 頭がどうかしてる先輩はコロッと忘れてるのかもしれないが、私これでも侯爵令嬢ですからね。侯爵令嬢が伯爵令息の遣いっパシリで平民を誘いに行くって、なにもかもがおかしいからね。

 現実的な話をすれば、私がクラリスちゃんを嗾ければほぼ百パーで主人公ちゃんを誘い出せるとは思うが、私は余程の事態でなければクラリスちゃんの個人的な交友関係を利用するつもりはないし、したくもない。

 何故私が己のスタンスを曲げてまでどうかしてる先輩のために骨を折らねばならんのか。


 そうこうしているうちに、主人公ちゃん達の傍らに二人ほど人影が増える。


 ああほら。先輩の往生際が悪いからとうとうカーマイン殿下まで現れちゃったじゃん――――って、



「うわ……」



 どうすんだこの状況。もう収拾つかないかもわからんね。流石のジョナサン先輩もカーマイン殿下の顔は知っていたみたいで、「なん、だと……?」とか言いながら鼻水垂らしている。

 カーマイン殿下の後ろには一人の男子学生が付き従っている。癖っ毛と糸目が特徴的な彼は、カーマイン殿下と同じく隣国ガルムからの留学生だ。立場的にはカーマイン殿下の付き人みたいなものだ。本国での引き継ぎ業務のごたごたで主よりもだいぶ遅れて留学してきたらしいが、詳しいことは知らない。

 無論原作キャラの一人であるが、申し訳ないことに私は殆ど覚えていない。なんか、レオンヒルト殿下で言うところのアルヴィンくん的な立場の男子がカーマイン殿下にも居たなぁ……っていう感じのぼんやりした記憶である。



「おい先輩。そろそろ助けてやったらどうだ」



 このままでは舎弟くんが消し炭になるぞ。

 遠目からでも明らかなくらいにカーマイン殿下の顔は険しい。主人公ちゃんはそんな殿下の様子にあわあわと慌て、流石のマルグリットちゃんも緊張を隠せず、舎弟くんに至っては顔面蒼白で泣きそうになっている。

 何を話しているのかはわからないが、普通に想像はつく。

 お気に入りの女の子である主人公ちゃんにしつこく言い寄る馬の骨の存在に、脳筋殿下の機嫌が急降下しているのだろう。バチバチと殿下の身体が帯電し始め、糸目の従者くんがびっくりしたように飛び退いた。

 ちなみに雷を使うキャラがバチバチ帯電するのって漫画ではお馴染みの表現だけど、この世界的に言えばあれってただの威嚇とか無意識にとかではなく、魔法使いが意図的に臨戦態勢に入った証である。



「ばばば馬鹿を言うな。俺にあそこに飛び込めと言うのか!?」


「逆に訊くが、貴様以外の誰が収拾をつけるんだ」



 とうとうカーマイン殿下が右腕を翳して雷光の発射体勢に入り、腰を抜かした舎弟くんの前に颯爽と主人公ちゃんが立ちはだかり射線を遮る。最早誰が当事者で、誰が加害者で被害者なのかわからない修羅場の様相を呈している。

 やっぱ主人公ちゃんはカッコイイよなぁなんて私が逃避していると、命の危機を感じたのか舎弟くんが飛び起きて、猛然と逃走を図る。主人公ちゃんの背中に隠れて大人しくしておけば良かったものを、最強の盾を失った憐れな舎弟くんを追って、眩い雷光が迸る。


 閃光と轟音を伴って放たれた雷の槍に背中から貫かれた舎弟くんは、だいぶ遠くのほうでぶっ倒れて黒い煙を上げている。



「え?死んだ?」


「流石の脳き――もとい殿下でも殺しはしないだろう」



 見たところ、殺傷力を極限まで落とした鎮圧用の魔法だ。ただ暴力のままにぶっ放すよりも余程高等な技能であり、あの親睦会の時の殿下からしてみれば驚くほどに魔法の技能が向上している。いや、もともと技量は高かったが、制御に磨きが掛かって底知れない凄みのようなものが出てきた、と言ったほうが正確だろうか。

 極限まで殺傷力を落とせるということは、その逆も当然できるということなのだから。


 なにはともあれ、轟音のせいで人が集まってきそうなので、さっさと退散することにしよう。

 とその前に、



「先輩よ。ちゃんと舎弟を回収して医務室に連れて行くんだぞ」



 それくらいの責任は果たせ、と睨みつけるとジョナサン先輩は「あ、ああ」と頷いた。未だに鼻水が垂れているのが締まらない限りだ。


 主人公ちゃんに粉掛ける行為がどれほど無謀か、これでジョナサン先輩も理解してくれれば良いのだが。


 などと思いつつ去り行く私の背に、先輩の呟きが聞こえてきた。



「……22号はもう少し使える奴を探さねばならんな!」



 も、もうメンタルリセットしてやがる……!



・2021/6 細部の描写を修正。

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