第56話 報告
朝方はルトルスのパンケーキやキシャナの牛丼の注文が多く、今日も食堂は満席になる。
比較的、牛丼の提供は他のメニューに比べると早く提供できるので冒険者達に人気が高い。炊飯器が手に入れば、更に時短は期待できる。
「五番テーブルのお客様! 料理が出来上がりましたので、取りに来てください」
店の回転効率を考えて、『森の聖弓』所属のエルフを二人雇って注文係を担当に置いた。昨日、キシャナが温泉に浸かりに行った後、冒険者ギルド『森の聖弓』に出向いて従業員募集を呼びかけたところ、二人集めることができた。人事に関してキシャナはシェーナと前々から相談していたことで、初日の客数を考慮して人員を増やした。
注文が決まると、その場にいる注文係に会計を済ませて、注文票に従って料理を提供。セルフサービスの方法で客に料理を運ばせることにした。食べ終わった後もトレー返却口を設けて客に皿は運んでもらい、空いた席を注文係の者が布巾で軽く拭いて次の客を招き入れる。
二階からグラナが下りて来ると、店の盛況ぶりに声を驚かす。
「昨日も凄かったけど、今日もお客さんはたくさん入ってるね。あの子たちは疲れて眠ってしまったよ」
「二人の面倒を見てくれてありがとう。早速で悪いが、皿洗いを頼んでもいいか?」
「うわ……結構溜まっているね。誰か手伝ってくれないかなぁ」
シェーナはカロとマウロを寝かしつけてくれたことに礼を言うと、山のように積まれている食器を見てグラナは辺りを見回すが、手を貸せる者はいない。
「そんな余裕はなさそうだね。粛々と皿洗いの従事に就かせてもらうとしますか」
「客足が落ち着いたら、俺も皿洗いを手伝う。それまでどうか頑張ってくれ」
「……これは勇者一行より手強いかもなぁ」
かつて死闘を繰り広げた勇者一行の猛撃を振り返りながら、グラナは皿洗いを始める。
食洗器でもあれば楽ができるのだろうが、サリーニャに頼んで作ってもらったとして『闇核』の使用量が増えて、ルトルスの負担は増える。
まだまだ店の課題は山積みのようにあるが、片付けるにはしばらく時間がかかりそうだ。
夕方になると、どうにか今日も無事に食材を使い果たして店を閉めることができた。
シェーナは注文係を引き受けてくれたエルフ二人に給金を渡すと礼を言って帰した。
「お疲れさまでした。皆のおかげさまで今日も無事に乗り切ることができました。明日は休日になりますので、明後日から営業を再開します。今までの疲れを癒すために体を十分に休めて下さい」
シェーナは店の責任者として締め括ると、次の本題へと移る。
「俺とルトルスは一旦、リィーシャさんと面会してカロとマウロの件を報告してくるよ。キシャナとグラナは二人の面倒を見てもらってもいいかな?」
「いいよ。留守番しているから行っておいで」
「私も止める理由はないから、子供達と戯れているよ」
キシャナは快く承諾すると、グラナはカロとマウロのいる部屋へ移動してシェーナとルトルスを見送った。
行政地区の宮殿へ足を運び、衛兵にリィーシャと面会したいことを告げると、待合室の扉に通される。
「今日は美味しいパンケーキと私の我儘に付き合わせてもらって……感謝の言葉しかない」
「そんな改まらなくても、私はシェーナのために働いているんだ。私より年上のオジサンが何度も謝る姿はカッコ悪いぞ」
シェーナは用意された椅子に腰掛けてルトルスに頭を下げると、ルトルスにしては冗談がきつい言葉が返ってきた。
「まあ……オジサンを否定はできないけど、ルトルスからそんなことを言われるとはなぁ」
「ふふ……あの子達にとっては、シェーナはカッコいいお姉さんだ。私はカッコいいお姉さんのシェーナであってほしいよ」
ルトルスは微笑みかけると、シェーナは照れ臭そうに俯いてしまう。
あの時、カロとマウロは恐怖心で支配された状態で人間不信に陥っていた。
無理強いして二人を連れ出したとしても、心の傷を更にえぐるだけと判断したシェーナは説得に応じさせようと努力した。
「待たせてすまないね。おや? 珍しい組み合わせだ」
待合室の扉が開くと、リィーシャはシェーナとルトルスが視界に入って物珍しそうにする。
言われてみれば、ルトルスと二人でリィーシャを訪ねたのは初めてかもしれない。
「さて、今日はどうしたんだい?」
リィーシャは椅子に腰掛けると、シェーナは今朝の出来事を事細かに語り始めた。




