第27話 仲間
しばらくすると、キシャナは土鍋に熱々のお粥を盛り付けて、机に並べる。
「お待たせ。熱いから気を付けて食べてくれよ」
「これは?」
「お粥だよ。あまり馴染みがないと思うけど、米を使った料理だね」
前世では風邪や食欲がない時に食べていたが、異世界では初めて目にする。
お粥の他にはキシャナが漬けた人参と大根の漬物を添えて、美味しそうな出来栄えだ。
ルトルスは二人の顔を交互に見ると、意を決して初めてのお粥を口にする。
「さっぱりした味付けで美味しい。こっちの野菜も塩加減が絶妙で、このお粥と一緒に食べると食欲が進む」
「ふふっ、それはよかった。食欲もありそうだし、明日には元気に動けると思うよ」
キシャナはルトルスの額に手を当てて体温を確認すると安堵する。
ガフェーナでは常に最前線で戦っていたので、ルトルスはまともな食事とは無縁だった。単独で作戦行動を執ったりする時は、現地に生息する野生の動物を狩ったり、川から水を汲んで空腹を満たしてきた。
「こんなに美味しい料理は久々だ。本当にありがとう!?」
「私の料理でよければ、いつでも食べさせてあげるよ」
キシャナは長耳を立てて照れ笑いを浮かべる。
今更だが、キシャナの仕草は周囲の女性と変わらない。
十八年の年月が経っていると、やはり慣れてくるものなのだろう。
シェーナは公的では一人称を『私』で、私的では一人称を『俺』として使い分けている。
育て親のウラバルト家や騎士団に在籍していた頃は『私』で通してきた。
騎士団は会社の延長線上と考えれば、一人称を『私』とするのは苦労しなかった。
辛かったのは、ウラバルト家の両親や姉二人にも『私』と使っていたことだ。
自分を騙しているような背徳感に悩まされて、申し訳ない気分だった。
キシャナやサリーニャのような前世の親友や恋人の前で『俺』と呼べるのは本当に嬉しかった。
ルトルスはお粥を掬っていたスプーンを置いて神妙な顔でキシャナに詰め寄る。
「……キシャナのことはシェーナから全部聞いたよ。色々と大変な目に合わされたのに、ガフェーナの人間だった私は憎い相手の筈だ」
「私はもう過去に縛られたくはないな。ダークエルフってだけで風当たりは強いけど、今はシェーナやリィーシャさんと出会えて心の支えになっている」
「……そうか。なら私もその支えになれるように頑張るつもりだ。明日からここで働かせてくれ!」
ルトルスは両手でキシャナの手をがっしり握ると、心強い仲間が一人増えた。




