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悪逆令嬢のうろ覚え救済論(旧題:輪廻転生って信じる?)  作者: Lynx097
七章_小夜啼鳥は朝を待つ

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348話_side_Militear_ちょっと前_パーチ



 ~"もう一人の転生者"ミリティア~



「今、討伐者ギルドで進行している事態について、心当たりがあるの」


「原作展開なのか?だが……」



 私が突然の出張会議を開催したことでレックスも予想はしていたのだろうが、しかし彼の表情は懐疑的だ。

 理由はわかる。この休暇に入る前の最後の会議にて、私は彼に説明していたからだ。



「原作においては休暇中の描写は殆どなかったと言っていなかったか?」


「言ったわ」



 そしてそれはその通りなのだ。

 原作『夜明けのレガリア』の舞台はあくまでも王立エンディミオン魔法学院である。学院外の描写は殆どなかったと言っても過言ではない。学院のカリキュラムは前期と後期に分かれていて、その合間にそれぞれ長期の休暇がある。ほぼほぼ夏休みと冬休みのノリである。前期が終わった今は夏休み中ということだ。原作では主人公のミアベルが休暇中は帰省していたので、つまり学院に不在となったせいでその間の描写は殆どなかった。故郷でのちょっとしたエピソードを挟んですぐに後期の話が始まったはずである。



「そもそもの話をするとね、原作では討伐者って全然詳しく描かれないのよ」


「そうなのか?」


「ええ。ルークの職業だし、勿論討伐者という言葉はそれなりに登場してたけど、どちらかというと舞台装置に近かったかな」



 貴族の通う学院が舞台だし、主要キャラにもそれなりに貴族とか王族がいる都合上、それを守る立場である騎士団にはそれなりに焦点があてられることもあった。逆にそういうやんごとない身分とは根本的に縁遠い討伐者は、正直に言っちゃえばやられ役のモブみたいな扱いが多かった気がする。



「原作でミアベルが討伐者活動をすることなんてなかったし、だから当然討伐者ギルドなんて施設も基本的に描写されない」


「そのわりには、ミリティアさんは学院外の世界観にも詳しいように思うが」


「そこがレガリアの凄いところなのよ。本編の中で殆ど描写されないような部分も、ちゃんと設定が作り込まれてるのよ。あの分厚い設定資料集はそんじょそこらの作品じゃあ真似できないに違いないわ!勿論私は全部買ったし全部読んだの!n万回読んだから!」



 尤も、流石に内容を全部記憶しているとは言えないが。そもそも教養に乏しい私では理解が難しいものもそれなりにあったので、そういうのは流し読みしてしまっていたし。

 ちなみに、しつこいようだが『夜明けのレガリア』はあくまでも少女漫画である。なんで少女漫画にそんな緻密で重厚な世界観設定が必要やねんって話なんだけども、その答えは単純に、世界観を構築した人間が原作者とは別に居るかららしい。それは個人ではなく、確か原作者が大学時代に所属していた創作サークルで複数人が合同製作したTRPGの世界設定を、全員の許諾の元で漫画作品に流用したという話だったはず。

 原作者の想定ではそもそも世界観で売るつもりもなかったから『あればいい』程度の認識だったのだ。んで学生時代に関わった未発表の作品がちょうどいいところに転がっていたので、これ幸いと使ってみたとか。合同製作に関わったサークルメンバーも、死蔵しておくよりは、と快く許可をくれたと原作者インタビューかなにかで言及していたと思う。



「だから実はね、レガリアには公になっていないだけで世界観を共有している別作品が存在してるんじゃないかって説もあって。何を隠そう大元のTRPGこそがレガリア世界における『宵の魔王』と勇者の戦いを描いたものだったと言われているの。プレイヤーは魔王を打倒する側だから、つまりその時の参加者である六人こそが三百年前の勇者パーティーのルーツと言えるのよね」


「ということはゲームマスターが魔王その人か」


「え?」


「ああいや、それはともかく。つまり、ここのギルドで起きている事態は、原作には描かれていないが設定資料集の中には存在した出来事ということか」


「あごめん、そうじゃなくて」



 確かにそういうのもある。所謂レガリア年表に載っているだけの歴史的事変というやつだ。

 だけど今回の事態には当て嵌まらない。これは私が知っている年表には載っていないのである。

 何故ならば、これは未来(・・)の出来事だから。



「私が覚えている限りでは、これは原作無印ではなく続編の『レガリアSS』で起きたことなの」


「確か、続編は無印の二年後の話だったな」


「そう。今からだと約三年後ね。SSはミアベルとは異なる主人公で、舞台は変わらずエンディミオンが主となる。でも続編のコンセプトには、無印の無駄に広大で重厚な世界観設定を有効活用しようっていう試みがあるから、無印に比べて学院外での描写が圧倒的に多くなっているのよ」


「まあ、無印が結果的に大ヒットしたのだから、正しいであろう方向性に寄せていったわけだな」



 異色とはいえ元は少女漫画だったはずなのに、続編には最早面影程度しかなく、少年漫画と青年漫画の中間くらいの立ち位置になっていたっけ。

 市場規模とかマーケティングの結果なのかもだけど、少女漫画を嗜む男性に比べて少年漫画を嗜む女性は圧倒的に多い気がするから、広く売ろうと思えばそっちに寄っていくのは仕方ないのかな。レガリアシリーズの熱烈なファンである私には今一想像出来ないことだが、世の中には作品の内容よりもまず『流行っているから』という理由で手を出す人が居るのだ。そして流行を支えているのがそういう購入層であるという事実も。

 今となってはどうでもいいことだ。話を戻そう。



「本来は三年後に起こるであろう出来事が、何故か今起きているのではないかっていうのが私の考えなんだけど」


「ああ」


「実は、あんまり自信は無くて」



 私が白状するとレックスは意外そうに目を瞠る。



「レガリアマイスターらしからぬ発言だな」


「うーん……というのも、私ってレガリアSSは結局最後まで読めてないのよ」



 私の命はそこまでもたなかったのだ。

 関連作品は設定資料集に至るまで全て網羅したと豪語する私であるが、流石に自分の死後のことはどうしようもなかった。続編の物語が前作と同等のボリュームだったとすれば、私が知っているのはちょうど真ん中くらいまでだ。ここから一気により一層面白くなっていくであろうというタイミングで無念私はぽっくり逝ってしまったのである。



「それで、私が最後に読んだあたりの話が、ちょうど今回の件に似てたと思うわ」



 ただ、それすらも曖昧だ。何故なら私はその話を精々一回二回読んだだけだから。無印の関連作品は何度も見直す時間があったから、n万回は誇張だとしても、少なくとも二桁は周回している自信がある。だから主観的には二十年程も前のことでも鮮明に覚えているのだろう。



「討伐者ギルドで有力なクラン同士が抗争をしていて、その原因が男女間の対立であった……みたいな展開だったから、もろに今のここの状況なのよ」


「地名やクラン名は思い出せないのか?」


「言われてみれば『赤原同盟』とか『パンドラ』みたいな名前だった気もしてくるけど、正直自信はないわ。ただ、『剣の誓い』が関わってたことだけは覚えてる。前作の準レギュラーだったルークが再登場した印象的な部分だったもの」



 旅するクランである『剣の誓い』だが、場合によっては一つの場所に数年規模で留まることも珍しくないらしいから、三年後にまだここの支部で活動していたとしてもおかしくはない。他の二つのクランについてはここが根拠地なのだから当然居るだろう。



「今回の件が第一次で、三年後に同じような第二次が勃発するという可能性は?」


「あり得る。でも――」



 レックスの予想は真っ当で、普通に考えればただそれだけのことだ。

 性差による対立が起こる構造自体が存在しているとなれば、根本的な解決をしない限りは何度繰り返してもおかしくない。

 しかし、その話をする前に前提について言わねばなるまい。



「あのね、SSで起きた事態には黒幕が存在してるの」


「『魔公』か」



 間髪入れずにレックスが確信的に返してきたので、私はきょとんとしてしまう。

 彼が素っ頓狂な答えを出したからではなく、寸分違わず正解だったからだ。



「なんでわかったの?」


「続編の敵役は魔公だというのは以前に教えてくれただろう。そして国内最大規模の黒い森であるブラッドフォードを攻略している巨大クラン二つを相争わせることで得をするのは誰かと考えると、まあ魔物勢力か教団勢力かどちらかだろう。メタ的な視点でどちらがと考えたら、魔公だなと」


「あ、うん……」


「しかし、だとすればミリティアさんがそんな顔になる理由もわからんでもないな」



 レックスは腕を組んで思案気に唸る。



「今回の事態が自然に発生したのだとすれば、三年後に魔公がそれを再現したのだとも考えられる。あるいは本来三年後に行動するはずだった魔公が何らかの理由で時期を早めた可能性もある。極論、例えば魔公本人が転生者であれば原作と違う行動をしてもおかしくはない」


「ええ。だけど、どうしてもおかしいのよ」


「それは、つまり今この時期に魔公が存在して(・・・・・・・)いるはずがない(・・・・・・・)からだな」



 私は頷く。

 そうなのである。

 そもそも『宵の魔王』が復活すらしていない現時点で、魔公が活動しているはずがないのだ。何故って、魔公という存在は三百年前の戦いにおいて魔王よりも先に滅ぼされているからだ。原作においては、無印のラスボスである『宵の魔王』が復活後、主人公ミアベルによって再度滅ぼされる際に現世に遺した力の一部が、魔公復活のキーとなっていた。

 今、存在しているはずがない魔公が三年後に事態を再現出来るはずはない。だって知らないことだから。そして言うまでもなく今回の黒幕であるはずもない。



「魔公が実はそもそも滅んでいなかった可能性は?」


「あるけど、三百年前の時点で原作と違う展開になっていた、なんて言われたらお手上げだし、もしそうだとすれば現在にはもっと影響が出ていて然るべきだと思うのよ」


「確かに。魔公といえば魔王に次ぐ魔界の実力者だからな。その生存が人類と魔物の勢力図に影響を与えないはずもない、か」



 二人してむっつりと黙り込んで考えていても仕方がないので、レックスは違う切り口を探るように新たな問いを発する。



「原作では、魔公がこの事態を引き起こした理由はなんだったんだ?」


「ええと、結末を知らないから正確ではないかもしれないけど、確か――」



 頼りない記憶を思い出しながら説明しようとすると、レックスが申し訳なさそうに手で制してきた。



「すまん。というかそれ以前に俺は魔公について殆ど知らないんだった。まずはその辺の講釈からお願いできるか?」


「あそっか、そうよね。じゃあ知ってる限りで教えるわね」



 繰り返しになるが私も全部を知っているわけではないのだ。普通に考えて物語の核心に迫るのは終盤の展開だろう。となればレガリアSSの終盤を知らない私には、決定的な知識が足りていない。

 だって、私が知っている範囲では四人居る魔公がまだ全員揃ってすらいなかったのだ。



「まず、魔公と呼ばれる強力な魔物は全部で四人居るの。これはこっちでも普通に伝えられていることね」


「そうだな。とはいえ魔王に関する情報と同じく、詳細はとうの昔に失われている。逆に言えば人数くらいしか判明していないわけだ。ところで魔公というのもやはり人型の魔物なのか?」


「そうよ。魔王と同じくね。で、私が読んでたところまでだと魔公は四人のうちの二人までしか登場していないの。残りの二人は匂わせる描写くらいはあったと思うけど、ほぼほぼ不明と思ってもらったほうがいい」



 ただし、四人の魔公――即ち『四公』の全部が復活しているというのは作中で明言されている。だからその後の展開では残りの二人も登場したのだろうと思われる。創作のテンプレに沿って考えれば、最初に登場した魔公は所謂『ヤツは四天王の中でも最弱』というやつだろうから、私が知らない二人の魔公はより厄介なのだろう。



「私が知ってる魔公は二人。一人目が『幻狼』フェンリス。若い男性の姿をした魔物よ。そして二人目が『狂艶』ベルフェルテ。こっちは若い女性の姿をした魔物」


「ふむ。二つ名から察するに今回の黒幕の可能性があるのは――」


「ベルフェルテよ」



 魔公ベルフェルテはテンプレのような悪女ムーブの敵役だった。

 人間同士の間に不和をばら撒き、潰し合う様を眺めてけらけら笑うような輩だ。ちなみにフェンリスのほうは対照的なくらいの好人物で、読者の間では『終盤で裏切って主人公の味方になる説』と『最後まで魔王への忠誠を貫きラスボスになる説』で真っ二つに意見が分かれていた存在だ。



「フェンリスはあからさまに重要キャラ感出てたし、逆にベルフェルテは三下感出てたし、私が途中までしか読んでないからなのかもしれないけど……」



 彼女のやってることって、なんだか非常に既視感があるというか、似たような趣向でもっとえげつない真似をしていた存在が既に居るというか、どうあがいても読者の脳裏にはとある人の面影がチラつくというか。

 少なくとも私が知っている限りでは、ベルフェルテは読者の間でこう評されていた。



「ゲスロリ擬き」


「…………」


「しかもロリでもないからただの性格ブス」


「…………」


「さらに唯一の強みである悪魔的エロ成分も故プリムローズのアヴァターに完敗してるという体たらく」


「…………」



 そんな可哀そうな魔公がベルフェルテというキャラなのである。



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― 新着の感想 ―
[一言] 原作ん万周回…。 嫁から昔聞いた掲示板ネタを思い出しました。 ローダン教徒がニワカをとっちめる、聖書のパロディだったと記憶してます。 細かい所はテキトーです。 男が歩いていると、一…
[一言] 聞いた名前が出てきましたね。 原作との差異、原作の元ネタ、転生者の存在も含めて一筋縄ではいかない模様。 ミリティアが楽観するとその裏でプリムがえらい目にあうんですよねえ
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