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第87話 過去

 グラナが迎えに来る約束の時間までに、雨が止む気配はないだろう。

 むしろ雨足は強くなる一方で、雷も鳴り始めた。

 激しい雷雨となって村中に響き渡ると、ルトルスはシェーナの腕を掴んで震えていた。


「ルトルス、雷が怖いのか?」

「雷は駄目なの……カルラ姉さんを失った時やあいつ等に追われていたことを思い出す」


 どうやら雷に対して、ルトルスはトラウマを抱えているようだ。

 しゃがみ込んで耳を塞ぐルトルスを、シェーナは彼女の背中を優しくさすって気持ちを落ち着かせる。


「大丈夫だよ。俺が傍にいるから安心して」


 普段のルトルスでは想像もできないが、過去の出来事が起因しているのは間違いない。

 ルトルスの事情聴取で同伴した時、姉のカルラはルトルスを逃がすために犠牲になったことを細かく話して、逃亡時の天候は雨だったことをシェーナは記憶している。


「雷は怖い……これ以上、私の大切な人を失くしたくはない!」

「俺はいなくなったりしないよ。怖い思いをしたけど、これからはルトルスから何かを奪うような輩は現れないよ」


 雷鳴は鳴り止む気配がなく、グラナと約束した時間も迫っている。

 シェーナはルトルスを背中って歩き始めると、村の街道を目指す。


「帰ったら、ルトルスの好きな料理を作ってやるからな。今度の休日には木陰で漫画の続巻を買いに行こうな」


 シェーナはルトルスに話題を振って、雷鳴から気を逸らそうとする。

 小さく頷くルトルスだが、雷鳴が轟くと途端に泣き出して感情が荒ぶる。


「カルラ姉さん……私だけ助かってごめんなさい。私もすぐに逝くから許して……」

「馬鹿な事を言うな! そんな事をお姉さんは望んでいないし、俺や皆も望んでいない。気を確かに持ってくれ!」


 村の入口まで歩くと、豪雨を心配してグラナが待機していた。

 二人に気付くと、グラナは駆け寄って背負われているルトルスの心配をする。


「村で何かあったのか? 彼女がここまで弱っているのは尋常じゃないぞ」

「よかった!? 店まで瞬間魔法を頼む!」

「ああ、しっかり掴まってくれ」


 グラナは瞬間魔法を唱えると、シャルティユの食堂へと場所を移動した。

 そこにはリィーシャとペトラが席に着いて話をしていたようだが、ルトルスの異変に気付いて駆け寄る。


「衰弱が激しいな。二階のベッドまで運んで、グラナは彼女の治療を頼めるか?」

「すぐに治療を始める」


 シェーナはルトルスを自室のベッドに寝かせると、グラナにはこうなった経緯を詳しく話す。

 精神分野の治療は苦手だが、手を尽くすと約束して治療に専念する。

 ペトラは彼女の症状を診ると、一つの病名を口にする。


「ルトルスさんは心的外傷後ストレス障害(PTSD)の可能性があります」

「そんな……」


 シェーナは絶句すると、グラナの表情も陰りを見せた。

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