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第94話 エルフの里 剣神ペトラの伝説

 リィーシャは両手に短剣を構えると、臨戦態勢に入る。

 以前、シェーナがルトルスと初めて対峙した時にも実力の片鱗を覗かせていたリィーシャだったが、改めて見ると他の冒険者達とはレベルが明らかに違う。


「あのリィーシャが本気を出すところは貴重かもしれないな」

「たしかに……普段からは想像もできないよ」


 ルトルスは戦場でリィーシャと一度だけ剣を交えたことはあったが、蛇に巻き付かれた感覚に陥って動作を束縛するような剣の使い手だと語る。

 相手のペースで剣を振るわせて、いつの間にか主導権を握っているのがリィーシャの戦い方だ。


「短剣の二刀流なんて初めて見るタイプだ。この時代のエルフは皆そうなのか?」

「この戦闘スタイルは私が独自に編み出してね。長剣は重いから年寄りには堪えるんだ」

「そうかい。ならば、早く楽にしてやるよ!」


 ペトラは豪快に地を蹴ってリィーシャの懐に模擬刀を振るうと、リィーシャはギリギリのところで回避する。

リィーシャは短剣を交錯すると、ペトラは模擬刀で薙ぎ払う。


「戦闘が長期化すれば、リィーシャの有利に働く。短気な奴は餌食になるだけだ」


 かつての自分がそうだったように、ルトルスは一進一退の攻防を繰り広げる二人を見守りながら分析する。

 ここでリィーシャが負けたら、ペトラを押さえつけられる相手はいなくなる。

 そうなれば、会場を抜け出してエルフの里を暴れ回るだろう。

 シェーナ達はエルフの里の修繕費と出禁を通達されて、リィーシャからも小言だけでなく罪に問われる可能性もある。


「なかなかやるね。そろそろ剣を収めるつもりはないかい?」

「収めて欲しいのなら、さっさと地面に這いつくばるのだな」

「それは嫌だな。君は神界から特別な任務で地上にいるのだろう? ここで暴れたことを神界の上司に知られたらどうなるかねぇ」


 リィーシャが巧みに短剣で模擬刀を払い除けると、ペトラの表情が曇り始めた。

 リィーシャにはペトラの正体を明かしている。

 先日店に訪れた際に住民票と身分証明書を発行した物を持参してくれた。

 その際、リィーシャは今回の任務と神界の意向をペトラから聴取して把握していた。

 ペトラの動きは鈍り始めると、リィーシャは止めの一言。


「あっ、噂をすれば君の上司が向かってきているね」

「何!?」


 リィーシャがペトラの背後を指差すと、ペトラは動揺を隠し切れずに背後を振り向く。

 その一瞬を見逃さずにリィーシャはペトラの懐に入って模擬刀を奪い取る。


「すまないね。私の気のせいだったみたいだ」


 模擬刀を奪い取られたペトラは両手で頭を抱え込むと、いつものペトラに戻った。

 ペトラは歓声が上がる会場を見渡すと、放心した状態で何が起こったのか理解できないでいる。


「元に戻ったようだね。騙すような真似をして騎士道に反するかもしれないが、勘弁してくれよ」


 リィーシャは短剣を収めると、ペトラを会場の外へと連れ出す。

 シェーナ達も慌てて会場から出ると、リィーシャ達と合流をする。


「も……申し訳ありません! 会場で起こった出来事は記憶を共有して把握しました」


 ペトラはリィーシャとシェーナ達に深々と頭を下げる。

 シェーナはペトラの様子が激変したことや今の発言で大体の予想がついた。


「ペトラは二重人格なのかい?」

「はい……一万年前、女神になる前は中二病を(こじ)らせた剣士として大陸を渡り歩いていました」


 ペトラの話を聞くと、一万年前に剣士として名を馳せていたペトラは神界から女神の中途採用の啓示を受けて承諾したらしい。

 当時の神界は現在と違って神の人材不足に悩まされていたようで、採用後のペトラは生命の転生を司る女神として働くことになった。

 それが地獄の始まりとは露知らず、女神になって一週間も経たない間に上司へ直談判と言う名の実力行使に打って出たのだが、返り討ちにあった挙句に剣を取り上げられて先輩だったグラナが封印される事態になったのをきっかけにペトラの人格は二つに分かれて現在まで大人しく仕事に従事していたらしい。

 二重人格の件は解決したが、肝心の大会に出場した経緯をシェーナは訊ねた。


「どうして大会に出場しようと思ったのは、剣士の血が騒いだとか中二病的な理由かい?」

「西エリアに美味しそうなスイーツがあったので、お金を手っ取り早く稼ぐために出場しました」

「えっ? お小遣いとして困らない程度にお金は渡してあったと思うけど」

「……他のスイーツを食べて全額使っちゃいました」


 この女神は管理能力ゼロなのか。

 シェーナは呆れつつも、ペトラにお小遣いを渡してあげる。


「魂の管理とかしている女神様には釈迦に説法だと思うけど、お金の工面は今後しっかり管理すること。約束できるかい?」

「うう……善処します」


 ペトラと約束を交わすと、後は事後処理についてだ。

 修繕費は勿論だが、エルフの里を出禁されても文句は言えない。

 冷や汗をかきながら、シェーナはリィーシャと目を合わせて謝罪をする。


「会場の修繕費は街に戻りましたら用意します。私の仲間がご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」

「まあ、模擬刀を使用したおかげで死者が出なかったのは不幸中の幸いだね。私も久々に事務作業から解放されて思う存分暴れることができたし、お相子だよ」


 結果的に大会は盛り上がりを見せて、リィーシャは特に追及をしなかった。

 里の各エリアに剣を掲げている銅像がある。

 それについてリィーシャはペトラに確認をする。


「この地には剣神ペトラの伝説が語り継がれていてね。約一万年前、大災厄を討ち滅ぼしたと記録されているけど、彼女の事かな?」

「ああ……それは私だと思います。他の大陸から敵国が本格的に攻めてきたので追い返したことを当時の吟遊詩人が歌にしていました。それが今でも語り継がれていたのですね」

「やはりそうだったのか。初めて出会った時にペトラと聞いて、もしやと思ったよ。里の各地に安置してある銅像は剣神ペトラを祀っていてね。剣神ペトラが里の大会に出場したのなら、光栄な話だよ」


 剣神ペトラの伝説は有名でシェーナも知っている。

 勇敢な剣士ペトラは異国の大陸から攻めてきた幾万の兵を討ち取って、歴史上の英雄になっている。

 その剣神ペトラと隣にいるペトラが同一人物とは思わなかった。

 英雄と謳われた人物も、今ではスイーツ好きな女神なのだから安置されている銅像も形無しだなと密かにシェーナは思った。

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