第55話 奴隷じゃない
「シェーナは一人で背負い込みすぎだ。ルトルスやリィーシャさんの立場を気にしていたんだろ」
キシャナがトレーに牛丼を三皿用意すると、シェーナが悩んでいたことを的確に当てる。
ルトルスには先程シェーナが胸に閉まっていたことをぶつけたが、二人の奴隷を助けてプライデンへ連れて来たことがスエード側に知られたら二国間の関係にヒビが入るかもしれない。そうなれば、シェーナの軽率な行為がリィーシャの立場を苦しめる結果に繋がってしまう。
「あの子達を堂々と救ったことに誇りを持っていい。私はそういうことができる親友を持って本当に良かったと思うよ。卑下に考えず、私達をもっと頼ってくれ」
「……ああ、すまなかった」
「全く不器用な女騎士様だな。あの子たちとグラナにその牛丼を食べさせてあげな」
親友の言葉にシェーナの心は楽になった。
店の責任者としての重責や仲間から頼れるリーダーであろうと意識して、空回りしていたように思える。
「ルトルス、牛丼を一人分運んでくれないか?」
「ああ、お安い御用さ」
シェーナは上階にいるカロとマウロに牛丼を運ぶと、二人の腹の虫が鳴り響く。
「お腹が空いているでしょう? 冷めないうちに召し上がれ」
「お姉ちゃん……ごめんなさい。僕達はお金がないから、治療代や食事代は払えない」
「子供がそんなこと気にしないの。君達はもう奴隷じゃない。これからは人間らしい自由な生活を送れるようになるから安心しなさい」
シェーナはカロとマウロの頭を優しく撫でると、牛丼を二人に食べさせる。
ルトルスはテーブルにグラナの牛丼を無造作に置くと、何も言わずにその場から去っていた。
「……さて、私も朝食を取るとしますか」
「グラナ、後でルトルスのことで話を聞いてもいいか?」
「あまり人に話せるような内容じゃないけどね。今日の営業が終わった後に話してあげるよ」
グラナは牛丼を頬張りながら、子供達と戯れる姿はとても魔王には見えない。
シェーナは階下に戻ると、開店の準備を整えて営業を始める。




