第346話 かつての友人②
「待ってくれ!」
シェーナは手を伸ばして竜二を引き止めようとしたが、沈黙だけしか残らなかった。
ふざけた言動を除けば、あれは当時の学生だった頃の竜二のままだった。
「くそ……死んだ人間を利用して、どこまで汚い連中なんだ!」
バスティーと対峙した時も、ルトルスの姉である変わり果てた姿のカルラを差し向けてシェーナ達を亡き者にしようとした。
今回はシェーナの前世で友人だった前田竜二が立ち塞がり、死者を冒涜するカーン達の財団に怒りを覚える。
「彼は……生きていますよ。ここはかつてのシェーナさんの友人であった前田竜二さんの心の世界です」
「何ですって?」
ミュースはポツリと呟くと、シェーナに衝撃の事実を伝える。
そんな事はありえない。
前世で事故に遭った飛行機は墜落し、乗客は一人も助からなかったとハラルドも証言していた。
「シェーナさんには辛い過去の記憶になりますが、墜落後の殆どの乗客は衝突と同時に外に投げ出されて死亡が確認されています。数名の生徒さんは酷い火傷を負いながらも病院へ運ばれましたが、数日後に心肺停止で死亡。最後の一人になった前田竜二さんも予断を許さない状態が続きましたが、懸命な処置のおかげで事故の三年後に意識を取り戻しました」
「まさか、そんな事が……」
シェーナは驚きを隠せないでいると、ペトラの上司でありシェーナ達の素性を調べ上げているミュースなら、あの事故について全容を把握していてもおかしくない。
おそらく、遠い海外からの情報を掴んでいたハラルドは竜二の存在までは知らなかったのだろう。
「あいつが生きていたなんて……無事に助かっていてよかった」
シェーナはへたり込んで涙を流しながら、かつての友人が生還を果たしていた事実を知って心から喜びに浸る。
ミュースも竜二が意識を取り戻したところまでは情報を掴んでいたが、その後の消息については分からなかった。
「とにかく、その竜二って人の心の世界から抜け出しましょう。ここは息苦しくて長居はしたくありませんよ」
額から汗が滲み出る理恵は先程の竜二を捕まえて、一刻も早く脱出したいと気持ちが先走る。
確かに、ここは纏わり付く空気が濁っている感じで長時間の滞在は心身共に悪影響を及ぼしそうだ。
だが、裏を返すとそれは竜二の心が負の感情が満ちて支配されている事を示している。
「竜二の姿は昔のままだった。キシャナと同じでお調子者だったあいつが、新ロスロの聖騎士なんて……さっきの竜二を捕まえて本心を確かめないと」
心の世界に現れた竜二は十八年前の学生だった頃のままだ。
シェーナは鬼ごっこを希望する無邪気な彼の顔を思い出すと、挑発的な態度とは裏腹に友人であるシェーナへ助けを求めているような気がしてならなかった。
「それがシェーナさんの望んだ結果にならなくても?」
「ええ、覚悟はできています」
「……分かりました。現状、シェーナさんとの対話が重要になると思いますので、彼の心に希望や安心感が生じれば私の力で脱出できるでしょう。彼を救える鍵となるのはシェーナさんだけです。どうか彼の心に寄り添ってあげてください」
ミュースはシェーナの心情を察しながら、精一杯に善処する事を誓う。
無言で頷くシェーナは安易に元の生活に戻って、竜二の前向きな性格を考慮して幸せな家庭を築いていると思いたかったが、この心の世界を見渡すと、どうやら全く違うようだ。
事故後、意識を取り戻した竜二に何があったのか。
「待ってろよ、竜二」
竜二の鬼ごっこに意識を集中させると、シェーナはかつての友人を救うために動き出した。




