第355話 再会
出迎えられたシェーナ達は車から降りると、数名の警備兵に囲まれながら大使館の建物に移動させられる。
廊下では大使館の職員だろうか、慌ただしい様子で行き交う姿が何度も見受けられた。
「さあ、入って」
重厚感のある大きな扉がある前で足を止めると、理恵はその扉を開けてシェーナ達を部屋の中へ招き入れる。
部屋の中央にはテーブルとそれに向き合うように黒革のソファーが置かれており、アメリカの国旗や世界地図が飾られている。
応接室のような場所であるのは想像できたが、ソファーに腰掛けている一人の若い女性と目が合った。
「君が例の子か。さあ、こちらに座りたまえ」
ミュースと同じく修道服に身を包み、柔和な笑顔でシェーナを指名して手招きすると、戸惑っているシェーナにミュースが助け舟を出して「さあ、どうぞ」と背中を後押しする。
シェーナは手招きに応じて女性の隣に座ると同時に、彼女は立ち上がりそのまま両手と膝を床に付けて土下座する。
「私は創造神ミール様直属の配下レサントルだ。不甲斐ない部下達のおかげで君には色々と怖い目に遭わせてしまった。この通り、申し訳ない」
「そんな急に止めてください。私は大丈夫ですから」
突然の事にシェーナは困惑した表情を浮かべながら参ってしまう。
ペトラと初めて出会った時は怒りが湧いてペトラを責め立てたが、最早ペトラを含めた神様に恨み等は抱いていない。
シェーナは土下座を止めるように説得すると、レサントルは静かに顔を上げてシェーナの両手を力強く握る。
「君は優しい子だな。スクリットの件もあって、ぶん殴られる覚悟をしていたんだ」
スクリットとは創造神ミールが寄越した女神である。
己の出世のためにシェーナ達を亡き者にし、カルティア討伐に向かうつもりだった彼女の野望は打ち砕かれた。
「君の護衛にはペトラとそこにいるミュースに任せる事が正式に決まった。安心したまえ、彼女はスクリットのような馬鹿な真似をする事はない」
改めて護衛の任に就いた事を紹介されたミュースは静かにレサントルの背後に立ち、シェーナへ軽く会釈する。
「格別なるご配慮を頂き、心より感謝申し上げます」
相手は高名な女神様でもあり、シェーナは畏まって感謝の言葉を述べる。
元々貴族出身であったシェーナは公の場で感謝を述べる機会は多かったし、その手のお世辞は貴族の嗜みとして自然に身に付いていった。
「さて、後の事はミュースに頼りたまえ。君を危険な目に遭わせた出来損ないのペトラと違って、彼女は優秀だからね」
話は上手く纏まったと言わんばかりに、レサントルは上機嫌で席を立とうとする。
そんなレサントルに対してシェーナは不快感を覚えながら、彼女を引き止める。
「待ってください。たしかに、偉い女神様達からすれば問題を引き起こした張本人かもしれませんがペトラは私達のために命を張ってくれた大切な仲間です。そんな彼女を蔑むような事を言うのは止めてください」
「私は事実を述べたまでだよ。ロスロやガフェーナを占拠しているアメリカの軍産複合体とやらの連中は異例だったが、それで任務続行はできませんでしたでは話にならない。見苦しい言い訳にしかならないのだよ」
「それでは貴女が最初からペトラの代わりに派遣されていたのなら、十分な対応ができたのですね」
仲間をコケにされて黙っていられなかったシェーナはレサントルに嫌味を込めて食い下がる。
それが癇に障ったのか、レサントルは無言でミュースに右手を差し出すと慌てた様子でミュースは懐から何かを取り出して手渡して見せる。
手渡されたのは煙草のようで、それまでの柔和な雰囲気は一転して煙草を吹かしながら語り始める。
「とりあえず、そこに座りな」
「えっ……」
「座れって言ってんだよ! ミュース、あの出来損ないをここへ連れて来い」
口調も乱暴になり、横柄な態度でミュースを顎で使うと青ざめた表情を浮かべながらミュースはその命に従う。
(何なんだ、この人は……)
無理矢理に座らされたシェーナは呆気に取られながらも、レサントルの怒りは収まらない。
そして数分後、廊下を勢いよく走りながら扉を乱暴に開けて入室するのはご指名を受けたペトラの姿だった。
「シェーナ! 無事でよかった」
シェーナに駆け寄ると、ペトラは思いっきり抱き締めて見せる。
「ペトラ……会いたかったよ。ごめん、私の不注意で皆に迷惑かけたね」
「そんなの気にしなくていい。ルトルスも別の部屋で待機しているから、今から会いに行け」
ペトラは優しくシェーナの頭を撫でると、安堵の空気に包まれた感動の再会も束の間だった。
「私を差し置いて勝手に話を進めてもらっては困るなぁ。お前はいつから、そんなに偉くなったんだ?」
怒りの形相で睨みつけるレサントルはペトラの胸倉を掴んで見せる。
それを止めようとシェーナは間に入るが、煩わしそうに二人を壁際まで突き飛ばした。




