第26話 二人目の理解者
リィーシャは明日改めて事情聴取に訪れると約束して、行政地区へと戻っていった。
ルトルスを二階のベッドに戻そうと、シェーナは彼女を抱き抱える。
「歩けるから平気だ」
「まだ病み上がりだから安静にしてなよ。お腹は空いてない? 食欲があれば何か作るよ」
「あ……ありがとう。何か温かい食べ物があればもらいたい」
「わかった。ベッドで大人しく待っていてくれ」
ルトルスをベッドに寝かしつけると、シェーナは台所に残っている食材を見渡して思案する。
病人なので、消化の良い料理で温かい物を食べさせたい。
前世の感覚ならお粥や雑炊を思い浮かべて作りたいところだが、残念ながら米がない。
一品目はコンソメスープを作ることにする。
玉ねぎを薄くスライスして、鍋に水と顆粒コンソメを入れて火にかける。
スライスした玉ねぎを鍋に加えて煮込むと、玉ねぎに火が通ったことを確認して、器に盛り付けて刻んだパセリを散らして完成する。
「ただいま。食材の仕入れに珍しい物があったよ」
キシャナが仕入れから戻ると、野菜や肉類の他に布袋から見覚えのある食材があった。
「米だよ。どうやらエルフは稲作の方法を知っているらしくて、異世界では米よりパンの方が主食だから市場ではあまり出回っていなかった」
「丁度いいタイミングだ。その米を使ってお粥を作れないか?」
「ああ、彼女が目覚めたのか。お粥は私が作るから、シェーナはそのスープを先に飲ませてあげな」
エルフは耳長な姿と長寿であることは有名で、手先が器用で森の加護を受けている種族だと認識されている。基本的に他種族とは友好的で農作物や魔法付与された装飾品を手掛けたりするのが得意だ。例外なのが、ダークエルフだ。エルフとダークエルフは敵対関係が何百年も続いている状態で、前世からの知り合いであるサリーニャは種族間のことは気にしないが、リィーシャとキシャナが一緒にいることは珍しい組み合わせなのだ。
シェーナはコンソメスープをルトルスに飲ませると、彼女は多芸多才なシェーナを称賛する。
「シェーナが私のために作ってくれたスープは美味しい。剣や料理にも精通しているなんて凄いな」
「そんな大袈裟なものじゃないよ。でも、気に入ってくれてよかった。キシャナがお粥を作っているからね」
「キシャナ……シェーナの傍にいたダークエルフか?」
「ああ、彼女がルトルスの毒を解毒してくれたんだ」
「……悪いことは言わない。ダークエルフとは手を切った方がいい」
ルトルスはガフェーナから逃げる際に追手のダークエルフを何人も始末したらしい。
毒を盛られたのも、ダークエルフと混戦中に不覚にもやられた。
ダークエルフは闇の加護を受け継いだ種族で褐色な肌が特徴的だ。
偵察や諜報に長けた種族としてガフェーナでは暗殺部隊として置いていた。
噂では魔法でエルフに化けて王族や有力貴族に近付いて暗殺を引き受けていたこともあったと言う。
ダークエルフの危険性を知っているルトルスはシェーナの身を案じているのだろう。
「キシャナとは古い親友なんだ。信じてもらえないかもしれないが……聞いてくれるか?」
「私はシェーナに誓いを立てたんだ。どんな話でも受け入れる」
シェーナ、キシャナ、サリーニャは前世の記憶を共有して異世界転生をしたこと。転生後の生活と苦悩を打ち明けて今に至ることをルトルスに語った。
「突拍子もない話だと思う。頭がおかしい奴だと思われても仕方がないよな」
「転生は古代の魔術師が有する上位魔法だと書物で呼んだことはあるが、シェーナが嘘をついているとは思えないし、私は信じるよ」
「……本当に?」
「ああ、そんな体験をしているからこそシェーナの言葉は重みがあった。親友を侮辱した発言を許して欲しい」
ルトルスは深く頭を下げると、シェーナの話を受け入れて信じてくれた。




