第93話 エルフの里でイベント大会
南エリアの訓練施設はギルド所属の冒険者にも開放されている。
そこには冒険者やエルフの住人の人だかりができていて、これからイベントの催しがあるようだ。
「強者の皆様! 週に一度のトーナメント大会を実施しますよ。腕に自信のある方は奮って参加をお待ちしています!」
エルフの一人が台座に立って、高らかにイベント大会の開催を呼びかける。
ルールは模擬刀を使用して、円盤のリングで一対一の試合を行う。
相手が降参するか場外になったら負けになる。
優勝者には金貨五十枚、準優勝者には金貨三十枚の賞金が手渡される。
「シェーナは出場したらどうだ?」
「やめておくよ。怪我でもして仕事に支障が出たら困るからね」
グラナがいるので大抵の怪我は回復できるだろうが、ルトルスは参加ができないし、今日はのんびり休日を過ごしたいと思っている。
「客席から少し試合を見物していく? それとも他のエリアに移動する?」
「他人の剣技を観戦できる機会は勉強になるかもな。覗いていこう」
ルトルスは観戦を希望すると、観客席に移動して円盤のリングを見渡す。
観客席はあっという間に人で埋まると、女ダークエルフの売り子が麦酒やつまみを提供に回り始める。
シェーナはオレンジジュースを二つ注文すると、一つをルトルスに手渡した。
「麦酒にしたいところだが、酔っぱらってシェーナに迷惑をかけてしまうのがオチだな。シェーナは麦酒を注文しなくてよかったのか?」
「俺はキシャナみたいに酒が強くないし、オレンジジュースで十分だよ」
二人はオレンジジュースで乾杯すると、控え室からリングに選手が入場する。
参加人数は全部で二十人。
屈強な冒険者が並んでいるが、一人だけ見覚えのある人物がいる。
「あの女神……何やっているんだ」
シェーナは出場者の中にペトラの姿を見つけた。
西エリアにいる彼女が、どうしてトーナメントに混じっているのか。
明らかに挙動不審で場違いなペトラは対戦表のくじを引いていく。
「参加している理由は分からんが、女神の剣技を拝見するとしよう」
「大丈夫かな……」
このトーナメントは魔法の発動は禁止されているので、剣術と格闘術のみになっている。
魔法の威力は凄まじいが、果たして勝算はあるのだろうか。
対戦表が埋まっていくと、不運にも第一試合からペトラの出番が回ってきた。
対戦相手は冒険者ギルド『剣の女神』所属の熟練された冒険者だ。
試合開始前に、審判は二人に模擬刀を手渡す。
すると、模擬刀を手に取ったペトラは先程とは別人のような雰囲気と実力を兼ね備えた戦士のように見受けられる。
「あの女神……剣を握ったら人格変わって強くなるタイプか」
「あれは強いな。参加している出場者で彼女に勝てる奴はいないだろうな。私が万全な状態でも危ういかもしれない」
シェーナとルトルスは冷静にペトラを分析すると、試合は開始される。
対戦相手もペトラの豹変に気付いて攻めあぐねている感じで、迂闊に間合いに入れば切り伏せられるだろう。
「試合は始まっているぞ? 戦う気がないのなら、邪魔だ!」
ペトラは模擬刀を一振りすると、対戦相手の胴体に模擬刀が命中して場外まで吹き飛ばす。
会場は一瞬静まり返ったが、大歓声が上がった。
審判は吹っ飛ばされた対戦相手を確認すると、気絶しているが命に別状はなかった。
「一人ずつ片付けていくのも面倒だ! 残りの連中もまとめて私が相手をしてやる」
あの女神、何を言い出すんだ。
シェーナはだんだん胃が痛くなるような思いで会場を見つめる。
高らかな声で盛大に煽るような真似をするペトラに釣られて、残りの出場者がペトラを囲むようにする。
「ふん! この時代の戦士や騎士は軟弱者揃いだな」
最早、試合とは無関係に暴れ出すペトラは出場者達を倒していく。
この流れはまずい。
シェーナはルトルスの手を引いて、この場から去ろうとする。
大会を滅茶苦茶にして暴れたペトラの責任はシェーナに振りかかる。
「あっ……全員倒したようだな」
ルトルスは会場を指差すと、場者達は場外に吹っ飛ばされたか床に倒れている。
ペトラは一人立って、つまらなさそうな顔で首を傾げている。
「会場で暴れるのは感心しないね」
観客席から聞き覚えのある声がすると、恐れていた事態が訪れた。
リィーシャは騒ぎを感知してリングに上がって、ペトラと対峙する。
「ほぉ……少しは面白そうな相手がいるじゃないか」
「会場の修繕費は後で請求するからね」
リィーシャがサプライズ登場したことで、会場内の歓声は一気に膨れ上がる。
それと同時に、シェーナの胃が悲鳴を上げる結果となった。




