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【ディストピアでも】ガン=カタ皇子、夜に踊る【生きようぜ】――二人でやっと一人前のオレ達、今宵も正体を隠して戦います――  作者: 2626
第一章 【神の血事件】

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第1話 神の血とは

 ガルヴァリナ帝国が帝都ガルヴァリーシャナは、真夜中になっても眠らない。




 たなびく雲が月を隠す中、帝国城から忍び出る。


 壮大な城をずらりと取り巻くように並ぶ、無数の華麗な館と雅やかな庭園を擁する貴族街の裏道を、音も無く駆けていく。


 門柱の傍らで寝ている大型の番犬でさえ気付かない。


 貴族街から更に幾つかの帝都の区画を夜陰に紛れて越えていくと、やがて異臭が漂ってくる。


 帝都で最も治安の劣悪な場所、貧民街(スラム)に近付いているのだと、土地と空間に染みついた臭いが真っ先に告げるのだ。


 ほとんど上下水が整備されていない上に、わざと貴族や平民が廃棄物を棄てていくこともある。


 独特の異臭の中。


 あばら屋に近しい民家が不揃いに並んでいる貧民街を、闇に紛れてひた走る。


 情報が正しければ、この先を曲がってすぐの廃屋で、今頃『取引』か『摘発』が行われているはずだ。




 異臭の中に突然の生臭さ。

 錆びた鉄のような。ぬるりとした。




 反射的にオレ達は二丁拳銃『シルバー&ゴースト』に手をやった。


 (【虚魂獣(ヴォイド)】が八体も。 人間は二人。 一人は包囲されている! もう一人は【虚魂獣】共に命令を下しているようだ!)

 (遅かったか!)


 オレ達は崩れかけて穴の空いた屋根に飛び乗った。


 貧民街の狭い道の様子を覗った時、雲間から月影が出て辺りが明るくなる。




 ……立っている人の前後に数体ずつ、人だった頃の名残を残す大きな異形達。

 大きく窓を開けた廃屋の中から濃厚な血の臭い。


 犠牲になっただろう人数は一人や二人……じゃない。


 異形達の全身が夥しい血や人体の組織にまみれていた。


 (『親玉』を逮捕させる代わりに、減刑と命の保証を申し出てきた内通者諸共……か)

 (帝都の中でこれだけの【虚魂獣】を出してくるとは。 想定できなかったのが命取りだったか……!)


 今夜の『取引』と『摘発』には、帝都の治安を維持する機関【帝国治安省《インペリアル・シルバー》】が、潜入調査員の精鋭部隊を派遣したはずだった。


 彼らの中で一人だけ生き残ったのだろう。


 「――!」

 若い女の潜入調査員は負傷こそしていたものの、短刀を手に握りしめ、鋭い目で異形を率いている老爺を睨み付けていた。


 泣いたり命乞いはしていない。若かろうが女だろうが、彼女も精鋭なのだろう。


 孤独と絶望の中でも勇気を失わないその強さが痛ましくもあり、頼もしくもあった。


 オレ達は気配を殺して、いつでも動ける状態で事態を見守る。


 「助けは間に合わない。 味方もいない。 ……さあネエちゃん(・・・・・)、どうする?」


 ゲフ、ゲフと咳き込むように嗤いながら、老爺は彼女に尋ねた。


 禿げかけた白髪頭に特徴的な大きな傷痕。


 間違いない。


 コイツが違法物【神の血(ユーカリスト)】を帝都に蔓延らせている密売組織の『親玉』。


 ハウロット・コーだ。


◆


 人間(ヒューマン)に代表されるこの世界の知的生命体(ヒト)の大半には、魔力(マナ)と【魂(ソウル)】がある。


 その二つを備えた知的生命体が、成人もしくは成体に達した時、一個だけ【固有魔法(カラー)】を得るのだ。


 魔力を使用して特定の現象を引き起こす、たった一つの己の技能。


 【神の血】は【固有魔法】を一つ追加する代わりに、使用した者をヒトならざる異形【虚魂獣】へと成らしめる、悪魔の『釘』である。


 いつからだ?

 誰が考案したのか?

 目的は何だ?

 どうやって広めた?


 それらの背景は、今はこのハウロット・コーしか知らない。


 犯した罪状を考えれば末路は死刑しか無いが、しばらくはコイツを生きたまま捕まえ、ありったけ情報を吐かせなければならないのだ。


 オレ達の元々の目的は、【帝国治安省】がハウロットを捕縛する現場に駆けつけて潜伏。

 不測の事態が発生したら密かに潜入調査員達をサポートする――つもりだった。


 予定変更だ。


 今のこの場でオレ達がすべきことは定まった。




 こんな絶望の中でも彼女が諦めていないのなら。

 それでも!と最後まで足掻こうとするのなら。


 見殺しになんて出来ないからな。




 オレ達は屋根の上で立ち上がった。


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