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第347話 かつての友人③

 鬼ごっこの参加を決めたシェーナ達は周囲を警戒しながら歩き出すと、この心の世界について分かったことがあった。

 大通りのT路地を過ぎると、シェーナ達が降りた車の場所まで戻されてしまう。

 そして、一部を除いて建物の扉は頑丈に施錠されているようで開閉できず、窓もぶち破って侵入する事はできないようになっている。


「ここは入れるようですね」


 シェーナは病院の正面玄関に立つと、自動で扉が開閉する。

 唯一、建物の中へ入れる場所はこの病院しかなかった。


「やあ、待ちくたびれたよ。早く入っておいで」


 病院の受付窓口から招き入れる声が響き渡ると、そこには竜二が待ち構えていた。


「竜二!」


 シェーナは飛び出して扉を潜り抜けると、ミュースと理恵も続いて中に入る。

 それと同時に正面玄関の扉の開閉ができなくなり、外と遮断されてしまった。


「鬼ごっこの舞台にようこそ。改めまして、俺は新ロスロの聖騎士で港区担当を任されている前田竜二だ。綺麗なお姉さん達をお相手できて光栄だ」


 鬼ごっこのゲームに参加するシェーナ達に挨拶を交わす竜二は先程出会った時と変わらず挑発的で好戦的だ。


「竜二、お前一体どうしてしまったんだ。あのハミルトン達に何かされたのか?」


「俺を捕まえる事ができたら、その答えを教えてやるよ。ただし、時間制限を設けさせてもらうがね。一時間以内に俺を捕まえる事ができなければ、浩太達の負けだ。敗者には地獄を体験してもらうよ」


「地獄?」


「ああ、実際にこれを見てもらった方が早いね」


 竜二は指を鳴らすと、シェーナ達の傍にあるモニターが起動して、映像を流し始めた。

 そこには二人の外国人らしき人物が院内を必死に走り回って、何かに怯えているように窺える。


「この二人は旅行客を装って薬物を売り捌いていた外国人達さ。彼等はあと数十秒で鬼ごっこの敗退が決まる」


 竜二のその言葉に、シェーナ達は固唾を呑んで見守る事しかできなかった。

 嫌な予感がする。

 数十秒後、鬼ごっこの終わりを告げるサイレン音が鳴り響くと、参加者の二人に変化が見受けられる。

 突然、体が何の前触れもなく体が燃え始めたのだ。

 しばらく断末魔に似た声が二人から発せられると、ミュースは途中から耐えられなくなり二人に対して十字を切って祈りを捧げる。


「人体自然発火現象か。ラーソル博士のような特殊な案件を抜きにしたら、照明や暖房器具が熱源となって着衣に火が付いたのか。いや、そもそもここは心の世界だから物理法則を無視して竜二って人の意思で人体発火現象が起きたのか」


 理恵はブツブツと独り言のように考察を始める。

 人体発火の過程はどうあれ、鬼ごっこの敗者はモニターに映し出された者達と同じ運命を辿ると言う訳だ。

 モニターの映像が消えると同時に、残り時間を示すカウントダウンが表示される。


「さあ、そろそろ始めよう。今から一時間の間に俺を捕まえる事ができるかな?」


「竜二!」


 シェーナは竜二に駆け寄ろうして手を伸ばすと、それを遮るように何者かがシェーナの手を払い除ける。


「お前は……いや、まさか貴方は!」


 見覚えのあるスーツ姿の中年の男にシェーナは見覚えがあった。

 かつて、シェーナが前世で通っていた高校の担任だった先生だ。


「懐かしいだろう? 先生だけじゃない、他の同級生達も浩太に会いたがっているぜ」


「まさか、そんな事が……」


 ここは竜二の心の世界なら、このような芸当が可能なのか。

 モニターの映像に気を取られていた間、いつの間にかシェーナ達を囲うように漆黒の異様な影が集結していた。

 影は次第に人の姿に変えて、数は二十人前後。

 どれもシェーナにとって見覚えのある面々であり、事故当時と変わらない姿をしている。

 だが、この同級生達は竜二と違って感情の起伏が一切なく、無表情を保っている。

 当てはまる言葉があるとすれば、まるで生ける屍のようだ。


「ははっ! 同級生達と感動の再会もできた事だし、折角だから皆で鬼ごっこを楽しもうぜ」


 愉快そうに竜二は提案すると、そのまま奥の廊下の方へ消えていく。


「待て! 待ってくれ!」


 シェーナの引き止めも虚しく、かつての同級生達に囲まれたシェーナ達は阻まれるのであった。

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