第86話 選択肢
シェーナは大の字になって青空を見上げると、ルトルスもシェーナに倣って大の字になってみせる。
「気持ちいいね。嫌な事は綺麗に忘れられそうだよ」
「例えば、どんなことだ?」
「……俺が女性であることかな。シェーナ・ウラバルトの人生をどうやって歩んでいけたら最善なのかってね」
両手で自身の顔から胸を触って女性であることを再認識すると、シェーナはどこか寂しそうな表情で呟く。
鏡を見れば、美人な女性がうつろな表情で出迎えてくれることに、いつの間にか慣れてしまっていた。本当の自分はこの人ではないと自問した時期もあったが、キシャナやルトルスに出会ってから自分の辛い思いをぶちまけて楽になった。
ルトルスはシェーナに顔を向けて喋り始める。
「人生は選択肢の連続だ。どれが最善なのかは神様でも分からんよ」
「そうだね……」
「私はシェーナが男だろうと女だろうと気持ちは変わらない。こうして一緒にいる選択肢は不変的だよ。シェーナが世界中を敵に回しても私はシェーナの味方である選択肢を選ぶよ!」
ルトルスは仰向けになっているシェーナを覆い被さるようにすると、彼女の瞳から涙が零れ落ちる。
自分の事をここまで慕ってくれるルトルスに、シェーナは素直に嬉しかった。
「そんな風に言われたら……本気でルトルスのことを好きになってしまうよ」
「私の気持ちを受け取ってくれ。大好きだよ……シェーナ」
ルトルスは目を瞑ってシェーナの唇にキスをすると、シェーナは彼女の気持ちを受け入れてその身を預ける。
村の中心部から道に沿った場所に、行商人が露店を開いて商売をしている。
シェーナとルトルスは手を繋いで露店の見て回ると、装飾品を取り扱って並べられている露店で足を止める。
「このネックレスはルトルスに似合うよ。お揃いで俺も付けるから買ってみないか?」
「似合うかな? でも、シェーナがそう言うのなら……」
グリフォンをあしらったネックレスを試着させてもらうと、勇猛果敢なルトルスやシェーナには似合っていた。
代金を払うと、二人はネックレスを付けて村の散策を続けようとするが、天候が悪くなって雨足が強くなる。
駆け足で雨宿りができる場所を探していると、牛舎を見つけて雨宿りさせてもらう。
二人は濡れた服を絞ると、ルトルスは空を見上げて諦めた口調で喋り出す。
「しばらく止みそうにないな。休日が台無しだ」
「今朝は良い天気だったのに、災難だったね。もう少し買い物を楽しみたかったのに」
牛の鳴き声と雨足の音が混じりながら、二人は溜息を漏らす。
シェーナはルトルスに視線を移すと、駆け足の時には気付かなかったが、自分も含めて濡れた服は下着が透けて見えることに気付いた。
シェーナは気恥ずかしさから身を低くして丸くなると、ルトルスは心配して声をかける。
「シェーナ、大丈夫か? どこか痛むのか?」
「いや……服が透けてしまってね。ルトルスもそうだけど、悪意はないんだ」
「キスまでしたのに、今更そんなことで恥ずかしがらなくてもいいだろうに。まあ……それもシェーナらしさがあって好きだよ」
「笑うなよ。キシャナみたいな意地悪は勘弁してくれ」
必死に弁明するシェーナをルトルスは呆れた声で笑い飛ばした。




