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輪廻転生って信じる?  作者: Lynx097
二章_Gが大量に発生する話

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35話_side_Pr_第一練術場



 ~"転生令嬢"プリムローズ~



 王立エンディミオン魔法学院は、国内最高峰の魔法使い養成機関である。

 その入学資格は、魔法使いとしての素養を有すること。

 それさえあれば、学力・経歴・身分・国籍を問わず入学者を受け入れることを信条としている。ただし、犯罪者を除く。

 高等部の入学年齢は決まっているが、大学部のほうは年齢問わずなので、大人になってから事情により魔法を学ぶという者にも門戸が開かれている。


 ここでミソなのは、あくまでも素養の有無が入学条件であるということ。

 つまりは入学時点で魔法使いである必要はないのだ。そもそも、魔法と言うのは特権階級の持ち物と言う認識が強いので、そうおいそれと教われるものではなく、入学生の中には魔法のまの字も知らない状態で入ってくる者も珍しくはない。

 貴族階級の場合は親兄弟が魔法使いである場合が多いので、大抵は恥ずかしくない程度に手解きくらいは受けているものだが、やはり本格的に学ぶのは学院に通い出してからという者は少なくない。


 魔法を学ぶということは、教えるほうも教わるほうも少なからず危険を伴う行為だ。

 なので、いかに親が魔法使いでも、教職でも教官職でもない者が自分の子供に魔法を教えるのは尻込みする場合が多いと聞く。だからこそ、プロの教員と専門の施設が揃った魔法学院という場所が、これほどまでに高い需要を持つのである。


 ちなみに、魔法のまの字も知らない幼少期を過ごしたくせに、入学以前に独学で魔法らしきものを身に着けていたミアベル・アトリーは例外中の例外である。いわゆる主人公補正というやつか、彼女の才能は異常の一言なので。




 とまあ、そんな事情があって、この学院の入学生は入学早々から魔法を学び始めるが、実践するまでにはしばらく時間を掛ける。まずは座学で基礎知識をみっちりと教え込んでから、慎重に実践へと移していく。

 今日はその、実践的な講義の記念すべき初回なのである。




 学院の敷地の一角に『練術場』と呼ばれる広場がある。

 要するに魔法を練習するための運動場なわけだが。

 複数ある練術場のうち『第一練術場』と呼ばれる場所に、運動着に着替えた一年生全員が集められた。


 今日のところは初回も初回なので、まずは個々人の魔法資質を計り、今後のクラス分けを決めるのだ。出来るだけ資質の近しい学生を集めて、レベルに合わせた講義を受けさせたほうが効率が良いのは言うまでも無いので、これも大事な過程だろう。

 講義開始を待つ間、学生達は適当に仲の良い者同士で集まって、雑談などをして時間を潰しているようだ。

 私は筋金入りのぼっちなので、誰と会話をするでもなく適当にぶらついて、ぼんやりと周囲を眺めて過ごしている。


 いかに貴族が通う学院と言えど、運動着は至って普通だ。

 通気性や吸湿性に優れた白いトップスに、学年ごとに色の違うボトムスは男子がハーフパンツ、女子はクォーターパンツだ。女子のボトムスを男子よりも短くする辺り、謎の勢力の圧力を感じないでもない。

 何故運動着なのかと言うと、魔法資質を測定した後に続けて身体能力測定が実施されるためである。今日の予定は一限目が実施内容のガイダンス、それ以後は一日中この服装である。


 あまりにも手持無沙汰なので、なんとなく見知った顔を探してみる。

 真っ先に目に付いたのはゼロ円スマイルでお馴染みのレオンヒルト殿下だ。いや、目に付いたというのは語弊がある。彼の姿は女子連中に囲まれていてちっとも見えやしない。きゃーきゃー喧しい女子の山があれば、大抵その中心にはレオンヒルト殿下の姿があるとかないとか。

 相変わらず大変そうだな、と同情を禁じ得ない。身分は言うまでもないが、なんせ顔が良いからな彼は。しかも決まった婚約者がまだいないというのだから、玉の輿を夢見る女子どもが群がるのも無理からぬ話だ。

 余談だが、なにかと私が大好きらしいエカテリーナ嬢も、レオンヒルト殿下の寵姫の座を狙う乙女の一人である。私としてはわりと普通に応援している。是非とも恋に全力投球して私のことなど忘れ去って欲しいものである。


 同じく女子の山を作りがちなカーマイン殿下の姿は見えない。女子に埋もれてという意味でなく、単にこの場に居ないのだ。彼は女子どもの視線を煩わしく思っているようなので、こういう場合には基本的に講義が始まる直前まで現れない。

 私に言わせればあの脳筋殿下のなにが良いのか理解に苦しむのだが、まあ恋愛脳の女子どもに言わせれば脳筋も『ワイルド』とか『危険な魅力』とやらになるのだろう。所謂オレ様系っての?容姿自体はレオンヒルト殿下と張り合えるレベルなのは間違いないし。


 イオちゃんはどこかな~と視線を巡らしてみると、あの綺麗な黒髪は簡単に見つけることが出来た。背後にいつもの二人を従えて、他の女子学生と会話しているようだ。軽装の体操着を着ていると、彼女の姿勢の良さと脚の長さとが際立って、非常に眼福である。いやまあミニスカートの制服も大概目の保養になるけどね。美しい黒髪は一括りに結い上げられているのだけど、彼女がやるとポニーテールじゃなくて馬尾結いとかって呼びたくなるよね。

 実は私も運動するときは髪を纏める。クラリスちゃんの努力のおかげでつやっつやの白髪を、ビシッとポニーテールに決めてきました!

 図らずもイオちゃんとお揃いだやったー、とかって一人悦に浸っていると、私の気色悪い視線に気が付いたのか、イオちゃんが一瞬だけこちらを見た。私と視線が合ったのがわかると、彼女はほんの少しだけ瞳を細めて、何事もなかったように視線を外した。


 ――ハッ!

 危ない危ない。つい無意識に手を振ってしまうところだった。

 イオちゃんがこちらの思いを汲んでくれているのに、私が台無しにしてどうするんだ。


 自らを戒めつつ、私は努めてイオちゃんから視線を逸らし、その会話の相手に目を向けた。

 金髪をサイドテールに結った、目元の涼し気な知的な風貌の女の子だ。彼女は運動するから髪を結っているわけではなくて、普段からあの髪型だし、なんなら原作でもあの髪型だった。


 実は私は彼女――ミリティア・リリア・ハートアート伯爵令嬢に苦手意識がある。


 彼女は私が辛うじて覚えていた原作キャラの一人だ。立場的には私、というかプリムローズの取り巻き令嬢の一人。その中でもたぶん一番上のポジションに居たんじゃないかな。序盤から中盤にかけてのプリムローズの右腕みたいな立ち位置でわりと頻繁に登場してた気がするので、プリムローズとセットで覚えていたのだ。

 主人公を始めとした幾多の女性キャラを苛め抜いていたプリムローズ一派だが、プリムローズ本人は圧倒的に自分の手で事を行いたい派なので、取り巻き連中に『やっておしまい!』と嗾ける役目を担っていたのが専らあのミリティア嬢だ。つまるところ、プリムローズにコバンザメの如くくっついて、実質取り巻き連中を掌握して操作していたのは彼女なのだ。


 当然、私は彼女との接触を避けた。

 私はもともと見栄えの都合もあって茶会や夜会には極力参加しなかったのだが、やむを得ない機会というのはある。そういう場合にも目立たないように情報統制には気を遣っていたし、会う人間も限定して、間違ってもミリティア嬢と懇意になったりしないように徹底的に彼女を避けた。ミリティア嬢自身には何の罪もないので申し訳ないことこの上なかったのだが、だけど彼女が原作通りにプリムローズの取り巻き筆頭になってしまえば、その辣腕で瞬く間に原作通りの展開を作り上げられてしまう気しかしなかったのである。

 いつのことだったか、うちで開催した茶会に彼女も参加することになった時なんて、当日に彼女が病欠を伝えてきたことを不謹慎にも喜んでしまって、盛大に自己嫌悪したのを覚えている。他人の不幸を喜ぶのは明確な敵対者が相手の場合のみでありたい。


 そんな事情が私の彼女に対する苦手意識の根源。

 でも実はそれだけじゃなくて。


 私は、ミリティア嬢がこの学院で過ごしている姿を垣間見るたびに、己の罪深さを見せつけられるのが辛いのだ。


 だって、原作では悪の権化と言っても過言ではなかったプリムローズの、右腕とまで言えるくらいの悪役令嬢っぷりを遺憾なく発揮していたミリティア嬢がだよ?

 今まさに、義侠心の塊みたいなイオちゃんと親し気に笑顔で会話してるんだよ。

 しかも、ミリティア嬢、聞くところによるとなんと主人公ちゃんとも良好な関係を築いているとか。つまりはイオちゃんと同じく平民に対しても差別的な見方をしない人格者であるということだ。


 わかるだろうか?


 察して欲しい。




 ……ところで、原作ファンの間でプリムローズには様々な親愛の表現が付き纏っていたと思うが、『ゲスロリ』『悪逆令嬢』などに並んで、『だいたい全部コイツのせい』さん、などと呼ばれることも多かった。

 それは、なんの脈絡もなく胸糞悪いイベントが発生したらだいたいプリムローズが関わっているという統計的な判断に基づく由緒ある表現なのだけど、つまりはそれは真理であったのだ。


 白状しよう。


 原作でミリティア嬢があのようなゲスい振舞いをするキャラになってしまっていたのは、他ならぬ私のせいだったのだぁー!


 だってだって、どう考えてもそう言うことだよね?

 現実にこうして私と一切関わらなかったミリティア嬢の姿を見ていれば猿でもわかる。あの子めっちゃ良い子じゃん!

 あんな良い子に、あんなクソみたいないじめの片棒を担がせていた己(原作)の所業が、ただただ罪深いと思い知らされるのである。


 ミリティア嬢が楽しそうに学院生活をエンジョイしている姿を見かけるたびに、原作での悪役っぷりが脳裏に過り、その原因であった私としては、なんかもう生まれてきてごめんなさいな気分になってしまうのである。

 私にできることは可能な限りミリティア嬢には関わらず、彼女が平穏で幸せな学院生活を送れるように陰ながら祈ることだけなのであった。








「はて……?」



 運動着に着替える時間を考慮して長めの休み時間がとられていたが、もうそろそろ講義が始まる頃だろうか。

 私が首を傾げているのは、そんな時間になっても主人公ちゃんの姿がどこにも見えないからだ。

 余談だが、学生が着替えるための更衣室は存在するし、学生個人用のロッカーすらある。だと言うのに貴族の学生なんかは『他人と一緒の部屋で着替えなどできるか!』とプライド拗らせてる輩が少なくないので、わざわざ寮に戻って着替えてくる者も居るし、従者任せにして自分の手で着替えることすらしない猛者も居る。とまあ、そういうめんどくさい奴らの事情も考慮して、着替えが必要な講義の開始時間は大幅にゆとりが持たされるのが普通なのだ。

 言うまでもないが、大半の学生はさっさと着替え終えるので暇を持て余す。ごく少数のために大多数を待たせるのってどうなの?っていう意見もあるにはあるが、その着替えに時間を要する学生の筆頭が女性の王族だったりするので、尊重しないわけにはいかないのだろう。


 それはともかく、主人公ちゃんの姿がやっぱりどこを探しても見えない。

 カーマイン殿下じゃああるまいし、主人公ちゃんは直前までどこぞをほっつき歩いているようなタイプでもないと思うが。

 一年生全員が練術場に居るので相当な人数だし、例によってチビの私の視界の狭さ故に見逃しているだけかもしれないが、あらゆる意味で周囲の目を惹く主人公ちゃんの存在に気付かなかったとは流石に思えない。


 別に心配する義理も無いが、なんとなく気になって視界を巡らせた私は、妙なものを見付けてしまった。

 練術場の外。周囲を囲む木々の合間から、見慣れた顔がちょこんとこちらを窺っていたのだ。



「何をやっているんだ、アイツは……」



 頭痛に似た何かを感じつつ、無視するわけにもいかず私はそちらへと歩を進めた。


 木の影から必死に手招きするフォノンちゃんの元へと。



2021/5 細部の描写を修正。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああすれ違いw まぁ悪役令嬢とその取り巻きその1が両方とも転生してるパターンは考えてみるとちょっと珍しくはあるな……
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