第70話 突然の来客
二人は炊飯器を料理店まで運ぶと、食材の仕入れも届いて夕方に帰還するルトルスとグラナのために炊飯器でご飯を炊いていく。
「やっぱり炊飯器があると楽だね」
「その分、『闇核』の回収が必要だからルトルスやグラナの負担が増えるのはやっぱりどうにかしないとね。料理と回収を一人で兼任させるのは休む暇もない」
ルトルスは剣を振るっている方が落ち着くと言うが、蓄積した疲労は溜まっている筈だ。
グラナは基本的に武器や攻撃魔法は使えないので、戦闘になればルトルスの支援に徹することになる。グラナの回復魔法で傷は癒せるかもしれないが、根本的な部分までは無理だろう。
「ルトルスは嫌がるだろうが、確実に回収できる人物を増やそう。それまでは私も出向いて頑張るつもりだ」
「私も回収に行けたらいいけど……」
「その気持ちだけでも十分だよ。キシャナ、ありがとう」
キシャナには戦闘とは無縁の生活を営んで欲しいと願っている。
シェーナは店の責任者として、皆の体調管理も把握しないといけない立場だ。
今後、『闇核』を使用する製品は増えていくだろうとシェーナは予想している。
現状はルトルスの超人的な強さに甘えて回収に問題はないが、将来を考えれば課題は残されている。
二人は深い溜息をつくと、仕入れた食材の整理を始める。
「失礼します。こちらに異世界転生したシェーナ様とキシャナ様の二名はいらっしゃいませんか?」
正面扉から遠慮がちな声で鎧を着込んだ冒険者の女性がシェーナ達を訪ねてきた。
自分達の名前を告げられて二人は自然と女性に振り向いたが、とんでもない単語が飛び出していたことに気付いた。
「私達がそうですけど……どちら様ですか?」
シェーナは警戒しながら、キシャナを守れる位置に立って女性へ問いかける。
「よかった。私、こういう者です」
女性は懐から何かを取り出すと、シェーナは瞬時に身構えて臨戦態勢に入る。
よく見ると、それは四角い形で文字が印刷されている名刺だった。
ぎこちない笑顔で女性はシェーナ達に名刺を配ると、改めて自己紹介を始める。
「私は『異世界転生係』のペトラと申します。この度は大変ご迷惑をおかけして、深くお詫び申し上げます」
ペトラと名乗る女性は二人の前で土下座をすると、シェーナ達は困惑した様子でペトラの頭を上げさせる。
とりあえず、ペトラをテーブルに座らせて仔細を述べてもらう。
「私は生命の転生を司る神をやらせてもらっているペトラと申します。実は十八年前に異世界転生された件について、うっかり前世の記憶を消し忘れてしまったのです」
まるで玄関の鍵を閉め忘れたかのような言い回しで、ペトラは話を続ける。
「十八年前の当時は異世界転生される死者が多く発生し、記憶を完全に消せない状態の人物を最近になって把握しました。その責任を負うために、私は神界からシェーナ様とキシャナ様の担当として派遣された次第です」
「そんな……じゃあ前世の記憶が残っていたのはあなたが原因だったのですか!」
「……その通りです」
シェーナは声を張り上げると、ペトラは身を縮めて認める。
目の前にいる女性が自分達の人生を大きく左右させた存在であることに、二人はショックを受ける。
「本当に申し訳ありません!」
ペトラは再び二人の前で土下座をすると、シェーナはペトラの胸倉を掴む。
そんなことをしても無駄な事はシェーナ自身が理解している。
しかし、そうでもしないと内に秘めている怒りはどこに向けたらいいのか分からない。
複雑な心境に置かれたシェーナをキシャナは止めに入る。
「シェーナ……気持ちは分かるけど、一旦落ち着こう」
「キシャナは悔しくないのか! 俺達の人生を狂わせた張本人が目の前にいるんだぞ!」
「辛かったよ……でも、そのおかげでシェーナに出会えたのも事実だよ」
キシャナの言葉にシェーナは胸倉を掴んでいた手を離すと、その場で泣き崩れてしまった。




