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第19話 和食は難しい

「衛兵に連行されたと一報が入ってビックリしたけど、誤解されるようなことは慎んでくれよ」


 リィーシャは二人に注意すると、シェーナは深く頭を下げてサリーニャはバツが悪そうにして頭を下げた。

 行政地区の仕事が残っているリィーシャとは別れて商業地区の工房に二人は戻ると、サリーニャは依頼の仕事に取り掛かる。


「約束だから仕方がない。無料で作ってやるから一週間後に店まで運ぶよ」

「うん……」


 魂の抜けたような声でシェーナは返事をする。

 仕事に打ち込む彼女の後ろ姿は前世で惚れた樫山円と重なって見えた。

 ひどい目に遭わされたが、それでも初恋相手なら許せてしまう。

 自分は甘い人間だなとシェーナは痛感して、その場を去ろうとした。


「元気がないぞ? あの迫真な演技は私の働く動力源とさせてもらうから安心しろ」


 サリーニャは懐から小さな機械のような物を取り出すと、シェーナの恥ずかしい声が漏れて聞こえた。

 録音機器の類だと思うが、シェーナはやっぱり許すのはやめようと心に誓った。


 料理店にいるキシャナと合流して、冷蔵庫は一週間後に完成することを報告する。


「やったな。これで食材の保存は安心できる」

「ああ……」

「どうしたんだ? 浮かない顔をしているが、何かあったのか?」


 シェーナは錬金術師が前世の樫山円であることや行政地区に連行された経緯を説明する。

 自分達以外にも異世界転生した者がいることに驚きを隠せず、それがシェーナの初恋相手なら運命を感じさせる。


「十八年ぶりの初恋と再会で大変だったな。樫山円は才色兼備の変人だったが、二次創作同人誌の作成もやっていたらしいからな」

「同人誌?」


 キシャナは同人誌について簡単に説明すると、シェーナは妙に納得してしまった。

 朝食から何も食べていなかったので、シェーナはお腹の音を鳴らす。


「すまん、何か食べられるものはあるか?」

「ちょっと待ってろ」


 キシャナは台所で調理を始める。

 ネギと鶏もも肉を一口サイズに切ると、竹串に刺して塩コショウを振る。

 すぐに鉄製のフライパンに移すと、両面に焼き目を付けたら蓋をして蒸し焼き状態にすること五分後に皿へ盛る。


「焼き鳥の出来上がりだ。今回は鶏の部位を商業地区から揃えて色々と作ってみたが、焼き鳥なら子供から大人まで万人受けするだろ。調理もそんなに手間は掛からない」


 今回は七輪を用意できなかったので、フライパンを代用した焼き鳥は臭みもなく鶏の旨味が口いっぱいに広がる。


「他には串焼きでスピエディーニを作った。こっちは鶏肉じゃなくて牛肉を使っているイタリア料理だよ」


 こちらもフライパンで調理してレモンを一振りすると、ハーブを使っているので素材の旨味と風味が引き出されてシェーナの食欲が進む。


「焼き鳥もスピエディーニもいけるな。酒と一緒に提供すれば、夜は冒険者で賑わいそうだ」

「いや、焼き鳥に関しては一つ大きな問題がある。醤油がないからタレ味を作ることができない」


 焼き鳥のタレを作るには、どうしても醤油とみりんが必要になる。

 特に醤油に関して製法は詳しくないので、完全にお手上げだ。


「結論から言うと、和食を作るのは絶望的だな。唐揚げを作るにしても醤油は必須になるからな。逆に洋食ならある程度はいける」


 豚は異世界にいないことが確認されているので、ハムやベーコンを作ることはできない。

 猪を品種改良させればできるかもしれないが、こちらも醤油と同じくお手上げだ。


「できないことを嘆いても仕方がない。できることを着実に進めていこう」

「……そうだな」


 スピエディーニは美味しく出来上がっていたので問題ない。

 シェーナは前向きに捉えてキシャナの背中を押して、この調子で頑張ろうと鼓舞した。

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